在宅療養を行っている方々は、訪問診療や訪問看護などの医療サービスを利用しながら、自らの責任で療養生活を送っています。
病気を理解し、うまく付き合っていくためには、「セルフマネジメント」の力が必要です。セルフマネジメントを継続し、健康を保ち、病気の悪化を防ぐためには、医療者の支援がとても重要です。
今回は、在宅療養におけるセルフマネジメント支援について、その概要から医療者に求められる役割や支援方法などを詳しくお伝えします。
在宅療養にセルフマネジメントが求められる理由
病気と診断された場合、医師から処方された薬をきちんと服用し、指示された食事や運動療法を実行し、定期的に通院することが求められます。
例えば、糖尿病と診断された患者は、まず生活習慣を見直し、食事内容を変更し、生活の中に運動を取り入れる必要があります。
慢性腎不全で人工透析が必要な患者は、塩分や水分を制限しながら、週に3回の血液透析を生活の中に組み込まなければなりません。
このように、生活習慣を変えたり、治療を日常生活に取り入れたりすることは、患者にとって簡単なことではなく、これまでの生活の楽しみを奪うことになりかねません。
さらに、療養しながら仕事や家庭での生活を維持していく必要もあります。病気が思うようにコントロールできないと、将来に不安を感じて落ち込むこともあります。
このように慢性疾患を持つ患者は、長期間にわたって病気を管理するために、医療者が推奨する養生法や治療法を日常生活に取り入れ、病気と生活を自分で管理する、すなわち「セルフマネジメント」が求められます。
在宅療養におけるセルフマネジメントとは
セルフマネジメントとは、患者が自分の健康や病気に関する知識を深め、それを学びながら医療者や家族と相談し、自分自身で意思決定を行い、その決定に基づいて行動し、結果に責任を持つことを指します。これは、患者が積極的に自分の健康管理に関与し、長期的な療養生活の質を向上させるために非常に重要です。
セルフマネジメントにおいては、患者の理解と共感が非常に重要です。
医療者が正確な知識を持っていても、専門用語で説明しては患者に伝わりません。情報を「患者言葉」に翻訳して伝えることが必要です。
患者と医療者が協力し、療養生活に伴う問題に対して解決策を見つけるためのアプローチを取ることが求められます。
このプロセスを通じて、患者の自己効力感を高め、主体的に治療や生活管理に取り組むことができます。
セルフマネジメントにおける医療者の役割とは
医療者は患者との協力関係の中で、患者が病気や日常生活での役割、感情の管理に向けて取り組む能力を促進する役割を果たします。
セルフマネジメント支援の3つのポイント
医療者がセルフマネジメント支援を行うためには、以下の3つのポイントを意識したアプローチが必要です。
1. 行動の意味性を理解させる
患者がその行動をすることに意味があると思えることが重要です。
2. 問題解決の自覚を促す
患者が自分のこととして問題を捉え、解決したいと思うことが大切です。
3. 自己効力感の育成
患者がその行動をするための能力を自分は持っているという自信を持つこと、つまり自己効力感を高めることが重要です。
セルフマネジメントを促進するためのアプローチ方法とは
病気を持つのは患者自身です。例えば、馬を水飲み場まで連れて行くことはできても、水を飲ませることはできないと言われますが、医療者の役割は、患者が上手にセルフマネジメントできるように支援することです。
そのため、セルフマネジメント支援では、医療者は患者とパートナーシップの関係で「治療同盟」を築き、共同目標を目指します。
患者のセルフマネジメントを促進するためには、対話を通じた協力関係に基づき、慢性疾患に関連する課題を患者が認識し、自分に適した解決策を考える手助けが必要です。
具体的には、「病気や治療に関する知識」や以下の点について、教育的アプローチや相談技術を用いて介入します。
自己モニタリングや症状管理
感情の管理
コミュニケーションの技術
これらにより、患者は自身の症状やデータの管理方法、病気を持ちながらの社会生活の適応方法、そして病気によるストレスの対処法を学び、実践していくことができます。
セルフマネジメントを継続させるため支援とは
看護師には、患者が行動を起こすだけでなく、セルフマネジメントの習慣を維持できるように自己効力感を高める支援が求められます。
患者が実行したことを評価し、自身の行動や方法を振り返り、うまくいった点や改善点を共に考えてフィードバックし、さらに患者が行動や方法の改善点に気づき、行動を修正できるようにサポートします。
このようなプロセスを継続することで、患者は健康的な行動や方法を徐々に身につけ、病気と共に生活していくことができるようになります。
セルフマネジメントに必要なエンパワメントとは
エンパワメントとは、患者個人が本来持っている力を活かし、病気や生活を自己でコントロールできるようになる過程です。
患者のセルフマネジメント能力を効果的に引き出すためには、エンパワメントが重要な要素です。
※患者のやる気を引き出すエンパワメントについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
患者のエンパワメントを引き出すためには、患者(利用者)や家族が抱える様々な背景を理解することが必要です。
たとえば、難病を診断されたばかりの患者は、「なぜ私なのか」「今後どうなるのか」と不安を感じるかもしれません。
脳梗塞で麻痺がある患者は、「何もできない自分は、生きていても仕方がない」と無力感を抱くことがあります。
また、過労やストレス、感染症によって病気が急激に悪化し、入退院を繰り返す場合、患者は「病気がよくならないなら、何をしても無駄だ」というコントロール感覚を失うことがあります。
このように、患者は病気の経過の中でパワーレスネス(無力感)を経験することがあります。患者にとってパワーレスネスやパワーの喪失は、自己管理に悪影響を与え、病気の進行や生活の質の低下を招くことがあります。
そのため、何らかの理由でパワーレスネスを感じている患者が自らの力を取り戻せるように支援することが重要です。エンパワメントを通じて、患者の自己管理能力を促進し、精神的健康や生活の質を維持することが目指されます。
また、慢性疾患の管理は複雑で長期にわたるため、患者は自分の価値観やライフスタイルに合った目標を設定し、身体的・心理的・社会的要因を考慮しながら日々のケアや処置の決定を行う必要があります。
まとめ
今回は、在宅療養におけるセルフマネジメント支援をテーマにその概要から医療者に求められる役割、支援方法などについてお伝えしました。
最近では、単身世帯や高齢夫婦世帯の増加に伴い、家族のサポートを得るのが難しくなっています。
そのため、患者自身がセルフマネジメント能力を身につけることがますます重要になり、訪問看護の支援も欠かせないものとなっています。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。