訪問看護には、疾病や障害を抱えながらも、その人らしく生活が営めるように支援する看護が求められます。
そのためには、利用者の価値観や生き方を最優先し、利用者や家族の意思を尊重して看護を提供することが重要です。
今回は、在宅看護において訪問看護師に求められる思考法から訪問看護師に求められる視点、そして利用者のやる気を引き出すエンパワメントを重視した訪問看護のあり方等についてお伝えします。
在宅看護において看護師に求められる思考法とは
看護師の思考のプロセスは大きく、「問題解決型思考」と「目標志向型思考」とに分けられます。
「問題解決型思考」は、病気や障害により自立的な生活が妨げられる原因を取り除き、健康問題を解決する一連の流れです。これは一般的に「看護過程」と呼ばれています。
一方で、「目標志向型思考」は、患者ができる限り自立的な生活ができるよう、患者が持つ能力や強みを活かしながら生活における目標を達成できるよう支援する考え方です。
在宅看護では、医療機関とは異なり、標準化された治療やケアをそのまま提供できないため、これらの治療やケアが利用者や家族の理解・意向、生活環境に合わない場合、その生活の質(QOL)が著しく損なわれる可能性があります。
そのため、従来の「問題解決型思考」だけでなく、疾病や障害を抱えながらも、その人らしく生活が営めるように支援する「目標志向型思考」を併せ持つことが重要です。
訪問看護師に求められる視点とは
訪問看護は、「看護職が在宅療養者の生活の場に出向いて、療養者と家族に提供する看護」と定義されています。
法的には、医師の指示のもとで、医療保険や介護保険、その他の公費医療負担などを裏付けとして、生活の場で提供される看護です。
これらを考慮すると、訪問看護において適切な看護を提供するためには、利用者・家族の状態やニーズを把握し、解決すべき問題とそのための対策を導き出すことが必要です。
そのためには、訪問看護師には、次のような視点を持つことが求められます。
(1)利用者・家族への意向の確認
訪問看護では、看護師が患者の家庭に入り、看護を提供します。言うまでもなく、家庭の主体は医療者ではなく、そこに住む療養者と家族です。療養者や家族が訪問看護を受ける意向がなければ、看護を提供することさえ成り立ちません。
また、利用者は看護そのものを利用するために代価を支払うことになります。ですから、訪問看護が導入された背景や、看護師がどのような援助を提供するのかについて、看護師は対象者にわかりやすく説明し、対象者はその援助内容を了承することが求められます。
さらに、在宅ケアの特徴として多職種でケアを展開することが挙げられます。そのため、訪問看護師はどのような役割を果たしているかを他の職種にもわかりやすく伝える必要があります。
(2)療養者・家族との信頼関係の構築
訪問看護は療養者と契約を結び、これに基づいてサービスを提供します。
そのため、療養者の自宅で訪問看護を行うには、療養者や家族との信頼関係がなければ受け入れられません。また、セルフケアの指導も療養者や家族との関係性が築かれていなければ成り立ちません。
療養者の安全と病状の悪化を防ぎ、家族の介護負担を軽減し、在宅療養生活の継続を支援する上で、看護師が療養者・家族との信頼関係を築くことは不可欠です。
(3)生活環境の理解
訪問看護は、主に家庭で生活している人々に対する看護実践であり、療養者の生活の場における健康上の問題と課題を解決するとともに、療養者とその家族の生活の質(Quality of Life, QOL)を維持・向上させることを目的としています。
療養者・家族中心の看護を提供するには、まず、療養者・家族がどのような生活を望んでいるのか、何を大事にしていきたいのかを知ることが重要です。
そのためにも、家族内で優先する事柄は何か、療養者・家族の生活に即したケア内容や方法を一緒に考え、組み立てていくことが必要となります。
(3)様々な角度から療養者の思いを察知する
利用者の中には、疾患や障害のために、自分で権利を行使できなかったり、意向を伝えられない、または自分のことを自分でできない弱い立場の人々が含まれることも忘れてはなりません。
例えば、子どもや精神障害・認知症などのある療養者の場合、自分の健康を守ることについて周囲に訴えることができず、生命の危険にさらされることもあります。
訪問看護では、このような社会的弱者に代わって権利を擁護し、利用者が人間として尊厳のある生活が送れるように、利用者の理解・意向を解釈することが求められます。
そのため、訪問看護師には、言語的コミュニケーションだけでなく、非言語的コミュニケーションも観察しながら、その表情や家族の態度からも、療養者の思いを察知することが重要です。
(4)家族をみる視点
在宅療養では、療養者も家族も自身の生活が維持できることが基盤になります。
そのため、家族は療養者の在宅療養を支える人的資源であると同時に、看護を必要とする対象と捉えることが重要です。
特に在宅での長期療養では、家族の負担も長期化します。家族の心身の健康や家族構成員の生活変化によって介護体制も変化します。
そのため、家族がどのように療養者に関わっているのか、家族にケアニーズはないのかなど、家族に対するアセスメントを、総合的機能をみる視点に含めることは必要不可欠です。
利用者の可能性を引き出し、強みを活かす
訪問看護では、利用者の生命や健康を守るために問題や弱みを補完する面と、QOLを維持し、向上させるために強みを活かす面の双方の側面を持つ特徴があります。
そのため、問題解決型の援助だけでなく、療養者や家族の「できないこと」、つまり弱みに着目して「弱みを補う援助」を行うとともに、「できること」、つまり強み(ストレングス)※に着目して「強みを活かす援助」を行います。
※ここでいう強み(ストレングス)とは、療養者自身や療養者の周りの環境(社会資源を含めて、家族とその人を取り巻く環境)にある「強み」を指します。
特に、療養者を身近で支えるのは家族であり、家族の強さが療養者のやる気につながり、療養者自身が自分にストレングス(強さ)があることを信じることにもつながります。
利用者のやる気を引き出すエンパワメントとは
急性期など治療をしなければ生命の危機が及ぶ状況での看護では、今、目の前で起こっている問題を解決する「問題解決型」の援助をまず優先しなければなりません。
そのため、患者(利用者)も入院中は、医療機関に合わせた入院生活を営まざるをえず、受け身になり、患者の主体性が弱まっていく傾向があります。
また、在宅療養においても、療養者の安全のためという理由で介護者から行動の制限を受けたり、療養者自身がADL低下によって、それまでできていたことができなくなったりして、意欲を失ってしまうことがあります。
前述した利用者の持つ強み(ストレングス)を引き出すには本人のやる気(意欲)が大切になります。
入院生活や病状の変化により、たとえ療養者の身体機能が低下していたとしても、訪問看護師等、在宅看護に関わる医療者が今ある本人の能力を活かす方法を模索し、引き出すことで療養者のやる気につながっていきます。
この、利用者自身のやる気(意欲)を引き出す働きかけとしては、「エンパワメント」※による支援が有効です。
エンパワメント(empowerment)とは、療養者自身が本来もっている能力(知識・運動)を発揮することができない状況である場合に、援助する側(医療職、介護者等)が精神的に支えたり、社会的能力を引き出したり、療養者の生活環境を整えたりすることで、療養者自身の力で現在ある問題を解決して自分らしい生活が可能なようにサポートすることです。
特に、QOLの維持・向上をめざす慢性期や終末期の状況での看護では、利用者のもっている力を引き出すエンパワメントによる援助が重視されます。
※エンパワメントはもともと法律用語であり、「権利を付与する」という意味で使われていました。先住民運動や女性運動などで「社会的地位の向上」という意味で使用され、日本では1995年の北京女性会議以降、広く使われるようになりました。
利用者の自効力感を高める情報源とは
もちろん、訪問看護師による支援がすぐに利用者の意欲を高めることにつながるとは限りません。
訪問看護師は、利用者の「自己効力感」※を高めるように、時間をかけて関わること、利用者の声に耳を傾け、利用者が自分に自信をもち、自ら意思を表出することができるように見守る態度が必要です。
自効力感を高める情報源には、以下のような種類があります。
自己効力感高める情報源
4つの情報源 | 情報源の意味 | 自己効力感の高め方 |
---|---|---|
達成体験 | 自分自身で行動して達成できたという体験 | 身近な成功体験の積み重ね |
代理体験 | 他の人が達成している様子を観察することによって, 自分にもできそうだと予期すること | あの人にできることなら、自分にもできるだろうと思えるようなモデルの選択 |
言語的說得 | 達成の可能性を、 言語で繰り返し説得すること | 専門家が、少しでも進歩したり改善したりしたことについて積極的にほめる |
情動的喚起 | 苦手だと感じていた場面で落ち着いて対応できたり, 赤面や発汗がなかったりすることで,できないという気持ちから解放されること | 自分が計画した目標が達成できなかったとき,自分が悪いのではなく計画した目標が悪かったのだと視点を変更する |
※自己効力感(セルフエフィカシー)は、心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された学習理論の概念であり、自分に対する信頼感、つまり、自分の行動をうまくやれるという自信のことです。
自己効力感の低い人は最初から「それは自分にはできない」と考え、その後の行動へとつながりません。自己効力感を高めるには、小さな成功体験を少しずつ積み重ねたり、自分の近くにあるモデルを参考にしながら代理的に達成感を経験したりすることによって、自己効力感を育てていくことができます。
参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」
利用者・家族の「強み」を引き出しながらセルフケアを支援する
訪問看護師が療養者に直接ケアを提供する場面であっても、在宅は常に医療者がいない生活の場です。
事故を予防し、安心して生活できるようにするためには、療養者や家族が自立し、セルフケアできることが重要です。
療養者の自立を促すためには、一時的な介入ではなく、介入がきっかけとなり、療養者や家族自身が継続できるようにする必要があります。
そのため、訪問看護師は療養者の病気やできない部分にとらわれず、療養者や家族の「強み」を引き出しながら、療養者ができることを常に考えておくことが重要です。
生活のしづらさに対しては、住居空間の工夫や介護保険サービスの導入などの社会資源、友人や他者との交流などの社会参加など、多方面から検討し、療養者や家族が望む自立と生活の質の向上につながるように支援を行います。
まとめ
今回は、在宅看護において訪問看護師に求めらえる思考法から訪問看護師に求められる視点、そして利用者のやる気を引き出すエンパワメントを重視した訪問看護のあり方等についてお伝えしました。
在宅看護においては、利用者が持つ疾患や既往歴、加齢に伴う身体機能の低下などの「問題点」ばかりに目が向き、生活機能や全体像に着目することが困難な状況もありますが、利用者が「望む生活・目標」に着目し、対象者の“もてる力”というポジティブな部分を前面に引き出していく思考が重要です。
そのため、訪問看護師には、生活の場である在宅での利用者の多様性や個別性、家族の状況などを理解し、利用者自身のもてる力を最大限に発揮しながら、支援することが求められます。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。
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