令和9年度(2027年度)の介護報酬改定が近づく中、「訪問看護の評価はどのように変わるのか」「自ステーションの運営にどのような影響があるのか」と気になっている訪問看護ステーションの経営者や管理者の方も多いのではないでしょうか。
介護報酬改定は、訪問看護ステーションの経営や人材確保、サービス提供体制に大きな影響を与えます。そのため、改定内容が正式に決まってから対応するのではなく、現時点で示されている議論の方向性を把握し、早めに備えておくことが重要です。
そこで今回は、2026年6月8日に公益社団法人日本看護協会が厚生労働省老健局へ提出した「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」をもとに、2027年度介護報酬改定における訪問看護の方向性を読み解いていきます。
要望書では、看護職員の処遇改善をはじめ、地域包括ケアを支える訪問看護の機能強化、ICTを活用した情報連携、夜間・看取り対応の評価、さらには専門性の高い看護師の活用など、今後の制度設計につながる重要な提言が盛り込まれています。
もちろん、この要望書はあくまで日本看護協会からの提言であり、その内容がそのまま制度化されるわけではありません。しかし、これまでの介護報酬改定を振り返ると、日本看護協会をはじめとする関係団体の要望は、制度改定の方向性を考えるうえで重要な指標となってきました。
本稿では、要望書のポイントを整理しながら、2027年度介護報酬改定で訪問看護がどのような方向へ進もうとしているのかを考察するとともに、訪問看護ステーションが今から備えておきたいポイントについて解説します。
日本看護協会が示した4つの重点要望
2026年6月8日、日本看護協会は厚生労働省老健局に対し、「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」を提出しました。
要望書では、2040年に向けて85歳以上の人口が増加し、医療と介護の両方を必要とする高齢者がさらに増えることを踏まえ、住み慣れた地域で安心して療養生活を続けられる体制づくりの重要性が強調されています。
その実現には、「地域包括ケアシステム」のさらなる深化が不可欠であり、訪問看護や看護小規模多機能型居宅介護(看多機)、介護施設などにおける看護提供体制の強化・機能拡大が求められています。
さらに、地域で質の高い看護サービスを持続的に提供するためには、看護職員の処遇改善が喫緊の課題であると位置づけられています。
こうした背景を踏まえ、日本看護協会は次の4つを重点要望として掲げました。
日本看護協会が要望した4つの重点項目
1.在宅・施設領域に従事する看護職員の処遇改善
2.看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の安定的なサービス提供体制の整備と機能強化
3.訪問看護・介護施設における持続可能な看護提供体制の整備
4.専門性の高い看護師との協働による医療ニーズへの対応強化
これら4つの要望は、それぞれ独立したテーマではなく、「地域で安心して療養生活を継続できる体制をどう構築するか」という共通の目的のもとに整理されています。
特に訪問看護ステーションにとっては、処遇改善、ICTを活用した連携、24時間対応や看取りの評価、専門看護師との連携など、今後の介護報酬改定を占う重要なキーワードが数多く盛り込まれており、今後の制度の方向性を考える上で見逃せない内容となっています。
参考資料
公益社団法人日本看護協会「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」(2026年6月8日)
https://www.nurse.or.jp/home/assets/20260608_01.pdf
要望書から読み解く2027年介護報酬改定の方向性
日本看護協会が提出した要望書には、2040年を見据えた地域包括ケアシステムの充実に向けて、訪問看護に期待される役割や今後の制度設計の方向性が数多く盛り込まれています。
ここでは、要望書の中でも訪問看護に関わる重要なポイントについて、その背景やねらいを整理するとともに、2027年介護報酬改定へどのような影響を与える可能性があるのかを考えていきます。
(1)処遇改善は「賃上げ」から「人材定着」の時代へ
人材不足の本質は「採用」より「定着」

今回の要望書で最も重要なテーマの一つが、看護職員の処遇改善です。
2026年度介護報酬改定では、訪問看護ステーションも介護職員等処遇改善加算の対象となり、多くのサービスで加算率が引き上げられました。しかし、日本看護協会は「依然として十分とは言えない」と指摘しています。
その背景には、依然として続く給与格差があります。
2025年の毎月勤労統計調査では、「医療・福祉」の月間給与額は約31万8千円で、全産業平均より約10%低い水準です。また、訪問看護ステーションや介護施設で働く看護職員の給与は、病院勤務の看護師より低い傾向が続いています。
さらに深刻なのが離職率です。介護サービス事業所では、看護職員の離職率が15.9%と職種別で最も高く、多くの看護師が病院や診療所へ転職しています。
つまり、人材不足の原因は「採用できないこと」だけではなく、「採用しても定着しないこと」にあります。
今後は「働き続けられる職場」が評価される可能性
こうした背景から、2027年介護報酬改定では、単なる賃上げだけでなく、人材が安心して長く働ける職場づくりを評価する方向へ進む可能性があります。
例えば、
キャリアアップ制度
教育・研修体制
処遇改善の実績
働きやすい勤務体制
福利厚生の充実
などは、今後さらに重要な経営課題になるでしょう。
(2)地域包括ケアを支える訪問看護の役割はさらに拡大する
「在宅医療の要」として期待される訪問看護

2040年に向けて、85歳以上人口はさらに増加すると推計されています。
この年代では、医療と介護の両方を必要とするケースが多く、入退院を繰り返しながら在宅療養を続ける利用者も少なくありません。
そのため要望書では、高齢者救急を担う医療機関との連携を強化し、退院支援や再入院予防を担う訪問看護の役割を、介護報酬でも適切に評価するよう提言しています。
現在、このような機能は医療保険では一定の評価がありますが、介護保険では十分とは言えません。
地域全体で支える仕組みへ
今後は、
緊急訪問への対応
退院支援
病院との情報共有
再入院予防
地域医療との連携
などが、より重要な評価項目になる可能性があります。
また、要望書では病院との人材交流や合同研修も提案されており、「地域全体で利用者を支える」という視点が一層重視されることがうかがえます。
訪問看護ステーションは、「訪問する事業所」から「地域包括ケアを支える専門機関」へと、その役割がさらに広がっていくことが期待されます。
(3)ICTを活用した情報連携が新たな評価項目になる可能性
ICTは業務効率化だけではない

今回の要望書で注目したいもう一つのポイントが、ICTを活用した情報連携です。
訪問看護ステーションでは、病院、診療所、居宅介護支援事業所、薬局、他の訪問看護ステーションなど、多くの関係機関と日常的に連携しています。
その手段も、電話やFAXだけでなく、電子メール、オンライン会議、専用SNS、情報共有システムなど多様化しています。
「切れ目のない支援」が評価される時代へ
医療保険ではICTを活用した情報共有に対する評価がありますが、介護保険では十分とは言えません。
そのため日本看護協会は、介護保険でもICTによる情報連携を評価する仕組みの創設を要望しています。
これは単なるシステム導入ではなく、必要な情報を関係職種とタイムリーに共有し、利用者に切れ目のない支援を提供することが目的です。
そのため、記録の電子化や情報共有体制の整備は、業務効率化だけでなく、将来の制度改定への備えという意味でも重要になっていくでしょう。
(4)24時間対応・緊急時対応・看取り体制の評価はさらに充実する可能性
地域医療を支える体制が評価される

訪問看護には、急変時への対応や看取りなど、利用者が住み慣れた自宅で安心して療養生活を送るための重要な役割があります。
2026年度診療報酬改定では、医療保険において「機能強化型訪問看護管理療養費4」が新設され、24時間対応や緊急時対応、地域医療への貢献を評価する仕組みが強化されました。
今回の要望書でも、介護保険において同様に、夜間・緊急時対応や看取り体制を評価する「看護体制加算」の充実が求められています。
評価されるのは「実際に支えられる体制」
今後は、
24時間対応
夜間・緊急時対応
看取り
医療依存度の高い利用者への対応
など、地域の医療ニーズに実際に応えられる体制が、これまで以上に評価される可能性があります。
すぐに人員を増やすことは容易ではありませんが、
オンコール体制の見直し
急変時対応マニュアルの整備
スタッフ同士が相談しやすい職場づくり
など、今から取り組めることも少なくありません。
(5)専門性の高い看護師の活躍の場はさらに広がる
高度化する在宅医療を支える専門人材

今回の要望書では、認定看護師や専門看護師、特定行為研修修了者など、専門性の高い看護師の活躍の場を広げることも提言されています。
背景には、高齢者の医療ニーズが年々複雑化していることがあります。
認知症ケア、皮膚・排泄ケア、緩和ケア、感染管理など、高度な専門知識が求められる場面は、在宅や介護施設でも確実に増えています。
「一人の専門家」ではなく「組織の力」へ
専門看護師などが早期に介入することで、重症化予防や入院回避、利用者・家族の安心につながることが期待されています。
一方、多くの訪問看護ステーションでは、専門資格を持つ看護師の確保は容易ではありません。
そのため今後は、「専門資格を持つ人がいる」ことだけではなく、その知識や技術をチーム全体へ広げられているかが重要になるでしょう。
勉強会や同行訪問、症例検討会などを通じて組織全体の看護の質を高める取り組みが、将来的な評価にもつながる可能性があります。
2027年介護報酬改定に向けて、今から取り組みたい5つのポイント
1.採用戦略を見直す ― 「給与」だけでは選ばれない時代へ
キャリアビジョンを”見える化”する
これからの採用で重要になるのは、「給与が高いか」だけではありません。
求職者が知りたいのは、
このステーションでどのように成長できるのか
数年後にはどのような看護師になれるのか
安心して働き続けられる環境があるのか
という将来像です。
そのためには、キャリアビジョンを具体的に示すことが重要になります。
例えば、
1年目:基本的な訪問看護技術を習得
2年目:オンコール対応や医療依存度の高い利用者への対応
3年目:臨床推論を踏まえたアセスメント力の向上、後輩指導
5年目:専門分野を深め、リーダーとして活躍
このように成長の道筋を明確にすることで、「ここで働き続けたい」という意識が生まれます。
福利厚生も「選ばれる理由」になる
さらに、働きやすい環境づくりも欠かせません。
例えば、
研修費・学会参加費の補助
資格取得支援制度
健康増進・美容支援などの福利厚生
といった制度は、採用だけでなく職員の定着にもつながります。
まず取り組みたいこと
まずは、自ステーションのキャリアラダーや評価基準を整理し、「ここで働く魅力」を言葉にしてみましょう。
2.情報発信を強化する ― 「選ばれる理由」を見える化する
良いサービスは、伝えなければ伝わらない
地域から選ばれる訪問看護ステーションになるためには、「質の高いサービスを提供していること」を積極的に発信することも重要です。
例えば、次のような情報は、ケアマネジャーや医療機関にとって有益な判断材料になります。
・受け入れ可能な疾患・医療依存度
・専門的なケア(緩和ケア、認知症ケア、褥瘡管理など)
・対応可能な医療処置
・看取りの実績
・24時間対応や緊急訪問体制
・多職種連携の実績
・再入院予防や急変対応の実績 など
こうした情報を継続的に発信することで、「この利用者なら相談できそう」「安心して紹介できる」という信頼につながります。
AIも活用しながら、継続できる仕組みを
情報発信の方法としては、
・ホームページの充実
・ニュースレターの配信
・事例紹介
・地域向け勉強会の開催
などがあります。
近年ではAIを活用することで、文章作成や資料作成、情報整理などの負担を大幅に軽減できるようになりました。
重要なのは、一度に完璧を目指すことではなく、無理なく継続することです。
まず取り組みたいこと
まずは、自ステーションの「強み」を5つ書き出し、ホームページやパンフレットの内容を見直すことから始めてみましょう。
3.多職種連携を深める ― 「紹介されるステーション」を目指す
信頼は日々の積み重ねから生まれる
多職種連携は、単に関係機関とつながっているだけでは十分ではありません。
実際に紹介や相談につながる関係性を築くことが重要です。
そのためには、
・退院前カンファレンスへの積極的な参加
・ケアマネジャーへの丁寧な報告・提案
・医師への分かりやすく的確な情報提供
といった日々の積み重ねが欠かせません。
対応の早さや情報共有の質が評価されることで、「困ったらまず相談したいステーション」として信頼を得ることができます。
まず取り組みたいこと
紹介してくださる医療機関やケアマネジャーとの接点を振り返り、「相談しやすい存在」になれているかを見直してみましょう。
4.地域を支える教育拠点を目指す
地域全体の看護の質を高める役割へ
今後は、訪問看護ステーションに対して、地域全体の看護の質を支える役割も期待されるようになるでしょう。
実際に神奈川県では、「教育支援ステーション事業」を通じて、地域の訪問看護ステーションが人材育成や教育支援の拠点となる取り組みが進められています。
教育支援の例としては、
・地域の訪問看護師への研修
・介護職への医療的ケア研修
・病院・施設との合同研修
・学生実習の受け入れ
・同行訪問や実践指導
などが挙げられます。
こうした活動は、短期的な収益には結び付きにくいものの、地域からの信頼や専門性の向上、採用力の強化につながる重要な取り組みです。
まず取り組みたいこと
まずは近隣の医療機関や介護事業所と、小規模な勉強会や情報交換会を企画することから始めてみるとよいでしょう。
5.ICTを活用し、業務効率と連携を高める
導入が目的ではなく、「使いこなすこと」が重要
ICTの活用は、今後の訪問看護に欠かせないテーマです。
しかし、大切なのはシステムを導入することではなく、現場で無理なく活用できることです。
例えば、
・記録の電子化
・スタッフ間の情報共有
・オンラインでのカンファレンス
・関係機関との情報共有
など、現場の課題に合わせて段階的に取り入れていくことが望まれます。
日々の業務の中で「少し便利になった」「情報共有がスムーズになった」という成功体験を積み重ねることが、ICTを定着させるポイントです。
まず取り組みたいこと
まずは「紙で行っている業務の中で、電子化できるものはないか」を洗い出し、小さな改善から始めてみましょう。
さいごに― 2027年介護報酬改定は「準備するステーション」が強くなる
令和9年(2027年)の介護報酬改定の内容は、現時点ではまだ正式に決定していません。しかし、日本看護協会の要望書からは、「地域包括ケアを支える訪問看護の機能強化」と「持続可能な看護提供体制の構築」という、今後の制度設計の大きな方向性を読み取ることができます。
今後は、処遇改善や人材定着に向けた取り組みをはじめ、ICTを活用した情報連携、24時間対応や看取り体制の充実、さらには専門性の高い看護師の活躍など、訪問看護ステーションに求められる役割はますます広がっていくでしょう。地域の医療・介護を支える中核的な存在として、その専門性や組織力がこれまで以上に問われる時代を迎えようとしています。
一方で、介護報酬改定は「新しい加算に対応すること」だけが目的ではありません。重要なのは、制度改定の方向性を見据えながら、地域から信頼され、利用者や医療・介護関係者から「選ばれるステーション」へと成長していくことです。
2027年改定まで残された時間は決して長くありません。しかし、だからこそ今からできる準備があります。採用・人材育成、情報発信、多職種連携、教育支援、ICTの活用など、一つひとつの取り組みを積み重ねることが、将来の安定した経営と質の高い訪問看護の提供につながります。
2027年介護報酬改定を「制度への対応」と捉えるだけではなく、自ステーションの価値をさらに高める絶好の機会として、今できることから着実に取り組んでいきましょう。