日本の医療制度において、訪問看護は在宅での医療ケアを提供する上で欠かせない重要な役割を果たしています。
今後、人口における高齢者の割合がさらに増加し、在院日数の短縮化や医療技術の進歩により、在宅で療養をする医療依存度の高い患者が増えいくことは確実です。
これから訪問看護ステーションには、どのような機能が求めれれていくのでしょうか。
今回は、これからの訪問看護ステーションに必須である医療的ケアの強化、医療依存度の高い利用者への対応をテーマにお伝えします。
在宅療養において医療依存度の高い患者が増えている理由
近年、在院日数短縮化の流れの中、病院から在宅に帰ってくる利用者の重症度は上がっています。
まず最初に在宅療養において医療依存度の高い患者が増えている理由を整理していきます。
(1)高齢化社会
日本は高齢化社会が進んでおり、高齢者の医療需要が増加しています。高齢者は、慢性的な疾患を抱えている場合が多く、在宅療養においても医療依存度が高い患者が増えています。
(2)治療法の進歩
現在の医療技術の進歩により、生命を維持するために必要な治療が在宅で行えるようになってきています。これにより、在宅療養が可能な患者数が増えており、医療依存度が高い患者が増えていると考えられます。
(3)コスト削減の要求
医療費の増大により、在宅療養が推進されるようになっています。入院よりも在宅での治療が費用面で効率的であることから、医療機関や保険会社が在宅療養を支援するようになっています。
(4)新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症の流行により、入院が難しい状況が発生しています。これにより、在宅での治療や療養が必要な患者が増え、医療依存度が高い患者も在宅療養する必要があるため、増加すると考えられます。
以上のような理由により、今後も在宅療養において医療依存度の高い患者が増えていくと考えられます。これに伴い、訪問看護や在宅医療の重要性が高まっていくことが予想されます。
国は、訪問看護ステーションにどのような役割・機能を求めてくるのか
上記の理由から今後、国は訪問看護ステーションに以下のような機能を求めてくると考えられます。
1.在宅での医療ケアの充実
訪問看護ステーションは、在宅での医療ケアの充実を図ることが求められています。具体的には、在宅での医療ケアの質の向上や医療技術の向上、病院への入院回避、在宅医療に関する情報提供などが挙げられます。
2.地域包括ケアシステムの推進
訪問看護ステーションは、地域包括ケアシステムの推進にも貢献することが求められています。地域包括ケアシステムとは、医療や介護、福祉などのサービスを連携して提供するシステムのことで、訪問看護ステーションはその中心的な役割を果たすことが期待されています。
3.医療連携の推進
訪問看護ステーションは、医療連携の推進にも貢献することが求められています。具体的には、病院やクリニック、診療所、介護施設などとの連携を強化し、患者の病状や治療経過などを共有することが挙げられます。
4.地域住民の健康増進
訪問看護ステーションは、地域住民の健康増進にも貢献することが求められています。具体的には、健康相談や健康教育、予防接種の実施などが挙げられます。
5.人材育成の推進
訪問看護ステーションは、人材育成の推進にも貢献することが求められています。具体的には、訪問看護師の教育・研修や新人教育、訪問看護師の職場環境の整備などが挙げられます。
在宅療養で医療依存度の高い方の多い疾患の種類
では、在宅療養で医療依存度の高い方が多い疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的な疾患をあげていきます。
(1)脳卒中
脳卒中後のリハビリや、機能回復を目指したケアが必要であり、医療依存度が高い場合があります。
(2)慢性呼吸不全
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息などの呼吸器系の疾患により、酸素療法や人工呼吸器の装着などの医療が必要な場合があります。
(3)がん
がん患者の在宅療養では、痛みや吐き気などの症状のコントロールが必要であり、また抗がん剤や放射線治療による副作用の管理も必要となります。
(4)心不全
心不全による水分負荷の管理や、症状のコントロールが必要であり、医療依存度が高い場合があります。
(5)骨粗鬆症
転倒予防や運動療法、栄養管理などのケアが必要となります。
(6)神経難病
筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの神経難病では、機能回復を目的としたリハビリや、呼吸や食事などの機能維持に向けた医療が必要な場合があります。
なお、在宅療養での医療依存度は疾患だけでなく、個々人の状態によっても異なるため、利用者の状況に応じたケアが求められます。
訪問看護が医療依存度が高い利用者に対応するために必要なこと
訪問看護ステーションが医療依存度が高い利用者に対応するためには、以下のようなことが必要となります。
(1)医師やケアマネジャーとの連携
訪問看護は、ケアマネジメントと連携して、利用者のニーズを的確に把握し、適切な支援を提供することが必要です。看護師は、医師やケアマネジャーとのコミュニケーションを密にし、利用者のケアにおいて、より効果的な支援を提供することが必要です。
(2)利用者の状態やニーズに合わせたケアプランの策定
利用者の状態やニーズに合わせた、適切な看護計画を策定することが必要です。これには、医師やケアマネ、薬剤師、リハビリテーションスタッフとの協力が欠かせません。
(3)継続的な評価とモニタリング
医療依存度が高い利用者の状態は、急変することがあるため、継続的な評価とモニタリングが必要です。看護師は、利用者の状態の変化や問題点を見逃さず、早期に対応することが大切です。
(4)適切な医療器具や薬剤の管理
医療依存度が高い利用者は、医療器具や薬剤を適切に管理することが必要です。看護師は、利用者とその家族に対して、医療器具の使用方法や薬剤の管理方法を指導し、安全な利用をサポートすることが必要です。
(5)コミュニケーション能力の向上
医療依存度が高い利用者は、コミュニケーションに困難を抱えていることがあります。看護師は、利用者やその家族とのコミュニケーションにおいて、配慮と理解を持って接することが大切です。
訪問看護における医療依存度の高い利用者との入院中からの関わり
訪問看護ステーションが、医療依存度の高い患者への対応や多様なニーズに対応するためには、入院中からの関わりを持つことが大切です。以下がその理由になります。
(1)入院前の情報共有
訪問看護師は、医療機関や療養先の担当者と連携し、利用者の入院前の情報共有を行います。利用者の病歴や病状、治療方針などを把握し、在宅復帰に向けた準備を進めます。
(2)入院中のケアプランの策定
訪問看護師は、入院中の利用者の状態を把握し、在宅復帰後のケアプランを策定します。医療機関や療養先の医師や看護師、ケアマネージャーと協力して、利用者が安全かつ快適に在宅で過ごせるような計画を立てます。
(3)退院後の訪問看護
利用者が退院してからも、訪問看護師は利用者の在宅生活を支援します。利用者の病状や健康状態を常に把握し、病状の変化や合併症の発生に早期に対応します。医療機器や薬剤の管理、排泄や入浴などの日常生活の介助なども行います。
訪問看護師は、医療依存度の高い利用者との入院中からの関わりによって、在宅復帰後の利用者の安全と生活の質の向上に大きな貢献をすることができます。
医療依存度の高い利用者に対しての訪問看護がおこなう心理的なサポート
医療依存度の高い利用者に対して、訪問看護が心理的なサポートを提供することが重要です。以下は、訪問看護が行う心理的なサポートの例です。
(1)信頼関係の構築
訪問看護師は利用者と家族との信頼関係を築くことが重要です。利用者や家族からの相談に対しては真摯に向き合い、共感し、理解することが大切です。また、利用者の意見や希望を尊重し、共に目標を設定してケアプランを作成することで、利用者が自己決定をしやすい環境を作り出すことができます。
(2)ストレスや不安の軽減
医療依存度が高い利用者や家族は、慢性的な疾患や身体的制限、生活環境の変化などによってストレスや不安を感じることがあります。訪問看護師は、利用者や家族のストレスや不安を把握し、適切な対処法を提供することで軽減することができます。
(3)コミュニケーションの支援
言葉を発することが困難な利用者に対しては、適切なコミュニケーションの方法を見つけることが重要です。訪問看護師は、利用者と家族とのコミュニケーションの架け橋として役立ちます。また、利用者が孤独感を感じる場合には、利用者とのコミュニケーションを通じて孤独感を軽減することができます。
(4)家族への支援
医療依存度が高い利用者の家族は、利用者のケアや生活の変化によってストレスを感じることがあります。訪問看護師は、家族に対して利用者のケア方法や健康管理の方法を指導することで、家族の負担を軽減することができます。
以上のように、訪問看護師は利用者や家族の心理的なサポートにも力を入れることで、医療依存度の高い利用者のケアをより良いものにすることができます。
特別訪問看護指示があった場合の訪問について
特別訪問看護指示とは、医師が訪問看護師に対して特別な指示を出すことで、重症化の恐れがある医療依存度の高い利用者に対する訪問看護を行うことを指します。
特別訪問看護指示が出た場合、訪問看護師は指示通りに利用者の自宅を訪問し、必要な医療処置やケアを行います。通常の訪問看護と異なり、指示に基づいて定期的な訪問を行うことが求められるため、より専門的な知識や技術が求められる場合があります。
また、特別訪問看護指示が出た場合には、訪問看護師だけでなく、訪問診療や在宅医療を提供する医師、看護師、理学療法士、作業療法士などの専門家が協力してケアを行うことがあります。そのため、連携や情報共有が重要となります。
医療依存度の高い利用者に対応できる訪問看護ステーションになるために
(1)チーム医療の意識の向上
医療依存度の高い利用者には、看護師だけでなく医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士などの専門職が必要です。それぞれの専門職が協力し、チーム医療を行うことが重要です。管理者は、チーム医療の意識を向上させ、チーム内での連携・コミュニケーションを促すことが求められます。
(2)サービスの質の向上
医療依存度の高い利用者に対応するためには、高度な看護スキルと知識が必要です。管理者は、看護師が適切な知識とスキルを持つように、継続的な研修や勉強会の実施を行う必要があります。また、訪問看護サービス全体の質の向上にも取り組む必要があります。
(3)スタッフのモチベーション維持
医療依存度の高い利用者に対応するためには、看護師の負担が大きくなる場合があります。管理者は、スタッフのモチベーション維持に取り組むことが必要です。例えば、定期的な面談やフィードバックを行い、スタッフの意見を取り入れることができます。
(4)効率的な人員配置
医療依存度の高い利用者に対応するためには、効率的な人員配置が必要です。管理者は、利用者の状態やニーズに合わせて、看護師の配置を決定する必要があります。また、急な欠員や急増する利用者に対応するために、スタッフのシフト調整や人員の確保方法などにも取り組む必要があります。
このようにチーム医療の意識を向上させ、スタッフのスキルアップやモチベーション維持、効率的な人員配置などを行うことで医療ケアに強い訪問看護ステーションを作り上げることができます。
看護師が得られる学びややりがい、キャリア
医療依存度の高い利用者に対応することは、看護師にとって大きな学びややりがいにも繋がります。
(1)知識や技術の向上
医療依存度の高い利用者に対応するためには、多岐にわたる知識や技術が必要です。例えば、人工呼吸器の管理や緊急時の対応などが挙げられます。こうした知識や技術を習得することは、看護師としての専門性を高めることに繋がります。
(2)人間関係の構築
医療依存度の高い利用者は、多くの場合、長期にわたって訪問看護師と関わることになります。このような長期的な関わりの中で、利用者や家族との信頼関係を築くことができます。また、患者や家族と協力して、より良いケアプランを策定することも重要です。
(3)自己成長や自己肯定感の向上
医療依存度の高い利用者に対応することは、看護師の自己成長や自己肯定感の向上にも繋がります。例えば、利用者の状態が改善したときには、看護師自身も達成感を感じることができます。また、利用者や家族からの感謝の言葉をもらうこともあり、自己肯定感を高めることができます。
(4)キャリアアップの可能性
医療依存度の高い利用者に対応することは、看護師としてのキャリアアップの可能性を広げることができます。例えば、訪問看護師のリーダーとして、他の看護師を指導したり、ケアマネージャーやチーム医師と連携して、より高度なケアを提供することもできます。
以上のように、医療依存度の高い利用者に対応することは、看護師にとって大きな学びややりがいをもたらします。
もちろん精神的・肉体的負担も大きく、過酷な仕事でもあるため、管理者・チームによるによる適切なフォローアップが必要となります。
まとめ
今回は、これからの訪問看護ステーションに必須である医療的ケアの強化、医療依存度の高い利用者への対応をテーマにお伝えしました。
在宅療養が進むにつれて、医療依存度が高い利用者や末期がん患者、ALSなどの難病患者に対する訪問看護サービスが必要不可欠となります。
この記事がこれからの訪問看護ステーションの方向性の参考になれば幸いです。
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