訪問看護における会話術:利用者と家族のニーズを理解するポイント

訪問看護では利用者を支援し,利用者の気持ちも汲み取り,場合によっては家族員間の気持ちのズレやすれ違いを調整する役割を担います。

そのため、訪問看護師には、利用者と家族、それぞれの話をよく聞いて、生活全体をよりよくするケアにつなげていくことが求められます。

本コラムでは、訪問時における療養者、家族との会話の重要性と注意すべきポイントについてお伝えします。

話を聞くことは重要なアセスメントの一つ

話を聞くことは重要なアセスメントの一つ

訪問看護師が利用者に直接関わるのは、週に1回程度。得られる情報も限られます。

その限られた時間の中で、訪問看護師は、利用者の体調や症状、治療状況はもちろんのこと、生活状況や家族のサポート状況まで幅広く情報収集し、アセスメントを行う必要があります。

だからこそ、訪問時における利用者や家族との会話は、非常に大切なのです。

また、利用者や家族の話を聞くことは、単に情報収集だけでなく、相手の思いや意見を受け止める重要な行為でもあります。療養者が抱える不安や希望、日常生活での課題など、言葉に表れることで、より個別性のあるケアを提供するヒントになります。

また、会話を通じて人間関係や環境の変化も判断することができます。介護者との関係や仕事と介護の両立状況、家族の支援状況なども、会話の中で洞察することが可能です。

さらに、医療的に必要であっても現実的に行えないことや困難なことも、会話を通じて明らかになることがあります。

自然な会話の中で必要な情報をうまく引き出していく

自然な会話の中で必要な情報をうまく引き出していく

訪問看護の場では、自然な会話の中で必要な情報をうまく引き出していくことが求められます。そのために訪問前には、会話の糸口となるような話題を考えておくことも大切です。

「今日はお天気がいいですね」から始まる会話のなかで、「痛みが強くてあんまり動けない」など、ケアに直結する情報が得られます。

また、「家族に迷惑をかけていてつらい」「管につながれて生きるのはいやだ」など、家族には言えなくても、訪問看護師には話せることもあるかもしれません。

話を聞くときに大切な2つのポイント

話を聞くときに大切な2つのポイント

相手の話を聞くときには、以下の2つのポイントに注意しましょう。

(1)話をちゃんと聞いていることを視線や表情で示すこと

利用者の話を聞く際に、視線や表情を通じて「ちゃんと聞いていること」を示すことは、訪問看護師として大切なスキルの一つです。このアプローチは、温かさと尊重を伝える方法として、コミュニケーションの質を向上させる上で非常に重要です。

まず、視線について考えてみましょう。話をしている人に向かって適切な視線を保つことで、相手の話に真摯に耳を傾けていることを表現します。目を見つめることで、相手の言葉に対する真剣な興味を示し、共感の意志を伝えることができます。この視線の使い方は、話す人が自分の気持ちや考えを自然に表現できるような環境をつくり出すのに役立ちます。

そして、表情も同じく重要です。ほんのり微笑むことや、共感の表情を保つことで、話している人に安心感を与えます。これにより、利用者は自分の気持ちや状況を素直に打ち明けやすくなるでしょう。表情を通じて「あなたの話を受け入れています」というメッセージを送ることで、信頼関係を築く良いスタートを切ることができます。

このアプローチは、話しにくいことや感情的なことを共有する際にも特に効果的です。視線と表情を通じて、相手の言葉に対する真摯な関心を示し、彼らの声に耳を傾ける姿勢を示すことで、より深いコミュニケーションと理解が生まれるのです。

(2)先入観をもたないこと

先入観を持つことは、私たちが人や状況を特定の枠組みにはめてしまうことを意味します。

例えば、特定の病気や症状に基づいて、利用者をある特定のタイプとして捉えることは、その人の個性や独自のニーズを見逃す可能性があります。このような先入観は、適切なケアを提供する上で妨げとなることがあります。

人々はみな個々の背景や経験、価値観を持っており、同じ病気であってもその人自身の状況や考えは異なります。たとえば、脳卒中で麻痺がある人であっても、その人自身の希望や優先事項、生活スタイルは一意です。先入観を持つと、その人らしさを見逃してしまい、的確なケアが行えなくなるかもしれません。

先入観を持たない姿勢は、利用者と真摯に向き合い、彼らの個性や状況を深く理解するために欠かせません。その人がどんな価値を大切にし、どんな困難に直面しているのかを尊重し、共感することが重要です。その結果、適切なケアプランを立案し、利用者がより満足する結果を得ることができるでしょう。

要するに、先入観を排除し、常にオープンマインドで利用者と接することが、訪問看護師としての質の高いケアを提供するための重要なステップです。

利用者の家族が訪問看護に望む9つのニーズ

在宅環境においては、療養者と家族はお互いに影響し合うため、家族の状況把握は欠かせない要素となります。

在宅療養の過程で、家族が介護や家庭の事情によるストレスに悩み、その結果健康を損なってしまうケースも珍しくありません。

家族も看護の対象と捉え、利用者に限らず家族の変化にも敏感に気付けるよう、訪問看護師は家族が何を求め、どんな感情を抱えているのかを把握し、適切なケアを提供していくことが大切です。

それでは、家族は、訪問看護に対して何を求めているのでしょうか。

利用者の家族が訪問看護に望む9つのニーズをご紹介します。

1.「思いを話したい、感情を外に出したい」というニーズ

1.「思いを話したい、感情を外に出したい」というニーズ

家族が訪問看護にこのニーズを抱える場合、それは彼らが直面している状況や心情に対して、誰かに打ち明ける必要性や欲求を感じていることを意味します。療養者の健康状態や環境の変化、日常生活での課題など、家族は多くのストレスや感情を抱えています。これに加えて、介護や療養に伴う負担や不安も、彼らの心に影響を及ぼしています。

このニーズが重要なのは、感情を外に出すことが、心の健康とストレスの軽減に繋がるからです。訪問看護師は、家族が話したいことや感じていることに耳を傾け、その思いを受け止める場を提供します。これにより、家族は自分の感情を共有し、抱える不安や悩みを軽減することができます。

さらに、感情を共有することは家族間の絆を深める助けにもなります。家族がお互いの思いや考えを理解し合うことで、協力的な関係を築くことができ、利用者のケアにおいてもより効果的なチームワークを実現できるでしょう。

2.「今後の療養生活に希望をもちたい」というニーズ

2.「今後の療養生活に希望をもちたい」というニーズ

このニーズは、家族が利用者の療養生活において、前向きな展望や希望を持ちたいという願いを指します。疾患や健康状態の影響で日々の生活に制約が生じる状況下で、家族は未来への不安や心配を感じることがあります。しかし、そのような中でも、利用者と家族が共に明るい展望を持ち、前向きな気持ちを維持することは、心の健康や生活の質向上につながる重要な要素です。

このニーズの背後には、希望というエネルギーがあります。利用者の家族は、病気や療養による制約を超えて、今後の生活においても楽しみや目標を持ちたいと願っています。これは、家族が困難な状況にもかかわらず、一緒に力を合わせて前進する姿勢を示すための重要な要素です。

訪問看護師の役割は、利用者の家族に対して、希望をもつことの大切さを理解し、支援することです。家族とのコミュニケーションを通じて、将来のゴールや目標を共有し、可能性を探求することが重要です。また、医療的なアドバイスや情報提供を通じて、利用者が持っている可能性や選択肢についても共に考えていくことが求められます。

3.「家族の役に立ちたい」というニーズ

3.「家族の役に立ちたい」というニーズ

このニーズは、家族が利用者の健康や生活に対するサポートを提供し、役立ちたいという意欲を指します。病気や健康の問題が生じると、家族は利用者の健康や幸福を考え、そのケアやサポートに尽力したいと願うことがあります。この願いは、利用者の家族が愛情と思いやりをもって接するための欲求から生じるものです。

「家族の役に立ちたい」という要望の背後には、家族としての絆や責任感があります。家族は、利用者が直面する課題や困難を共に乗り越えようとする姿勢を持ち、その一翼を担いたいと願っています。この姿勢は、家族の間での連帯感を高め、共に困難を乗り越えていく力を育む一助となります。

訪問看護師は、このニーズに応えるために、家族と連携を深めることが重要です。家族が役に立ちたいと思っていることや、彼ら自身の意見や希望を尊重し、協力の機会を提供することが求められます。訪問看護師の知識と経験を通じて、家族に適切なアドバイスや情報を提供し、利用者の健康を支えるためのアプローチを共に考えていくことも重要です。

4.「自身の体もケアしたい」というニーズ

4.「自身の体もケアしたい」というニーズ

このニーズは、利用者の家族が、利用者のケアや支援に集中する中で、自分自身の健康や体調管理を忘れてしまうことへの関心を示すものです。療養者のケアに従事することは、家族にとって心身ともに負担が大きいことがあります。そのため、家族は自身の健康も大切にし、疲れやストレスを軽減する方法を模索していることがあります。

このニーズが重要なのは、家族が健康であることが、利用者のケアに対する質を高めるために不可欠であるからです。健康でなければ、十分なサポートを提供することが難しくなり、疲労やストレスが蓄積される可能性があります。家族が健康を維持し、バランスの取れた生活を送ることで、利用者のケアに専念しやすくなります。

訪問看護師の役割は、家族が自分自身の健康も大切にし、適切なケアを受けることの重要性を理解する支援を行うことです。家族に対して、ストレスの軽減方法やリラックス技術、健康な食事や運動の取り入れ方などを提案し、健康管理に対する意識を高める助けとなります。

5.「がんばっていることを認めてほしい」というニーズ

5.「がんばっていることを認めてほしい」というニーズ

このニーズは、家族が利用者のケアや支援に専念しつつ、その努力や頑張りが認められることを望んでいることを示しています。利用者の健康状態や日常生活の課題に向き合うことは、家族にとって大きな負担となることがあります。その中で、家族は感情的な面や精神的な側面にも苦労を抱えています。そのため、家族が支え合い、協力してがんばっていることを認めてもらいたいという願いが生まれます。

家族ががんばっていることを認めてほしいというニーズは、家族の精神的な支えとなると同時に、彼らのやる気とエネルギーを引き出す要素でもあります。その努力が認められることで、家族は自分の存在価値を感じ、利用者へのケアに向けて前向きな姿勢を保つことができます。また、この認められる感覚は、家族のストレスや不安を軽減し、心理的な安定感を提供する役割も果たします。

ここで看護師の「聞く」姿勢が重要な役割を果たします。看護師は家族が話す内容に真剣に耳を傾け、その思いや努力を理解し、共感の意を示すことで、家族の感情やニーズに寄り添うことができます。家族が話すことで、彼らのがんばりや苦労を肯定し、認めることができるのです。

6.「現状を正確に把握したい」というニーズ

6.「現状を正確に把握したい」というニーズ

このニーズは、家族が利用者の健康状態やケアの進行状況を正確に理解し、適切な判断を下すために必要な情報を得たいと願っていることを指します。利用者の状態は日々変化するため、家族は正確で最新の情報を持つことが重要と認識しています。この要望は、家族が利用者に最適なケアや支援を提供するために欠かせないものです。

現状を正確に把握したいというニーズは、家族が利用者の状態を深く理解し、その変化やニーズを的確に把握したいという願いを表しています。これには、利用者の健康状態や症状、治療の進行状況、日常生活での課題などが含まれます。家族はこれらの情報を得ることで、利用者に合わせた適切なケアプランを立てるための基盤を築くことができます。

訪問看護師の役割は、このニーズに応えるために必要な情報を提供し、家族の不安や疑問を解消する支援を行うことです。訪問看護師は、家族とのコミュニケーションを通じて利用者の状態や進行状況を共有し、必要な情報を提供します。また、利用者の状態の変化や進展について家族に正確な情報を提供することで、家族が利用者のケアに関する意思決定を行いやすくなります。

7.「自分らく生活したい」というニーズ

7.「自分らく生活したい」というニーズ

このニーズは、利用者の家族が、利用者ができる限り自分らしい生活を送りたいという願いを指します。疾患や健康状態によって制約が生じる中でも、利用者はできるだけ日常生活を維持し、自立して暮らすことを望んでいます。この願いは、利用者の尊厳を尊重し、その生活の質を向上させることにつながる重要な要素です。

「自分らく生活したい」という要望には、自己決定の権利と生活の主体性が関わっています。利用者は自身の生活を選び、自分らしさを大切にしたいと願っています。これには、日常生活での選択や意思決定、趣味や興味を追求する機会を持ちたいという欲求が含まれます。訪問看護は、利用者の個別性や希望を尊重し、できる限りその願いを実現するための支援を提供する役割があります。

訪問看護師の役割は、利用者と家族と協力して、自立した生活を実現するための方法を探求することです。訪問看護師は、利用者の能力や関心を理解し、彼らの自己決定の権利を尊重します。利用者ができる限り自分で行えることをサポートし、その上で必要なケアや支援を提供していくことが求められます。

8.「自分のことも気づかってほしい」というニーズ

8.「自分のことも気づかってほしい」というニーズ

このニーズは、利用者の家族が、利用者のケアに専念しながらも、自分自身の心情や健康に対する配慮を忘れないでほしいという願いを指します。利用者の健康状態や療養に関わることで、家族は感情的な負担やストレスを抱えることがあります。しかし、それでもなお、家族自身の健康や精神的な安定も大切に考えてほしいという思いがあります。

「自分のことも気づかってほしい」という要望には、家族の心情への理解と共感が重要な要素となっています。家族は利用者のケアに心を砕きながらも、自身が疲弊したり無理をすることで健康を害する可能性があるため、バランスを取ることが求められます。この要望は、家族も支え合い、お互いの心身の健康を守りながら、利用者へのケアに取り組む姿勢を示すものです。

訪問看護師の役割は、このニーズに応えるために、家族の健康と心のケアに対する意識を高める支援を行うことです。訪問看護師は、家族とのコミュニケーションを通じて、彼らの心情やストレスを理解し、共感の意を示します。また、健康の保持方法やストレスの軽減法を提案し、家族が自身の健康を守りながら利用者へのケアに取り組むためのサポートを行います。

9.「具体的な対応策を知りたい」というニーズ

9.「具体的な対応策を知りたい」というニーズ

このニーズは、利用者の家族が、利用者の健康問題やケアに関して、具体的なアクションや対応策を理解し、実践するための情報を得たいと願っていることを指します。療養者の健康状態や日常生活での課題に対処するために、家族は具体的な指針や方法を知りたいと考えています。これによって、利用者への適切なケアを提供するための手助けが期待されています。

「具体的な対応策を知りたい」という要望は、家族の不安や心配に対する対処方法を得たいという願いから生まれます。特定の疾患や症状に関して、どのようなケアや行動が有効であるか、どのようなサポートが必要かを知ることで、家族はより自信を持って利用者のケアに取り組むことができます。具体的な対応策を知ることは、家族の能力や意欲を引き出し、利用者へのケアの質を向上させる一助となります。

訪問看護師の役割は、このニーズに応えるために、家族に対して具体的な情報やアドバイスを提供することです。訪問看護師は、利用者の健康状態や症状、ケアプランに関する詳細を家族と共有し、具体的な対応策を説明します。また、日常生活での適切な注意やケア方法、緊急時の対処方法などを指導することで、家族が利用者のケアに自信を持ちながら取り組むことができるようにサポートします。

まとめ

訪問看護における会話術は、利用者と家族のニーズを理解し、より質の高いケアを提供するための鍵となります。ここで挙げたポイントを心に留めて、利用者と家族とのコミュニケーションに努めることで、彼らの健康と幸福の向上に寄与することができます。

利用者と家族の声に耳を傾け、彼らの願いや必要を尊重しながら、共に歩む支援を提供しましょう。訪問看護師の会話の力が、より良いケア体験と家族の満足につながることを信じて、使命を果たしていきましょう。

今回の記事が、訪問看護に興味を持つ看護師の方々にとって有益な情報となれば幸いです。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

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