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訪問看護ステーションのリスクマネジメントとは?トラブル要素とリスク回避のための対策

訪問看護は、利用者の自宅でケアを提供する特殊な環境で行われるため、独特のリスク要素を伴います。利用者の個別のニーズや環境の多様性、プライバシーと個人情報の取り扱い、そして自然災害などの予測不可能な要素が、訪問看護ステーションにとってのリスクを増大させます。

本コラムでは、訪問看護の特性を考慮したリスクマネジメントの重要性に焦点を当て、ケアの場面で発生するトラブル要素や訪問時の移動におけるリスク、利用者の私物への配慮、個人情報の取り扱い、そして自然災害におけるリスクなどについて探っていきます。

さらに、訪問看護ステーションがリスクマネジメントのために用意すべきポイントや日常業務におけるリスクマネジメントの実践方法もお伝えします。

目次

訪問看護の特性を考慮したリスクマネジメントとは

訪問看護の特性を考慮したリスクマネジメントとは

リスクマネジメントは、組織の業務やプロジェクトにおける潜在的なリスクを特定し、それに対する対策を講じることで、組織の継続的な成果や安定性を確保するための重要なプロセスです。

訪問看護ステーションにおいても、リスクマネジメントの原則と手法を適用し、安全な医療サービスの提供とスタッフや患者の健康と安全の確保に努めることが求められます。

訪問看護の特性を考慮すると以下のような様々なリスクやトラブルが考えられます。

・ケアの場面で発生するトラブル

・訪問の移動時におけるトラブル

・利用者の私物に触れることでのトラブル(紛失・物損など)

・個人情報の取り扱いにおけるリスク

・自然災害におけるリスク

それぞれのリスク・トラブルについて細かくみていきましょう。

訪問看護のケアの場面で発生するトラブル要素とは

訪問看護のケアの場面で発生するトラブル要素とは

訪問看護ステーションにおけるケアの場面で発生するトラブルには、以下のような要素が関与しています。

(1)利用者の住まいの多様性

訪問看護ステーションでは、ケアの提供場所が利用者の住まいとなります。利用者の住まい方や療養環境、衛生状態は多様であり、個々の状況に合わせた対応が求められます。住環境や生活状況の多様性から、ケアの提供において留意するべき要素が存在します。

(2)衛生材料、機材、物品の管理

在宅における医療処置では、衛生材料や機材、物品などが使用されます。これらの準備と衛生的な管理は重要です。適切な手順に沿って使用され、使用後は適切に廃棄される必要があります。また、材料や機材の適切な管理と在庫管理も重要な要素です。

(3)感染症に関するリスク

訪問看護ステーションでは、利用者の住まいでケアを提供するため、感染症のリスクが存在します。利用者自身が感染源となる場合や、利用者に感染するリスクがある場合があります。適切な感染予防策の実施、手洗いやマスクの着用、消毒などの衛生対策が必要です。

(4)利用者・家族とのコミュニケーション

訪問看護ステーションでは、利用者や利用者の家族と密接に関わるため、コミュニケーション上のトラブルが発生することがあります。コミュニケーションの不足や誤解、意思疎通の困難さなどが原因で、ケアの提供において問題が生じることがあります。

訪問の移動時におけるトラブル

訪問の移動時におけるトラブル

訪問看護ステーションの訪問の移動時には、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。

(1)交通事故

訪問看護師やスタッフが訪問先に向かう途中で交通事故が発生するリスクがあります。車両事故や交通事故に巻き込まれることにより、スタッフや他の関係者が負傷する可能性があります。

(2)盗難や紛失

移動中に貴重品や設備、医療機器などが盗難されたり、紛失する可能性があります。車両からの窃盗や持ち物の管理不備、荷物の紛失などが起こり得ます。

(3)置き忘れ

移動中に必要な機材や文書、処方箋などを置き忘れることがあります。訪問看護師が必要な道具や文書を持たずに訪問先に到着することになり、ケアの提供に支障をきたす可能性があります。

利用者の私物に触れることでのトラブル(紛失・物損など)

利用者の私物に触れることでのトラブル(紛失・物損など)

訪問看護ステーションの訪問先で利用者の私物に触れることによるトラブルには、以下のような要素が関与しています。

(1)訪問先の財産の状況

訪問看護ステーションでは、利用者の自宅でケアを提供するため、訪問先の家の中にお金が散らばっているなどの状況が発生する可能性があります。このような状況では、お金がなくなったという主張や、不正な取引や窃盗の疑いが生じる可能性があります。

(2)訪問時の私物の取り扱い

訪問看護師が訪問先で利用者の家具や器具などを使用する際、看護師が誤って壊してしまう可能性があります。看護師が注意を怠り、訪問先のものを誤って破損させた場合、利用者とのトラブルや紛争の原因になることがあります。

個人情報の取り扱いにおけるリスク

個人情報の取り扱いにおけるリスク

個人情報におけるリスクには、以下のような要素が関与しています。

(1)利用者の個人情報の取り扱い

訪問看護ステーションでは、利用者の個人情報を扱う必要があります。個人情報は、利用者の氏名、住所、連絡先、医療情報などの機密情報を含みます。個人情報保護法や関連する法的要件に従って、個人情報の適切な取り扱い、保護、管理を行うことが求められます。

(2)ICT化の進展とセキュリティ対策

訪問看護の分野では、ICT(情報通信技術)の利用が進んでいます。ICT化により、利用者の医療情報や個人情報がデジタル形式で管理されることが増えています。これに伴い、セキュリティ対策の重要性が高まりました。データの漏洩や不正アクセス、システムの乗っ取りなどに対する適切な対策が必要です。

(3)利用者による看護師の個人情報への関心

利用者は、自身の医療情報やケアに関連する看護師の情報に関心を持つことがあります。特に、看護師との信頼関係を構築するために、看護師の経験や資格、専門性についての情報を知りたいと考える場合があります。このため、訪問看護ステーションは、看護師の個人情報の適切な管理や利用者との情報共有の仕組みを整備する必要があります。

自然災害におけるリスク

自然災害におけるリスク

訪問看護ステーションにおける自然災害のリスクやトラブルは以下のようなものが考えられます。

(1)利用者の安全確保

自然災害が発生すると、利用者の安全確保が最優先となります。訪問看護ステーションは、災害時の利用者の避難計画や緊急連絡先の確認、安全な避難場所の提案などを行う必要があります。特に、高齢者や身体的な制約のある利用者への対応には特別な配慮が必要です。

(2)スタッフの安全確保

自然災害が発生した際には、訪問看護ステーションのスタッフの安全も重要です。スタッフは災害時において、自身の安全確保と利用者へのケア提供の両立を図る必要があります。災害時の適切な行動指針や訓練の実施、必要な防災グッズの備蓄などを行い、スタッフの安全を確保します。

(3)訪問の遅延や中止

自然災害の発生により、訪問看護のスケジュールに遅延や中止が生じる場合があります。交通状況の悪化や道路の寸断、施設や住宅の被害などが原因となります。この場合、訪問看護ステーションは利用者や関係者に対して適切な連絡を行い、代替的なケアの提供や適切な対応策の検討を行います。

(4)施設や設備の被害

自然災害によって訪問看護ステーションの施設や設備が被害を受ける可能性があります。例えば、地震による建物の損傷や洪水による器材の浸水などです。訪問看護ステーションは、施設や設備の点検・修復、代替的な場所や設備の利用、バックアップ体制の確保などを行い、ケアの継続性を確保します。

(5)コミュニケーションの困難

自然災害発生時には、通信インフラの被害や停電が発生する可能性があります。これにより、訪問看護ステーションと利用者や関係者とのコミュニケーションが困難になることがあります。訪問看護ステーションは、災害時における通信手段や緊急連絡手段の確保、代替的なコミュニケーション手段の検討を行い、情報の共有と連絡を円滑に行います。

訪問看護ステーションのリスクマネジメントのために用意すべき5つポイント

訪問看護ステーションのリスクマネジメントのために用意すべき5つポイント

次に訪問看護ステーションのリスクマネジメントのために用意すべき5つポイントについてお伝えします。

(1)賠償責任保険への加入

訪問看護ステーションは、賠償責任保険への加入が重要です。賠償責任保険は、訪問看護師やスタッフがケア提供中に生じた事故やトラブルによる損害や責任に対して保護する役割を果たします。万一の事故や訴訟が発生した場合に備えて、適切な保険カバレッジを確保しましょう。

(2)インシデント・アクシデントレポートの活用

訪問看護ステーションでは、インシデント・アクシデントレポートを活用することが重要です。スタッフは、事故やトラブル、ケアの失敗、医療ミスなどのインシデントを報告し、その要因や背景を分析します。これにより、再発防止策の立案や改善点の特定が可能になります。

(3)職員教育

リスクマネジメントの一環として、訪問看護ステーションでは職員教育が重要です。スタッフに対して、リスク意識の醸成や安全なケア提供に関する知識・スキルの向上を図ります。安全対策や感染予防、プライバシー保護、適切な文書管理など、リスクに関連するトピックをカバーする教育プログラムを提供します。

(3)マニュアル作成

訪問看護ステーションでは、リスクマネジメントのために適切なマニュアルを作成することが重要です。ケアの手順やプロトコル、安全対策、文書管理の手引きなど、スタッフが遵守すべき基準やガイドラインを明確化します。マニュアルはリスク軽減とスタッフの一貫性を促進する役割を果たします。

(4)書類関係の見直し

訪問看護ステーションでは、書類関係の見直しも重要です。ケアプラン、評価書類、同意書、機密性の高い文書などの管理方法や保管期間、廃棄手続きなどを確認・見直します。また、電子化やデジタルストレージの導入により、書類管理の効率性とセキュリティを向上させることも検討しましょう。

これらの対策は、訪問看護ステーションにおけるリスクマネジメントの基本的な要素です。賠償責任保険の加入、インシデント・アクシデントレポートの活用、職員教育、マニュアル作成、書類関係の見直しによって、リスクの特定・予防、スタッフの安全と能力の向上、ケアの品質向上が促進されます。これにより、訪問看護ステーションはリスクを最小限に抑えつつ、安全かつ効果的なケアを提供することができます。

訪問看護ステーションの日常業務におけるリスクマネジメント

訪問看護ステーションの日常業務におけるリスクマネジメント

さいごに訪問看護ステーションの日常業務におけるリスクマネジメントとして日頃から心がけておくべきことをお伝えします。

(1)説明と合意

訪問看護師は、利用者との関係でお金を受け取りながらサービスを提供する立場にあります。このため、説明と合意が重要です。具体的には、内容をわかりやすく相手に説明し、理解していただいた上で合意を得ることが必要です。利用者のニーズや要望を十分に把握し、サービスの範囲や費用について透明性を持たせることが重要です。

(2)共有と確認

説明して利用者が納得したとしても、情報を忘れたり理解できていない場合があるため、共有と確認が重要です。訪問看護師は、利用者とのコミュニケーションを通じて情報を共有し、利用者が理解しているかどうかを確認します。質問や要約を通じて利用者の理解度を把握し、誤解や不明確な点を解消するための細やかなコミュニケーションを心掛けます。

(3)記録

訪問看護ステーションでは、事実を正確に記録することが重要です。記録は、訪問の詳細やケア内容、利用者とのコミュニケーション内容、トラブルやインシデントの発生時の情報などを含みます。記録は紛争解決や事後対応のための重要な証拠となりますので、適切な記録方法やルールを設け、事業所内での共有と利用を確保することが必要です。ICTの活用によって効率的かつセキュアな記録管理を行うことも検討してください。

(4)私物への配慮

訪問看護師は、利用者宅でケアを提供する際に、利用者の私物への配慮が必要です。利用者の家の物は彼らの財産であり、訪問看護師は不用意に触らず、利用する場合は事前に許可を得る必要があります。使用後には、物を元の場所に戻すなどの配慮を行い、利用者の財産を尊重します。

(5)関係者間での報告・連絡・相談

訪問看護ステーションでは、インシデント・アクシデントレポートの必要性を認識し、それを活用することが重要です。インシデント・アクシデントレポートは、事故やトラブル、ケアの失敗、医療ミスなどの重要な情報を報告するためのツールです。レポートを活用することで、事故の原因や背景を分析し、再発防止策や改善策を策定することができます。訪問看護ステーションでは、スタッフ間での報告・連絡・相談の文化を醸成し、リスク管理の意識を高めることが重要です。

これらのポイントを心掛けることで、訪問看護ステーションの日常業務におけるリスクを回避し、コントロールすることができます。訪問看護師と利用者の間での説明と合意、共有と確認、適切な記録の取り扱い、私物への配慮、関係者間の報告・連絡・相談の実践は、信頼関係の構築と安全なケア提供に不可欠です。

まとめ

訪問看護ステーションにおけるリスクマネジメントは、利用者の安全とケアの質を確保するために重要です。訪問看護の特性を考慮し、ケアの場面で発生する様々なトラブル要素に対処するための対策を講じることが必要です。

訪問看護ステーションがリスクマネジメントを成功させるためには、賠償責任保険への加入やインシデント・アクシデントレポートの活用、職員教育の徹底、マニュアルの作成、書類関係の見直しなど、様々なポイントに取り組む必要があります。さらに、日常業務においても説明と合意の徹底、共有と確認の重要性、記録の正確性、利用者の私物への配慮、関係者間での報告・連絡・相談の円滑な実践が求められます。

定期的なリスク評価や教育プログラムの実施、改善活動の推進を通じて、持続的なリスクマネジメントの体制を構築しましょう。

参考文献:これだけはおさえておきたい 明日からできる訪問看護管理

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いろいろナースから生まれた看護師の独立事例を冊子にまとめました。岩田看護師(34才女性)は、総合病院に勤めながら「看護師が働き続けられる職場を作りたい」と訪問看護での独立を志望。

訪問看護は未経験であり自己資金もゼロでしたが、ある経営者さんとの出会いにより新規立ち上げの訪問看護ステーションで将来の独立を前提に管理者として働くことが決定しました。 現在年収600万円を得ながら経営ノウハウを習得し、3年後の独立、理想の訪問看護ステーション作りに邁進されています。

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