訪問看護ステーションが成長し続けるためには、訪問看護師の育成と教育が不可欠です。
特に、訪問看護未経験の看護師には、一般的な知識とスキルの習得だけでなく、実地での経験を通じたOJT(On the Job Training)、特に同行訪問が非常に重要です。
この記事では、訪問看護におけるスタッフ育成の重要性と新人教育における「同行訪問」の効果的な実施方法をステップ別に詳しく紹介します。
訪問看護師の育成・新人教育が必要な理由
訪問看護師の育成方法や新人教育について、経営者や管理者が悩むケースは少なくないでしょう。
特に、訪問看護ステーションを開設してから1年くらいは、毎日が忙しく、目の前の業務に追われてしまい、「スタッフの育成が重要だと感じながらも手薄になってしまっている…」そんな状況になりがちです。
厚生労働省の2023年の資料によると、訪問看護ステーションの数は増加傾向にありますが、看護職員が5名未満の小規模ステーションが全体の50%以上を占めています。
参照元:厚生労働省「訪問看護 社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)」
このように、多くの訪問看護ステーションは、限られたスタッフで運営されていることが一般的です。
しかし、日々の忙しさに追われてスタッフの育成が後回しにされると、利用者・家族から「訪問看護師によって対応が違う」などのクレームや訪問看護に自信を持てず、スタッフが離職してしまうなど会社として大きな損失を招くことになります。
さらに、教育が必要だと認識しても、その場その場で感覚的に指導を行うと、新人訪問看護師はさまざまな意見に惑わされ、不安を感じながら訪問に向かうことになります。
そのため、訪問看護師の育成には、体系だった研修プログラムとしてのOJT(On the Job Training)の導入がきわめて重要になります。
OJTとは
OJT(On-the-Job Training)は、新入社員や業務未経験者に必要なスキルや知識を、上司や先輩などのトレーナー(OJT担当者)が実務を通じて指導する教育方法です。
実務経験によって知識やスキルを積み重ねながら、同時に教育担当者である上司や先輩からリアルなフィードバックを受けることができるため、即戦力となる人材を育成する効果的な方法と言えます。
OJTは、手順や原則に従って実施することが重要であり、正しい方法を理解した上で行うことが必要です。
OJTを成功させるために必要な3つのポイント
ポイント1: 計画的にトレーニングをする
OJTを成功させるために、まずは計画を立てましょう。目標を設定し、トレーニングのスケジュールを決めます。計画をしっかり立てることで、方針が明確になります。
ポイント2: 反復的・段階的にトレーニングをする
OJTでは、同じことを何度も練習することが大切です。最初は基本的なことから始め、次第に難しいタスクに進みます。反復と段階的な進化を忘れずに行いましょう。
ポイント3: 目的や目標の明確化
受講者には、何を学び、どんな成果を出す必要があるのかを明確に伝えましょう。目標を明示し、進捗を定期的に確認してフィードバックを提供します。目標に向かって進む手助けになります。
そして、訪問看護ステーションにおいて最も重要なOJTは「同行訪問」です。訪問看護師の育成は、同行訪問によって実現できると言っても過言ではありません。
新人訪問看護師の早期戦力化は、場当たり的な教育から体系的な教育プログラムに移行することで実現します。
実地の経験の中で学ぶOJT、同行訪問とは
訪問看護師には、看護の知識や技術だけでなく、利用者の家を訪れる際の人間としてのマナーが重要です。さらに、専門職として、生活を総合的に評価し、変化に適応し、さまざまな環境で業務を効果的に遂行する能力も求められます。
そのため、一般的な知識やスキルを習得する研修だけでなく、実地経験を通じて学ぶOJTとしての同行訪問が極めて重要になります。
同行訪問を通じて、先輩看護師と共に段階的に知識や技術を実践レベルに高めると同時に、新しい知識や技術を習得していく必要があります。
ステップ(1)見て学ぶ
最初のステップでは、新人看護師は経験豊富な先輩看護師の訪問を観察し、プロセスやコミュニケーション方法を学びます。この段階では見学が主です。
ステップ(2)部分的にやってみる
次に、新人看護師は一部のタスクやプロセスを自分で試みます。まだ完全に独力で行うことは難しいかもしれませんが、一部の業務に参加します。
ステップ(3)指導者の支援や見守りの下でやってみる
この段階では、新人看護師は指導者や先輩看護師の支援や見守りのもとで業務を実施します。指導者がアドバイスやガイダンスを提供し、安全な状況で新人看護師が経験を積みます。
ステップ(4)一人でやってみる
最終的なステップでは、新人看護師は一人で訪問看護業務を実施します。この段階では、以前の段階で学んだ知識と経験を活かし、独立して業務を遂行します。
これらのステップを通じて、新人訪問看護師は段階的に自信をつけ、専門職としてのスキルを習得していきます。
新人訪問看護師が初期段階で担当する利用者とは
訪問看護未経験の看護師に対して、入職から3か月程度は同行訪問を繰り返し行います。最初は、安定した状態で問題が少ない利用者を担当し、基本的な業務の流れを理解していくことが重要です。
新人訪問看護師が初期段階では、以下のような利用者をメインに担当するとよいでしょう。
介護保険利用者 要介護3~4程度
これらの利用者は介護の必要度が比較的低いため、看護ケアが比較的軽度であることが予想されます。新人看護師は基本的なケアスキルを磨くチャンスです。
脳卒中の利用者(嚥下機能は異常なし、会話できる)
脳卒中患者の中でも、嚥下機能に問題がなく会話ができる利用者は、コミュニケーションが可能であり、看護の助けを受けやすい状態です。新人看護師はコミュニケーションスキルを養いながら、患者のニーズに応じた看護を提供します。
訪問を開始してから一定期間が経過し、状態が安定している
利用者の状態が安定しているため、急激な変化に対処する必要が少ないでしょう。新人看護師はゆっくりと訪問看護のスキルを磨く機会があります。
家族(主介護者)が同居している
家族の協力がある場合、看護師は家族と連携し、患者のケアを行います。家族のサポートを受けながら、新人看護師は経験を積んでいきます。
主治医と連絡がとりやすい
主治医との円滑な連絡が取れる状況は、患者のケアにおいて重要です。新人看護師は医療チームとの連携を学び、患者の健康管理を支えます。
通所サービスを週1~2回程度、訪問看護は週1回
通所サービスが提供されている場合、看護師はその他のケアプロフェッショナルと連携しながら訪問看護を行います。週1回の訪問では、ケア計画の一環として訪問看護のスキルを発展させます。
同行訪問のOJTで留意すべき4つの場面の関わり方
管理者や先輩看護師が同行訪問を指導する際には、以下の4つの場面での関与方法をプログラムとして体系化しておくことが重要です。
訪問前
(1) 訪問の準備の手順、必要な物品の確認
訪問前に、必要な物品や訪問の手順を確認しましょう。例えば、必要な医療器具や文書、服装、個人保護具などを用意する必要があります。また、利用者宅への行き方やアクセス情報も確認しておきます。
(2) 利用者の状況及びサービス計画・生活の目標の確認
事前に利用者の状況を詳しく把握しましょう。経緯、現在の状態、目標、サービス内容、留意事項などを確認します。これにより、利用者の状態や必要なケアに合わせたサービスを提供できます。
(3) 訪問時の手順のリハーサル
訪問時の手順やプロトコルを事前にリハーサルしましょう。これにより、訪問中に混乱を避け、スムーズなサービス提供が可能となります。
(4) 訪問に当たっての心構えと意識づけ、各職員の目標の意識付け
訪問前に、訪問看護師や関係者に対して心構えや目標を明確にしましょう。チーム全体で同じ方向を向き、訪問の質を向上させるために重要です。
(5) 訪問前の不明・不安な点の確認、解消
訪問前に不明点や不安な点があれば、それらを確認し解消しましょう。これにより、訪問中に問題が生じるリスクを最小限に抑えることができます。
訪問時
(1) 利用者・家族への紹介
訪問時、新人看護師は利用者とその家族に自己紹介を行います。名前と専門的な背景を伝え、信頼感を築きます。これはコミュニケーションの第一歩です。
(2) 利用者・家族への接遇やケアの模範を示す
先輩看護師や指導者は、利用者や家族に対する接遇やケアを模範的に示す役割を果たします。言葉遣いや態度が示す良い例は、新人看護師にとって学びの機会となります。
(3) 利用者・家族への接遇やケア内容の指導、支援
新人看護師は利用者や家族に親切で配慮のある接遇とケアを提供しながら、ケアの内容について説明します。具体的な観察ポイントや行動の目的、留意点などを分かりやすく伝え、協力を得ます。
(4) 観察、判断、対応における専門職としての視点を示し気付きを促す
指導者は新人看護師に対して専門職としての視点を示し、観察、判断、対応に関する指導を行います。新人看護師に問題の発見や重要な情報に注意を払わせ、専門的なスキルの向上を促します。
(5) 新任訪問看護師の態度・行為全般等のチェック
同行訪問中、先輩看護師や指導者は新人看護師の態度や行動をチェックし、フィードバックを提供します。必要に応じて改善点を指摘し、成長をサポートします。訪問看護のプロフェッショナルとしての態度を養うことが重要です。
訪問後
(1) 新任訪問看護師とともに、訪問内容の全体を振り返る
訪問が終了したら、新人看護師と一緒に訪問の全体像を振り返ります。訪問の進行や実施したケアについて詳しく話し合い、訪問全体の流れを確認します。
(2) 良かった点、目標が達成できた点を確認する
振り返りの中で、訪問中に良かった点や設定した目標が達成できた点を強調し、ポジティブなフィードバックを提供します。新人看護師の成功体験を強調し、自信をつけるサポートを行います。
(3) 改善が必要な点について気付きを促す
振り返りの際、訪問中に改善が必要だった点や問題があった場合、指摘します。しかし、これを指導者からの一方的な評価ではなく、新人看護師が自分で気づき、改善策を見つけるプロセスとして促します。
(4) 問題点や不安の確認、解消
新人看護師が訪問中に経験した問題点や不安についても話し合い、解消策を共有します。指導者は支援役割を果たし、新人看護師の不安を軽減し、安心感を提供します。
(5) 次の目標の設定
振り返りの最後に、次の訪問やステップに向けて新たな目標を設定します。これにより、新人看護師は成長を継続し、スキルの向上に向けて努力を続けます。
振り返り
1か月目、2か月目、3か月目などの区切りで、定期的に振り返りを行い、新人訪問看護師との面談を通じて目標達成状況を確認します。その際、新人看護師の自己評価を尊重し、彼らが認識する達成状況や成功した点、課題と感じる部分を把握します。
また、管理者としての運営方針を考慮しながら、指導者としての視点から新人看護師に対してフィードバックを提供します。
成功した点を称賛し、課題点に対する建設的な提案を行います。達成状況に合わせて新人看護師と協力して今後の育成計画を更新し、次のステップや目標を設定します。
振り返りを通じて、継続的な学習と成長を促進し、訪問看護のプロフェッショナルとしてのスキル向上をサポートします。
OJTとして同行訪問を担当する管理者や先輩社員のメリット
訪問看護のOJTとして同行訪問を実施する管理者や先輩訪問看護師にも様々なメリットがあります。
1. 専門知識とスキルの再確認と向上
OJTを担当することで、管理者や先輩訪問看護師は自身の専門知識やスキルを再確認する機会を得ます。訪問看護の業務を新人看護師に説明し教える過程で、自分の知識やスキルを整理し、向上させることができます。このプロセスは、専門職としての自己成長に寄与します。
2. 部署内の業務プロセスの理解
同行訪問を通じて、管理者や先輩訪問看護師は訪問看護部署内の業務プロセスや流れを再評価し、理解する機会を得ます。業務の遂行方法や部署間の連携などを新人看護師に説明するため、自身も業務プロセスを再度理解し、最適化する可能性があります。
3. 指導スキルの向上
OJT担当者として新人看護師を指導する経験は、指導スキルの向上に寄与します。指導者は、説明力やコミュニケーションスキルを高め、他者に知識やスキルを伝える能力を磨くことができます。これはリーダーシップの向上にも繋がります。
4. 個人の強みと弱みの把握
同行訪問を通じて、新人看護師の個人的な強みと弱みを把握できます。これにより、適切な指導や育成計画を立てる際に個別のニーズに合わせたアプローチが可能となります。個人の成長を最大限にサポートするために、個別指導を行うことができます。
5. チームの一体感
同行訪問を担当することで、訪問看護チームの一体感を高める機会があります。指導者としての責任感や協力意欲を示すことで、チーム全体が連携し、高品質の訪問看護サービスを提供する力を養います。
総合的に考えると、OJT担当者としての役割は、新人看護師の育成だけでなく、自己成長やチームの強化にも寄与する重要な役割を果たします。
まとめ
訪問看護のプロフェッショナルとしてのスキルを磨き、ステーションの成長に貢献するためには、新人訪問看護師の育成と教育が欠かせません。その中でも、同行訪問というOJTの手法は非常に効果的です。
この記事では、訪問看護師の育成の必要性から始め、OJTとは何か、そしてOJTを成功させるためのポイントや同行訪問のステップについて詳しく解説しました。また、新人訪問看護師が初期段階で担当するべき利用者の例や、同行訪問の具体的な指導方法についても触れました。
同行訪問を指導する管理者や先輩訪問看護師にも多くのメリットがあり、それがチーム全体の成長につながります。専門知識やスキルの再確認、業務プロセスの理解、指導スキルの向上、個人の強みと弱みの把握、チームの一体感の強化など、多くの点でプラスの影響を与えることが期待されます。
訪問看護の未来を拓くために、スタッフ育成と教育に注力し、同行訪問の効果的な実施を通じて、より質の高いサービスを提供し続けましょう。それが訪問看護ステーションの成長と、利用者の健康と幸福に貢献する一歩となることでしょう。
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