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【がん末期の在宅療養】訪問看護に求められる役割とアセスメント項目とは

がん末期の在宅生活は、全人的苦痛の軽減を図り、人生の最期を迎える日まで在宅で療養する時期であり、訪問看護は、利用者、家族が悔いなく残された時間をその人らしく過ごせるために支援をおこないます。

今回は、がん末期の在宅療養をテーマにその特徴から病状の経過、訪問看護師が心得るべき支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えします。

目次

がん末期の在宅療養の特徴とは

がん末期の在宅療養の特徴とは

がんは、終末期においても、病気に冒されていない身体の部分は機能を果たし、終末期まで ADL等の機能を維持することができることが一つの特徴となります。

そのため、療養者は何らかの身体的な機能低下を抱えながらも、自分の生活を続けることができます。

しかし、病状が進行すると、例えば、腫瘍の圧迫や転移により、疼痛をはじめ、嘔気・嘔吐、呼吸苦、出血など、強い苦痛が生じることがあります。

在宅では、24時間常に医療者がそばにいるわけではありません。そのため、療養者と家族が安心して在宅で過ごすことができるよう、現在と今後起こりうる症状とその対処方法について説明し理解を促す必要があります。

また、身体的症状に加えて、療養者や家族の心理的苦悩も大きく、看護師には予測できる変化が、非医療従事者にはわからないこともあります。

そのため、できるだけゆっくり、療養者や家族の声に耳を傾け、少しでも心が落ち着くようにかかわることが重要です。

がん末期の療養者・家族をみる視点

(1)病状の変化に対処する

末期がんは早い転帰をたどるため、病状の変化に注意し、先見越して対処することが重要です。

(2)尊重する看取りの意向

療養者とその家族の看取りの意向を尊重します。

(3)症状の説明とケアの支援

今後起こりうる症状について家族に説明し、一緒にケアすることを伝え、支えることが重要です。

(4)全人的な苦痛の理解

全人的苦痛を理解し、多職種連携で支える視点を持ちます。

(5)家族の感情への配慮

家族も大切な人を亡くす予期悲嘆を感じているため、その感情を表出できるように十分に配慮します。

がん末期の経過と支援のポイント

がん末期の経過と支援のポイント

身体機能や日常生活動作の低下に注意し、予後の予測を行い、その人らしく最期を尊厳をもって過ごせるよう支援をおこなうためには、現在の症状や今後起こりうる症状(意識の低下や呼吸の変化、死前喘鳴など)を把握しておくことが重要です。

(1)前期 (予後半年~数か月)/月单位

予後が半年程度の期間では、身体機能の低下がまだ見られず、末期であることを受け入れるのは困難です。しかし、がんの経過は早いため、残された時間を有意義に過ごせるように支援することが重要です。

支援のポイント

・疼痛やその他の苦痛を適切に管理します。


・家族からの予後告知に関する悩みについて相談を受け、適切なサポートを提供します。


・必要に応じて、療養者や家族に今後発生する可能性のある症状とその対処法について詳細に説明します。


・病気や予後についての理解度を把握し、将来の希望や選択肢について療養者や家族と対話します。

※がん治療における疼痛コントロールについてはこちらの記事も参考にしてみてください。

在宅がん治療における訪問看護の疼痛コントロールとは

(2)中期 ( 数週間)/週单位

症状が悪化し、全身の倦怠感が現れると、日常生活の動作が著しく低下し、死が現実であることを自覚することで予期悲嘆が生じます。その結果、生きる意味を見いだせず、スピリチュアルペインが現れることがあります。

支援のポイント

・全身倦怠感に対するステロイド薬の使用を検討します。


・スピリチュアルケアを含めた症状緩和を行います。


・予期悲嘆に配慮します。


・家族の負担が大きい場合、新たに社会資源を導入するなど、介護体制を見直します。

(3)後期(数日)/日にち単位

徐々に、言語的なコミュニケーションや声かけへの応答が難しくなります。また、症状が急激に悪化すると、コントロールが難しくなり、混乱などが起こることがあります。症状の悪化に伴い、家族の負担も増加するため、看取り体制を見直すことも重要です。

支援のポイント

・安楽な体位の工夫を確実に行います。


・混乱が生じた場合は、医師と連絡を取り、鎮静の必要性を検討します。


・家族の看病疲れに配慮します。

(4)死亡直前 (数時間)/時間单位

聴覚が残っているため、最期まで療養者に対し人格をもった人として接することが重要です。療養者が安らかな最期を迎え、家族が安心して看取ることができるようにする視点を持ちましょう。

支援のポイント

・死亡直前に起こる諸症状、特に死前喘鳴について、療養者が苦痛を感じないことを家族に説明します。


・聴覚は最期まで残ることを伝え、音楽や語りかけることなどを家族に提案します。


・看取り時に必ず同席してもらう人物や連絡方法を具体的に決定します。

(5)死別後

療養者の在宅ケア期間中、家族はしばしば自己の身体的健康を顧みず、病人の介護に専念します。その結果、死別後に初めて身体的な症状を感じることがあります。このような場合、家族の悲嘆の状況に応じて、適切なグリーフケアを提供することが望ましいです。

※訪問看護のグリーフケアについてはこちらの記事も参考にしてみてください。

喪失の悲嘆をやわらげる:訪問看護のグリーフケアの役割

支援のポイント

・訪問や電話で、訪問看護における終末期ケアの評価や後悔、満足について尋ねます。


・複雑な悲嘆があるかどうかを確認します。


・必要な場合は、専門家や遺族会などのリソースを紹介します。


・家族の健康状態を把握し、必要なアドバイスを提供します。

がん末期の在宅療養に必要な意思決定支援とは

がん末期の在宅療養に必要な意思決定支援とは

がん終末期になると、1か月、1週間単位で病状が変化するため、悔いなく残された時間をその人らしく過ごせるよう、病状の進行とともに何度も意思決定をおこなう必要があります。

そのため、早期から信頼関係の構築に努め、終末期を意識しながら療養者と家族の思いを積極的に聞き、”この先どのように生きたいか”について、病状経過の予測に関する理解を得ながら、本人と家族とともに考えていけるように支援を行います。

意思決定支援のポイント

・本人の意思表示が難しい場合には、できるだけ本人の推定意思を家族等から聞き、把握します。


・家族の中で誰もが最も本人の代理意思決定者になりうる重要他者なのかを確認・判断します。


・本人と家族が悔いを残さないように、納得いく意思決定ができるように調整・支援します。

がん末期の在宅療養に必要な訪問看護のアセスメント項目とは

がん末期の在宅療養に必要な訪問看護のアセスメント項目とは

がん末期の利用者に対する訪問看護では、がんの病期、転移の有無、予後、看取りの意思を把握し、残された時間を悔いのないように支えるためには、総合的な観点から広くアセスメントをおこなう必要があります。

それでは、末期がんの在宅療養に必要な訪問看護のアセスメント項目について(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向からみていきます。

(1)疾患・医療ケア

(1)疾患・医療ケア

1. 疾患・病態 症状

情報収集項目 情報収集のポイント
疾患 ・既往歴はどうか、認知症はないか
病態 ・疾患の病期、転移はどうか
疾患の症状 ・疾患による症状、全人的苦痛はどうか
疾患の経過 予後 ・症状はどう経過したのか. 診断時期、病歴、治療歴、入院歴はどうか

2. 医療ケア 治療

情報収集項目 情報収集のポイント
服藥 ・非オピオイド鎮痛薬や弱オピオイド鎮痛薬、強オピオイド鎮痛薬の服薬状況と投与経路はどうか 突出痛や副作用の有無と対処はどうか
治療 ・治療方針や目的、内容はどうか
医療処置 ・医療処置の内容や頻度 効果や副作用、介助はどうか
訪問看護 ・訪問看護の開始時期方針や目的は何か、訪問看護の提供頻度と時間、今後の頻度の見通しや他の事業所との連携の必要性はどうか

3. 全身状態

情報収集項目 情報収集のポイント
呼吸・循環状態 ・呼吸苦の有無とその程度、原因はどうか
摂食・嚥下・消化状態 ・食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛の有無とその原因はどうか. 食事形態と内容量はどうか
栄養・代謝・内分泌状態 ・腹水、腹部膨満感の有無とその原因はどうか. 全身倦怠感の有無とその原因、服薬状況はどうか
排泄状態 ・便秘の有無と頻度とその原因はどうか. 服薬状況はどうか
筋骨格系の状態 ・疼痛・神経症状の有無とその程度、原因はどうか. 服薬状況はどうか
感覚器の状態 ・抗がん剤治療の副作用による味覚の変化や手足のしびれは起こっていないか. 聴覚や嗅覚はどうか
皮膚の状態 ・がんの皮膚への浸潤の有無とその程度、対処方法はどうか. 褥瘡はどうか
認知機能 ・見当識や記憶力等への影響の有無とその程度、原因はどうか. 服薬状況はどうか
意識 ・意識レベルの程度とその原因はどうか
精神状態 ・せん妄や錯乱、混乱、不安、緊張、うつ症状の有無とその程度、その原因はどうか
免疫機能 ・易感染性の有無や抗がん剤治療の有無とその時期、内容、対処はどうか

(2)活動

(2)活動

1. 移動

情報収集項目 情報収集のポイント
ベッド上の動 ・起き上がり、座位の保持、寝返り 仰臥位での腰の挙上は可能か
起居動作 ・立ち上がり、立位の保持、椅子への移乗は可能か
屋内移動 ・屋内移動の方法、屋内での生活動線はどうか. トイレまでの歩行距離、転倒のリスクはどうか. 介助や補助具(車椅子、手すり、杖)が必要か
屋外移動 ・普段の行動範囲、屋外での移動の方法はどうか. 介助や補助具(車椅子、杖)が必要か

2. 生活動作

情報収集項目 情報収集のポイント
基本的日常生活動作 ・食事や排泄清潔、更衣、整容動作に支障はないか. 急激な低下はないか
手段的日常生活動作 ・調理や買い物、洗濯、掃除、金銭管理、交通機関利用の状況はどうか

3. 生活活動

情報収集項目 情報収集のポイント
食事摂取 ・経口摂取量や嚥下障害の有無とその程度はどうか. 胃瘻等の経管栄養を行っているか
水分摂取 ・飲水摂取量はどうか
活動・休息 ・睡眠時間、熟眠感の有無、薬剤の使用の有無とその程度はどうか
生活歴 ・調出生地や他の居住地、職歴、生活習慣、死別や離別、被災などのライフイベントの有無、それらに関する思いはどのようなものか(ライフレビュー)
嗜好品 ・飲酒、喫煙、嗜好品によるリラックス効果は得られるか

4. コミュニケーション

情報収集項目 情報収集のポイント
意思疎通 ・理解力はどうか
意思伝達力 ・意思を伝えるためのアドバンスケアプランニングの有無とその内容はどうか
ツールの使用 ・事前指示書やリビングウィルなど、療養者の意思を表したツールの有無とその内容はどのようなものか

5. 活動への参加 役割

情報収集項目 情報収集のポイント
家族との交流 ・同居 別居家族との会話やかかわりはどうか、家庭内での役割はどうか
近隣者・知人・友人との交流 ・近隣者・友人との交流、内容、頻度はどうか. 疾患への理解はあるか、会いたい人や話したい人などいないか
社会での役割 ・仕事や地域活動の役割はどうか、引き継ぎは問題なくできているか
外出 ・外出の場所や内容、頻度はどうか 同伴者はいるか
余暇活動 ・趣味の内容や実施頻度はどうか、やり残したことはないか

(3)環境

(3)環境

1. 療養環境

情報収集項目 情報収集のポイント
住環境 ・移動能力に応じて福祉用具(手すりやリフトなど)の使用状況はどうか、住宅改修(スロープなど)の利用状況はどうか 部屋からトイレ・浴室までの間の障害物はないか
地域環境 ・車椅子や歩行補助具の使用環境、公共交通機関の利便性、病院や商業施設へのアクセスはどうか
地域性 ・地域の特性、住民同士の交流の程度はどうか

2. 家族環境

情報収集項目 情報収集のポイント
家族構成 ・家族構成、同居状況、居住地域、年齢はどうか
家族機能 ・家族の絆の強さや関係性はどうか。 家族内の意思決定方法、家族の健康状態・問題解決能力はどうかこれまで家族で乗り越えた困難な出来事への対処方法はどうだったか
家族の介護・協力体制 ・介護者や、介護者をサポートする協力者がいるか. 家族の医療処置実施内容、介護内容、介護負担感はどうか. 介護者の生活への影響、休息状況はどうか

3. 社会資源

情報収集項目 情報収集のポイント
保険制度の利用 ・医療保険 (後期高齢者医療保険)、介護保険の利用状況はどうか。予後を考えて介護保険の区分変更のタイミングをはかれているか
保健医療福祉サービスの利用 ・利用内容と頻度、時間、今後のサービスの必要性はどうか. 緊急時の入院先(バックベッド)はどうか
インフォーマルなサポート ・社会、地域生活とのつながり、サポート提供者の有無、サポート内容と頻度はどうか

4. 経済

情報収集項目 情報収集のポイント
世帯の収入 ・就労による収入、年金はあるか 療養生活を続けられる世帯の収入は十分か
生活困窮度 ・療養者の死後、家族は生活に困らないか

(4)理解・意向

(4)理解・意向

1. 志向性 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
生活の志向性 ・価値観や生きがい 生活の目標 楽しみ、信仰心や宗教観はどのようなものか. 今までの生活の中で後悔していることはないか
性格・人柄 ・社交的 外交的な性格か
人づきあいの姿勢 ・もともとの人づきあいの姿勢はどうか. 訪問看護師やサービス担当者とかかわる姿勢はどうか. 修復したい人間関係はないか

2. 自己管理力 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
自己管理力 ・内服量、内服時間、自己判断での調整をしていないか
情報收集力 ・生活、療養、医療、サービスに関する情報収集はどうか
自己決定力 ・生活、療養、医療、サービスの利用に関して決定しているか

3. 理解・意向 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・療養者の生活、療養、医療、サービス利用に関する意向や希望はどうか
感情 ・症状の進行や生活面に対して不安や罪悪感など、ストレスを感じていないか
終末期への意向 ・疾患、病態、予後、治療・服薬内容への療養者の理解と見通しはどのようなものか. 急変時の延命処置にどのような希望をもっているか
疾患への理解 ・療養方法や介護方法への理解はどのようなものか
療養生活への理解 ・療養者の価値観、生活背景、就労・育児・家事実施状況、家庭・社会での役割はどのようなものか

4. 理解・意向 (家族)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・家族の生活、療養、医療、サービス利用に関する意向や希望はどうか
感情 ・症状の進行や将来の生活面に対して不安や罪悪感など、ストレスを感じていないか
疾患への理解 ・疾患、病態、予後、治療 服薬内容への家族の理解と見通しはどうか

・終末期や急変時の延命処置にどのような希望をもっているか

療養生活への理解 ・療養方法や介護方法への理解はどうか
生活の志向性 ・家族の価値観、生活背景、就労・育児・家事実施状況、家庭 社会での役割はどうか

がん末期の在宅療養に関連する社会資源・制度

がん末期の在宅療養に関連する社会資源・制度

がん末期の在宅療養に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)日常生活動作の介助

・介護保険法による訪問介護

(2)日常生活の移動・移乗を支援する福祉用具貸与と購入支援

・介護保険法による福祉用具貸与 (車椅子、特殊寝台、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、移動用リフト、工事が不要な手すり)


・介護保険法による福祉用具 (ポータブルトイレ、特殊尿器) や購入費用の払い戻し

(3)レスパイトケア

・介護保険法による療養通所介護

(4)ピアサポート

・家族会、患者会

まとめ

今回は、がん末期の在宅療養をテーマにその特徴から病状の経過、訪問看護師が心得るべき支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えしました。

療養者が「最期の日までこうありたい」と選択・決定できるように支援するために、訪問看護は重要な役割を果たします。

また、死が迫っている療養者を支え続ける家族は、強いストレスを抱えています。家族の思いに配慮し、寄り添い続けることが、家族の力を引き出すことにつながります。

家族が納得した看取りを行うことができれば、死の受容につながり、今後の生きる力につながっていきます。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

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