COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、息苦しさや体力の低下などの症状を引き起こし、患者の日常生活に大きな影響を与える疾患です。在宅療養において、患者が自宅で快適に過ごすためには、適切なケアとサポートが必要です。
そこで、訪問看護の重要性が浮かび上がってきます。訪問看護師は、患者の自己管理能力を向上させ、症状の早期発見や持続的な治療・教育の実施を支援する役割を果たします。
本コラムでは、COPDにおける訪問看護の不可欠性と役割について詳しく探っていきましょう。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは何か
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、肺気腫と慢性気管支炎の組み合わせであり、肺の機能を徐々に悪化させる疾患です。
肺気腫は、有害ガスによって肺胞が徐々に溶けていく病気です。肺胞は、酸素と二酸化炭素の交換が行われる場所であり、肺気腫が進行すると肺の表面積が減少し、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が困難になります。
慢性気管支炎は、有害ガスによって引き起こされる気管支の炎症です。気管支は肺に酸素を運び、二酸化炭素を排出する役割を果たしています。慢性気管支炎では、気管支の炎症が持続し、気道が狭くなり、呼吸が困難になります。
COPDは、長期間にわたって喫煙や有害ガスの暴露などの要因によって引き起こされます。以前の日本では大気汚染もCOPDの原因とされていましたが、現在ではタバコが主な原因とされています。
COPDは、世界的に見て死亡原因の第3位であり、深刻な健康問題です。特に在宅呼吸ケア白書2010によれば、COPD患者の平均年齢は69.0歳と高齢であることが示されています。
COPDの主な症状には、慢性的な咳、喀痰(たん)の生産、息切れ、胸部の締めつけ感、体力の低下などがあります。治療は、喫煙や有害ガスの暴露を避けること、薬物療法(気管拡張薬やステロイド)、酸素療法、肺リハビリテーション、外科手術などが行われます。早期の診断と適切な管理は、症状の進行を遅らせ、生活の質を改善するために重要です。
近年、日本においてCOPDが増えている理由
近年、日本においてCOPDが増えている理由は以下の2点によるものと考えられます。
(1)人口の高齢化
COPDの多くは60歳以上で症状が出始めるため、人口の高齢化が一因として挙げられます。以前は平均寿命が60歳程度であった時代にはCOPDはあまり問題になりませんでしたが、現在の平均寿命が延びたことにより、高齢者の割合が増え、COPDの発症率も増加しています。
(2)喫煙率の高さ
日本では喫煙率が比較的高いです。2018年の調査によると、成人男性の平均喫煙率は27.8%、成人女性は8.7%であり、特に40歳代では男性35.5%、女性13.6%と高い喫煙率が報告されています。40歳代の喫煙者は長期間の喫煙習慣を持っており、これらの人々から20年後に相当数のCOPDが発症すると予測されます。
特に女性は男性よりもタバコの悪影響を受けやすい傾向があります。(これは一般にはあまり知られていません。)また、女性の平均寿命の延長も考慮すると、将来的には女性におけるCOPDの発症数が増え、重要な問題になる可能性があります。
以上の要素から、高齢化と喫煙率の高さが日本におけるCOPD増加の主な要因となっています。予防策としては、喫煙の禁止・減少の促進、禁煙支援プログラムの充実、早期のCOPDの診断と適切な治療の普及などが重要とされています。また、公衆衛生教育の強化や大気汚染の低減など、環境改善もCOPDの予防に寄与することが期待されています。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状の進行について
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の症状は進行するにつれて次第に重くなります。以下に症状の進行を解説します。
初期症状では、咳や痰(たん)が主な症状として現れます。しかし、この段階ではまだ息切れをほとんど感じません。実際には、この初期の段階では「かぜ」と診断されることもあります。
病気が進行すると、体動時の息切れが現れます。軽度のCOPDでは、坂道を上るなどの負荷がかかる活動時に息切れが現れます。中程度の症状では、平地での歩行でも息切れを感じるようになります。重症になると、トイレに行くだけでも息切れを感じるようになることがあります。これは日常生活の制約が増え、身体活動能力が低下していることを示しています。
息切れが強くなると、患者は外出を避ける傾向が強くなります。その結果、運動量が減少し、足腰の筋力が低下していきます。筋力低下と体重減少によって、さらに体力が低下していきます。このような悪循環が生じることで、ますます外出を避けるようになり、身体状態の悪化が進みます。
重度のCOPDでは、酸素吸入が必要になることがあります。酸素吸入は、酸素レベルを補うために行われ、呼吸の負荷を軽減することが目的です。在宅酸素療法は、自宅で酸素吸入を行う治療法であり、我が国では約16万人が在宅酸素療法を受けています。そのうちの半数がCOPDの患者です。
COPDの症状の進行は個人によって異なる場合がありますが、一般的には上記のような進行パターンが見られます。早期の診断と適切な治療が重要であり、喫煙を避けることや早期の喫煙禁止、酸素療法の利用などが症状の進行を遅らせるために重要です。
在宅療養におけるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の課題
次に在宅療養におけるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の課題について解説します。
(1)介護保険制度と認定の問題
COPD患者は一般的に日常生活動作(ADL)において自立していることが多いため、介護保険の申請が少ない傾向があります。しかしながら、実際には日常生活に支障を感じている患者のうち、要支援や要介護1の認定を受けた人は60%に達しています。このような認定の適用が限定的なため、必要なサービスの受け入れや負担軽減が困難な場合があります。
(2)介護保険サービスの利用限度額の問題
介護保険のサービス利用限度額は一定の制約があり、訪問看護よりも単価の低い訪問介護が優先される傾向があります。また、在宅医やケアマネジャーに対して訪問看護の必要性が十分に理解されていないこともあります。これにより、COPD患者が必要な看護ケアを適切に受けることが困難になります。
在宅療養におけるCOPDの課題を解決するためには、介護保険制度の見直しや訪問看護の重要性の啓発、継続的な教育プログラムの充実などが必要です。また、保健医療体制との連携や情報共有の強化も重要な要素となります。これによって、COPD患者がより適切な在宅ケアを受けられる環境を整えることができます。
COPD患者への訪問看護の役割についてみていきます。
COPDへの訪問看護の役割(1)「COPDに関する疑問を解決する」
訪問看護の存在は、患者が自宅で適切なケアとサポートを受けることができるため、COPDの疑問や不明点に対する解決策を提供する上で重要な役割を果たしています。
COPDの管理は禁煙指導、薬物療法、呼吸リハビリテーション、酸素療法など、多岐にわたるため、患者にとっては理解が難しい場合があります。
特に高齢者のCOPD患者は、医師や外来看護師からの説明をすぐに理解できない場合や、すぐに忘れてしまうことがあります。
訪問看護師は、患者の自宅を訪問することで、直接的なコミュニケーションとサポートを提供する役割を果たします。具体的な疑問や不明点に対して、患者に対して理解しやすく説明し、疑問や不安を解消することが重要です。
患者とのコミュニケーションを通じて、薬物療法の重要性や服薬の必要性について説明し、患者の納得と理解を促すことができます。
COPDへの訪問看護の役割(2)「日常的な相談窓口になる」
訪問看護の役割の一つとして、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者にとって日常的な相談窓口となることが挙げられます。訪問看護師は、日常的な会話やコミュニケーションを通じて患者との信頼関係を築きます。この関係を通じて、患者は自身の病状や健康に関する質問や悩みを気軽に相談することができます。
訪問看護師は、専門的な知識と経験を持っており、医師や他の専門職と連携しながら、患者との間で情報の通訳や調整を行う役割も担っています。例えば、患者が医師からの説明を理解しにくい場合、訪問看護師はその内容をわかりやすく解説し、患者の理解をサポートします。また、医師への患者の状態や症状の報告、必要な治療やケアの調整においても、訪問看護師は重要な役割を果たします。
訪問看護師が定期的に訪問し、ある程度の時間を滞在することで、患者にとっては質問や相談しやすい状況を作ることができます。患者は自宅の安心した環境で訪問看護師とのコミュニケーションを取ることができるため、気軽に症状や健康に関する悩みを相談することができます。訪問看護師は患者の声を受け止め、個別のニーズに合わせたサポートやアドバイスを提供することで、患者の安心感と生活の質の向上を図ります。
COPDへの訪問看護の役割(2)「家族の介護を減らす」
COPD(慢性閉塞性肺疾患)への訪問看護の役割の一つは、家族の負担を減らすことです。特にCOPD患者の平均年齢が高く(在宅呼吸ケア白書2010によれば69.0歳)、配偶者など家族による介護は負担が大きいことが指摘されています。
訪問看護の介入によって、家族の介護負担が軽減されることで、家族はよりバランスの取れた生活を送ることができます。家族が負担を軽減し、自身の健康とケアに十分な時間とエネルギーを割くことができるようになります。その結果、患者と家族の関係が改善し、共により良い在宅療養環境を築くことができるでしょう。
訪問看護の呼吸機能低下に伴う自己管理を促進するための役割
訪問看護の役割の一つとして、呼吸機能低下に伴う自己管理を促進するために「息切れを軽くする」という役割があります。以下に、具体的な方法について解説します。
入浴介助
訪問看護師は入浴介助を行うことで、低酸素状態を起こさずに清潔を保つ援助を提供します。入浴の際には以下のような指導を行います。
・行動を起こす前に呼吸を整える
・動作と動作の間に休憩を入れ、安静状態に戻す
・どのような動作が息切れを引き起こすかを説明する
・脱衣所や浴室に椅子を置くなど、環境を整える
パルスオキシメーターによる自己管理能力の向上
パルスオキシメーターを使用して血中酸素飽和度をモニターすることで、患者自身が息切れの程度や実際の数値を知ることができます。これにより、患者は自己管理能力を向上させ、日常生活での活動レベルを調整することができます。
呼吸リハビリテーションにおけるADLトレーニング
呼吸リハビリテーションでは、患者が具体的な動作に対して直接アプローチし、日常生活での呼吸困難を軽減し、動作遂行能力を向上させることを目指します。これにより、患者のQOL(生活の質)を向上させることができます。
訪問看護師は、上記の方法を通じて患者の自己管理能力を向上させるための指導やサポートを行います。息切れの軽減に関する具体的なアプローチを提供し、患者が日常生活でより良い呼吸管理を実践できるように支援します。
訪問看護の介入で異常の早期発見が出来る
訪問看護師は定期的に患者の自宅を訪問し、フィジカルアセスメントを行います。フィジカルアセスメントでは、患者の身体状態や症状の変化を観察し、問診や身体検査を通じて異常の兆候を捉えます。これにより、患者の健康状態や病状の変化を早期に把握することができます。
早期の異常発見は重要であり、訪問看護師は患者の状態に敏感に反応し、必要な処置や医療機関への連携を迅速に行います。
例えば、酸素療法の継続に関して、訪問看護師は酸素装置の使用状況や酸素飽和度の測定などを行い、適切な酸素療法を提供します。また、急性増悪による再入院の回数を減らすためにも、異常の兆候を早期に把握し、必要な治療やケアを提供することが重要です。
訪問看護による早期の異常発見は、患者の自己管理にも大きく貢献します。異常を早期に発見することで、患者は適切な処置や治療を受けることができ、病状の悪化を防ぐことができます。
訪問看護による早期の異常発見は、COPD患者の自己管理能力の向上や酸素療法の適切な継続につながります。これにより、再入院や緊急医療の必要性が減り、患者の生活の質が向上するとともに、医療負担も軽減されます。訪問看護の介入は、患者の健康状態の早期発見と管理において重要な役割を果たすのです。
訪問看護が介入すること入院中に行われた治療、教育内容を継続できる
訪問看護師は、病棟看護師や退院調整看護師と連携して在宅移行支援を行います。この連携により、患者が退院後も適切な治療やケアを継続できるようにサポートします。訪問看護師は、入院中に行われた治療や教育の内容を把握し、それを在宅での管理や生活へと継続していくための手助けを行います。
自己管理、栄養、運動に関する情報ニーズは高く、生活管理に関する指導が不足している状況です。訪問看護師は、患者が必要とする情報やサポートを提供する役割を果たします。医師や薬剤師から説明された内容を、わかりやすい言葉で繰り返し説明することで、患者の理解を促します。また、患者の状態やニーズに合わせた個別の指導や助言を行い、自己管理のスキルを向上させます。
訪問看護師の介入により、患者は在宅での治療や生活管理に関する指導やサポートを受けることができます。これにより、入院中に学んだことを忘れることなく、適切な治療やケアを継続することができます。訪問看護師は、患者とのコミュニケーションを通じて継続的な教育や支援を提供し、患者が自身の状態や治療に対して積極的な関与を持つことを促します。
訪問看護師の役割は、治療や教育内容の継続性を確保するだけでなく、患者の理解を深め、自己管理の能力を向上させることにあります。訪問看護師の存在は、患者の退院後の安心感を高め、再入院や緊急事態のリスクを減らす役割を果たします。療養者との密な連携を通じて、治療やケアの継続性を確保し、患者の健康状態や生活の質を最大限にサポートするのです。
まとめ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、患者にとって日常生活に大きな制約をもたらす難病です。しかし、在宅療養において訪問看護が果たす役割は重要であり、患者の生活の質を向上させるために欠かせません。訪問看護師は、COPDに関する疑問を解決し、患者の相談の窓口となり、家族の介護負担を軽減することで、安心して在宅で療養できる環境を整えます。
また、呼吸機能低下に伴う自己管理の促進や異常の早期発見も訪問看護の重要な役割です。さらに、入院中に受けた治療や教育内容を退院後に継続できるようサポートすることで、患者の安定した状態維持や再入院のリスクを低減します。
在宅療養における訪問看護は、COPD患者とその家族にとって不可欠な存在であり、病気と向き合いながらも充実した生活を送るためのパートナーとなるのです。