今年に実施される報酬改定に先駆け、1月に厚生労働省から「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」が発表されました。
この資料には、今回の介護保険の改定の具体的な内容や方向性が示されていることから内容を確認された方も多いのではないでしょうか。
重要なのは、国が示したい本質的な意図を読み取ることです。
そこで本日は、今回の発表を受けて訪問看護ステーションがどのようなことを備え、取り組んでいくべきかを考察していきたいと思います。
- 1 1月の発表内容を踏まえて取るべき6つ対策とは
- 2 (1)2024年の介護報酬改定に向けた利用者獲得の対策とは
- 2.1 ①訪問看護の基本報酬
- 2.2 ②専門性の高い看護師による訪問看護の加算
- 2.3 利用者獲得のために取るべき対策とは
- 2.4 ①自社の強みを具体化した営業活動を実践
- 2.5 1.専門性の高い看護スタッフの存在をアピール
- 2.6 2.地域に密着した取り組みと地域の特性を強調
- 2.7 3.選ばれる理由をわかりやすくアピール
- 2.8 4.パンフレットや資料のアップデート
- 2.9 5.Webサイトの最適化
- 2.10 6.CRM(顧客関係管理)システムの導入
- 2.11 7.SNSやブログの活用
- 2.12 ②ケアマネージャーや医療機関への定期的な提案営業の実施
- 2.13 1.課題のヒアリング
- 2.14 2.成果と実績の提示
- 2.15 3.ケアマネージャーへの情報提供
- 3 (2)2024年の介護報酬改定に向けた看護師採用の対策とは
- 4 (3)2024年の介護報酬改定に向けた働き方改善の対策とは
- 5 (4)2024年の介護報酬改定に向けた多職種連携の対策とは
- 6 (5)2024年の介護報酬改定に向けたスタッフ教育の対策とは
- 7 (6)2024年の介護報酬改定に向けた付加価値向上の対策とは
- 8 まとめ
1月の発表内容を踏まえて取るべき6つ対策とは
今回の介護保険の改定では、専門性の高い看護師による訪問看護や、退院当日の訪問看護の加算の新設、ターミナルケア加算の増加など、重度化に適切に対応できて、在宅移行、在宅看取りが推進できる訪問看護ステーションの評価が高まることが示されています。
また、BCP(事業継続計画)、虐待、身体的拘束の未対応が減算対象となり、これらの体制整備が求められています。
さらに、常勤の勤務時間やオンコール対応者の柔軟化により、働く環境の整備が促進されることになります。
加えて、療法士の訪問回数を算出した減算制度の新設は、看護師が中心となり、多職種連携ができるステーションが求められることを示唆しています。
加算の新設、増加、減算など計15項目が決定となった今回の2024年の介護報酬改定を受けて、訪問看護ステーションが利益を高めて成長するにはどのような対策を取るべきなのか、模索されているステーション経営者も多いのでないでしょうか。
単に、加算が高いサービスを強化したり、減算を回避するといった短期的な対処だけではなく、今回の改定が示唆する意図を考慮し、訪問看護業界に起こりうる事態を予測した上で、将来にわり、有望で強固なステーションを構築するための対策を考えていく必要があります。
2024年6月までに取るべき対策について以下の6つの項目から考えていきたいと思います。
1.利用者獲得
2.看護師採用
3.働き方改善
4.多職種連携
5.スタッフ教育
6.付加価値向上
(1)2024年の介護報酬改定に向けた利用者獲得の対策とは
まず、はじめに今回の訪問看護の改定のうち、利用者獲得に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こるであろう事態を予測し、取るべき「利用者獲得の対策」についてまとめました。
利用者獲得に関する改定項目と内容は、以下になります。
①訪問看護の基本報酬
2024年の介護報酬改定では、訪問看護の基本報酬の単位数は以下のように改定され、わずかですが、すべてにおいて、引き上げとなります。
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
②専門性の高い看護師による訪問看護の加算
医療ニーズの高い利用者が増える中、適切かつ質の高い訪問看護を提供する観点から、専門性の高い看護師が計画的な管理を行うことを評価する以下の加算が新設されます。
<単位数>
専門管理加算(新設) 250単位/月
<算定要件>
指定訪問看護ステーションの「緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門ケア、人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師」または「特定行為研修を修了した看護師」が、訪問看護の実施に関する計画的な管理を行った場合。
上記のように、訪問看護事業は、これまでも改定の度に評価が上がり続け、今回においても微増ながら上がっていることから、事業としての期待度が高まり、参入者が増えることが予測されます。特に、近年、傾向として顕れている、大資本の企業の参入が加速する可能性があります。
また、専門性の高い看護師の価値が上がり、これが専門看護師の独立の契機となり、研修を修了し、専門分野において豊富な知識と経験を持つ看護師が志を共有する看護師仲間と、共同で訪問看護ステーションを開設する可能性も見込まれます。
大資本の訪問看護ステーション参入では、開設当初から組織的に活動することが可能であることから、多数のスタッフを配置し、営業専門チームを形成し、積極的かつ、計画的な営業戦術を武器に、利用者獲得を行うことが考えられます。
また、専門性の高い看護師チームの訪問看護ステーションの参入では、高品質な看護ケアが提供できるとの期待から、関係先との信頼を築き、有利な状態で利用者獲得を展開することが考えられます。
こうした新規参入者は、既存の訪問看護ステーションの脅威となり、訪問看護業界において、これまでのような順調な利用者増が見込めなくなる可能性があります。
利用者獲得のために取るべき対策とは
今回の基本報酬増や、専門性の高評価における改定により起こりうる、大資本や専門看護師による訪問看護業界への参入の脅威を回避し、利用者を獲得し続けるための対策として、以下2点において営業体制を強化する必要があります。
①自社の強みを具体化した営業活動を実践
自社の強みを洗い出した上で、営業活動通じて強みを具体的かつ魅力的に伝えることで、潜在利用を発掘し、利用者獲得へつなげます。
効果的に伝えるためには、営業ツールの見直しも同時に行うことも大切です。
以下に、強みを伝える方法やツールの見直しに関するポイントを挙げています。
1.専門性の高い看護スタッフの存在をアピール
特定の疾患や病態に対する専門知識を持つ看護師や療法士が在籍していることを強調したり、個々のニーズに合わせた柔軟なサービス提供が可能であることを具体的な事例や実績を交えて詳細に説明したり、ツールにして配布します。
2.地域に密着した取り組みと地域の特性を強調
地域の特性やニーズを理解した看護ケアの提供において、実績や事例を交えて伝えることで、信頼を構築します。
3.選ばれる理由をわかりやすくアピール
他社との差別化を明確にし、なぜ自社が選ばれるかの理由を明示し、利用者に対する信頼性と親しみやすさをアピールします。
4.パンフレットや資料のアップデート
専門性の高い看護スタッフの紹介や実績を反映したデザイン性のあるパンフレットや資料にアップデートして、営業先に配布します。
5.Webサイトの最適化
Webサイト上で強みや実績をわかりやすく提示します。
6.CRM(顧客関係管理)システムの導入
営業件数が増えた時点で、営業先とのコミュニケーションを効率化するために、CRMシステムを導入し、営業先の情報や要望を集約し、個別対応の履歴を確認できるようにします。
7.SNSやブログの活用
自社の強みや専門性、また地域に関する情報をSNSやブログで発信し、信頼性と専門性をアピールします。
これらを実践することで自社の強みを伝え、強敵に対抗し、新規利用者の獲得を可能にします。
②ケアマネージャーや医療機関への定期的な提案営業の実施
ケアマネージャーや医療機関への定期的かつ継続的な提案営業を実施することで、潜在利用を発掘し、利用者獲得へつなげます。
同時に、ケアマネージャーが利用者に予防ケアや医療に関するアドバイスができるような情報提供を、訪問看護ステーションが実施することで、信頼関係が構築し、利用者の紹介につながります。
以下は、提案営業を継続するためのポイントです。
1.課題のヒアリング
ケアマネージャーや医療機関の課題やニーズを定期的にヒアリングし、訪問看護による具体的な改善策を提案します。
2.成果と実績の提示
過去の提案や導入事例から得られた成果や実績を具体的な数字や写真と共に提示したり、提案が実際に問題解決や効率向上にどのように寄与したかを具体的に伝えます。
3.ケアマネージャーへの情報提供
ステーションが独自に作成したパンフレットやチラシを利用して、特定の疾患や予防策を取り上げ、訪問看護の必要性を具体的に説明することで、ケアマネージャーは利用者に対して予防ケアに関するアドバイスや情報を提供する際に有益な支援ができます。
これらを実践することで、改定に伴い増加することが懸念される競合他社に勝る提案により、利用者減を回避し、新規利用者を増やすことができます。
(2)2024年の介護報酬改定に向けた看護師採用の対策とは
次に、今回の訪問看護の改定のうち、看護師採用に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こりうるであろう事態と取るべき「看護師採用の対策」についてまとめました。
看護師採用に関する改定項目と内容は、以下になります。
① 業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入
② 高齢者虐待防止の推進
③ 身体的拘束等の適正化の推進
今回の介護報酬改定では、これらの措置が講じられていない場合、算所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算するなどのあらたな制度が導入されます。
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
企業が業務継続計画を策定することは、スタッフや利用者に対する責任と信頼の表れであり、高齢者虐待の防止や身体的拘束の適正化は、企業が社会的責任を果たし、利用者の尊厳を守り、倫理的なケアを提供する姿勢を示します。
看護師は、事業所の信頼性や危機管理への取り組みを重視し、良好な企業姿勢を持つ事業所で働きたいと考え、それが採用競争力向上や人材確保・定着に寄与します。
一方で、これらの措置を講じないステーションは看護師からの指示が低下し、業界において競争力を失う可能性があります。
看護師採用において取るべき対策とは
看護師は利用者に対して倫理的で質の高いケアを提供することに重きを置いています。
訪問看護ステーションが倫理的なケアや尊厳の尊重に対する姿勢を示すことは、看護師にとって重要な要素です。
また、ステーションが社会的責任を果たし、使命感をもってサービスを提供していると認識されることは、看護師にとって魅力的です。
看護師は自分の働く場所が社会的に責任を果たし、社会に対して価値を提供していると感じたいと考えます。
また、災害時や緊急事態において、企業がスタッフの安全確保や迅速かつ効果的な危機管理に取り組んでいることは看護師にとって安心感を生む要素です。
基準に沿った堅実な業務継続計画を策定し、災害や緊急事態に備えることや、倫理的なケアを提供するために、高齢者虐待防止と身体的拘束の適正化に真摯に取り組むことは、減算を回避することだけでなく、看護師が共感し、働きたいと感じるような良好な企業姿勢を構築するために不可欠となります。
これらの良好な企業姿勢や取り組みを積極的にPRし、外部へ情報発信を行うことで、競争激化の中で、企業姿勢が採用競争力を向上させる重要な要素となります。
(3)2024年の介護報酬改定に向けた働き方改善の対策とは
続いて、今回の訪問看護の改定のうち、働き方改善に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こりうるであろう事態を予測し、取るべき「働き方改善の対策」について、まとめました。
働き方改善に関する改定項目と内容は、以下になります。
①人員配置基準における両立支援への配慮
今回の改定では、介護現場において、治療と仕事の両立ができるよう、職員が事業者が設ける短時間勤務制度などを利用する場合、週30時間以上の勤務であれば常勤換算で1(常勤)として扱うことを認めるなど、環境整備を進めます。
これは、職員の離職を防ぎ、定着を促進するための取り組みです。また、この方針に基づき、各サービスの人員配置基準や報酬算定について見直しを行うことが決定され、訪問看護ステーションにも適用されます。
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
②24時間対応のニーズに対する即応体制の確保
訪問看護における 24 時間対応について、看護師等に速やかに連絡できる体制等、サービス提供体制が確保されている場合は看護師等以外の職員も利用者又は家族等からの電話連絡を受けられるよう、下の表のように見直しが行われました。
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
週30時間以上の勤務で常勤換算1と認められることや、24時間対応者が増えたことは、看護師の働きやすい環境を改善するために、柔軟なオンコール体制を整備するなど、勤務体制の見直しを行った事業者が評価され、業界での競争力を高めることを示唆しています。
これにより、訪問看護業界全体で看護師の働きやすさが注目され、働く環境の改善が進む見通しです。
事業者が柔軟で魅力的な働き方を提供することが期待され、その影響で業界全体の働きやすさの水準が引き上げられる可能性が高まります。柔軟性やワークライフバランスが重視され、業界変革が進むことで、他の介護事業者も同様の改革を模索し、全体的な労働環境が向上することが予測されます。
これにより、業界全体がより魅力的な職場となり、優れた人材の引き寄せや定着が促進されるでしょう。
働き方改善で取るべき対策とは
訪問看護業界全体で看護師の働きやすさに焦点が当たり、働く環境の改善が進むことが予測される中、改善の遅れが出ないように、対策を取ることが必要です。
① 勤務体制の見直し
常勤・非常勤看護師の勤務体制を見直したり、24時間対応に適した柔軟かつ効率的なシフト制度を導入します。
② オンコール対応者の適正配置
オンコール対応者の配置を適正化し、効果的にサービス提供が行えるようにします。十分なトレーニングと情報共有を行い、看護師の負担を分散つつオンコール対応者が迅速かつ適切に対応できるようにサポートします。
③ 業務効率化のためのシステム導入
システムやアプリケーションを導入して業務プロセスを効率化し、看護師が本来の看護業務により集中できるようにします。デジタルな予定管理や、各種情報のアクセスが容易な環境を整えます。
④ 働き方の柔軟性強化
柔軟な働き方を実現するために、フレキシブルな労働契約や時短勤務、テレワークの導入など、ステーション運営に支障が出ない可能な範囲で、看護師が自分のライフスタイルに合わせて働ける環境を整えます。
⑤ スタッフの声のフィードバック
看護師やスタッフのフィードバックを積極的に収集し、働き方の改善に反映させます。従業員の意見を尊重し、改善への参加意欲を高めることで、職場の満足度が向上します。
⑥ 柔軟な休暇制度
リフレッシュ休暇など、個々のニーズに合った休暇を選択できるように柔軟な休暇制度を作ります。
他社に遅れを取ることなく、これらの対策を早めに講じて、より働きやすい組織であることを発信することで、ステーションの信頼性向上につながることが期待されます。
(4)2024年の介護報酬改定に向けた多職種連携の対策とは
続いて、今回の訪問看護の改定のうち、多職種連携に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こるであろう事態を予測し、取るべき「多職種連携の対策」について、まとめました。
多職種連携に関する改定項目と内容は以下になります。
理学療法士等による訪問看護の評価の見直し
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
この改定は、訪問看護の看護師が異なる専門職との連携を強化し、包括的で効果的な看護ケアを提供できるような体制を構築することを示唆しています。
理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による訪問看護は、その訪問が看護業務の一環としてのリハビリテーションを中心としたものである場合に、看護職員の代わりに訪問させるという位置づけのものであることを再認識した上で、看護師中心の組織として、24時間体制やターミナルケアを提供しながら、異なる専門の多職種が連携して利用者に対する包括的なサービスを提供することが求められるようになります。
多職種連携で取るべき対策とは
看護師中心の多職種連携の強化を図るためには、以下の対策を検討する必要があります。
① 多職種連携プランの整備
異なる専門職との連携を円滑に進めるために、訪問看護ステーションは多職種連携のプランをつくります。
これには、定期的な研修やワークショップ、チームビルディング活動が含まれます。
② 共通のコミュニケーションプラットフォームの整備
看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが円滑に情報を共有できるよう、オンラインツールなど共通のコミュニケーションプラットフォームを整備します。
③ モニタリング項目の明確化
利用者ごとにモニタリングすべき重要な項目を明確にします。
看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、関連する専門職の視点を考慮して、総合的なモニタリング項目を設定します。
④ 連携の評価と改善サイクルの確立
異なる専門職との連携の効果を定期的に評価し、フィードバックを受けて改善サイクルを確立します。これにより、より適切な調整が行われ、ケアの質が向上するよう努めます。
⑤ 地域のネットワーク構築
地域の他の医療機関や専門職とのネットワークを構築し、連携がより円滑に行われるようにします。地域全体で包括的なケアが提供されるために、連携パートナーシップを築きます。
ステーションに所属する療法士との連携強化にとどまらず、他の医療機関や専門職との連携を主導することが、ステーションの評価と成長につながります。
(5)2024年の介護報酬改定に向けたスタッフ教育の対策とは
次に、今回の訪問看護の改定のうち、スタッフ教育に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こるであろう波を予測し、取るべき「スタッフ教育の対策」について、まとめました。
スタッフ教育に関する改定項目と内容は、以下になります。
円滑な在宅移行に向けた看護師による退院当日の訪問の推進
要介護者等のより円滑な在宅移行を訪問看護サービスとして推進する観点から、以下のように看護師が退院・退所当日に初回訪問することを評価する新たな区分を設けることとなりました。
<単位数>
【現行】
初回加算 300単位/月
↓
【改定後】
初回加算(Ⅰ) 350単位/月(新設)
初回加算(Ⅱ) 300単位/月
<算定要件等>
〇 初回加算(Ⅰ)(新設)
新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院、診療所等から退院した日に指定訪問看護事業所の看護師が初回の指定訪問看護を行った場合に所定単位数を加算する。ただし、初回加算(Ⅱ)を算定している場合は、算定しない。
〇 初回加算(Ⅱ)
新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院、診療所等から退院した日の翌日以降に初回の指定訪問看護を行った場合に所定単位数を加算する。ただし、初回加算(Ⅰ)を算定している場合は、算定しない。
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
改定が示唆する意図や将来の業界動向について予測する際のポイントは以下の通りです。
① 円滑な在宅移行の促進
入院中や退院当日に看護師が初回訪問することで、患者や利用者とその家族に直接的なサポートと情報提供が可能となります。これにより、在宅療養における不安や課題に迅速に対応し、安心感を提供することが期待されます。
② 医療機関との連携の強化
初回訪問により、医療機関との連携がより強化されます。
医師や医療スタッフとのコミュニケーションが円滑に行われ、患者の状態や治療計画について迅速かつ正確な情報が得られることで、適切なケアが提供されます。
③ 在宅生活への適応の向上
退院当日に訪問することで、利用者が在宅での生活に対して必要な支援や環境の調整が早期に行われます。
④ 訪問スケジュールの調整と効率化の必要性
退院当日に訪問することは、看護師のスケジュール調整が求められます。
⑤ 訪問看護師の緊急対応スキル
退院当日には患者の状態や緊急事態に対応するため、看護師のスキやトレーニングの向上が必要です。
⑥ 在宅ケアの質向上と医療費の
初回訪問により、在宅ケアの早期スタートが可能となり、利用者の健康状態が適切に管理されます。
これにより、合併症や再入院のリスクが低減し、医療費の削減が期待されます。
このような退院における動向は、利用者と家族中心のケアの推進や医療の効率化に貢献し、在宅ケアの質の向上に寄与することが期待されます。
スタッフ教育に関して取るべき対策とは
退院当日訪問の推進において、看護師が初回訪問する新たな区分が設けられることから、以下のようなスタッフ教育の対策を検討します。
① 退院当日訪問のプロセスの明確化
スタッフに対して、退院当日訪問の具体的なプロセスや手順を明確に伝えます。どのような情報が必要であり、患者や家族に対してどのようなサポートが求められるかを理解する重要です。
② コミュニケーションスキルの強化
退院当日は患者や家族にとって不安でデリケートな状態です。
スタッフには丁寧で理解のあるコミュニケーションスキルを身につけさせ、患者や家族の不安を和らげ、信頼関係を築くことが求められます。
③ チームワークの強化
退院当日訪問は他の医療関係者や施設との連携が不可欠です。
スタッフにはチームワークを重視し、他の関係者と円滑かつ効果的な情報共有ができるようになるよう教育します。
④ 倫理的な観点の強調
患者や家族のプライバシーを尊重し、倫理的な観点からのアプローチを重視します。スタッフには倫理的な判断力を養い、患者に適切なサービスを提供できるように指導します。
⑤ シミュレーションやロールプレイングの活用
リアルな状況をシミュレートしたり、ロールプレイングを通じて退院当日の訪問に備えるトレーニングを行います。
これにより、実際の状況に迅速かつ適切に対応できるようになります。
⑥ フィードバックと継続的なトレーニング
実際の訪問結果や利用者や家族のフィードバックをもとに、スタッフのパフォーマンスを評価し、必要に応じて継続的なトレーニングを提供します。
これらの対策により、スタッフはより効果的サポートにより、円滑な在宅移行を支援できるようになります。
(6)2024年の介護報酬改定に向けた付加価値向上の対策とは
最後に、今回の訪問看護の改定のうち、付加価値向上に影響が出ることが予測される項目を絞り、その改定内容と改定が示唆する意図や、訪問看護業界に起こるであろう事態を予測し、取るべき「付加価値向上の対策」について、まとめました。
付加価値向上に関する改定項目と内容は、以下になります。
① 訪問看護等におけるターミナルケア加算の見直し
<概要>
ターミナルケア加算について、介護保険の訪問看護等におけるターミナルケアの内容が医療保険におけるターミ ナルケアと同様であることを踏まえ、評価の見直しを行う。
<単位数>
【現行】
ターミナルケア加算 2,000単位/死亡月
↓
【改定後】
ターミナルケア加算 2,500単位/死亡月
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
② 訪問系サービス及び
短期入所系サービスにおける口腔管理に係る連携の強化
利用者の口腔の状態を確認し、歯科専門職による適切な口腔管理を実施するために、事業所と歯科専門職が連携し、介護職員などによる口腔衛生状態や口腔機能の評価を行い、利用者の同意を得て歯科医療機関や介護支援専門員に情報提供する新しい加算が設けられました。
<単位数>
口腔連携強化加算 50単位/回(新設)
※1月に1回に限り算定
参照元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
訪問看護ステーションでは、ターミナルケアの評価が向上し、それに応じた報酬が増えることが見込まれます。そのため、看護師たちもこの分野に注力し、ターミナルケアの提供に力を入れることが予想されます。
これにより、利用者や家族はより高品質なターミナルケアを期待できます。将来的には、ターミナルケアに特化した訪問看護ステーションの需要が増える可能性もあります。
また、口腔連携強化加算の新設は、職員が利用者の口腔の状態を確認し、適切な口腔管理を歯科専門職に促すことを目的としています。これにより、誤嚥性肺炎の予防や利用者の生活の質の維持が期待されます。
付加価値向上に関して取るべき対策とは
この改定を受けて、訪問看護ステーションが取るべき付加価値向上の対策を検討するにあたり、ターミナルケアの充実と、口腔管理に係る連携の強化において、以下の理由からナーシングホームの併設が適していると考えられます。
① 専門的な医療・看護体制の提供
ナーシングホーム内では、ターミナルケアに向けた医療・看護チームが配置することができます。これにより、利用者が最後の人生の段階で必要とする医療ケアや心理的なサポートが充実し、質の高いターミナルケアが提供されます。
② 緊急時の対応体制の整備
ターミナルケアでは緊急時の対応が不可欠です。
ナーシングホーム内では、24時間看護師が常駐している場合が多く、急激な状態の変化にも迅速かつ適切に対応できます。
③ 緩和ケアの提供
ターミナルケアにおいては、痛みや苦痛の緩和が重要です。
ナーシングホーム内では、薬物療法や心理社会的なサポートによりか快適な環境を提供することができます。
④ 家族へのサポート体制の充実
ターミナルケアでは利用者のみならず、その家族にも精神的なサポートが必要です。ナーシングホーム内では、カウンセリングや家族向けの教育プログラムが提供され、家族が利用者の最期の瞬間においても適切なサポートを受けることができます。
⑤ 継続的な医療モニタリングと評価
ナーシングホームでは利用者の健康状態を継続的にモニタリングし、医師や看護師が定期的に評価を行います。これにより、利用者の状態に合わせた適切な治療計画やケアプランの調整が行えます。
⑥ 職員による口腔状態確認の統括
ナーシングホームの職員は、日々のケアの一環として利用者の口腔状態を確認しやすい環境にあります。この定期的な確認により、早期に口腔健康の問題を発見し、適切な対応を行うことが可能です。
⑦ 定期的で効果的な口腔ケアの提供
ナーシングホーム内では、利用者が定期的かつ効果的な口腔ケアをスムーズに受けることができます。歯科専門職による適切なケアが提供され、歯や歯ぐきの健康を維持し、誤嚥性肺炎などの合併症を予防することが期待されます。
今回の介護報酬改定では、ターミナルケアの評価向上や円滑な口腔ケア連携の強化が重視されています。
そのため、訪問看護ステーションがナーシングホームを併設することは、より質の高いターミナルケアや口腔ケア連携を実現し、付加価値の向上に貢献する適切な対策と言えます。
まとめ
今回は、今年1月に厚生労働省から発表された「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」から読み解く訪問看護ステーションの備え、取り組むべきことの考察をお伝えしました。
今回の発表において、訪問看護では、加算の新設、増加、減算など計15項目が改定されることが記されています。
単に加算が高いサービスを強化したり、減算を回避するだけではなく、今回の改定が示唆する意図を考慮し、訪問看護業界に起こりうる将来の状況を予測して、有望で強固なステーションを構築するための対策を講じることが重要となります。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。
※本記事は、作成時の最新の資料や情報をもとに作成されています。詳細な解釈や申請については、必要に応じて最新情報を確認し、行政や自治体等にお問い合わせください。