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訪問看護師が知っておきたい!在宅における廃用症候群の予防と支援方法とは

「身体を動かさない」、または「動かないこと」で、心身の機能に様々な障害を起こし、ADL(日常生活動作)が低下した状態のことを「廃用症候群」といいます。

廃用症候群は、高齢者の生活機能低下に大きな影響を与えるものであり、訪問リハビリテーション(訪問リハ)の利用者でも、廃用症候群がサービス開始の要因となることがよくあります。

廃用症候群の原因は、医療的ケアに伴う心身の安静、不活発な状態が続くことであり、病気やケガによって長期間寝たきりの状態となってしまうと、全身の機能が一気に低下してしまう恐れがあるため、早めの予防と対策が重要です。

今回は、廃用症候群の概要から原因、諸症状、廃用症候群が在宅療養に与える影響、予防と支援方法等をお伝えします。

廃用症候群(生活不活発病)とは

廃用症候群(生活不活発病)とは

廃用症候群※は、病気やケガなどの理由により体を動かす機会が減少し、結果として身体能力の著しい低下や精神障害が生じる状態を指します。

※廃用症候群は学術用語であり、「廃用」が「廃止と不使用~役立たなくなり、使わなくなること」といった否定的な意味合いを持つため、最近では「生活不活発病」とも呼ばれることが増えています(本コラムでは「廃用症候群」の表記で解説します)。

廃用症候群は在宅で療養をされている高齢者の生活機能低下に大きな影響を与え、厚生労働省によれば、要介護度別の原因のうち35%が廃用症候群関連であると報告されています。

特に高齢者は廃用症候群の進行が速く、1週間以上寝たままの状態が続くと、10~15%程度の筋力低下が見られることもあります。このような状態が生じると、生活の質や機能が急速に低下するため、早期の対策や予防が重要です。

廃用症候群とサルコペニアとの違い

廃用症候群とサルコペニアとの違い

サルコペニアと廃用症候群(生活不活発病)は、どちらも身体の機能低下に関わる状態ですが、いくつかの違いがあります。

サルコペニアは、ギリシャ語の「サルコ」(筋肉)と「ぺニア」(喪失)からきており、主に筋肉の喪失を指します。この状態は加齢や病気によって引き起こされ、歩行速度の低下や杖や手すりの必要性など、主に筋肉の減少に関連した身体機能の低下が見られます。

一方で、廃用症候群は筋肉だけでなく、骨、臓器、精神機能など、全身のさまざまな部位に影響を与える状態です。生活不活発病とも呼ばれ、体を動かさないことが原因で起こり、様々な機能の低下が見受けられます。

具体的な違いとしては、サルコペニアは主に筋肉量と筋力の減少が特徴であり、廃用症候群は全身の機能低下が広範で、筋肉以外の様々な部位にも影響を及ぼします。簡単に言えば、サルコペニアは筋肉に焦点を当てた状態であるのに対し、廃用症候群は全身の機能が影響を受ける状態といえます。

廃用症候群(生活不活発病)の原因

廃用症候群(生活不活発病)の原因

廃用症候群の具体的な原因は、以下の通りです。

(1)長期間の安静状態

長期入院や病気・ケガによる安静状態は、身体の筋肉や関節がほとんど動かない状態が続くことを指します。この期間中、筋肉や関節、臓器の動きが極端に制約され、これが原因で筋力や運動能力が低下します。

(2)運動量の低下

自力での動きが難しくなり、車いすやおむつの使用が増えると、身体を動かす機会が減少します。これにより筋力の減少や運動能力の低下が生じ、生活の質が低下します。廃用症候群は、このような運動量の低下が持続することで進行します。

(3)関節の痛みや動きの鈍り

高齢になると、関節などに痛みが生じることが増えます。これにより、日常の活動や運動が制約され、身体を動かすことが億劫になります。関節の痛みや動きの鈍りがあると、自然と運動量が減少し、身体全体の機能が低下します。

(4)認知機能低下

高齢者の廃用症候群の原因は、病気やケガ、長期入院だけではなく、段差でつまずいたことから恐怖心が生まれ、それによって不活動に陥ることや、風邪気味で2~3日寝込んだ後、精神的なストレスによる閉じこもりなどが挙げられます。

認知機能が低下しているなど、予備能力が低い高齢者は特に気をつける必要があります。

在宅の廃用症候群の症状

在宅の廃用症候群の症状

廃用症候群は、関節拘縮や筋萎縮、骨粗鬆症、褥瘡などの局所症状だけでなく、起立性低血圧、心肺機能の低下などの全身症状、意欲低下やうつ傾向などの精神・神経症状など、多岐にわたる変化が見られます。

在宅療養をおこなう高齢者の廃用症候群の症状は、以下のようなものがあります。

(1)筋骨格系

在宅療養中の高齢者の廃用症候群における筋骨格系の症状には、筋力低下や筋萎縮、関節の拘縮、骨粗鬆症などが挙げられます。これらの症状は運動不足や安静状態により引き起こされ、日常生活における動作の制約や痛みが生じることがあります。

(2)循環器系

循環器系における症状としては、心機能や全身の持久力の低下、起立性低血圧、深部静脈血栓症などがあります。在宅療養中の高齢者は運動不足が原因でこれらの症状が現れやすくなります。

(3)呼吸器系

呼吸器系における症状としては、沈下性肺炎や無気肺が挙げられます。寝たきりや安静状態が続くと、呼吸器の機能が低下しやすくなります。

(4)泌尿器系

泌尿器系における症状には、尿路結石や尿路感染症などがあります。寝たきりや動きの制約が続くことで、泌尿器の健康に影響を及ぼす可能性があります。

(5)消化器系

消化器系における症状には、食欲低下、体重減少、便秘、低栄養などがあります。これらの症状は摂取カロリーの低下や運動不足により引き起こされます。※高齢者の廃用症候群のほぼ9割が低栄養であるといわれています。

(6)皮膚系

皮膚系の症状には、床ずれ(褥瘡)が挙げられます。寝たきりや動かないことが続くと、皮膚が圧迫されることにより、床ずれが発生しやすくなります。

(7)精神系

精神系の症状としては、抑うつ状態や認知機能低下があります。長期の安静状態や孤立感が心理的な健康に悪影響を及ぼすことが考えられます。


これらの症状がさらに活動性を低下させ、ますます全身の機能が低下し、ついには寝たきりに至るという悪循環に陥ります。

高齢者の場合、比較的短期間の安静臥床でも廃用症候群が生じるため、注意が必要です。

さらに、気分的な落ち込みが顕著に現れてうつ状態になったり、前向きに取り組むやる気が減退したりと、精神的な機能低下も注意を払う必要があります。

廃用症候群が在宅療養に与える影響とは

廃用症候群が在宅療養に与える影響とは

在宅療養における廃用症候群の対応には、いくつかのポイントに気を配る必要があります。

病院では、24時間体制で看護が提供され、体位変換や床上でのリハビリテーションなどが行われますが、在宅ではこれらの役割が主に家族に委ねられます。そのため、介護力が不足すると、積極的な体位変換や離床が難しくなり、療養者が廃用症候群に陥るリスクが高まります。

また廃用症候群は利用者の生活の質だけでなく、介護負担による家族の生活の質にも影響します。

廃用症候群を防ぐためには、長期臥床や過度な安静を避け、生活を活発にすることが不可欠です。

訪問看護師は、身体的・心理的・社会的な活動性を高めるケアを提供し、予防に努めるとともに、家族介護者の健康を維持し、介護負担を軽減するために社会資源を適切に導入することが大切です。

在宅における廃用症候群の予防と支援

在宅における廃用症候群の予防と支援

(1)利用者の1日の臥床時間と活動状況の把握

在宅における廃用症候群の予防のために、訪問看護師は利用者の1日の臥床時間や離床時間の程度、活動状況を確認します。また、活動時に起立性低血圧や息切れなどの症状がないか、疾患とその治療により活動が妨げられていないか、そして活動意欲が低下していないかなども注意深く確認します。

さらに、日常生活動作(ADL)の状況や他者との交流やコミュニケーションの様子なども把握し、全身の状態と生活状況をトータルでアセスメントします。

(2)頻回な体位交換と早期離床

離床は生活を活発にするための第一歩です。日中はベッドから離れて椅子座位とすることが好ましいです。全身の状態と座位の保持の可能性をアセスメントして、ベッド上で段階的なヘッドアップを行い、座位へと移行します。

また、座位が可能な利用者であれば、立位も重要です。立位時間をできるだけ増やすことが基本です。立位は廃用性骨萎縮の予防にも有効であり、起立性低血圧に注意して実施します。

体位変換は褥瘡の発生や沈下性肺炎の予防にもつながります。褥瘡予防には必要に応じて30度側臥位や体圧分散マットレスなどを取り入れることが重要です。

(3)日々の運動習慣の教育と指導

日々の運動習慣については、生活に組み込み、習慣化できる運動や痛みのない範囲で安全に続けられるものを指導します。

運動を行う際には、ゆっくりとかつ痛みのない範囲で行い、無理をしないことが大切です。さらに、習慣化ができるように、自発性を引き出すかかわりが求められます。

在宅での運動は、療養者と家族だけで安全に続けられるものであることが重要です。立ち上がり運動や上肢の関節可動域運動は手軽に実施でき、効果が上がりやすいです。

(4)食事による十分なたんぱく質の摂取

廃用症候群においては、「食事と栄養」にも留意が必要です。

廃用症候群を発症している人の約9割が低栄養状態になっていると言われています。食事においては、十分なエネルギーとたんぱく質の摂取が重要です。食事の際には、食品の品目数を意識し、栄養バランスにも配慮するようにしましょう。

食欲がない場合は、健康状態を観察してなぜ食欲不振なのかを見つけましょう。嚥下不良や消化器機能の低下など、その原因はさまざまです。口腔ケアをしっかり行ったり、消化しやすい食事に変更したりするなど、原因に合った対策を考えて実践することが大切です。

(5)廃用症候群の予防のリハビリテーション

関節可動域訓練や四肢筋力訓練などを行う際には、利用者が日常の動作や希望する生活を考慮するだけでなく、その人らしい生活を送ることができるかどうかの視点で、リハビリテーション訓練の方法や達成したい目標を療養者・家族と協力して検討することが重要です。

日常生活の中でできることを少しずつでも毎日行うことが大切です。最初は椅子に座って関節に負担のかからない運動から始め、軽い運動ができるようになったら、徐々に時間を延長したり、回数を増やしていくことが良いでしょう。

まとめ

今回は、廃用症候群の概要から原因、諸症状、在宅療養に与える影響、予防と支援方法等をお伝えしました。

在宅療養をおこなう高齢者の廃用症候群の予防のためには、身体的・心理的・社会的な活動性を高めるケアをおこなっていく必要があります。

また利用者だけでなく、家族介護者の健康を維持し、介護負担を軽減するために社会資源を適切に導入することが大切です。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

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