前回のコラムでは、訪問看護ステーションにおけるオンコールについてその概要をお伝えしました。
病院を辞めてオンコールがある訪問看護に入職したけど
「日に日にオンコールへの不安が大きくなってきた…」
「何か急なアクシデントがあったらどうしよう…」
「状態が急変したらどう対応していいかわからない…」
などオンコール、緊急対応に対する不安を感じている看護師さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
不安を和らげるためには、まず訪問看護の緊急対応についての理解を深めることが大切です。
今回は、新米訪問看護師にむけて訪問看護のオンコール・緊急対応について知っておくべきことお伝えします。
急変時対応体制における訪問看護の重要性
最初に改めて、在宅療養をされている利用者、家族にとって訪問看護ステーションのオンコール、緊急対応がどのような役割を持っているのかをお伝えします。
訪問看護師は、療養者やその家族に寄り添いながら、彼らが安心して生活できるように支援する存在です。
在宅での療養では、急変や緊急事態に直面した場合、介護を担当するのは家族自身です。しかし、状況が急変すると、家族は不安や困惑に直面します。そんなときに、訪問看護師が存在することは大きな安心感をもたらします。
また訪問看護師は、緊急時の対応において家族に安心感を与えるだけでなく、医療チームと連携し、療養者の状態の変化を適切に把握する役割も果たしています。
訪問看護の緊急対応は、在宅での安心した療養を支える重要な要素なのです。
訪問看護の緊急対応と救急車の出動の役割の違い
在宅における患者の急変時には、訪問診療医や訪問看護による緊急対応と救急車の出動依頼が考えられます。
それぞれの役割の違いを説明します。
訪問看護の緊急対応
訪問看護の緊急対応は、訪問看護師や医療スタッフが提供する、利用者の急変や緊急事態に対する迅速な対応です。
緊急対応では、訪問看護師が利用者の自宅を訪問し、症状の評価や処置を行います。必要に応じて、主治医や関連する医療専門家と連携し、適切な医療ケアを提供します。
訪問看護の緊急対応は、利用者が自宅での安定した状態を保ちつつ、病状や症状の急変に対応するために行われます。
救急車の出動
救急車の出動は、一般的に重症や生命に関わる緊急事態に対応するために行われます。
救急車は、救急医療チームや救急救命士が乗車し、速やかに現場に到着し、必要な救急医療を提供します。救急車には、診断機器や救命処置に必要な機材が搭載されています。
救急車の出動は、利用者の命や生命の危険がある場合や、重篤な怪我や急性の疾患が疑われる場合に行われます。
救急車は、通常は病院や医療施設への搬送を目的としており、病院での適切な医療処置や治療を受けるための手段となります。
このように在宅療養者の緊急対応においてそれぞれの役割があります。
緊急対応・オンコールが必要な利用者の状況とは
では、どのような時に利用者は、緊急対応・オンコールを必要とするのでしょうか。大きくは、以下の7つに分類されます。
(1)病状の急変
利用者の病状が急に悪化し、緊急な医療ケアが必要な場合です。例えば、呼吸困難、意識の混濁、強い疼痛などが現れた場合が考えられます。
(2)薬物関連の緊急事態
利用者が薬を誤って過剰摂取した場合や、薬による重篤な副作用が現れた場合です。これには、意図しない薬の相互作用やアレルギー反応が含まれることがあります。
(3)傷害や事故の発生
利用者が転倒したり、怪我をしたり、異常な出血があったりする場合です。このような緊急事態では、出血の止め方や傷の処置、骨折の疑いがある場合は緊急な医療対応が必要です。
(4)気道確保の困難
利用者が呼吸困難や窒息の症状を示し、気道確保が必要な場合です。例えば、喉の腫れや異物の詰まりがある場合が考えられます。
(5)精神的な緊急事態
利用者が重度の不安や混乱、自傷行為を示す場合や、自殺念慮がある場合です。こうした緊急事態では、適切な評価と対応が必要です。
(6)医療機器の問題
利用者が使用している医療機器に関連したトラブルが発生した場合、訪問看護師に連絡することがあります。例えば、人工呼吸器の不調や異常音、経管栄養のポンプの故障などが該当します。
(7)看取り
看取りが近い利用者においては、突然の緊急事態が発生する場合があります。例えば、呼吸停止や心停止、出血の増悪などが挙げられます。訪問看護師は、これらの緊急事態に迅速に対応し、必要な医療処置やサポートを提供します。
訪問看護の緊急対応における利用者や家族との事前の相談
訪問看護における緊急時対応において、利用者や家族との事前の相談は非常に重要です。
急変の推測される理由や、救命処置によるメリット・デメリット、今後予測される状況等を十分に説明する必要があります。
特に急変が予測される利用者へは、通常の訪問時に以下のようなことを相談しておくとよいでしょう。
(1)緊急時の連絡方法
利用者や家族と緊急時の連絡方法について相談しましょう。緊急時の連絡先や連絡の優先順位を明確にすることで、迅速な対応が可能となります。また、連絡先の更新や変更があった場合には、すぐに共有するようにしましょう。
(2)緊急時の症状や状態の共有
利用者や家族と緊急時に起こりうる症状や状態について話し合い、共有しましょう。特定の症状や状態が生じた場合にどのような対応が必要かを明確にすることで、看護師が的確な判断を下し、迅速な対応ができます。
(3)緊急時の医療機関との連携
利用者や家族と緊急時の医療機関との連携について話し合いましょう。緊急時に利用する医療機関や主治医の情報を共有し、連絡先やアクセス方法を確認します。また、主治医からの指示や診断結果の共有についても話し合い、連携を円滑に行えるようにしましょう。
(4)緊急時の医療文書や医薬品情報の整備
利用者や家族と緊急時に必要な医療文書や医薬品情報の整備について話し合いましょう。重要な医療文書(例: 予約票、診断書、処方箋など)や利用者の医薬品情報をまとめ、緊急時にスムーズに提供できるようにします。
(5)緊急時の在宅環境の整備
利用者や家族と緊急時の在宅環境の整備について話し合いましょう。訪問看護師がスムーズに行動できるよう、利用者の部屋や居住空間を整理し、必要な医療機器や薬剤を簡単に取得できるようにします。また、緊急時には明るい照明や通路の確保など、安全面にも配慮した環境整備を行いましょう。
(6)緊急時の家族や近隣への連絡方法
緊急時には、利用者の家族や近隣にも連絡が必要となる場合があります。利用者や家族と連絡方法を共有し、緊急時には迅速かつ適切に連絡できるようにしておきましょう。特に、利用者が単独で生活している場合は、近隣の人や地域のサポートネットワークを活用することも検討しましょう。
(7)緊急時の対応手順の確認とトレーニング
利用者や家族と緊急時の対応手順を確認し、必要なトレーニングや緊急時のシミュレーションを行いましょう。実際の状況に即した対応をするために、適切な行動や処置の方法を確認することが重要です。訪問看護師との連携や役割分担についても話し合い、チームとしての緊急時対応を確立しましょう。
これらの事前の相談と準備は、緊急時の対応を円滑化し、安心感を提供するために重要です。
利用者や家族とのコミュニケーションを通じて、緊急時における役割や責任を共有し、連携を強化することが必要です。訪問看護師との協力体制を構築し、利用者の安全と安心を確保するために、日頃からの準備とコミュニケーションが欠かせません。
緊急対応において重要なのは、療養者・家族の意志の確認
訪問看護における緊急時対応では、療養者の意志の確認(意識がはっきりしている時の)や療養者・家族が希望している救命処置であるかどうかなど意志の確認が非常に重要です。
そしてその意志を尊重し、適切な処置を行うために十分な情報を得る必要があります。
(1)療養者の意思尊重
療養者の自己決定権を尊重し、その意志を最大限に尊重することが重要です。療養者が自身の医療や救命処置について具体的な意思を持っている場合、その意思を尊重しなければなりません。療養者の自己決定権を重視することは、倫理的な観点からも重要です。
(2)事前の意思表明
療養者が状態が安定している時には、事前に自身の意思や希望を文書化することが推奨されます。これを「事前指示」と呼び、療養者の希望する医療や救命処置に関する情報を医療チームや家族と共有するための重要なツールとなります。訪問看護師は、事前指示書を確認し、療養者の希望に沿ったケアを提供する役割を担います。
(3)コミュニケーションと家族の関与
療養者の意思確認には、家族の関与とコミュニケーションが欠かせません。訪問看護師は、療養者と家族との信頼関係を築き、療養者の意志や希望についての情報を収集します。また、家族が療養者の代理として意思決定をする場合にも、適切な情報提供とサポートが重要です。
(4)緊急時の判断とドキュメンテーション
緊急時には、療養者の意思が即座に反映される必要があります。訪問看護師は、療養者の状態や意識レベルを評価し、緊急時の救命処置や医療介入の適切性を判断します。この判断には、医療倫理や法的規定、療養者の事前指示などを考慮します。また、意思確認や処置の選択に関する情報を適切に記録し、ドキュメンテーションを行います。これにより、療養者の意思の尊重と医療の連続性を確保します。
(5)倫理的な相談とチームアプローチ
時には、療養者の意思確認や処置の選択が複雑な場合もあります。訪問看護師は、倫理的な相談やチームアプローチを活用し、療養者の最善の利益を追求します。医療チームや関係機関と協力し、療養者と家族に適切なサポートを提供することが重要です。
訪問看護において療養者の意志確認は重要な要素です。療養者の自己決定権を尊重し、緊急時には最善の医療ケアを提供するために、事前指示や家族とのコミュニケーションが重要です。
訪問看護の緊急対応における事前の準備と情報共有
また訪問看護の緊急対応においては、ステーション内での事前の準備と情報共有が非常に重要です。
緊急対応が予測される利用者に対しては、普段から以下のようなことに注意を払う必要があります。
(1)病状の評価と文書化
利用者の病状や状態を評価し、適切な文書化を行います。緊急時には素早く対応する必要があるため、利用者の状態、症状、服薬状況などを正確に記録し、後続の看護師が容易に理解できるようにします。
(2)自宅の場所の確認
利用者の自宅の場所を事前に確認し、地図やナビゲーションシステムを活用して最適な経路を把握します。これにより、緊急時にスムーズに利用者の自宅に到着し、迅速な対応が可能となります。
(3)関連情報の収集
利用者に関連する情報を収集します。これには、利用者の主治医や他の医療関係者との連絡や情報共有が含まれます。利用者の病状や治療計画に関する情報を共有することで、緊急時の対応が円滑に行われます。
(4)緊急時のケアプランの策定
緊急時のケアプランを詳細に策定します。利用者の症状や状態が急変した場合には、訪問看護師が即座に適切な対応を行うための手順や指示を明確にします。これには、利用者の希望や家族の意向を尊重しながら、症状のモニタリング、緊急連絡先の活用、必要な医療機関への連携などが含まれます。
以上の方法により、訪問看護師は利用者の緊急時のケアに備え、迅速で適切な対応を行うことができます。
看取りが近い時の緊急対応について
さいごに緊急対応に関する具体的な対応方法を2つご紹介します。
訪問看護の緊急対応において、看取りが近い時は、家族に対して身体の変化や症状について詳しく伝えることが重要です。以下に具体的な身体の変化とその伝え方について説明します。
呼吸の変化
看取りが近づくと、呼吸の変化が生じることがあります。例えば、呼吸が浅くなったり、不規則になったり、息苦しそうな様子が見られるかもしれません。家族に対して、利用者の呼吸パターンの変化について伝え、どのような状態かを具体的に説明します。また、緊急時にはどのように対処するかや緩和ケアの提供についても指示します。
呼吸の変化に関する家族への伝え方の一例
「〇〇様の呼吸が以前よりも浅くなってきています。息苦しそうな様子が見られます。これは看取りの兆候であり、呼吸の変化は一般的です。
ただし、もし利用者が苦しさを感じる場合は、私たちに連絡してください。緊急時の対処方法や緩和ケアの提供についてもお伝えしますので、安心してください。」
意識レベルの変化
看取りが近づくと、利用者の意識レベルが変化することがあります。意識が混濁したり、眠りが深くなったりするかもしれません。家族に対して、利用者の意識レベルの変化について伝え、どのような状態かを具体的に説明します。また、緊急時にはどのように対処するかや快適な環境の提供についても指示します。
意識レベルの変化に関する家族への伝え方の一例
「〇〇様の意識レベルが変化してきています。意識が混濁し、眠りが深くなる傾向があります。これは看取りの兆候であり、一般的な状態です。
ただし、もし利用者が不安や苦痛を感じる場合は、私たちに連絡してください。緊急時の対処方法や快適な環境の提供についてもお伝えしますので、ご安心ください。」
事前の頓服対処や症状に対して薬が必要な場合の対応
訪問看護の緊急対応や夜間対応において、事前の頓服対処や症状に対して薬が必要な場合、主治医との連携が重要です。
(1)事前の頓服対処
1.症状に応じた対処方法の確認
利用者やその家族と共に、事前に症状や緊急時の頓服対処方法を明確化します。緊急時にはどのような症状が起きる可能性があるか、どのような対処方法が有効であるかを確認し、具体的なケアプランを作成します。
2.頓服薬の保管と説明
利用者の家庭には、必要な頓服薬や救急キットを備えておきます。薬の保管方法や有効期限についての指導を行い、利用者やその家族が必要な時に適切に使用できるようにします。また、頓服薬の服用方法や注意事項についても詳しく説明します。
(2)薬の処方依頼と内服の説明
1.主治医との連携
緊急時に必要な薬の処方については、主治医との密な連携が重要です。訪問看護師は利用者やその家族と協力し、主治医に対して緊急時に使用する可能性のある薬の処方を依頼します。主治医との連絡手段や指示方法を確立し、緊急時にスムーズな処方手続きが行えるようにします。
2.内服の説明と指導
処方された薬について、訪問看護師は利用者やその家族に対して詳しく説明します。薬の効果や副作用、適切な内服方法やタイミングなどを丁寧に指導し、利用者が薬を正しく使用できるようにします。必要に応じて薬の説明書や記録シートを提供し、利用者やその家族が薬の管理や服用記録を行えるようにサポートします。
これらの対策により、訪問看護の緊急対応や夜間対応において、事前の頓服対処や薬の管理、主治医との連携が円滑に行われます。
まとめ
今回は、新米訪問看護師にむけて訪問看護のオンコール・緊急対応について知っておくべきことお伝えしました。
訪問看護の緊急時対応は、在宅療養を支える重要な要素であり、療養者と家族の安心と安全を守る役割を果たします。
訪問看護師は、療養者と家族との信頼関係を築きながら、緊急時の判断とドキュメンテーションを行い、倫理的な相談やチームアプローチを活用して、療養者の意思を尊重する役割を果たします。
訪問看護の緊急対応において肝心なのは、日頃の訪問での対応です。訪問看護師は、利用者のケアを継続的に行うことで、利用者やその家族との信頼関係を築き、緊急時に慌てたり困ったりせずに対処できるように備えることが重要です。
今回の記事が看護師さんにとってオンコールや緊急対応に対する不安を少しでも和らげるものになれば幸いです。
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