7月も半ばを迎え、梅雨明けも近づきいよいよ夏本番を迎えようとしています。
しばらくは最高気温30度以上の真夏日が当たり前になり、熱中症が急増する時期になります。
熱中症になる大きな要因が「脱水症」です。
特に高齢者は、加齢に伴う体内水分量の減少や生理機能の低下により、脱水症に陥りやすくなります。実際に熱中症で救急搬送される患者の約半数が65歳以上の高齢者であるというデータもあります。
脱水症は在宅療養者の活動能力を著しく低下させ、生命に対して深刻なリスクをもたらします。さらに、脱水症が引き金となり、重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。
そのため、訪問看護師には高齢者に特有の脱水症の症状や、その予防策について深く理解することが求められます。
今回は、脱水症をテーマに在宅高齢者の脱水症の特徴とその予防対策についてお伝えします。
脱水症とは
脱水症とは、水分および電解質(ナトリウムやカリウムなどの塩類を含む)が汗などで喪失し、それらの補給が不十分な状態を指します。
脱水症は、体調不良に伴う飲食量の減少により体内への水分摂取が減少したり、発汗、下痢、嘔吐、多尿、出血などにより体外への水分喪失が増加したりすることで発症します。
脱水症によって体液が不足すると、酸素や栄養素を全身に適切に供給することが困難となり、放置すると重大な健康障害に発展するリスクがあります。
さらに、糖尿病や排尿障害などの基礎疾患の予兆として脱水症が現れる場合もあり、早期の発見と対応が極めて重要です。
脱水時の症状とは
脱水症状には、口唇や舌の乾燥、皮膚の乾燥と弾力性の低下、体温の上昇、頻脈、起立性低血圧、体重減少、全身の倦怠感、歩行時のふらつきの増加、活動性の低下、頭痛などが認められます。
特に脱水症では脳、消化器、筋肉に関連する症状が顕著に現れます。
脳における水分不足は、立ちくらみ、頭痛、集中力の低下、意識消失を引き起こし、重症化すると意識障害やせん妄を伴うことがあります。
消化器系では、水分不足により食欲低下、悪心、下痢、便秘といった症状が発生します。
筋肉においては、筋肉痛、しびれ、麻痺、こむら返りなどの症状が見られます。
検査データでは、脱水状態においてNa(ナトリウム)やK(カリウム)などの電解質異常が確認されるほか、Ht(ヘマトクリット)値、BUN(血清尿素窒素濃度)、Cr(血清クレアチニン濃度)の上昇が一般的に観察されます。
脱水症の合併症
脱水症になると、血液中の水分量が減少し、心血管疾患のリスクが高まります。
さらに、消化器への血流不足や、口腔・鼻腔・気管支の粘膜の乾燥が原因で、感染症にかかりやすくなります。
感染症による発熱や下痢、嘔吐は、脱水症をさらに悪化させるため、この悪循環を断ち切ることが非常に重要です。
また、脱水状態で薬を投与すると、薬の効果が十分に発揮されないだけでなく、副作用が増す可能性があります。体液バランスを整えることは、さまざまな疾患の治療の基本となります。
訪問看護における利用者の脱水予防とは
訪問看護師は、日常的に脱水を予防する視点で関わり、脱水を早期に発見し、対応することが重要です。
高齢者は一般的に、症状がわかりにくいことがあります。加齢による生理的な変化がそれを隠すこともあります。
そのため、個々の日常の基準と比較することが重要です。
食事摂取量や水分摂取状態、排泄、皮膚の状態、表情、会話などを定期的に観察し、微妙な変化に気づくことが必要です。
高齢者の脱水の特徴とは
高齢者は老化に伴い、体内の水分量が減少し、ナトリウムの保持機能が弱まり、腎臓での再吸収力が低下します。また、渇中枢の感受性も低下するため、脱水を起こしやすくなります。
このため、高齢者の脱水には特に注意が必要です。
さらに、高血圧や心不全などの循環器疾患を抱え、利尿薬を服用している高齢者では、水分が過剰に排泄されやすくなります。
発熱時には不感蒸泄や呼吸数の増加、下痢や嘔吐、褥瘡などの創傷からの滲出液により、水分および電解質の過剰な喪失が見られます。経口摂取が困難な場合、飲水量が減少し、脱水症状がさらに悪化することがあります。
加えて、水分のみを補給し、必要な電解質を補充しない場合、熱中症の予備群や「かくれ脱水状態」となるリスクが高くなります。これらの状態を予防するためには、水分とともに適切な電解質の補給が重要です。
高齢者のかくれ脱水とは
高齢者は温度を感じる力が弱くなっていることや、体内の水分が減っているため、体温調節が難しくなっています。そのため、自分では気づかないうちに脱水状態に近づいていることがあります。
体内の水分が1~2%失われることで起こる軽度の脱水状態を「かくれ脱水」と呼びます。
※隠れ脱水の注意チラシはこちらより無料でダウンロードできます。
脱水になりやすい高齢者の身体的要因
体内の水分量の減少
食事の量が減少したり、嚥下(えんげ)障害により水分摂取量が減ったりすることで、体内の水分が不足し、脱水症が引き起こされます。
加齢により筋力が低下し、水分を蓄える筋肉量が減少することも、脱水症の原因と考えられます。
加齢による腎臓機能の低下
加齢による腎臓機能の低下も脱水症の原因とされています。
腎臓は体内の水分調整を担っており、その機能が低下すると体内の水分や電解質を保持する能力が弱まります。これにより体液のバランスが崩れ、脱水症が起こりやすくなります。
加齢による感覚機能の低下
加齢による感覚機能の低下により、のどの渇きに気づかないことが原因で、十分な水分摂取ができず脱水症のリスクが高まります。
また、認知症の影響で飲み物を摂取したかどうかを忘れ、長時間水分を摂らないまま過ごしてしまうことも、脱水症につながることがあります。
服用している薬の影響
服用している薬が原因で脱水症になる可能性もあります。
特に血圧を下げる降圧薬には利尿作用がある種類があり、これが尿の排出を増やし、必要な塩分や水分が不足することで脱水症を引き起こすことがあります。
脱水になりやすい身体的要因のアセスメント項目
以下は身体的要因による脱水リスクのアセスメント項目です。できるだけ健康状態の良い時に評価することが推奨されます。
1.高血圧、糖尿病、心臓または腎臓疾患があり、利尿薬を服用している
2.過去1年間に脱水症または熱中症を経験したことがある
3.栄養不良(アルブミン値が3.5g/dL以下である)
4.肥満(BMIが25kg/m²以上である)
脱水になりやすい環境的要因のアセスメント項目
以下は脱水リスクの環境的要因のアセスメント項目です。できるだけ健康な状態の時に評価することが推奨されます。
1.節電を余儀なくされている
2.単身で生活している
3.気密性の高い住宅(例:マンションなど)に住んでいる
4.最上階に住んでいる
脱水につながりやすい「出来事」のアセスメント項目
以下は脱水につながりやすい「出来事」のアセスメント項目です。下記の条件を満たす人には、以下の「出来事」が1つでも該当する場合、脱水を疑う必要があります。
1.熱帯夜や真夏日などで暑い日が続いている
2.大量の汗をかいている
3.下痢や嘔吐が繰り返し起こっている
4.風邪を引いている
5.手術を受けたり、事故でけがを負った
6.精神的なストレスを受けている
7.引っ越しや親族の死などで生活環境が変わった
脱水症が疑われる症状のアセスメント項目
以下は脱水症が疑われる症状のアセスメント項目です。
1つでも該当する場合、脱水を疑いましょう。経口補水液の摂取を勧め、譲許うに応じて診断を受けることが必要です。
1.食欲の低下
2.頭痛や筋肉痛など、体のどこかに痛みがある
3.活気がなく、居眠りがちである
4.会話が多いまたは無口になった
5.尿や唾液の量が減少している
6.便秘
7.微熱が続いている
8.四肢が冷たく感じる、またはチアノーゼ
9.脇下が乾いている
10.口腔内が乾燥している
11.舌の表面が光沢を欠いている
12.暑いのに汗をかかない
13.最近体重が減少した
脱水の状態がみとめられた場合の診断と対応
以下の脱水の状態・症状が確認された場合は、医療機関での採血・採尿を行い、確定診断を受け、治療を開始する必要があります。
・脈拍数が1分間に120回以上
・体温が37℃以上
・爪を押した後、白色からピンク色に戻るまで3秒以上かかる
・皮膚の弾力性が低下している
・部分的または全身的な痙攣が見られる
・意識レベルが低下している
・体重が3%以上減少している
高齢者に必要な水分量とは
高齢者に必要な水分量は成人と同じく、約2,400~2,800mLです。
具体的には、代謝による水分は200~300mL、食事からの摂取量は700~800mLであり、経口摂取すべき水分量は通常で約1,500mLとされます。
食事が少ない場合や水分の排出が増えている場合、高温や運動、入浴後などで水分や電解質が失われる場合には、通常よりも経口で摂取する水分量を増やす必要があります。
高齢者の水分摂取の工夫
水分摂取を工夫する方法として、嚥下反射が低下している場合や嚥下障害がある場合には、ヨーグルトやゼリー、プリンなどの粘性の高い食品や、増粘剤を加えてとろみをつけたゼリータイプの経口補水液もあります。
利用者・家族への水分摂取の必要性の理解の促進
室内の温度や湿度の調整も重要ですが、エアコンの使用に関しては健康への影響や節電、経済的な理由、生活環境などが考慮されることがあります。これらを考慮した上で、予防的な対策を行う必要があります。
また、介護を必要とする高齢者が、家族介護者や周囲への気兼ねから、尿失禁や誤嚥を恐れて故意に水分摂取を控えることがあります。
高齢者や家族介護者が水分摂取の重要性を理解するために、適切に説明することが重要です。
※こちらから高齢者向けの熱中症予防チラシが無料でダウンロードできます。
まとめ
今回は、脱水症をテーマに在宅高齢者の脱水症の特徴とその予防対策についてお伝えしました。
高齢者は自分でのどの渇きや体調不良に気づきにくいため、周囲のサポートが不可欠です。
特に訪問看護師は、脱水症の初期段階で患者と接する機会が多いため、正しい知識と対策を利用者や家族に指導することが重要です。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。