【令和6年度義務化】高齢者虐待防止において訪問看護に求められる役割とは

近年、高齢者に対する虐待件数は、年々増加しており、大きな社会問題となっています。

令和3年度の介護報酬改定では、全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権の擁護、虐待の防止等の観点から、虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが義務づけられました。

この改正内容は、3年間の経過措置が設けられていましたが、来年、令和6年4月1日から実施が義務付けられます。

今回は、訪問看護においても来年より義務化が実施される「高齢者虐待防止法」について、その背景から取り組み方法、訪問看護に求められる高齢者虐待予防と対策等について解説します。

高齢者虐待防止法とは

高齢者虐待とは、高齢者に対する虐待行為のことを指します。高齢者の家族や介護職員による虐待事件はあとを経たず、ニュースでもたびたび取り上げられており、深刻な社会問題になっています。

高齢者虐待防止法とは

高齢者虐待の増加を受け、平成17年に「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、高齢者虐待防止法)が成立し、高齢者虐待対応が地方公共団体の責務として定められました。

高齢者虐待防止法の成立後も高齢者に対する虐待件数は、増加の一途をたどり、厚生労働省がおこなった調査によると、令和3年度に虐待と判断された件数は739件、介護施設・事業所の職員が加害者となったケースの昨年度の相談・通報件数は2,390件となり、いずれも過去最多となりました。

参照元:厚生労働省「令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」

こうした状況を受けて、令和3年度の介護報酬改定の中で、全ての介護サービス事業所に対して虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることなどの「高齢者虐待防止の推進」が義務付けられました。

この改正内容は、3年間の経過措置が設けられていましたが、令和6年4月1日から実施が義務付けられます。

介護サービス事業者は、虐待の発生又は再発を防止するため、「虐待の未然防止」、「虐待等の早期発見」、「虐待等への迅速かつ適切な対応」の観点を踏まえ、以下の2つの措置を講じる必要があります。

(1)必要な措置に関する必要な措置

・虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等の活用可能)の定期開催

・従業者への委員会結果の周知

・虐待の防止のための指針の整備

・研修の実施(訪問看護は年1回)

・虐待の防止に関する措置を適切に実施するための担当者の設置

(2)運営規程への記載

虐待の防止のための措置に関する事項は、体制整備を行った上で、令和6年3月31日までに運営規程に定める必要があります。

なお、当該措置のみを追記したことによる運営規程の変更の場合、変更届出書の提出は不要です。

運営規程の記載例

第●条 施設(事業所)は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じるものとする。


一 施設(事業所)における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。


二 施設(事業所)における虐待の防止のための指針を整備すること。


三 施設(事業所)において、従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に(年●回以上)実施すること。


四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

※●の部分は、各施設(事業所)の状況に応じて数字を記載してください。

※「施設(事業所)」の部分については、運営するサービスに応じて、施設又は事業所のどちらかを記載してください。

参考:厚生労働省HP「高齢者虐待防止に資する研修・検証資料等

これら内容は、運営基準に追加された項目になるため、この内容を実施することは、介護サービス事業所の義務となります。

令和6年には、高齢者虐待防止法のほかにBCP(業務改善計画)の策定にそれに係る研修や訓練も併せて義務化されますので、早めに準備を進めていく必要があります。

※訪問看護ステーションのBCP(業務継続計画)についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

【2024年4月義務化】訪問看護ステーションのBCP(業務継続計画)策定のポイント

高齢者虐待の範囲とは

高齢者虐待の範囲とは

「高齢者の虐待」とは、どのようなことを指すのでしょうか。

虐待とは、身体への暴力行為だけでなく、精神的にダメージを与えたり、高齢者の尊厳を不当に傷つける行為も該当します。

高齢者虐待の防止、高齢者の養護者の支援等に関する法律(以下、高齢者虐待防止法)では、高齢者を65歳以上と定義し、虐待の行為について以下の5種類を規定しています(第2条第4項)。

(1)身体的虐待

高齢者の身体に外傷が生じ,または生じるおそれのある暴行を加えること

(2)介護・世話の放棄

高齢者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置, 養護者以外の同居人による身体的虐待, 心理的虐待または性的虐待に掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること,

(3)心理的虐待

高齢者に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと

(4)性的虐待

高齢者にわいせつな行為をすることまたは高齢者をしてわいせつな行為をさせること

(5)経済的虐待

養護者または高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することそのほか当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること


これらは、「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が損なわれるような状態に置かれること」という観点から高齢者虐待を捉え、その防止法の対象を具体的に規定したものです。

対象年齢や虐待の形態が前述の範囲外であっても、高齢者の権利が侵害され、生命や健康、生活が損なわれている場合は、同法の適用に従い、適切な援助を提供する必要があります。


※家族の介護疲れとその対策についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師が知っておきたい!家族の介護疲れとその対策

高齢者虐待防止における訪問看護の役割とは

高齢者虐待防止における訪問看護の役割とは

高齢者虐待は様々な要因により発生しますが、深刻な状況に陥る前に発見し、適切に支援を行うことが必要です。

訪問看護師は、高齢者や障害者の生活状況や家族との関係などを把握し、専門的なアセスメントを行う能力を持つ専門職です。そのため、虐待や虐待に陥りやすいハイリスクな状態を発見しやすい立場にあります。

そのため、訪問看護師には、虐待を早期に発見し、市町村等に相談・通報する役割が期待されていることから、以下のポイントに留意してアセスメントをおこなう必要があります。

(1)客観的な事実を見極める

アセスメントする際に、自分自身の価値観、特に親子関係や介護に関する考え方のフィルターを通すと、虐待を見逃す可能性があります。大切なのは、「事実」に焦点を当て、高齢者が「身体的・精神的な苦痛を受けていないか」「権利が侵害されていないか」を見極めることです。

(2)高齢者の人権を守る

認知症高齢者の外出など、安全性を確保する必要がある場合でも、同時にその対応が人権侵害になっていないかを考慮することが大切です。高齢者の人権を保護しながら、安全対策を検討することが大切です。

(3)虐待の自覚は問わない

高齢者虐待では、「訓練として」あるいは「しっかりしてほしい」「早く治ってほしい」といった理由から、介護者が自分の行動を「虐待」とは認識していないことがよくあります。

一方で、高齢者自身も、そのような言葉を繰り返し介護者から言われることで、自分に非があると思い込んでしまうことがあります。

虐待の自覚があろうとなかろうと、客観的な事実から判断していくことが必要です。

(4)家族の力関係を見抜く

力関係が一方向になり、 常に強者と弱者が固定化している場合虐待が発生している可能性が高まります。

訪問看護師としての立場からは、さまざまな場面で家族の力関係を観察できます。あくまでも客観的な事実に焦点を当て、高齢者が虐待の被害者である場合は支援が必要であることを理解することが重要です。

※家族による高齢者虐待についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

【家族による高齢者虐待】訪問看護に求められる役割とアセスメント項目とは

虐待リスクの発見・対応のポイント

虐待リスクの発見, 対応のポイント

では、訪問看護において、どのように虐待リスクを発見し、対応しておけばよいのでしょうか。

訪問看護師は、以下の点に留意する必要があります。

(1)「虐待かどうか」の判断よりも 「援助が必要な人かどうか」と捉える

「虐待かどうか」を判断することや「誰が虐待者か」を特定することは非常に難しいため、専門職としては早く手を差し伸べて援助することが重要です。

高齢者虐待防止法では、虐待の予防だけでなく、「養護者の支援」も強調されています。援助が必要な人は、虐待を受けている本人だけでなく、虐待をするような状態に追い込まれている養護者も支援の対象となります。

(2)家族の力関係のアセスメントと虐待発生のリスクの予測

介護負担による疲れやストレスが虐待の原因となる場合は、家族に対して相談に応じ、家族会などへの参加を勧めるなど、精神的な支援が必要です。

虐待は強者と弱者が固定されることから生じます。介護の関係では、介護者が力を持ち強者になり、被介護者が世話をされる側として弱者になります。

もともと力関係が存在する家族では、その力の差が増大したり、介護によって力関係が逆転したりすることがあります。虐待の世代間連鎖や家族間連鎖を防ぐためには、適切な対策が必要です。

(3)家族のストーリーを聞き、 家族の関係を把握する

家族の歴史やこれまでの家族関係、介護者の養育環境など、家族のストーリーを聞くことは支援に繋がり、虐待の要因を理解する手がかりになります。

在宅で働く看護職が高齢者本人と家族からの信頼を築いているためにできることは、「どのような生活を送りたいのか」「どのような支援を望んでいるのか」など、高齢者本人や家族の希望や意思を傾聴し確認して、自己決定をサポートすることです。

この過程で、高齢者本人や家族の認知症や知的レベルの低下の有無などをアセスメントします。もし意思確認が難しい場合は、専門医への受診を勧め、必要に応じて専門医の診断を得て、成年後見制度などの利用を検討します。

※利用者の人生の物語に寄り添うケアについてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師必見!利用者の“ナラティブ(物語)”に寄り添うケアの重要性

(4)的確なアセスメントと確実な情報提供

生命にかかわる虐待の可能性を考慮した適切なアセスメントが重要です。これには正確な情報の把握が欠かせません。

高齢者虐待の事例では、高齢者や家族からの情報が状況や相手によって変動することがあります。

また、情報を受ける専門職も自分の価値観や規範を通して情報を解釈してしまい、他の専門職に伝える際に情報のずれが生じる可能性があります。

高齢者や家族の発言内容やそのときの状況・場面を記録に残すことは重要であり、情報のずれを最小限に抑えるために役立ちます。

高齢者虐待の再発予防と重度化予防のために

高齢者虐待の再発予防と重度化予防のために

高齢者虐待の再発予防と重度化予防のために訪問看護師は、どのようなことを踏まえる必要があるのでしょうか。

高齢者の安全が疑われる場合、病院への入院や福祉施設への一時入所などで高齢者と養護者を一時的に離すことを「一時分離」といいます。

一時分離を行うことで、まず高齢者の安全を確保し、次の対応までの時間を確保することができます。ただし、一時的でも分離させることで高齢者や養護者が不安定になり、時にはうつ状態に陥ることもあります。

そのため、分離する前に十分に説明を行い、家族に必要性を納得してもらうことが重要です。また、その後の支援につながるように信頼関係を構築することも大切です。

(1)家族のレスパイトケア

高齢者の要介護度が上がったり、介護者自身が体調不良や疲労で心の余裕がなくなると、精神的な負担から虐待が生じることがあります。

こうした状況では、家族が自分の状態に気づかないこともよくあります。その際には、看護職がレスパイトケアとして高齢者を施設に一時入所させるなどの提案をし、家族が疲労を回復し介護に余裕を持てるようサポートすることが虐待予防に繋がります。

(2)一時分離とその後の支援

施設に保護された高齢者は、虐待を経験したことから恐怖や不安を感じながら、慣れない環境で生活を始めることになります。

そのため、精神的な支援が非常に重要です。高齢者本人の意思をできるだけ尊重し、経済状態や親族の協力度を理解しながら、高齢者が安心して生活できる場所を確保するサポートが大切です。

最終的な目標は、高齢者や養護者が安心してその人らしく生活できるようにすることです。この過程で、高齢者と養護者それぞれの意思を尊重しながらサポートしていくことが必要です。

高齢者虐待防止において訪問看護師が心得るべきこととは

高齢者虐待防止において訪問看護師が心得るべきことは、自分自身が持つ規範や考え方、価値観を知っておくことです。

高齢者虐待防止において訪問看護師が心得るべきこととは

専門職であっても、エイジズム※(高齢者差別)やジェンダー、家族規範など、それぞれが自分の中に規範や考え方、価値観を持っています。

自分の経験や価値観、または出会った人たちの経験に基づいて考える傾向に気をつけることが大切です。

特に訪問看護師など高齢者に関わる専門職の場合、自分自身の規範や考え方、価値観に気づき、それが自身の看護の実践に及ぼす影響を理解することが、虐待を早期に発見することの一助となり得るのです。

(※エイジズムとは、年齢に基づく差別や偏見のことを指します。具体的には、特定の年齢層に対して否定的なステレオタイプや偏見を持ち、それに基づいて差別や差別的な態度をとることを指します。)

在宅高齢者のセルフネグレクトへの対応

在宅高齢者のセルフネグレクトへの対応

在宅高齢者のセルフネグレクトは、高齢者が自らの基本的な生活ケアや安全に配慮することを怠り、身体的・精神的な健康を損なう状態を指します。これには、適切な食事を摂らない、適切な身体のケアを怠る、住環境の不潔さや安全性の問題があるなどが含まれます。

日本では、高齢者虐待防止法の定義に「セルフネグレクト」は含まれていませんので、法的な責任を問われることはありません。ただし、厚生労働省老健局の通知(平成27年老推発0710第2号)によれば、セルフネグレクトは高齢者虐待の一形態とみなされ、必要な援助が必要です。

疾病をもつ高齢者のセルフネグレクトに対する基本的な対応として、まず保健センターの保健師や市町村の福祉担当者、地域包括支援センターに連絡し、情報交換を行います。同伴訪問をして、健康状態や生活状況を確認します。

生命や身体に重大な危険があると認められれば、一時的に保護するため老人福祉法に規定される老人短期入所施設などに入所させる措置が必要です。ただし、法的な権限行使の根拠がないため、高齢者の意思を尊重しつつ医療的な対応が必要です。

その後、市区町村の担当者も参加し、地域ケア会議などを開催して援助方針を決定します。役割を確認した上で、チームでサービス提供を進めていきます。

高齢者は健康や生活、経済、人間関係など多くの課題を抱えているため、他職種・他機関との連携や地域の協力が不可欠です。

※高齢者のセルフネグレクトについてはこちらの記事も参考にしてみてください

訪問看護師が知っておきたい!支援を拒むセルフネグレクトの高齢者への対応方法とは

障害者虐待防止法とは

障害者虐待防止法とは

訪問看護師は、高齢者虐待防止法だけでなく、平成24年10月施行の「障害者虐待の防止, 障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)にも留意する必要があります。

障害者虐待防止法は、高齢者虐待防止法と類似していますが、いくつか異なる点があります。

この法律では、「使用者による虐待」が規定されています。ここでの「使用者」とは、障害者を雇用する事業主や事業の経営担当者などを指します。

重要なのは、障害者虐待防止法の対象は年齢にかかわらず適用されるということです。つまり、被害者が18歳未満であったり、65歳以上であっても、障害者虐待防止法が適用されます。

高齡者虐待防止法 障害者虐待防止法
対象 高齢者(65歳以上。65歳未満の養介護施設入所等障害者を含む 障害者 (身体・知的・精神障害 その他の心身の機能の障害がある者であって,障害および社会的障壁により継続的に日常生活・
社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの)
虐待の種別 ①養護者による高齢者虐待
②養介護施設従事者等による高齢者虐待
① 養護者による障害者虐待
②障害者福祉施設従事者等による障害者虐待
③ 使用者による障害者虐待
虐待の類型 ①身体的虐待
②介護・世話の放棄・放任(ネグレクト),
③心理的虐待
④性的虐待
⑤経済的虐待
①身体的虐待
②放棄・放置
③心理的虐待
④性的虐待
⑤経済的虐待
発見時の通報先 市町村 市町村 (使用者による虐待は市町村と都道府県)

まとめ

今回は、訪問看護においても来年より義務化が実施される「高齢者虐待防止法」について、その背景から取り組み方法、訪問看護に求めらえる高齢者虐待予防と対策等について解説しました。

年々、高齢者虐待の件数は増加しており、社会問題になっています。

「高齢者虐待防止法」の義務化への対応だけでなく、在宅の高齢者に起こりやすい虐待の背景、実態、要因を知ること、虐待の発見・予防におけるアセスメントのポイントを理解することは、訪問看護師にとって非常に重要です。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」

参考文献:中央法規出版発行「訪問看護お悩み相談室 令和5年」版

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保険外美容医療での看護師独立ストーリー

石原看護師は、約1年前に美容エステと美容医療を組み合わせた独自メニューを提供する美容サロンを自宅で開業されました。
週に2回はクリニックに勤務しながら、子育てや家事と両立できるサロン運営を軌道に乗せています。

石原看護師がどのようにして時間や場所にとらわれない働き方を実現できたのか、その経緯、現在の状況、そして今後のビジョンについてお話をうかがいました。

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