心疾患は、心臓の機能に影響を及ぼす病気の総称です。その中でも心不全は、心臓のポンプ機能の低下により身体全体への血液循環が不十分になる状態を指します。
心不全の患者の中には在宅でのケアを必要とする方も多く、その中で訪問看護は重要な役割を果たしています。医師の言葉をわかりやすく翻訳し、患者や家族に寄り添いながら適切なケアを提供することが求められます。
また、心不全には右心不全と左心不全という2つのタイプがあり、それぞれ特徴や症状が異なります。本コラムでは、心疾患に関する基礎知識や訪問看護の役割、問診のポイントなどについて詳しく解説します。
心疾患とは
心疾患は、心臓や血管に関連する様々な状態や疾患を指します。以下では、狭心症、心筋梗塞、弁膜症、不整脈といった主要な心疾患について詳しく説明します。
(1)狭心症(Angina Pectoris)
狭心症は、冠動脈の狭窄や閉塞によって、心筋に酸素や栄養を供給する血流が不足する状態です。これによって心筋に酸素が不足し、胸痛や圧迫感、胸部不快感が生じます。狭心症は通常、身体活動やストレスによって誘発され、休息や硝酸薬によって症状が軽減されます。
(2)心筋梗塞(Myocardial Infarction)
心筋梗塞は、冠動脈が完全に閉塞されることによって、心筋組織の血流が停止し、酸素や栄養が供給されなくなる状態です。これにより、心筋組織が壊死します。心筋梗塞は強い胸痛や圧迫感、息切れ、吐き気、嘔吐などの症状を引き起こします。早急な医療処置が必要であり、冠動脈形成術(PCI)や血栓溶解療法などが行われます。
(3)弁膜症(Valvular Heart Disease)
弁膜症は、心臓の弁(僧帽弁や三尖弁など)が正常に機能しない状態を指します。弁膜症は、弁の閉鎖不全(逆流)や弁の狭窄(狭窄)によって引き起こされます。これにより、心臓の血液の流れが異常になり、心臓の負担が増加します。弁膜症の症状には息切れ、動悸、疲労感、めまいなどがあります。治療には、薬物療法や手術的な修復または弁置換手術が行われることがあります。
(4)不整脈(Arrhythmia)
不整脈は、心臓のリズムや鼓動が異常な状態を指します。正常な心臓の鼓動は、一定のリズムで収縮し、血液を体全体に送り出します。しかし、不整脈が起こると、心臓の鼓動が速くなったり遅くなったり、不規則になったりします。不整脈の症状には、息切れ、動悸、めまい、意識喪失、胸痛などがあります。不整脈は、心臓の異常な電気信号や心臓筋肉の問題によって引き起こされることがあります。治療法には、薬物療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカーの装着、心臓手術などがあります。
これらの心疾患は、心臓の機能や血液循環に重大な影響を与えるため、時間とともに心不全へと進行する可能性があります。
在宅での心不全における訪問看護の役割とは
心不全とは、心臓のポンプ機能の低下により体に必要な酸素や栄養が適切に供給されず、さまざまな症状を引き起こす状態です。
慢性心不全は、手術で完全に根治されることはありません。心不全の治療は、症状の管理や進行の抑制を目指すことが主な目的です。
慢性心不全の治療には、長期にわたる療養生活が必要であり、自宅でのセルフケアや服薬管理が重要です。訪問看護師は、以下のような方法で患者さんを支援します。
(1)心不全の増悪予防
心不全の増悪を予防することは、患者さんの健康状態を維持し、症状の進行を抑えるために重要です。訪問看護師は、患者さんに対して正しいセルフケアの方法を教育し、心不全の増悪を防ぐための行動を促します。これには、塩分や水分摂取の制限、適切な運動、体重の管理、症状の変化の監視などが含まれます。
(2)セルフケアのサポート
訪問看護師は、患者さんに対してセルフケアのスキルを教え、自己管理の能力を向上させるサポートを提供します。これには、症状の監視方法の指導、適切な服薬スケジュールの確立、食事や運動のアドバイスなどが含まれます。患者さんと家族に対して、心不全に関連する情報やリソースへのアクセスを提供し、セルフケアの実践を支援します。
(3)服薬管理の支援
心不全の治療には多くの薬物が使用されます。訪問看護師は、患者さんが正確に薬を服用し、適切なタイミングで薬を補充することができるように支援します。薬物の正しい使用方法や副作用の管理について教育し、必要な場合には医師とのコミュニケーションをサポートします。
(4)QOL(生活の質)の保持
訪問看護師は、心不全患者さんのQOL(生活の質)の向上を支援します。心不全は制約が多い疾患であり、セルフケアと服薬の適切な管理は症状の軽減や病状の進行を抑制することにつながります。これによって、患者さんはより快適な日常生活を送ることができます。
訪問看護師は、心不全患者さんと家族の健康管理のパートナーとして活動し、病気との付き合い方をサポートします。目指すのは、患者さんが自宅でできる限り快適に過ごし、QOL(生活の質)を維持しながら心不全と向き合うことです。
※慢性心不全のアセスメント項目についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
医師の言葉を理解しやすい形で“翻訳”する
訪問看護師のもう一つの役割は、医師の言葉を翻訳し、利用者が理解しやすい形で情報を伝えることです。
特に心疾患のケアでは、医師の説明が専門的で難解な場合があり、利用者が完全に理解するのは困難な場合があります。以下に、訪問看護師が医師の説明をわかりやすく説明し、療養生活の動機づけをする役割について詳しく説明します。
(1)利用者の理解度の評価
訪問看護師は、利用者の理解度や情報の受け取り方を評価します。医師の説明を受けても、利用者が理解できているかどうかを確認するために、質問をしたり、要点を繰り返したりします。それによって、利用者がどの程度の理解度を持っているのかを把握し、その後の説明のアプローチを決定します。
(2)専門的な情報の簡潔化
訪問看護師は、医師が伝えた情報を必要な部分に絞り、専門的な用語や複雑な内容を簡潔で分かりやすい言葉で説明します。具体的な例や比喩を使って説明することで、利用者が理解しやすくなります。また、視覚的な教材や資料を使用することも効果的です。
(3)病状や検査結果の説明
訪問看護師は、利用者に対して病状や心電図などの検査結果をわかりやすく説明します。医師の説明を補完し、病状の進行や治療の必要性を明確に伝えることで、利用者は自身の状態を把握し、治療方針に納得感を持つことができます。
(4)療養生活の動機づけ
訪問看護師は、利用者に対して療養生活の動機づけを行います。医師の説明を通じて、利用者が病気の管理や治療に取り組む動機を持つことが重要です。訪問看護師は、利用者に対して病状の重要性や治療の効果、セルフケアや服薬の重要性について熱心に説明し、療養生活に参加する意欲を高めるように支援します。また、利用者の個々のニーズや関心事に合わせたアプローチや目標設定も行います。
訪問看護師の役割は、医師の説明を理解し、利用者に対してわかりやすく情報を伝えることです。療養生活の動機づけや継続的な教育、フォローアップを通じて、利用者のセルフケアと服薬の継続を支援し、健康な生活を送るためのサポートを提供します。
右心不全と左心不全のそれぞれの特徴
心不全は、右心不全と左心不全の2つのタイプがあります。初期段階では、心臓の片方の側(右心室または左心室)が主に機能障害を起こし、その結果、右心不全または左心不全が発症します。
しかし、心不全は進行性の疾患であり、時間とともに症状が悪化し、やがては両方の心室が機能障害を起こす両心不全に進行することがあります。
以下に右心不全と左心不全の特徴を詳しく説明します。
右心不全
右心不全は、右心室のポンプ不全によって引き起こされます。右心室は、体循環から戻った血液を肺循環に送り出す役割を担っています。右心不全では、右心室のポンプ機能が低下し、体循環から戻った血液がうっ滞します。その結果、以下のような症状や徴候が現れることがあります。
浮腫(むくみ)
血液が静脈系にうっ滞するため、体内の液体が組織に滞留し、浮腫(むくみ)が発生します。特に下肢や足首、足の指などがむくみやすくなります。
静脈の怒張
静脈系に血液がうっ滞することで、静脈が膨張し、静脈の怒張がみられることがあります。特に首の静脈や腹部の静脈が目立つことがあります。
肝腫大
血液のうっ滞が肝臓に影響を与えることで、肝臓が腫れることがあります。肝腫大は、右心不全の特徴的な徴候の一つです。
左心不全
左心不全は、左心室のポンプ不全によって引き起こされます。左心室は、肺循環から戻った血液を全身循環に送り出す役割を担っています。左心不全では、左心室のポンプ機能が低下し、肺循環から戻った血液がうっ滞します。その結果、以下のような症状や徴候が現れることがあります。
肺うっ血
肺循環から戻った血液が肺静脈にうっ滞することで、肺内の血液量が増加し、肺うっ血が起こります。肺うっ血は、左心不全の特徴的な症状の一つであり、呼吸困難や咳、ゼーゼーなどの呼吸器症状が現れることがあります。
呼吸困難
肺うっ血によって肺の機能が低下するため、酸素供給が不十分になり、呼吸困難が生じます。軽度の場合は労作時に呼吸が苦しくなることがありますが、重度の場合は安静時でも呼吸困難が持続することがあります。
起坐呼吸
肺うっ血が進行すると、患者さんは寝ている状態でも呼吸困難を感じるため、起き上がって座っていることが多くなります。これを起坐呼吸と呼びます。起坐呼吸は、左心不全の進行を示す重要なサインです。
訪問看護師は、右心不全や左心不全の特徴や症状について患者さんにわかりやすく説明し、状態の把握や治療への理解をサポートします。また、患者さんの状態の変化や症状の悪化を早期に把握し、適切な対応や医療チームとの連携を行うことも重要です。
※慢性心不全のアセスメント項目についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
6つの症状別にみる問診ポイント
訪問看護の心疾患ケアは、わかりやすい問診で、症状を的確につかむことが大事であり、医用語ではなく、わかりやすい言葉で問診し、異常を見逃さないようにするが重要です。
次に循環器系の疾患における症状別の問診のポイントについて解説します。
(1)浮腫の問診例
「靴下の跡が残ったりしませんか?」
「足はだるくないですか?」
浮腫は、循環器系の疾患である右心不全によって引き起こされることがあります。右心不全では、右心室のポンプ機能の低下により、体循環から戻った血液が静脈系にうっ滞します。このうっ滞した血液が組織に滞留するため、特に下肢や足首などの重力により浮腫が生じることがあります。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います:
靴下の跡や腫れの確認
患者さんに靴下や靴を履いた後にできる跡を確認します。もし靴下の跡が残ったり、足や足首に腫れがある場合は、浮腫の可能性があります。
症状の詳細な質問
患者さんに足のだるさや重さを感じているか尋ねます。右心不全による浮腫は、足の重だるさや違和感を引き起こすことがあります。
靴の装着感の確認
「靴がきつく感じますか?」という具体的な質問をすることで、足の腫れによる靴の装着感の変化を把握できます。
体重の増減のチェック
定期的な体重測定を行い、体重の増減をチェックします。浮腫が進行すると体重が増加することがあります。
これらの問診によって、浮腫の有無や程度を把握することができます。また、患者さんが浮腫を自覚していない場合でも、問診によって早期に異常を発見し、適切な対応や治療を行うことが重要です。訪問看護師は、的確な問診を通じて症状を把握し、患者さんのケアや管理に役立てます。
(2)息切れ、呼吸困難の問診例
「ちょっと動くと息苦しくなったりしませんか?」
肺循環で血液がうっ滞する左心不全や肺疾患などが原因となり、息切れや呼吸困難が生じることがあります。これらの症状は、肺に戻った血液が肺静脈にうっ滞し、肺の正常なガス交換を妨げるために発生します。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います:
動作による呼吸困難
患者さんに、少し動くだけで息苦しくなるかどうかを尋ねます。例えば、階段を上る、速足で歩くなどの日常的な活動において呼吸が困難になるかを確認します。
寝ているときの呼吸困難
患者さんが寝ているときに呼吸が苦しくなるかどうかを尋ねます。特に、寝ているときに仰向けになると呼吸が苦しくなる場合は、肺静脈うっ血や睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
起坐呼吸の有無
患者さんに、寝ているときは呼吸が苦しいが、座ったり起き上がったりすると楽になるかどうかを尋ねます。このような症状は、右心不全や肺疾患による肺静脈うっ血によって引き起こされる起坐呼吸の特徴です。
問診を通じて、患者さんの息切れや呼吸困難の程度や日常生活への影響を把握することが重要です。また、医用語ではなくわかりやすい言葉を使って問診を行うことで、患者さんが自身の症状を正確に伝えやすくなります。
(3)めまい、失神の問診例
「気が遠くなることはありませんか?」
「意識を失ったことはありますか?」
心拍出量の低下や不整脈によって起こるめまいや失神は、脳への血流が一時的に不足したり、不規則な血流が起こることで発生することがあります。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います。
気が遠くなる感覚
患者さんに、気が遠くなる、ふらつく、目の前が暗くなるなどのめまいの症状があるかどうかを尋ねます。これは脳への血流が一時的に減少したことによる症状であり、心臓のポンプ機能や循環に関連する問題が原因となることがあります。
意識の喪失
患者さんが過去に意識を失った経験があるかどうかを尋ねます。失神は心拍出量の低下や不整脈によって起こることがあります。
症状の表現
患者さんがめまいや失神を経験したときの具体的な症状や感覚を尋ねます。例えば、「目がまわる」「ふわっとする感じ」「ふらつく感じがする」などの表現が挙げられます。
めまいや失神は、患者さんにとって重大な症状であり、原因によっては安全上のリスクも伴うことがあります。訪問看護師は、わかりやすい言葉で問診を行い、患者さんの症状や体験を正確に把握することで、適切な評価や治療の提案を行うことが重要です。
(4)四肢の疼痛の問診例
「歩いているときに、足のだるさや痛みはありますか?」
血管の閉塞や狭窄によって、四肢の血流が十分でなくなることで疼痛が生じることがあります。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います。
歩行時の症状
患者さんが歩いている際に足のだるさや痛みを感じるかどうかを尋ねます。これは間欠跛行(intermittent claudication)と呼ばれる症状であり、血管の狭窄や閉塞によって足への血流が制限されるために起こります。歩行時に痛みが現れ、休息すると症状が改善する特徴的な症状です。
疼痛の特徴
患者さんの足の痛みの性質や特徴について尋ねます。例えば、「重だるさを感じる」「痛みがピリピリする」「しびれる感じがする」など、症状の具体的な表現を聞き取ります。
四肢の疼痛は、患者さんの日常生活や運動能力に大きな影響を与える症状です。訪問看護師は、医用語ではなく、わかりやすい言葉で問診を行い、患者さんの痛みの程度や日常生活への影響を正確に把握することで、症状の改善や適切なケアの提案を行うことが重要です。また、間欠跛行の症状がある場合には、血管の状態や治療の必要性を評価し、必要に応じて医師への連携を行います。
(5)動悸の問診例
「胸のドキドキが気になることはありませんか?」
不整脈によって動悸が生じることがあります。個人差があるため、患者さんの主観的な感覚や表現を聞き取りながら問診を行います。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います。
動悸の感じ方
患者さんの動悸の感覚を尋ねます。「胸がドキドキする」「脈が速くなる」「心臓がバクバクする」など、具体的な表現を使って問診します。患者さんの主観的な感じ方を正確に把握することで、異常の有無や症状の重症度を評価することができます。
不整脈の関連性
動悸と不整脈の関連性について尋ねます。不整脈は心臓のリズムの乱れを指し、脈の異常感や心臓の動きに影響を与えることがあります。患者さんが不整脈の自覚症状を感じるかどうかを確認し、動悸と不整脈の関連性を探ります。
動悸は、心臓の異常や不整脈を示す重要な症状です。訪問看護師は、医用語ではなく、患者さんが理解しやすい言葉で問診を行い、動悸の症状の有無や頻度、日常生活への影響を的確に把握します。また、不整脈の有無や動悸の原因についても問診し、必要に応じて医師との連携を行います。異常を見逃さず、適切なケアや処置の提案を行うことが重要です。
(6)胸痛の問診例
「胸が痛くなることはないですか?」
「胸にもやもやした感じはありませんか?」
心筋の虚血が原因で生じる狭心症や心筋梗塞などでは、胸痛が生じることがあります。訪問看護師は、患者さんの主観的な症状や感覚を的確に把握するために、わかりやすい言葉で問診を行います。
問診のポイントとしては、以下のような観察や質問を行います。
胸痛の特徴
患者さんの胸痛の特徴を尋ねます。「縮めつけられるような痛み」「圧迫感」「胸が押しつぶされるような感じ」など、具体的な表現を使って問診します。また、痛みがどの程度の頻度や強さで現れるか、どのくらいの期間続くかなども確認します。
疼痛の放散
胸痛が他の部位に放散するかどうかを尋ねます。心筋梗塞などの場合、胸痛が左腕や顎に広がることがあります。また、背中や肩に痛みが現れることもありますので、その有無も確認します。
付随する症状
胸痛に伴う他の症状についても問診します。「息苦しさ」「吐き気」「めまい」「発汗」などの症状があるかどうかを尋ね、胸痛との関連性を探ります。
胸痛は心疾患の重要な症状であり、訪問看護師は医用語ではなく、患者さんが理解しやすい言葉で問診を行います。胸痛の有無や特徴、放散の有無、付随する症状などを的確に把握し、異常を見逃さずに医師との連携を図ります。
まとめ
今回は、心疾患に関する基礎知識や訪問看護の役割、問診のポイントなどについてお伝えしました。
訪問看護における心疾患ケアは、患者の在宅での生活をサポートし、心不全の管理に重要な役割を果たします。特に医師の言葉をわかりやすく翻訳し、患者とのコミュニケーションを深めることで信頼関係を築くことができます。さらに、症状別の問診ポイントを把握することで、異常を見逃さず早期対応することができます。
訪問看護師の専門性を活かし、心疾患患者の健康と生活の質の向上に貢献しましょう。今回のコラムが訪問看護ステーションで働かれる看護師、これから在宅医療~訪問看護の仕事へのチャレンジを考えている看護師の参考になれば幸いです。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護