運営指導(実地指導)は、介護保険制度に基づいた介護サービスを適切に提供するため、国や自治体が介護事業所に対して行う支援の一環です。
運営指導の際に、運営基準や請求のルールに違反していることが判明した場合、報酬の返還や指定の効力の一部停止、指定の取消などの行政処分が課せられることもあります。そのため、
経営者や管理者にとって運営指導(実地指導)を正しく理解しておくことは、非常に重要です。
このコラムでは、訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)の対策と注意すべきポイントについてお伝えします。
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)とは
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)は、指定権者(都道府県等)が、原則として事業所を訪問し、法令の遵守などを確認する活動ことを指します。
行政が事業所の運営状況や報酬請求の状況、高齢者の尊厳の保持などについての理解と取り組み等を定期的に実施することを通じて、保険給付の適正化や利用者の自立支援に寄与し、サービス品質の確保と向上を目指しています。
運営指導は、指定の有効期間中(通常は6年間)に少なくとも1回以上実施されることになっています。
また、オンラインツールの活用が進み、現地訪問を行わずに実施されることもあるため、令和4年度の改定で「実地指導」から「運営指導」へ名称が変更されました。
訪問看護ステーションの運営指導の4つの内容
(1)介護サービスの実施状況指導
介護サービスの実施状況指導は、訪問看護ステーションにおける重要な要素の一つです。この指導は、利用者に提供される介護サービスの品質を確認するために行われます。具体的には、提供されるサービスがケアプランに基づき正しく提供されているかどうかを書類や実際の実施状況を通じて評価します。
(2)最低基準等運営体制指導
最低基準等運営体制指導は、訪問看護ステーションの運営において、法的な基準や規定を遵守しているかどうかを確認するための指導です。具体的には、訪問看護ステーションが法律や規則に定められた最低基準や要件を満たしているかを審査し、基準を満たしていない場合には、改善が必要とされる箇所を指摘し、改善のための指導を行います。
(3)報酬請求指導
報酬請求指導は、訪問看護ステーションの運営指導の一環として行われる内容の一つです。この指導は、介護保険給付に基づく報酬の請求において適正な事務処理とサービスの実施が行われているか確認することを目的としています。
具体的には、報酬基準に基づいた請求が正確かどうか、要件に合致する加算項目が適切に計算されているかなどを審査し、不正請求や誤った請求が防止され、制度の適正な管理が実現されるよう指導します。もし不正請求や間違った請求が発覚した場合、返還が求められることもあります。
(4)医療保険の指導
医療保険の指導は、訪問看護ステーションが医療保険を利用して訪問看護サービスを提供している場合に関連する運営指導の一環です。この指導は、地方厚生局などの行政機関によって実施され、主要な目的は保険診療の質的向上と適正化です。
具体的には、医療保険を利用した訪問看護サービスの質と適正性を確認するために、集団指導および個別指導が行われます。
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)の確認項目及び確認文書
訪問看護ステーションの運営指導を受けるにあたって確認項目や必要書類を知っておくことは、非常に重要です。
運営指導の際に確認を受ける記録類については、厚生労働省の『確認文書・確認項目』という資料の中で公開しています。
参照元:厚生労働省「確認項目及び確認文書」
厚生労働省の報告による確認項目は以下の通りです。
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)の確認項目
主な確認項目 | 内容 |
---|---|
内容及び手続の説明 及び同意(第 8 条) | ・利用申込者又はその家族への説明と同意の 手続きを取っているか ・重要事項説明書の内容に不備等はないか |
心身の状況等の把握(第 13 条) | ・サービス担当者会議等に参加し、利用者の 心身の状況把握に努めているか |
居宅介護支援事業者等との連携(第 64 条) | ・サービス担当者会議等を通じて介護支援専門員や他サービスと連携しているか |
居宅サービス計画に沿ったサービスの提供(第 16 条) | ・居宅サービス計画に沿ったサービスが提供されているか |
サービス提供の記録(第 19 条) | ・訪問看護計画にある目標を達成するための 具体的なサービスの内容が記載されているか ・日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか |
訪問看護計画書及び 訪問看護報告書の作成(第 70 条) | ・居宅サービス計画に基づいて訪問看護計画が立てられているか ・主治の医師の指示及び利用者の心身の状況、希望および環境を踏まえて訪問看護計 画が立てられているか ・サービスの具体的内容、時間、日程等が明らかになっているか ・利用者又はその家族への説明・同意・交付 は行われているか ・目標の達成状況は記録されているか ・達成状況に基づき、新たな訪問看護計画が立てられているか ・訪問看護報告書は作成されているか |
従業者の員数(第 60 条) | ・利用者に対し、従業者の員数は適切であるか ・専門職は必要な資格を有しているか |
管理者(第 61 条) | ・管理者は常勤専従か、他の職務を兼務している場合、兼務体制は適切か |
受給資格等の確認(第 11 条) | ・被保険者資格、要介護認定の有無、要介護認定の有効期限を 確認しているか |
利用料等の受領(第 66 条) | ・利用者からの費用徴収は適切に行われているか ・領収書を発行しているか ・医療費控除の記載は適切か |
緊急時等の対応(第 72 条) | ・緊急時対応マニュアル等が整備されているか ・緊急事態が発生した場合、速やかに主治の医師に連絡しているか |
運営規程(第 73 条) | ・運営における以下の重要事項について定めているか 1. 事業の目的及び運営の方針 2. 従業者の職種、員数及び職務の内容 3. 営業日及び営業時間 4. 指定訪問看護の内容及び利用料その他の 費用の額 5. 通常の事業の実施地域 6. 緊急時等における対応方法 7. 虐待の防止のための措置に関する事項 8. その他運営に関する重要事項 |
勤務体制の確保等(第 30 条) | ・サービス提供は事業所の従業者によって行われているか ・資質向上のために研修の機会を確保しているか ・性的言動、優越的な関係を背景とした言動 による就業環境が 害されることの防止に向けた 方針の明確化等の措置を講じている か |
業務継続計画の策定 等 (第 30 条の2) |
・感染症、非常災害発生時のサービスの継続 実施及び早期の業 務再開の計画(業務継 続計画)の策定及び必要な措置を講じてい るか。 ・従業者に対する計画の周知、研修及び訓練を実施しているか ・計画の見直しを行っているか |
衛生管理等(第 31 条) | ・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を講じているか ・感染症又は食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会を 6 か月に1 回開催しているか ・従業者の日々の感染罹患状況や健康状態を確認しているか |
秘密保持等(第 33 条) | ・個人情報の利用に当たり、利用者(利用 者の情報) 及び家族(利用者家族の情 報)から同意を得ているか ・退職者を含む、従業者が利用者の秘密を 保持することを誓約しているか |
広告(第 34 条) | ・広告は虚偽又は誇大となっていないか |
苦情処理(第 36 条) | ・苦情受付の窓口があるか ・苦情の受付、内容等を記録、保管しているか ・苦情の内容を踏まえたサービスの質向上の取組を行っているか |
事故発生時の対応(第 37 条) | ・事故が発生した場合の対応方法は定まっているか ・市町村、家族、居宅介護支援事業者等に報告しているか ・事故状況、対応経過が記録されているか ・損害賠償すべき事故が発生した場合に、速やかに賠償を行うための対策を講じているか ・再発防止のための取組を行っているか |
虐待の防止(第 37 条の 2) | ・虐待の発生・再発防止のための対策を検 討する委員会を定期的に開催し、従業者に 周知しているか ・虐待の発生・再発防止の指針を整備しているか ・従業者に対して虐待の発生・再発防止の研修を実施しているか ・上記の措置を適切に実施するための担当者を設置しているか |
厚生労働省の報告による確認文書一式は以下の通りです。
訪問看護ステーションの運営指導時の確認文書の一覧
主な確認事項 | 確認文書 |
---|---|
個別サービスの質に関する事項 | ・重要事項説明書(利用申込者又は家 族の同意があったことが わかるもの) ・利用契約書 ・サービス担当者会議の記録 ・居宅サービス計画 ・サービス提供記録 ・主治の医師の指示及 び居宅 ・サービス計画に 基づく訪問看護計画( 利用者又は家族の 同意があったことがわか るもの) ・アセスメントシート ・モニタリングシート ・訪問看護報告書 |
個別サービスの質を確保するための体制に関する事項 | ・勤務実績表/タイムカ ード ・勤務体制一覧表 ・従業者の資格証 ・管理者の雇用形態が分かる文書 ・管理者の勤務実績表/タイムカード ・介護保険番号、有効 期限等を確認している 記録等 ・請求書 ・領収書 ・緊急時対応マニュアル ・サービス提供記録 ・運営規程 ・雇用の形態(常勤 ・非常勤)わかる文 書 ・研修計画、実施記録 ・方針、相談記録 ・業務継続計画 ・研修及び訓練計画、実施記録 ・感染症及び食中毒の予防及びまん延防止の ための対策を検討する 委員会名簿、委員会の 記録 ・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止 のための指針 ・感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及 び訓練の記録 ・個人情報同意書 ・従業者の秘密保持誓約書 ・パンフレット/チラシ ・苦情の受付簿 ・苦情者への対応記録 ・苦情対応マニュアル ・事故対応マニュアル ・市町村、家族、居宅 介護支援事業者等への報告記録 ・再発防止策の検討の記録 ・ヒヤリハットの記録 ・委員会の開催記録 ・虐待の発生・再発防止の指針 ・研修計画、実施記録 ・担当者を設置したことが分かる文書 |
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)の流れ
訪問看護ステーションの運営指導指導の流れは、以下の通りです。
(1)指導通知
通常は運営指導の約1か月前に指導通知が送られます。この際、事前提出書類が必要で、これが検査や対策のガイドラインとなります。事前提出書類の準備が重要です。
(2)一般指導と合同指導
運営指導は、自治体単独で行う一般指導と、厚生労働省と都道府県などが協力して行う合同指導の2つの形態があります。合同指導では報告徴収なども行われます。都道府県の単独指導の場合は通常2人の指導者が訪問しますが、合同指導の場合は関連する役所によって指導者の数が増えることがあります。
(3)運営指導の実施
運営指導当日は、上記で解説した以下の4点について確認が進められます。
1.介護サービスの実施状況指導
2.最低基準等運営体制指導
3.報酬請求指導
4.医療保険の指導
令和4年度の改定で文書削減が進められていることから、パソコンで管理しているデータはディスプレイ上でチェックが行われます。
(4)運営に不適切な事項があったり、報酬請求に誤りがあった場合
運営に不適切な事項があったり、報酬請求に誤りがある場合、改善指導や勧告、報酬の返還が行われます。都道府県の検査の後、検査結果は区市町村に提供され、市区町村が実地指導に入ることがあります。
指導方法には主に「文書指導」「口頭指導」「助言」の3つがあります。
運営指導の方法
文書指導 | 違反している場合 | 期限付きで改善指導を行う |
---|---|---|
口頭指導 | 軽微な違反が見られる場合 | 根拠を提示したうえで改善に向けた指導を行う |
助言 | 違反が見られない場合 | 引き続きどのように法令を守っていくべきかアドバイスを行う |
文書指導の場合、結果通知から1ヶ月以内など提出期限が定められているので、改善したあとは行政への報告が必要となります。
運営指導の指摘事項例と注意すべきポイント
(1)運営や書類に関すること
1.訪問看護計画書が未整備
訪問看護計画書はサービス内容を明確に示す重要な文書です。計画が変更された場合には、適切に変更される必要があります。
2.訪問看護計画書の作成に当たって、利用者の同意を得ていない
利用者の同意は訪問看護計画書の作成に不可欠です。計画書に利用者の同意と署名捺印を取得することが必要です。
3.毎月、勤務表が未作成
勤務表はスタッフの勤務管理に関する重要な文書です。正確かつ詳細な情報を含む勤務表を定期的に作成しましょう。
4.准看護師が訪問する場合の料金表等に単位数が明記されていない
准看護師の訪問に関連する料金表には単位数の明記が必要です。料金の計算方法を明確に示しましょう。
5.医師の指示書が無い
訪問看護サービス提供には医師の指示が不可欠です。病院や医師が変わった場合はブランクができてしまう場合があります。医師の指示が無い期間は訪問しても報酬を算定できません。
6.従業員の秘密保持体制が不完全
利用者情報の機密性を守るために、秘密保持体制を整備し、採用時に誓約書を使用しましょう。秘密保持の責任は退職後も続くことが重要です。
7.重要事項説明書の修正忘れ
重要事項説明書は正確で最新の情報を含む必要があります。変更がある場合には、速やかに修正しましょう。
8.訪問看護計画書の作成者、説明者が不明確
訪問看護計画書の作成者と説明者を明確に指定し、文書上で示すことで責任を明確化しましょう。
9.訪問看護計画書の内容と居宅サービス計画(ケアプラン)の内容が合っていない
ケアプランと訪問看護計画書は一致している必要があります。提供するサービスはケアプランに基づいて提供しましょう。
10.看護師等の清潔の保持、健康状態についての管理が不十分
清潔な環境と健康なスタッフは安全なサービス提供に不可欠です。感染症予防、衛生用品の備蓄、健康診断などの管理を徹底しましょう。
(2)加算に関すること
1.初回加算
<指摘事項>
・新規に訪問看護計画書を作成せずに加算を算定している。
・過去2か月間において医療保険の訪問看護を提供した利用者に加算をしている。
・初回加算の算定要件を満たしている場合であっても、算定していない。
<注意点>
初回加算は特定の条件を満たす場合に適用される加算であり、要件を正確に確認し、算定漏れを防ぐ必要があります。
2.緊急時訪問看護加算
<指摘事項>
・早朝・夜間・深夜の時間帯に緊急訪問した場合に、早朝・夜間・深夜の加算を算定している。
<注意点>
緊急時訪問看護加算の算定条件には時間帯に関する制約があり、月の1回目には適用されないことに注意が必要です。
3.ターミナルケア加算に必要な記録が不十分
<指摘事項>
ターミナルケア加算を算定するための記録が不足している。
<注意点>
ターミナルケア加算には特定の要件が必要であり、利用者への説明、身辺状況の変化、終末期の身体状況、精神的な状態の変化、ケアの経過、利用者及び家族の意向への対応などを適切に記録する必要があります。
4.医療保険の給付の対象となる場合に、介護保険を算定している
<指摘事項>
医療保険の給付対象となる場合に、介護保険を算定している。
<注意点>
医療保険と介護保険の算定条件や対象は異なるため、適切な保険の算定を確保しましょう。間違った保険の算定は適正な給付を妨げる可能性があります。
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)に向けて日ごろからやるべきこと
運営指導で引っかからないためには、以下の9つの要点を日ごろから確認しておくことが重要です。
(1)日報をつけ、日々の運営管理の透明性を高める
解日報は日々の業務や出来事を記録する重要なツールです。運営指導では事業所の日常業務の把握が求められます。日報をつけることで、業務内容や問題点を明確に示すことができ、運営の透明性を高めます。
(2)日ごろから書類を整理し、事業所の清潔を保つ
書類の整理と事業所の清潔さは運営の基本です。整理された書類は指導時に必要な情報に迅速にアクセスでき、清潔な環境はクライアントやスタッフの安全を確保します。
(3)基本報酬、加算の構造や算定要件を理解し、正しく算定する
報酬や加算の算定は正確性が求められます。関連する法令や規則を理解し、適切な算定を行うことで、給付の適正化が実現し、運営指導における指摘を回避できます。
(4)加算の同意書を忘れないようにする
加算の適用には利用者やその家族からの同意が必要です。同意書を忘れずに取得することで、加算の正当性を証明でき、運営指導において指摘を回避できます。
(5)サービスの提供の記録・報告書に記入漏れやミスがないようにチェックする
サービス提供の記録や報告書は訪問看護の質を評価する上で重要です。記入漏れやミスがあると、サービス提供の透明性が損なわれる可能性があります。正確な記録を保つことが指導対策の一環です。
(6)行政機関への報告漏れがないか日ごろから確認する
行政への報告は法的要件を満たす必要があります。日ごろから報告漏れがないかを確認し、必要な報告を適切に行うことが運営指導において重要です。
(7)更新した掲示物は、その都度差し替えて掲示するよう習慣化する
掲示物はスタッフや利用者に情報を提供するための手段です。最新情報を提供し、変更事項を適切に伝えるために、更新された掲示物はすみやかに差し替える習慣を持つべきです。
(8)更新したマニュアルや規程は、その都度差し替えてファイリングする
マニュアルや規程の更新は運営の改善に寄与します。更新された情報をファイリングしてアクセスしやすくし、スタッフが最新のガイドラインに従えるようにします。
(9)スタッフの健康管理に心がけ、健康診断を欠かさないようにする
スタッフの健康はサービス提供の安全性に直結します。健康診断を受け、健康管理に配慮することで、スタッフの安全性とクライアントへの信頼性を高めます。
まとめ
訪問看護ステーションの運営指導(実地指導)は、介護サービスの質と信頼性を維持し、利用者に最高のケアを提供するために不可欠なプロセスです。行政機関からの支援と監督を通じて、訪問看護ステーションは適切な運営基準を守り、正確な請求を行い、利用者の安全と健康を確保することが求められます。
このコラムでは、運営指導の内容やポイントを詳しく紹介しました。訪問看護ステーションの経営者や管理者は、これらの指導内容を理解し、日々の運営に活かすことが大切です。透明性のある日々の業務記録、整理された書類管理、正確な報酬請求、必要な記録作成など、指導を受ける前から実践すべき方法がたくさんあります。
運営指導対策を通して、適正な訪問看護ステーションの運営を目指していきましょう。
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