訪問看護ステーションの利用者のうち、約7割は介護保険制度の対象者であり、残りの3割は健康保険法などの医療保険制度を利用しています。
介護保険制度における訪問看護は、要介護者(または要支援者)の自宅で、訪問看護師などによって提供される療養上のケアや必要な診療のサポートを指します。
今回は、介護保険制度における訪問看護をテーマにその概要や人員基準、訪問看護サービス内容、運営基準等についてお伝えします。
また令和3年度の介護報酬改定での決定された取り組みも合わせてご紹介します。
(1)介護保険の訪問看護の利用者
最初に介護保険における訪問看護の利用者について説明します。
介護保険における訪問看護の利用者とは、介護保険の被保険者であって、40歳以上65歳未満の16特定疾病の方、または 65歳以上の方で、市町村長から要支援者または要介護者と認定され、 主治医が訪問看護の必要を認めた方です。
訪問看護の利用者(介護保険法が他法に優先する)
(1) 介護保険制度
要支援または要介護状態にある者
40歳以上65歳未満 16特定疾病の対象者で、要支援・要介護の認定を受けた者
利用する際には、「 (介護予防) ケアプラン」に位置づけられることになります。
(2)訪問看護ステーションの開設要件とは
次に訪問看護ステーションの開設要件についてみていきます。
1.指定の申請及び加算の届出
地方公共団体、医療法人、社会福祉法人、医師会、看護協会、NPO法人、営利法人(会社等)などは、都道府県知事(または指定都市・中核市市長)から「指定居宅サービス事業者(訪問看護)」として指定を受けた法人として、訪問看護ステーションを開設します。
介護予防訪問看護(要支援1または2と認定された対象者への訪問看護)を提供するには、「指定介護予防サービス事業者(介護予防訪問看護)」としての指定が必要です。
ただし、指定居宅サービス事業者(訪問看護)と一体的に運営されている場合は、みなし指定となり、別途指定申請は不要です。
指定を受ける際には、指定申請書や訪問看護ステーションの運営規程などの必要書類を作成し、都道府県等の指定申請窓口で事前協議を行います。指定申請書を提出後、約1カ月で指定がなされます。
加算の届出については、指定とほぼ同時に行うことも可能です。
都道府県などで介護報酬の請求に必要な介護保険事業所番号が設定され、これを使用します。届出内容には、特別地域、中山間地域に関する加算、緊急時訪問看護加算、特別管理加算、ターミナルケア加算、看護体制強化加算ⅠまたはⅡI、サービス提供体制強化加算などが含まれます。
指定を受けた事業者は、生活保護法に基づく介護扶助の指定介護機関と見なされます。
2.更新制
訪問看護ステーションの指定は、6年ごとに更新が必要です。指定の有効期間は、満了の日の翌日から起算されます。
3.欠格要件
指定を取り消されて5年経過していない者や、禁錮や罰金の刑に処せられ、その執行が終わっていない者は、指定を受けることができません。
4.業務管理体制の届出
訪問看護事業者には、法令などの遵守だけでなく、適切なサービスの提供も求められています。一つの事業者(法人)が指定を受けた事業所の数に応じて、適切な管理体制を整備し、その内容を都道府県に届け出る必要があります。
事業所数が20未満の場合は、法令遵守責任者の選任とその届出が必要です。届出には、事業所名、法令遵守責任者の氏名、主たる事務所の所在地、代表者の氏名(生年月日、住所、及び職名)が含まれます。
一方、事業所数が20以上の場合は、上記に加えて法令遵守マニュアルの作成が求められ、事業所数が100以上の場合は、さらに法令遵守の監査方法を整備する必要があります。
5.介護サービス情報の公表制度
利用者が主体的に事業所を選択できるようにするため、指定訪問看護事業者は介護サービスの情報を公表することが義務づけられています。この公表の業務は都道府県(または都道府県の指定業者)が行います。
都道府県知事の必要性が認められる場合には、調査範囲などを設定して調査を行い、その調査情報はインターネット上などで公表されます。2015年(平成27年)4月からはスマートフォンでも検索できるようになりました。また、2021年(令和3年)からは認知症の取組状況(研修の受講状況など)が情報公表の項目に追加されました。
(3)訪問看護の従事者とは
保健師、看護師、または准看護師を、常勤換算で2.5人以上確保し、そのうち1人は常勤看護師であることが求められます。理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士も、適切な数が配置されることができます。
なお、常勤換算は当該事業所の週ごとの稼働時間を基にしています。例えば、週40時間勤務が常勤1人とされる場合、週20時間の者は0.5人となります。該当事業所の1週間勤務時間が32時間より少ない場合は、最低基準として32時間を換算します(出張所を開設する場合は併せて常勤換算で2.5人以上が求められます)。
同一敷地内の他の事業との兼務も可能です。
登録看護職員(勤務日・時間が不定期な看護職員)の勤務延べ時間数は前年度の週当たりの平均稼働時間とされます。
ただし、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」第23条第1項に規定する所定労働の短縮措置が講じられている者は、利用者の処置に支障がない体制が整っている場合、例外的に常勤の従業者が勤務すべき時間数を30時間として取り扱うことが可能です。
なお、非常勤者の休暇や出張は常勤換算する場合の勤務延べ時間数には含まれないため、注意が必要です。
(4)訪問看護の管理者とは
適切な事業運営の管理ができる常勤の保健師または看護師が管理者となります。
管理者は、管理上支障がない場合、兼務が可能です。これには、当該指定訪問看護ステーションの従事者、健康保険法の指定を受けた訪問看護ステーションの管理者または従事者など、同一敷地内にある他の事業所や施設における管理者または従事者が兼務できる場合が含まれます。
※訪問看護の管理者についてはこちらの記事も参考にしてください。
2021年の人員配置基準の改正により、育児休業、介護休業、産前産後休業を取得する場合、複数の非常勤職員を常勤換算することで基準を満たすことが認められました。ただし、管理者の場合は慎重な考慮が必要です。
(5)訪問看護ステーションの施設・設備
訪問看護事業所を運営するためには、必要な施設や設備を整備します。
もし他の介護保険によるサービスの事業所が併設されている場合は、適切な広さの専用エリアが必要で、備品などの共用も可能です。具体的な基準は決まっていませんが、最低でも20平方メートル以上の広さを確保することが望ましいです。
(6)訪問看護のサービス内容
訪問看護ステーションが提供するサービスは、「居宅における療養上の世話または必要な診療の補助」とされます。
1回の訪問看護時間は20分未満から1時間30分までの4つの区分に分かれています。
具体的には、病状の観察、清拭・洗髪などの清潔ケア、褥瘡(床ずれ)などの皮膚処置、カテーテルの管理などの医療処置、リハビリテーション、認知症のケア、終末期のケア、食事・排泄などのケア、そして本人や家族への療養・介護指導が含まれます。
訪問看護サービスの具体例
訪問看護サービスの具体例 | |
---|---|
1 | 病状等観察 |
2 | 療養指導 |
3 | 体位交換 |
4 | 栄養・食事の援助 |
5 | 排泄援助 |
6 | 整容・更衣 |
7 | 移動・移乗の介助 |
8 | 保清(入浴・清拭・陰部・足浴・洗髪・口腔ケア) |
9 | 療養環境整備支援 (居室・換気・日常生活用具等) |
10 | リハビリテーション看護 |
11 | 認知症のケア |
12 | 精神障害者のケア (医療保険) |
13 | 家族等支援 (介護方法の助言・相談対応等) |
14 | 社会資源調整 入退院支援 |
訪問看護サービスの具体例(医療処置等) | |
1 | 酸素療法管理 |
2 | 吸引 気管カニューレ内・口腔・鼻腔)吸入 |
3 | 膀胱留置カテーテル交換・管理・膀胱洗浄 |
4 | 褥瘡予防処置 |
5 | 創傷処置 ⑥在宅中心静脈栄養実施管理 |
6 | 在宅中心静脈栄養実施管理 |
7 | 経鼻経管栄養実施・管理 |
8 | 人工肛門処置・管理 |
9 | 人工膀胱処置・管理 |
10 | 胃ろう管理 |
11 | 気管カニューレ交換・管理 |
12 | 人工呼吸器使用上の管理 (医療保険) |
13 | CAPDの灌流液交換・管理 |
14 | 緩和ケア |
15 | 終末期ケア |
16 | 血糖値管理 |
17 | 服薬管理 |
18 | 注射・点滴実施管理 |
19 | 浣腸・摘便 |
20 | 検査補助 その他緊急対応等 |
近年では、在院日数の適正化と在宅看取りの推進などから、在宅移行支援、がんの緩和ケアなど、医療ニーズの高い在宅患者への訪問看護だけでなく、日常的に医療を必要とする小児や認知症の人の尊厳を守るケアなどサービスの内容も多様化しています。
訪問先も、自宅に限らず、居住系施設やサービス付き高齢者向け住宅などへの訪問が広がっています。
(7)訪問看護の利用までの手順
利用者が(1)介護認定を申請し、(2)要介護(または要支援)認定を受けると、(3)居宅サービス計画(または介護予防支援計画)の作成を居宅介護支援事業者(または介護予防支援事業者)に依頼します。
(介護予防)訪問看護サービスの導入には主治医の訪問看護指示書が必要です。 (4)ケアマネジャー(または地域包括支援センターの保健師等)はサービス担当者と調整し、(5)利用者がサービスの計画に同意すると、(6)(介護予防)訪問看護等在宅サービスの導入となります。
訪問看護ステーションでは、居宅サービス計画(または介護予防支援計画)に基づいて(介護予防)訪問看護計画書を作成し、利用者に提供して(介護予防)訪問看護を実施します。
(8)訪問看護ステーションの運営基準
訪問看護事業を円滑に実施するために、以下の事項を明確に定める必要があります。
訪問看護の提供が困難と判断した場合の対応
利用者の病状等により、自らが適切な訪問看護の提供が難しいと判断された場合、主治医および居宅介護支援事業者に連絡し、他の適切なサービスへの紹介などの措置を行います。
利用料等の受領に関する取り決め
居宅介護サービス費用基準額または居宅支援サービス費用基準額から、居宅介護サービス費または居宅支援サービス費の額を差し引いた金額を受け取ります(利用者の所得に応じて1割、または一定所得以上の場合は2割または3割となり、被保険者証で確認できます)。
通常の訪問看護の実施地域を明示し、その地域外への訪問看護に関しては、交通費の差額を請求します。
療養上の目標の設定
指定訪問看護は、要介護状態の軽減や悪化の防止、または要介護状態になることの予防に資するよう、療養上の目標を設定し、計画的に行います。
主治医との連携方法
主治医とは、訪問看護の提供が開始される際に指示を文書で受けます。また、訪問看護計画書および訪問看護報告書を通じて密接な連携を図ります。
感染予防・まん延防止対策の実施
感染予防・まん延防止対策を定め、研修会等を実施します。感染症および非常災害発生に備えた業務継続計画(BCP)を策定し、研修等を実施します。
要介護認定の申請の援助
訪問看護の利用申込者が要介護認定を受けていない場合は、当該申請を行うように援助をおこないます。
個人情報の取り扱い
利用者や家族の個人情報を用いる場合はあらかじめ同意を得ておくことが必要です。
苦情相談窓口の設置
利用者の苦情相談窓口を設け、苦情があった場合は速やかに改善措置を講じます。
虐待・ハラスメント防止対策
事業所内で虐待・ハラスメントの防止対策を強化します。
研修の機会を確保
訪問看護の資質の向上を図るために、職員に対する研修の機会を確保します。
令和3年度介護報酬改定における訪問看護事業所が取り組まなければならない改定事項とは
令和3年度介護報酬改定では、訪問看護事業所として以下の事項に取り組む必要があることが決定されました。
令和3年度介護報酬改定における運営に関する改定事項
感染症対策 (令和6年4月1日~) | ・感染対策員会 (概ね6か月に1回以上) の設置
・感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備 ・感染症の予防及びまん延の防止のための研修(年1回以上、新規採用時) 及び訓練 (年1回以上) の実施 |
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業務継続に向けた取組 (令和6年4月1日~) | ・感染症や災害が発生した場合に、利用者が継続して訪問看護の提供を受けられるよう, 業務継続計画を策定
・当該業務継続計画に従い, 研修 (年1回以上, 新規採用時)訓練 (年1回以上) の実施 |
ハラスメント対策 | ・事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備, 顧客等からの著しい迷惑行為 (カスタマーハラスメント) の防止のため、必要な体制整備も行うことが望ましい。 |
虐待防止の取組(令和6年4月1日~) | ・運営規定に 「虐待防止のための措置に関する事項」を規定
・虐待防止検討委員会の設置 ・虐待の防止のための指針の整備 ・虐待の防止のための研修(年1回以上, 新規採用時) の実施制度 |
※これらの取り組みは、介護保険の全サービスに共通する事項となります。
まとめ
今回は、介護保険制度における訪問看護制度に焦点を当て、その概要や人員基準、訪問看護サービス内容、運営基準などについてお伝えしました。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。
※本記事は、作成時の最新の資料や情報をもとに作成されています。詳細な解釈や申請については、必要に応じて最新情報を確認し、自治体等にお問い合わせください。