訪問看護のパーキンソン病ケア:症状の理解と個別対応の重要性

日常生活における機能の低下や症状の進行は、パーキンソン病患者にとって大きな課題です。しかし、その中にも個々の生活に合わせたアプローチが求められます。

本コラムでは、訪問看護が提供するパーキンソン病ケアに焦点を当て、その重要性や個別対応のポイントを解説していきます。パーキンソン病の症状や進行度を理解し、日常生活をサポートする方法について深く探求してみましょう。

目次

パーキンソン病とは

パーキンソン病とは

パーキンソン病は、脳の異常によって引き起こされる神経変性疾患の一つです。この病気は、体の動きに関わる神経細胞が徐々に損傷を受けることで、運動の制御や調整に障害が生じる特徴があります。具体的には、ドーパミンという神経伝達物質を生成する細胞が壊れることにより、運動機能が低下する症状が現れます。

高齢者によく見られる病気ではありますが、まれには40歳以下の若い年齢層でも発症することがあり、この場合は「若年性パーキンソン病」と呼ばれます。

厚生労働省が2022年6月に公表した「令和2年(2020)患者調査」では、国内で継続的に治療を受けている患者の数は28万9000人と報告されています。

高齢化に伴い急増するパーキンソン病患者

パーキンソン病は一般的に高齢者に多く見られる神経変性疾患です。加齢により、神経細胞の損傷やドーパミンの産生が減少し、症状が現れやすくなります。

年齢が上がるほど、パーキンソン病の発症リスクが上昇します。したがって、高齢者の割合が増えると、それだけパーキンソン病の発症率も上昇する傾向があります。

高齢化に伴い急増するパーキンソン病患者

日本において65歳以上では100人に約1人がパーキンソン病といわれています。

参照元:難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)

現在、高齢化が進むにつれて、世界中でパーキンソン病の発症が急速に増加しており、この状況は「パーキンソンパンデミック」と危惧されています。

パーキンソン病の症状とは

パーキンソン病は、脳内の神経細胞が生成する「ドーパミン」という物質が減少することによって引き起こされる疾患です。運動が困難となり、震えや転倒などがより頻繁に生じる可能性が高まります。

パーキンソン病の運動障害は、「振戦」「筋強剛」「無動」「姿勢反射障害」が代表的です。

(1)振戦(しんせん)

振戦(しんせん)は、パーキンソン病の代表的な運動障害の一つであり、安静時に手足が不随意に震える症状です。この症状は一般に「震戦」とも呼ばれます。パーキンソン病患者の中で、特に顕著な症状の一つとされています。

振戦は、休んでいるときや手足を静止させている際に、持続的な揺れ動きを伴うことが特徴です。この揺れは、特定の姿勢や位置において最も目立つことがあります。一般的には、手首や指、足首などの末梢部位が震えることが多いですが、顔面や声帯の筋肉にも影響を及ぼすことがあります。

(2)筋強剛(きんきょうごう)

筋強剛(きんきょうごう)は、パーキンソン病の代表的な運動障害の一つであり、関節の硬さやぎこちなさとして現れます。この症状は、関節を動かそうとすると抵抗を感じる歯車のような動きを示すことが特徴です。筋強剛により、体の動作が滑らかではなくなり、関節の可動域が制限されることがあります。

筋強剛による影響は、日常生活においてさまざまな面で現れます。動作が鈍くなり、特に起床時や長時間の静止後に顕著になることがあります。また、姿勢を保つことが難しくなり、少しの外部刺激や衝撃で失調して転倒する可能性が高まります。

(3)無道(むどう)

無動(むどう)は、パーキンソン病の代表的な運動障害の一つであり、動きが遅くなる症状を指します。この状態では、日常の動作が鈍く、特に素早い動作が難しくなります。歩行時には足が適切に動かしづらく、歩き方が「すくみ足」として知られるようになります。

無動の影響は、体の動作にとどまらず、話し方にも及ぶことがあります。声の抑揚が欠け、単調な調子で話すことが特徴的です。このため、声の変化や感情表現が限られることがあります。

さらに、無動によって筆記も影響を受けることがあります。文字が小さくなり、書き込みが緩慢で細かい動作が困難になることがあります。

(4)姿勢反射障害

姿勢反射障害は、パーキンソン病の代表的な運動障害の一つで、姿勢のバランスを保ちながら歩行することが難しくなり、転倒のリスクが高まる状態を指します。この症状は、病気の進行に伴ってますます顕著になることがあります。

姿勢反射障害による影響として、以下の特徴が挙げられます。

1.転倒リスクの増加

姿勢を保ちながら歩行することが難しくなるため、転倒のリスクが高まります。特に、歩行中に急な方向転換や障害物に遭遇した際に転倒しやすくなります。

2.首下がりの症状

病気の進行によって、頭部が前に垂れたまま上げることが難しくなる「首下がり」の症状が見られることがあります。これにより、視界が制限され、歩行時のバランスが更に悪化する可能性があります。

3.歩行の問題

歩行の際に「歩き出すと止まりにくい」や「方向転換するのが難しい」といった特徴が現れることがあります。これにより、スムーズな歩行が難しくなり、動作の制御が困難になることがあります。

様々な「非運動症状」

パーキンソン病では上記の運動症状に加えて、

・意欲の低下

・認知機能障害

・幻視

・幻覚

・妄想

などの様々な「非運動症状」が認められます。

様々な「非運動症状」

このほか、

・睡眠障害(昼間の過眠、REM 睡眠行動異常など)

・自律神経障害(便秘、頻尿、発汗異常、起立性低血圧)

・嗅覚の低下

・痛みやしびれ

・浮腫

様々な症状が伴うことが知られるようになりました。そのため、パーキンソン病は単に錐体外路疾患ではなく、パーキンソン複合病態として認識すべきとの考えが提唱されています。

パーキンソン病の生命予後

パーキンソン病の生命予後

パーキンソン病自体は進行性の疾患です。進行の速さは患者によって異なりますが、一般的には振戦が主症状の場合は進行が遅く、動作緩慢が主症状の場合は進行が速い傾向があります。

適切な治療を行えば、通常発症後約10年程度は普通の生活が続けられることがあります。その後は個人差があり、介助が必要になるケースもあります。

ただし、生命予後はそれほど悪くはありません。平均余命は一般の人々と比べてわずかに2~3年短くなる程度です。

高齢者の場合、脱水や栄養障害、悪性症候群にかかりやすいので注意が必要です。生命予後は臥床生活が始まってからの合併症に影響されることがあり、誤嚥性肺炎などの感染症が直接の死因となることが多いです。

パーキンソン病の日常生活における注意点

パーキンソン病の日常生活における注意点

パーキンソン病の症状が進行すると、歩行の不安定さが増し、転倒や骨折のリスクが高まり、多くの人が入院や訪問看護、介護を必要とします。

特に介助を行う際に留意すべきなのは、姿勢反射障害です。この症状によって、バランスが悪くなり転倒しやすくなります。歩き始めや方向転換、椅子に座る際に特に転倒しやすいので、注意が必要です。

転倒は、骨折によって寝たきりになる可能性が高まるほか、合併症として「誤嚥性肺炎」や便秘による「腸閉塞」にも注意が必要です。

また、薬の急激な中止により全身症状を引き起こす「悪性症候群」が発生することもあります。

訪問看護の役割~日常生活の過ごし方が重要

パーキンソン病は徐々に進行する病気です。病気が進行しても、日常生活に支障をきたさないようにするためには、以下のことが重要です。

まず、服薬管理を行い、病気の進行度に合わせてお薬の量や種類を調整すること(服薬内容の見直し)が必要です。これにより、症状のコントロールを維持しながら生活の質を向上させることが可能です。

また、動きやすいように住まいに改良を加えることなど(環境整備)も重要です。症状に合わせて家の中を工夫し、安全で快適な環境を整えることで、日常生活の維持や自立を支援することができます。

服薬管理・進行による服薬内容の見直し

パーキンソン病は長期的な進行をたどる疾患であり、治療の中心には薬物療法があります。しかし、内服薬の数や服用回数が多いこと、そしてパーキンソン病が認知機能にも影響を及ぼすことから、薬の誤った服用や忘れが起こりやすい状況です。

服薬管理を行い、病気の進行度に合わせてお薬の量や種類を調整すること(服薬内容の見直し)が必要です。

このため、パーキンソン病の日常生活においては、服薬管理に特に注意が必要です。服薬方法を工夫し、正しく効果的に薬を摂取するための方法を確立することが重要です。家族や介護者と連携して、薬の管理について話し合い、具体的なスケジュールやアラームを設定するなどの工夫が求められます。

また、医療専門家による服薬指導も強化されるべきです。患者や介護者に薬の効果や副作用、正しい服用方法について丁寧に説明し、疑問や不明点を解消することが重要です。さらに、病気の進行に伴って服薬内容が変わることもありますので、定期的な受診と医師とのコミュニケーションを通じて、適切な服薬計画を維持することが必要です。

転倒を防ぎ、暮らしやすい生活環境の整備

パーキンソン病の日常生活において、転倒を防ぎ、快適な生活環境を整えるためには、以下のような注意点が重要です。

転倒を防ぎ、暮らしやすい生活環境の整備

居室

物を片付ける

コードや障害物を整理して部屋を広く保ち、転倒のリスクを減少させます。

目印をつける

すくみ足の方向を示す目印を設けることで、歩行時のバランスを保つのに役立ちます。

家具の工夫

硬めのマットレスへの変更など、家具の配置や素材を調整して、安定した姿勢や動作をサポートします。

トイレ

手すりの設置

トイレ周辺に手すりを設けることで、起き上がる際や座る際のバランスを保ちやすくなります。

段差をなくす

段差を取り除くことで、トイレ利用時の転倒リスクを軽減します。

暖房便座にする

寒い季節でも快適に利用できるよう、暖房便座を導入することが考慮されます。

玄関・ドア

段をつける

スロープよりも段がある方が、視覚的な目印として足を出しやすくなります。

引き戸にする

引き戸に変更することで、開閉が容易で安定した出入りが可能です。

浴室

浴槽台を設置

浴槽に台を置くことで、入浴時の安全性を向上させます。

手すりや入浴グリップをつける

滑りやすさを軽減し、入浴中のバランスをサポートするために手すりやグリップを設置します。

シャワーチェアを置く

シャワーを浴びる際に安定した姿勢を保つため、シャワーチェアを使用します。

バスボードを置く

浴槽に入る際にバスボードを使用することで、安全な入浴が可能です。

これらの調整や工夫によって、転倒を防ぎつつ暮らしやすい生活環境を整えることができます。また、専門家や介護者と協力して、個々の状況に合わせた適切な改善策を見つけることが大切です。


※パーキンソン病の利用者に対する訪問看護のアセスメント項目についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師が知っておきたい!パーキンソン病の在宅療養者を支えるための視点とアセスメント項目

パーキンソン病の重症度の評価

パーキンソン病の重症度の評価

パーキンソン病の進行度を評価する指標の一つは、その重症度です。この病気の進行速度は個人差があり、状態の重症度を把握し、適切な対策を講じることが重要です。

パーキンソン病の進行度を評価するためには、主に2つの指標が用いられます。1つ目は運動障害の程度を5段階で示す「ホーン・ヤールの重症度分類(ヤール重症度)」であり、2つ目は日常生活機能の障害を3段階で示す厚生労働省の研究班による「生活機能障害度」です。これらの指標を使用して、患者の状態の重症度を評価し、適切な治療やケアプランを立てることが行われます。

生活機能障害度I度

この段階では、振戦や筋強剛といった症状は存在しますが、日常生活や通院においてほとんど介助が必要ありません。一般的に、発症後10年以上は自立した日常生活が維持できる場合があります。

この状態では、段差を取り除いたり、スリッパの使用を見直したり、食事の際に姿勢を正すなど、日常生活での注意が必要です。

ホーン・ヤールの重症度分類 ステージⅠ

このステージでは、体の片側だけに手足のふるえや筋肉のこわばりが見られます。体の障害は存在しないか、あっても軽度です。

ホーン・ヤールの重症度分類 ステージⅡ

このステージでは、両方の手足にふるえが現れ、両側の筋肉がこわばるなどの症状が見られます。これにより、日常生活や仕事がやや不便になることがあります。

生活機能障害度Ⅱ度

歩行障害や姿勢反射障害が認められ、日常生活や通院において介助が必要となることがあります。

このような状態では、転倒のリスクが高まるため、歩行器の使用を推奨することがあります。ただし、過度な介助は機能低下を引き起こす可能性があるだけでなく、自尊心を損なうこともあるため、注意が必要です。

ホーン・ヤールの重症度分類 ステージⅢ

このステージでは、小刻みに歩行することやすくみ足が見られ、方向転換の際に転びやすくなるなど、日常生活に支障が現れることがあります。しかし、介助なしで過ごすことができる状態です。職業によっては仕事を続けられることもあります。

ホーン・ヤールの重症度分類 ステージⅣ

このステージでは、立ち上がることや歩行が困難になることがあります。日常生活のさまざまな場面で、介助が必要となってきます。

生活機能障害度Ⅲ度

ADLが著しく低下します。歩行や起立が難しく、日常生活全般において介助が必要となる状態です。多くの時間をベッドで過ごすことが多いため、拘縮や褥瘡、感染などの予防ケアも欠かせません。

ホーン・ヤールの重症度分類 ステージⅤ

このステージでは、車椅子が必要となる状態となります。またベッドで寝ていることが多くなります。

パーキンソン病の訪問看護に医療保険が適応されるためには

パーキンソン病の訪問看護に医療保険が適応されるためには

パーキンソン病の重症度が進行するにつれて、訪問看護においては医療保険が優先されることがあります。

特に、ホーエン・ヤールの重症度分類がⅢ度以上であり、かつ生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度に該当する方に対する訪問看護は、医療保険が優先的に利用されます。

医療保険による訪問看護を適用するためには、訪問看護指示書に「ホーン・ヤールの重症度分類と生活機能障害度」の記載が必要です。

医療保険による訪問看護の利用制限は、一日1回から週3回までです。しかし、パーキンソン病の場合、医療保険優先の場合は、一日3回や週4回以上の訪問が可能です。

一方、重症度分類や生活機能障害度の記載がなく、要介護認定を受けている場合は、介護保険が適用されます。

訪問看護を利用する際には、主治医から発行された訪問看護指示書の内容をしっかりと確認することが重要です。

パーキンソン病に関する病態生理だけでなく、適用される保険制度や医療費助成制度についても理解を深めておくことが大切です。

※訪問看護師が押さえておきたいパーキンソン病の在宅療養者をみる視点とアセスメント項目についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師が知っておきたい!パーキンソン病の在宅療養者を支えるための視点とアセスメント項目

パーキンソン病患者と関わることで得られる学びとは

パーキンソン病患者と関わることで得られる学びとは

訪問看護師として在宅でパーキンソン病患者と関わることは、専門知識の獲得とともに、患者の支援とケアを通じて成長する機会となります。

1. 疾患の理解と学習

パーキンソン病の病態や症状について深く理解し、その進行や影響を学ぶ機会となります。患者のケアに関する知識が増えることで、より適切なケアを提供することができます。

2. コミュニケーションスキルの向上

患者やその家族とのコミュニケーションは、パーキンソン病の進行に伴う課題やニーズを理解するために重要です。適切なコミュニケーションスキルを養うことで、患者との信頼関係を築き、良好なケア提供が可能となります。

3. ケアプランの個別化

患者の状態やニーズに合わせたカスタマイズされたケアプランを立てる機会が得られます。家庭環境や生活スタイルを考慮に入れ、最適なケアを提供することができます。

4. 家庭内での支援体制の確立

在宅でのケアでは、患者の家族や介護者も大きな役割を果たします。彼らと連携し、適切な支援体制を築くことで、患者の生活の質を向上させる手助けができます。

5. 継続的なモニタリングと早期対応

訪問看護を通じて患者の状態を継続的にモニタリングし、早期に変化や合併症に気づくことができます。これにより、適切な対応や治療の調整を行い、患者の健康状態を維持することが可能です。

6. 患者の生活の質の向上

適切なケアやサポートを提供することで、患者の生活の質を向上させることができます。日常生活の支援や症状の管理を通じて、患者がより良い生活を送る手助けをすることができます。

7. ケア提供の満足感

患者やその家族からの感謝や満足の声を受けることで、ケア提供者としての達成感や満足感を得ることができます。患者の健康や生活に寄与することに喜びを感じることでしょう。

まとめ

訪問看護のパーキンソン病ケアは、患者の日常生活に密着し、症状の理解と個別対応を通じて豊かな生活の支援を行う重要な役割を果たします。パーキンソン病は、その進行によって患者の身体的な能力や日常生活が大きく影響を受ける疾患であり、それゆえに継続的で適切なケアが不可欠です。

振戦や筋強剛、無動や姿勢反射障害といった症状を的確に理解し、それに合わせた支援を行うことで、患者の生活の質を向上させることができます。

また、医療保険の適用条件や制度も考慮しながら、訪問看護のプランを立てる必要があります。医療保険が適用される条件を把握し、その中で最適なケアを提供することで、患者との協力関係を築きながら充実した支援を行っていけます。

本コラムがパーキンソン病へのケアをおこなう訪問看護師の一助となると幸いです。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

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