身体のむくみや腫れが日常生活に影響を及ぼす症状、それが浮腫(むくみ)です。浮腫はさまざまな原因によって引き起こされ、そのケアには専門的なアプローチが求められます。
特に在宅療養の場では、訪問看護師が重要な役割を果たし、患者のケアと生活の質を向上させるための支援を行っています。
本コラムでは、浮腫の種類や原因、在宅療養における訪問看護のケアに焦点を当て、その重要性について解説していきます。
浮腫の基礎知識から訪問看護の役割まで、浮腫ケアの重要性とその実践方法について探っていきましょう。
浮腫(むくみ)とは
浮腫(むくみ)は、原因によって異なる種類があり、それに応じて適切な対策が必要です。
成人の体重の約6割は水分です。体内の水分は、「細胞外液」と「細胞内液」に分けられます。細胞外液には、「血漿」「リンパ液」「脳脊髄液」「間質液」などが存在します。
間質液は、細胞と細胞の隙間を満たす液体であり、血液中の二酸化炭素や老廃物は、一度間質液に排出され、その後毛細血管やリンパ管を通って心臓に回収されます。通常、間質液の量は一定に保たれますが、何らかの原因により組織間液が異常に増加することがあります。この状態が浮腫(むくみ)と呼ばれます。
在宅療養における「全身性浮腫」と「局所性浮腫」の違い
浮腫はさまざまな原因によって引き起こされます。その中には、静脈やリンパ管の異常が原因となる「局所性浮腫」と、心臓や腎臓の疾患が浮腫の原因となる「全身性浮腫」があります。
「全身性浮腫」は、心臓や腎臓などの内臓の疾患が原因となって生じる浮腫です。浮腫は基礎疾患の一症状として現れるため、まずは原因疾患の治療が最優先となります。
一方、局所性浮腫は、静脈やリンパ管の障害が主な原因となっています。このタイプの浮腫は、浮腫が特定の部位に限定されるため、まずはその部位での療養指導が重要となります。
「全身性浮腫」の原因疾患と浮腫の特徴、浮腫以外の症状
以下に、全身性浮腫の主なタイプごとの原因疾患、浮腫の特徴、および浮腫以外の症状を解説します。
(1)心性浮腫
原因疾患
心不全、心筋梗塞、心臓弁膜症などの心臓の疾患が一般的な原因です。
浮腫の特徴
通常は下肢や足首に浮腫が現れます。また、体の他の部位にも広がることがあります。浮腫は通常、足や足首が圧迫されることで凹みが残る「凹凸徴候」が見られることがあります。
浮腫以外の症状
呼吸困難、疲労感、動悸、体のむくみ感など、心臓の機能低下に関連する症状が現れることがあります。
(2)腎性浮腫
原因疾患
慢性腎臓病、腎不全、腎臓の疾患が主な原因です。
浮腫の特徴
通常は朝起きたときに顔やまぶたの浮腫が目立ちます。また、下肢や体全体にも広がることがあります。浮腫は触れた部位に指で押した跡(指型凹痕)が残ることがあります。
浮腫以外の症状
尿量の変化(多尿または少尿)、高血圧、疲労感、食欲不振など、腎臓の機能低下に関連する症状が現れることがあります。
(3)肝性浮腫
原因疾患
肝硬変(肝臓の慢性的な機能低下)、肝炎、肝臓の腫瘍などが主な原因です。
浮腫の特徴
通常は下肢や腹部に浮腫が現れます。また、腹水(腹部に液体がたまる状態)が併発することがあります。浮腫は触れた部位に指で押した跡(指型凹痕)が残ることがあります。
浮腫以外の症状
肝臓の機能低下により、黄疸(皮膚や目の白い部分の黄色化)、腹部の膨満感、食欲不振、消化不良、疲労感、脱力感などの肝臓障害に関連する症状が現れることがあります。
(4)栄養障害性浮腫
原因疾患
飢餓、タンパク質や栄養素の不足、栄養吸収の障害などが原因です。
浮腫の特徴
主に下肢や足首に浮腫が現れます。また、皮膚の色が変わることや皮膚の弾力性の低下なども見られることがあります。
浮腫以外の症状
栄養不良による体重減少、筋力の低下、疲労感、食欲不振、貧血、皮膚や髪の状態の変化などが現れることがあります。
(5)内分泌性浮腫
原因疾患
甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症、ホルモン分泌腫瘍などの内分泌系の異常が原因です。
浮腫の特徴
浮腫は一般に全身的に現れることがあります。顔や手、足首、下肢などのさまざまな部位に浮腫が生じることがあります。
浮腫以外の症状
内分泌系の異常に応じてさまざまな症状が現れます。甲状腺機能低下症では体温低下、倦怠感、便秘などが、副腎皮質機能低下症では疲労感、低血糖、血圧低下などが現れることがあります。また、ホルモン分泌腫瘍による内分泌異常によって、個別の症状が生じることがあります。
(6)薬剤性浮腫
原因疾患
特定の薬物の使用や副作用が原因となります。例えば、抗高血圧薬、非ステロイド性抗炎症薬、抗てんかん薬などが浮腫を引き起こす可能性があります。
浮腫の特徴
浮腫は一般に全身的に現れます。顔や四肢、体幹などのさまざまな部位に浮腫が生じることがあります。
浮腫以外の症状
薬剤性浮腫の他に、薬物の使用による他の副作用や症状が現れることがあります。具体的な症状は使用される薬物によって異なりますが、吐き気、頭痛、めまい、皮膚の発疹などが現れることがあります。
「局所性浮腫」の原因疾患と浮腫の特徴、浮腫以外の症状
局所性浮腫の主なタイプごとの原因疾患、浮腫の特徴、および浮腫以外の症状を解説します。
(1)静脈性浮腫
原因疾患
静脈の障害や血流の滞りが主な原因です。静脈血栓症、静脈弁不全、静脈圧亢進症などが関与することがあります。
浮腫の特徴
通常は下肢に浮腫が現れます。足首や下腿部に浮腫が集中することが多く、一般的には両側性です。立位(立っている状態)や活動時に浮腫が増強することがあります。
浮腫以外の症状
静脈性浮腫には、下肢の重だるさや疼痛、脚の腫れ感、皮膚の色素沈着、静脈の浮き出りなどの症状が伴うことがあります。
(2)リンパ浮腫
原因疾患
リンパ系の障害やリンパ節の腫脹が主な原因です。リンパ浮腫の主な原因としては、リンパ節のがん(リンパ腫)、リンパ管の狭窄、リンパ浮腫症などがあります。
浮腫の特徴
通常は肢体の特定の部位に浮腫が現れます。例えば、腕や手のリンパ浮腫では手指が腫れ、足や足首のリンパ浮腫では足が腫れることがあります。浮腫は圧迫された部位に指で押した跡(指型凹痕)が残ることがあります。
浮腫以外の症状
リンパ浮腫は他のタイプの浮腫と比べて、皮膚の硬化や肥厚、組織の線維化、慢性的な疼痛、運動制限などの症状が現れることがあります。
(3)炎症性浮腫
原因疾患
組織の炎症や感染が主な原因です。急性または慢性の炎症性疾患、感染症、外傷などが関与することがあります。
浮腫の特徴
炎症性浮腫は、炎症や感染の存在により局所的に現れます。腫れた部位は赤く腫れ上がり、触れると熱を帯びていることがあります。浮腫は圧迫された部位に指で押した跡(指型凹痕)が残ることがあります。
浮腫以外の症状
炎症性浮腫には、腫れた部位の痛み、発熱、発赤、熱感、機能障害などの症状が伴うことがあります。また、原因に応じて特定の炎症性疾患や感染症に関連する症状も現れる可能性があります。
これらは局所性浮腫の主なタイプごとの特徴ですが、浮腫の原因や症状は個人や状況によって異なる場合もあります。
リンパ浮腫の病気分類
リンパ浮腫の病気分類には、主にステージングシステムが使用されており、リンパ浮腫の進行度合いを示すために使用されます。以下に、リンパ浮腫の病気分類の各項目について解説します。
0期
0期は、リンパ浮腫が初期段階であり、まだ症状が現れていない状態を指します。この段階では、浮腫や他の症状は観察されませんが、リンパ系に異常が存在する可能性があります。
0期のリンパ浮腫は、通常、偶然の検査やスクリーニングの結果として発見されることがあります。
Ⅰ期
Ⅰ期は、リンパ浮腫が初期の局所性段階に進行していることを示します。Ⅰ期のリンパ浮腫では、一つのリンパ節領域や一つの臓器が浮腫し、他のリンパ節や臓器には広がっていない状態です。この段階では、まだ全身的な症状は現れません。
Ⅱ期
Ⅱ期は、リンパ浮腫が複数の局所性領域に広がっていることを示します。Ⅱ期のリンパ浮腫では、複数のリンパ節領域が浮腫し、同じ側の臓器にも広がっている場合があります。Ⅱ期では、一般的には浮腫以外の症状や全身的な症状はまだ現れていないことが多いです。
Ⅱ期後期
Ⅱ期後期は、リンパ浮腫が広範囲に広がっている状態を指します。Ⅱ期後期のリンパ浮腫では、複数のリンパ節領域が浮腫し、複数の臓器にも広がっています。この段階では、全身的な症状や他の臓器への浮腫の拡大が見られることがあります。
Ⅲ期
Ⅲ期は、リンパ浮腫が広範囲に広がっており、他の臓器にも浮腫が現れている状態を指します。Ⅲ期のリンパ浮腫では、複数のリンパ節領域や臓器が浮腫し、体内のリンパ系の広範囲に浸潤しています。Ⅲ期では、全身的な症状や体の機能への影響が顕著になることがあります。
これらのステージ分類は、リンパ浮腫の進行度合いや広がりを評価するために医師が使用するものです。ただし、リンパ浮腫の具体的な分類やステージングは、病状や診断基準によって異なる場合があります。
在宅の浮腫ケアにおける訪問看護の役割とは
在宅療養における浮腫のケアでは、原因の特定と適切な対処が重要です。訪問看護師は、患者の生活状況や身体的な変化を観察する役割を果たし、医師に浮腫の原因を伝えることで適切な診断と治療を支援します。以下に、その重要性について解説します。
原因の特定
浮腫の原因はさまざまであり、心性浮腫、腎性浮腫、栄養障害性浮腫など、様々な要素が関与することがあります。
訪問看護師は、患者の食事内容、運動状況、排泄状況などを詳細に把握することで、浮腫の原因を予測する助けとなります。
原因を正確に特定することは、治療やケア計画の立案に不可欠です。
医師への情報提供
訪問看護師は、自身の観察や患者とのコミュニケーションを通じて得られる情報をもとに、浮腫の原因や症状の変化を医師に報告します。
食事内容や運動状況の変化、体重の増減、排尿や排便の異常など、具体的なデータや観察結果を提供することで、医師はより正確な診断を下すことができます。
ケアプランの立案
医師が浮腫の原因を把握し、診断を行った後、訪問看護師はその情報をもとに適切なケアプランを立案します。
ケアプランには、適切な食事指導、適度な運動の促進、必要な薬物療法などが含まれる場合があります。
訪問看護師は、患者とその家族にケアプランを説明し、実施する際の支援や教育も担当します。
このように訪問看護師は、在宅療養中の患者に対して継続的なケアを提供する重要な役割を果たしています。彼らの観察力と情報提供は、医師が正確な診断を行い、適切な治療とケアを提供するために欠かせません。
在宅での浮腫のケアにおいて訪問看護師がチェックすべき4つのポイント
さいごに在宅療養における浮腫のケアにおいて、訪問看護師が特にチェックすべき4つのポイントについて詳しく説明します。
(1)食事の蛋白質
蛋白質の摂取量が少ない場合、血漿浸透圧が低下します。これにより、間質液の回収がうまく行われず、浮腫を引き起こす可能性があります。訪問看護師は患者の食事内容を評価し、蛋白質の摂取量が適切かどうかを確認します。必要に応じて、栄養士と連携して蛋白質の摂取を増やすためのアドバイスや指導を行います。
(2)食事の塩分
塩分の摂取量が多い場合、体は余分な水分を貯め込もうとします。その結果、浮腫が起こりやすくなります。訪問看護師は患者の食事中の塩分摂取量を評価し、適切な制限が行われているかを確認します。必要に応じて、食事の工夫や塩分制限のアドバイスを提供します。
(3)水分摂取量と尿量
水分摂取量が少ない場合は脱水症状が起こり、逆に摂取量が多い場合は浮腫の原因となる可能性があります。訪問看護師は患者の水分摂取量と尿量をチェックし、バランスが適切かどうかを評価します。適切な水分摂取量と同程度の尿量が排出されているかを確認することが重要です。
(4)服薬状況
利尿薬は浮腫の治療に一般的に使用されます。しかし、患者が処方された利尿薬を正しく服用していない場合、浮腫の原因となることがあります。訪問看護師は患者の服薬状況を確認し、利尿薬の適切な使用が行われているかを確認します。必要に応じて、服薬の指導やアドバイスを提供します。
訪問看護師の役割は医師との連携を重視し、患者の状態を適切に評価し、必要な情報を提供することです。診断や治療は医師の専門領域ですが、訪問看護師は日常生活におけるケアや環境の整備において重要なサポート役となります。
まとめ
訪問看護における浮腫ケアは、患者の自宅での療養において重要な役割を果たします。浮腫は様々な原因によって引き起こされる症状であり、全身性浮腫や局所性浮腫、リンパ浮腫などのタイプがあります。
訪問看護師は、浮腫の原因を見極めるために患者の生活要因を注意深くチェックし、医師と協力して最適なケアプランを立てることが重要です。
食事、塩分摂取、水分摂取量、服薬状況など、生活要因に関する詳細な情報を収集し、患者の健康状態の改善に向けた具体的なアドバイスや指導を行います。訪問看護師の専門知識と経験は、在宅療養中の浮腫患者にとって貴重な支援となります。
訪問看護師の専門性と適切なケアの提供が、患者の健康と生活の質を向上させる一助となることでしょう。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護