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訪問看護師が直面する倫理的ジレンマとは

訪問看護師は、専門職として質の高いケア(専門的知識・技術)を提供し、利用者の治癒力を向上させ、快適な療養生活を送る支援を行う職務を担っています。

在宅療養は利用者にとって入院に代わる有益な選択肢である一方、利用者と家族の意向が異なる、あるいは医療職や福祉職とのケアチームにおいて、利用者のケアについて合意が得られないなどの価値対立が生じやすい特徴があります。

訪問看護師の中には、日々感じる倫理的ジレンマにどのように対処すべきか悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、訪問看護師が直面する倫理的ジレンマについて、その内容や具体的な事例、解決方法などをお伝えします。

倫理とは

倫理とは一般的に、仲間内での決まり事や守るべき「道徳的な原則」や「価値の規範」を意味します。

倫理上の価値観は、良いか・悪いか、正しいか・間違っているか、なぜそのような行動をするのか(したのか)を検討する際の根拠となります。

医療倫理の四原則とは

医療倫理の四原則とは

今日、医療従事者の道徳的判断を支える倫理原則として広く受け入れられているのが『生命医学倫理の諸原則』でトム・L・ビーチャムとジェイムズ・F・チルドレスが提唱した「医療倫理の四原則」です。

医療倫理の四原則とは

(1) 自律尊重の原則(respect for autonomy)

自律尊重の原則は、患者の自己決定権を尊重することを示しています。医療従事者は患者の意思決定を尊重し、情報提供を通じて意思決定を支援します。

(2) 無危害の原則(non-maleficence)

無危害の原則は、医療従事者が患者に害を及ぼさないように努力すべきであることを指します。医療行為は患者の安全を最大限に確保する必要があります。

(3) 善行の原則(beneficence)

善行の原則は、医療従事者が患者の利益を最大化し、その福祉を向上させることに専念すべきであることを示します。

(4)正義の原則(justice)

正義の原則は、医療資源と治療の分配において公平性と平等性を強調します。差別を排除し、公平なアクセスを確保します。

この「医療倫理の四原則」は、医療従事者が倫理的な問題に直面した時に、どのように解決すべきかを判断する指針となっています。

しかし、倫理的判断は、真偽が問われる事実判断でなく善悪が問われる価値判断であるため、複数の価値が対立(衝突)することもあります。

2つあるいはそれ以上の倫理的価値や倫理原則が対立し,それらが両立できず,どちらの価値も無視できない, いわゆる 「板ばさみ状態」にあるものを「倫理的ジレンマ 」といいます。

訪問看護における「倫理的ジレンマ」とは

訪問看護における「倫理的ジレンマ」とは

病院での看護は、院内の規則や看護手順、マニュアルなどに基づいて行われます。一方、訪問看護では、看護師が利用者の「生活の場」に入り看護を提供します。

在宅では利用者へのケアの決定に家族が深く関与していることが多いため、家族意向と訪問看護師が利用者にとって最善と考える方針と異なる場合があります。

また、在宅医療は、医師をはじめ、 複数の職種が自身の所属する組織から利用者の生活の場に出向いて、各々の仕事を分業、 協働、調整して行います。

そのため、インフォームド・コンセントの問題や各種サービス間での異なった価値観や視点の違いなどから生じる倫理的な問題に直面することがあります。

このように訪問看護の現場においては、「これでいいのだろうか?」といった疑問を感じたり、割り切れない想いや不快な思いを感じるなど「倫理的ジレンマ」に遭遇することが多くあります。

訪問看護師が直面する倫理的課題~悩む状況とは

訪問看護師が直面する倫理的課題~悩む状況とは

では、訪問看護師が直面する倫理的課題、悩む状況とは具体的にどのようなものでしょうか

(1)利用者の意向と看護職者の意向が食い違う

① 利用者が日常生活行動への援助を受け入れない


② 利用者が生命にかかわる治療を受け入れない


③ 利用者が秘密にしたい情報をケア提供チーム内で共有しなければならない

(2)利用者の意向と家族の意向が食い違う

① 利用者が家族から適切なケアを受けていない


② 利用者の安全安楽が保たれていない可能性がある


③ 家族が利用者の生死にかかわる決定をしなければならない

(3)同僚や他職種とのコミュニケーション不足

① 看護職者と医師とのコミュニケーション不足


② 看護職者とケア提供チームメンバーのコミュニケーション不足


③ ケア提供チーム間の連絡・調整が不十分なためケア方針に食い違いが生じた状況


④ 利用者への守秘義務とケア提供チーム間における情報の共有化について悩む状況


⑤ 利用者・家族、医師、看護職者間のコミュニケーション不足


⑥ 病名を告知されていない利用者が医療に参加できない


⑦ 利用者と家族の意向に沿っていない


⑧ 上司と看護職者とのコミュニケーション不足

(4)利用者 看護職者との関係性

① 利用者または家族が無謀な行動をとるため、看護職者は必要なサービスを提供できない

このように訪問看護師が直面する倫理的課題は、様々な場面で生じています。

訪問看護における倫理的ジレンマの対処方法とは

訪問看護における倫理的ジレンマの対処方法とは

では、訪問看護における倫理的ジレンマに対して訪問看護師は、どのように対処していけばよいのでしょうか。

訪問看護は、利用者・家族との相互作用を通して提供されるため、ケアの質は訪問看護師自身がどのような行動をとるかによって大きく影響を受けます。

そのため、悩みや倫理的ジレンマを感じたときには、まず利用者の尊厳や権利が侵害されるような問題が潜んでいないか、複数の価値対立が生じていないかどうかという点で振り返り、倫理的課題があるかどうかを判断することが重要です。

(1)利用者や家族の考えや思いをよく知る

利用者や家族の価値観や希望を理解し、彼らの状況や意思決定プロセスを尊重します。感情や信念を共有し、コミュニケーションを通じて信頼関係を築きます。

(2)自分の価値観ではなく相手(利用者や家族) の価値観を尊重する

自身の価値観を押し付けず、患者や家族の選択や意思決定を尊重します。彼らが主体的に自己決定できるよう支援します。

(3)相手の思いを知るために傾聴し、積極的なコミュニケーションを図る

聴く姿勢を持ち、利用者や家族とオープンで適切なコミュニケーションをとります。彼らが自分の立場や要望を自由に表現できる環境を提供します。

(4)自分1人で抱えこまず、事業所内や関係職種間で倫理的問題について話し合う

倫理的ジレンマが発生した場合、一人で解決しようとせず、同僚や他の専門家と情報共有・議論を行います。共同で倫理的問題を評価し、最善の解決策を見つけ出します。

まとめ

今回は、訪問看護師が直面する倫理的ジレンマをテーマについてお伝えしました。

訪問看護師は通常一人で利用者の自宅に訪れて看護を提供するため、自己判断と高い倫理的基準が必要です。倫理的課題への対応は、異なる価値観を考慮し、利用者と家族にとって最適な決定を支援するプロセスです。

これを実現するために、訪問看護師は自分自身と看護の専門性に加え、利用者と家族の考えや価値観を理解する感受性を持つことが必要です。

また、利用者や家族と対話を通じて、彼らの意向や真意を理解し、最善のアプローチを模索することが大切です。訪問看護師は、個人の価値観と看護の専門性をバランスさせながら、利用者の最善の利益を実現する役割を果たします。

参考文献/出典:一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護における倫理的課題とその対応モデル作成に関する研究

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」

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訪問看護は未経験であり自己資金もゼロでしたが、ある経営者さんとの出会いにより新規立ち上げの訪問看護ステーションで将来の独立を前提に管理者として働くことが決定しました。 現在年収600万円を得ながら経営ノウハウを習得し、3年後の独立、理想の訪問看護ステーション作りに邁進されています。

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