訪問看護の感染症対策:標準予防策の重要性と具体的なポイント

近年、医療処置を必要とする幅広い年齢層の在宅者が増加しています。在宅で医療処置を受ける患者は感染症にかかりやすいため、在宅環境での感染予防対策が非常に重要です。

訪問するスタッフを介して療養者同士の感染が起こる可能性はもちろんのこと、家族から療養者への感染や逆に療養者から訪問するスタッフや家族への感染にも注意が必要です。

訪問看護師は利用者の感染管理を行うと同時に、利用者に関わる関係機関と情報を共有し、感染防止に努める必要があります。

本コラムでは、訪問看護師が身につけておくべき感染症対策の知識についてお伝えします。

目次

感染症の3要因と感染対策の原則

感染症の3要因と感染対策の原則

感染が成立するには、以下の3つの条件が必要となります。

(1)病原体

(2)感染経路

(3)感受性のある宿主

感染対策においては、これらの要因のうち1つでも取り除くことが重要です。特に「感染経路の遮断」は感染拡大の予防において重要な対策となります。

そして、病原体を「持ち込まない」「持ち出さない」「拡げない」ことが感染対策の基本原則です。

感染対策の基本は標準予防策(スタンダードプリコーション)

感染対策の基本は標準予防策(スタンダードプリコーション)

標準予防策(スタンダードプリコーション)は、アメリカ疾病対策センター(CDC)が提唱しているもので、すべての人は伝播する病原体を保有していると考え、患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などにさらされる可能性がある場合は手袋やガウン、マスクなどの個人防護具を用いることで感染リスクを減少させるとしています。

従来は病院内の感染予防策として用いられてきましたが、近年では介護分野を含む、感染の可能性がある対象物を取り扱う場面において必要な基本的な感染予防策となっています。

標準予防策(スタンダードプリコーションのポイント

(1)以下の湿性の生体物質は、すべて感染性があるものとして扱う

血液や汗以外の体液(唾液、鼻汁、喀痰、尿、便、腹水、胸水、涙、母乳など)、傷のある皮膚、粘膜

(2)感染症の有無にかかわらず、すべての患者に適用されます

これらの湿性物質と接触する際には、個人防護具を使用し、処置の前後には手洗いや手指消毒を行うことが、感染対策の基本になります。

標準予防策の具体的な方法

1.手袋・マスク・ガウンの使用について

在宅でおむつ交換を行う際や気管吸引、導尿、口腔ケアなどの処置を行う際には、手袋の着用が必要です。また、採血を行う際にも血液汚染のリスクがあるため、ビニール手袋やゴム手袋を着用します。ただし、聴診、血圧測定、体温測定、日常的な生活動作の介助などでは湿性の生体物質に触れる可能性はないため、手袋の着用は不要です。

マスクは、呼吸器症状のある患者のケアを行う際には、療養者の痰の中に病原体が含まれている可能性があるため、飛沫による感染拡大を防ぐために必要です。可能であれば、看護師だけでなく、患者自身にもマスクの着用をお願いします。

ガウンは通常のおむつ交換や陰部ケア、清拭、入浴介助などの日常的なケアでは必要ありません。しかし、排泄物や痰などの湿性生体物質が飛び散る可能性がある場合には、防水性で非透過性のガウンを着用することが重要です。

在宅でMRSA保菌者のケアを行う際には、特別な対策は必要ありません。標準的な感染対策を行うことで感染の広がりを防ぎます。感染拡大を防ぐためには、マスクとともに使い捨てのガウンを着用することなど、看護師の訪問順序を工夫することも考慮してください。

2.手洗いについて

手指が目に見えて汚れている場合は、流水と石鹸による手洗いを行い、その後必要に応じて手指消毒を行います。

流水と石鹸による手洗いを行い、その後必要に応じて手指消毒を行います

手洗いが困難な状況では、擦り付けるようにアルコール消毒剤を使用します。

3.医療廃棄物の取り扱いについて

在宅から出る医療廃棄物は、一般の廃棄物として取り扱われます。オムツや人工肛門パック、その他のビニールパックなどは、可燃物として燃えるごみの収集日に出すことができます(ただし排泄物は下水に処理してから)。ただし、地域ごとに廃棄物の分別方法が異なるため、自治体の指示に従って処分してください。

自己注射をしている患者の場合、使用済みの注射針は他のものに汚染されないように、専用の容器やプラスチックボトルなどに入れて保管し、医療機関の指示に従って返却します。医療従事者が治療に使用した注射器や注射針などは、医療機関に持ち帰り、その後医療機関で適切に処理されることとなります。

また、中心静脈栄養や腹膜灌流に使用された針の部分も、医療機関の責任において適切な方法で処理が行われることになります。

4.医療器具の取り扱いについて

在宅で使用するための医療器具は、療養者専用です。病院で使用する医療器具は一度きりで使用されますが、経管栄養に関連する物品や吸引カテーテルなど、在宅では再使用が一般的です。

これらについては、再使用による感染リスクを避けるために注意深く管理します。使用したカテーテルは中性洗剤などでしっかりと洗浄し、風通しの良い場所で陰干ししてから保管します。再使用する際には、アルコールを含ませた綿で外側を拭いて消毒します。

3つの感染経路と個別対策

3つの感染経路と個別対策

感染経路は次の3つに分けられ、それぞれに個別の対策が必要になります。

(1)空気感染

空気中に浮遊する5μm以下の微小な粒子によって伝搬する経路です。

(2)飛沫感染

咳やくしゃみによって放出された5μm以上の飛沫粒子に微生物が付着して伝搬する経路です。

(3)接触感染

医療従事者や介護者、医療器具を介して伝搬する経路です。

それぞれの感染経路について詳しく解説していきます。

(1)空気感染

空気感染は、風に乗って広がった飛沫核(5μm以下の粒子)を吸い込むことで感染が広がります。この経路による感染症例としては、結核菌、麻疹ウイルス、水痘ウイルスなどが挙げられます。

医療従事者が患者をケアする際には、高性能ろ過マスクであるN95マスクの着用が必要です。また、予防の観点からワクチンを接種し、免疫を持った医療スタッフが適切に対応する必要があります。

家庭内で感染を予防するためには、個室隔離が望ましく、療養者が部屋を出る際にはサージカルマスクを着用させ、咳やくしゃみなどによる飛沫の排出を防ぐように心がけることが重要です。

(2)飛沫感染

飛沫感染による伝搬は、直接的および間接的な接触によっても広がります。代表的な感染病原体にはインフルエンザウイルスや百日咳菌があります。

飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話、気管内吸引などの際に飛沫を吸い込むことで感染が広がります。患者のケアを行う際には、サージカルマスクを着用することが重要です。

(3)接触感染

接触感染は、患者との直接的な接触による感染と、周囲の物品や環境表面を介した間接的な接触による感染があります。

代表的な感染病原体としては、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、ヒゼンダニ(疥癬を引き起こす)、シラミなどの他、腸管出血性大腸炎0157、ノロウイルス、ロタウイルスなどの食中毒の原因となる菌、水痘ウイルス、流行性結膜炎を引き起こすアデノウイルスなどがあります。

患者のケアを行う際には、プラスチックガウンと手袋を着用し、標準的な感染対策に従います。接触感染を防ぐためには、療養者に使用する器具(聴診器、血圧計、体温計など)を専用として使うことも重要です。

在宅でよくみられる感染症と予防策

在宅でよくみられる感染症と予防策

(1)結核

結核には、感染直後に発病する一次結核と、数年を経て発病する二次結核がありますが、後者が多く見られます。結核菌に感染した後、直ちに発病する確率は10~15%程度です。

二次結核は、高齢者に多く見られます。感染後、かなりの年月が経過して個体の免疫力が低下した時に、潜在的に存在していた結核菌が再び活動を始め、症状が現れます。

近年、治療を中断したことによって耐性を持った結核が増加しており、治療中断を防ぐためには要介護の高齢者などに対して、訪問DOTS(直接服薬確認に基づく短期療法)が実施されています。

(2)血液媒介ウイルス感染(肝炎ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス)

在宅環境での感染対策において重要なのは、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスです。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、血液中の成分であるリンパ球に寄生するウイルスであり、後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因となるウイルスです。

血液を介して感染するウイルスの予防において重要なのは、針刺し事故に注意することだけでなく、「患者の検体には感染病原体が含まれている可能性がある」という考え方を持ち、標準的な感染予防策をしっかりと実践することです。

(3)ノロウイルス

ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こし、食中毒の原因となるウイルスです。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で急性胃腸炎を発症させ、特に冬季に多く見られます。感染は口から行われ、潜伏期間は12〜72時間で発症します。

ヒトからヒトへの感染は、吐物や糞便の処理時に汚染された手や掃除道具が汚染箇所に触れ、その後口に触れることによって起こります。

トイレ、トイレのドアノブ、水道の蛇口、掃除道具など、どの場所でも汚染された手が触れた箇所にはウイルスが存在します。こうした汚染箇所に触れることでウイルスが口に入るため、糞便や吐物の処理、おむつ交換時にはガウン、マスク、手袋を着用します。糞便や吐物を拭き取った後、床を1,000ppmの次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭きます。トイレのドアノブや床なども、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム希釈液で拭きます。

使用済みおむつやペーパータオルはビニール袋に密封し、最後に周囲を汚染しないように注意しながら手袋、ガウン、マスクを外して、それらをビニール袋に密閉して廃棄します。最後に流水と石鹸で手を洗います。

ノロウイルスは乾燥に強く、感染力も高い特徴を持っています。患者の糞便や吐物が乾燥すると舞い上がって飛散し、空気中で感染する可能性があるため、乾燥する前に適切な処理を行うことが重要です。

(4)季節性インフルエンザ

インフルエンザ感染症は、高齢者や基礎疾患を有するリスクの高い患者において、肺炎などの合併症による入院や死亡の危険性をもたらします。このため、任意の接種ではありますが、わが国では高齢者に対してインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。

インフルエンザの流行期における高齢者の肺炎を予防するためには、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用が有効です。禁忌事項がない限り、ワクチン接種を行うべきです。

外部からのインフルエンザウイルスの持ち込みを防ぐために、医療・ケア提供者のインフルエンザワクチン接種も必要不可欠です。

療養者や家族がインフルエンザに罹患している場合、医療者は居宅を訪問する前にサージカルマスクを着用して準備しておくことが重要であり、また標準的な感染予防策を徹底することが大切です。

(5)新型コロナウイルス(COVID-19)

飛沫感染や接触感染によって広がる感染症として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が存在します。

季節性インフルエンザと同じく、高齢者や基礎疾患を抱える方々は症状が重くなる可能性があります。医療従事者は、標準的な感染予防策を徹底することが求められます。

在宅でのケアの際にも同居者への感染を避けるため、医療者は手洗いの重要性や室内の換気について家族に指導を行うことが重要です。

(6)疥癬(かいせん)

疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生することによって引き起こされる皮膚疾患であり、ヒトからヒトへ感染する病気です。

通常、疥癬では線状の皮腫(疥癣トンネル)や赤色の丘疹、結節といった症状が現れます。しかし、ヒゼンダニの寄生数は少なく、感染直後は症状がなく、通常は一か月ほど経過するまで症状が現れません。患者と密接に接触した場合に接触感染が起こることもありますが、通常の生活では感染する確率は低いため、患者を隔離する必要はありません。

重症な角化型疥癬では、ヒゼンダニの寄生数が100万〜200万匹と多く、感染力が強くなります。免疫機能の低下した高齢者などで発症しやすい傾向があります。

訪問看護や訪問介護の場合、入浴サービスなどでケアプロバイダーに感染する可能性があります。多数のダニが感染するため、潜伏期間は4~5日と短く、介護施設などで集団感染が発生することがあります。

患者はできるだけ個室で管理し、処置時に感染予防に努めるべきです。鱗屑や痂皮には多数のヒゼンダニが含まれているため、粘着式シートを使用して部屋を清掃し、高熱や乾燥に弱いヒゼンダニを対策するため寝具は日光や熱湯で消毒し、タオルも乾燥機などを利用して感染拡大を防ぐ必要があります。

利用者や家族等に感染が疑われる場合の対応

利用者や家族等に感染が疑われる場合の対応

さいごに訪問看護の利用者や家族等に感染が疑われる場合の対応の手順について説明します。

(1)症状確認後、管理者・主治医・ケアマネジャー等へ連絡

まず、利用者や家族の症状を確認した後、管理者や主治医、ケアマネジャーなど関係者へ連絡を取ります。この段階で症状や状況を共有し、適切な対応を相談します。

(2)家族や利用者へ消毒や清掃などについて指導を実施

利用者や家族、介護者に対して、消毒や清掃などの感染予防に関する指導を行います。適切な手洗いや物品の清潔な取り扱い方法を指示し、感染拡大を防ぐための行動を促します。

(3)家族等へ、感染がないか継続的に電話等で確認

感染の疑いがある場合、継続的に電話などでご家族等の健康状態を確認します。早期発見と適切な対応が必要ですので、連絡を保ちながら経過を見守ります。

(4)濃厚接触が疑われる他の職員に対し、症状報告と就業について検討する

濃厚接触が疑われる他の職員がいる場合、その職員に対しても症状報告を行い、必要に応じて就業について検討します。感染の広がりを防ぐための適切な措置を取ります。

(5)管理者は保健所へ報告し、対応について指示に従う

最終的には、管理者は地域の保健所へ報告を行い、保健所からの指示に従って対応を進めます。地域の感染状況や専門家のアドバイスを元に適切な措置を実施します。

まとめ

訪問看護の現場では、感染のリスクマネジメントが極めて重要です。在宅ケアを提供する訪問看護師は、利用者の感染管理を担当するだけでなく、利用者に関連する関係機関と情報を共有して感染防止に注力する必要があります。

そのため、訪問看護師個々が感染対策に関する知識と技術を習得し、利用者やその家族に感染対策の重要性を理解し、協力を得るための努力を行うことが求められます。

感染症に対して適切な対策を実施すれば、罹患を未然に防ぐことが可能です。そのため、訪問看護ステーション全体で感染予防に取り組み、正しい知識を身につけることが大切です。これは利用者やその家族だけでなく、スタッフや関係職種の安全を保障するための重要な一環となります。

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」

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