がんは長年、日本人の死因のトップを占めています。
近年のがん治療は、入院期間の短縮化と化学療法や放射線治療を通院で行えるようになっていることから、入院加療から通院在宅療養への移行が増えています。
訪問看護ステーションは、病院の医療と利用者をつなぐ架け橋となり、身体的、精神的な苦痛を和らげ、在宅で安定した生活ができるように支援を行います。
今回は、がん慢性期をテーマに在宅における特徴や家族へのサポート、支援のポイントなど訪問看護の役割についてお伝えします。
在宅におけるがん慢性期とは
国立がん研究センターのがん統計によると、2020年のがんによる年間死亡者数は37万8,385人に上ります。
部位別では肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順に多く見られます。生涯でがんによって死亡する確率は、男性では4人に1人、女性では6人に1人になっています。
がんの発症に伴って、疼痛、悪心、便秘、呼吸困難、倦怠感、食欲不振、日常生活動作の低下、せん妄などさまざまな症状が生じやすくなります。
そのため、在宅におけるがん慢性期では、がんそのものによる症状(疼痛など)だけでなく、日常生活動作の低下や本人や家族の不安、介護負担などにも対応していく必要があります。
がん慢性期の在宅での状況
がん慢性期の症状は徐々に進行し、日常生活機能が低下し、栄養摂取が困難になる場合があります。
医療者は利用者の苦痛の程度を十分に理解していても、本人や家族がその深刻さを十分に把握していないことがあります。
節目節目で現在の状況について伝え、今後どういうことが起きうるか,その際どうしていくかについて話し合い、心の準備を整えられるようサポートします。
一度に多くの情報を提供する、不安が増すこともあるので、適切なタイミングと分量で情報提供するよう配慮が必要です。
また、最期を家で迎えるのか、病院で迎えるのかなどについて、事前に患者や家族と話し合っておくことも重要です。
家で最期を迎えることも、病院で最期を迎えることも、人それぞれであり、お互いの選択を尊重することが大切です。
がん慢性期に関連する社会資源・制度
(1)医療費の支援
・身体障害者福祉法による、身体障害者手帳交付に伴う医療費助成
・身体障害者福祉法による、日常生活用具 (特殊寝台、電気式痰吸引器、人工喉頭、ストーマ装具など)の給付
・高額療養費制度による、毎月の自己負担額が一定以上になった場合の医療費の払い戻し
(2)外来受診
・入院を必要としない外来での化学療法、放射線療法
・皮膚・排泄ケア認定看護師が担当するストーマ外来
・がん診療連携拠点病院などのがん相談支援センター
・緩和ケアチームにおける緩和ケア外来
・在宅療養支援診療所, 在宅療養支援病院
(3)退院後の交流
・同じ疾患や障害, 症状など,何らかの共通する患者体験をもつ人たちが集まる患者会
訪問看護導入時の留意ポイント
がん慢性期の利用者に訪問看護を導入する時には、以下のポイントに留意していく必要があります。
1. 身体症状と生活の困難要因の把握と支援内容の明確化
苦痛な身体症状(がん性疼痛、悪心・嘔吐、呼吸困難など)や身体機能の低下、生活を困難にする要因(ストーマ管理、点滴管理など)を把握し、支援内容を明確にします。
2. 急激な身体状態の悪化への対応準備
転倒や病状の急激な悪化などに備え、本人や家族と急変時の対応について話し合い、準備をします。
3. 終末期療養生活の計画
終末期に向けてどのような療養生活を送るかを、本人や家族の意向を確認します。
訪問看護師が心得るべき視点とは
通院在宅療養では、療養者が自宅で生活しながら治療を受けることができますが、体調の変化や症状悪化の早期発見と対処が重要です。
がんは一口に言っても、部位や種類によって性質や治癒率が異なります。治療法を選択するための正しい知識をわかりやすく伝えることも、訪問看護師の仕事の一つです。
また、利用者の家族が介護負担に耐え切れない状況にならないように、早めにサービスの調整を行うことが必要です。
在宅におけるがん慢性期の支援のポイント
在宅におけるがん慢性期の支援は、以下のポイントに留意する必要があります。
(1)全人的苦痛のアセスメントと緩和治療支援
がんによる苦痛は、単に身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的な影響も含まれます。したがって、病状の全体像を把握し、適切な治療計画を立てるために、全人的な苦痛を評価する必要があります。
(2)療養者の意思共有と多職種連携
利用者の治療やケアにおいては、患者本人の意思を尊重し、その意思を十分に共有することが不可欠です。また、医師、看護師、ソーシャルワーカー、精神科医などが、それぞれの専門知識を活かして、療養者の状況を総合的に支援します。
(3)同居家族の介護負担の配慮
療養生活では、同居家族が介護負担を担う場合があります。しかし、介護負担が過大になると、介護者の身体的、精神的負担が増大し、家族関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、介護負担の程度を適切に評価し、早めに介護サービスや支援体制の調整を行うことが求められます。
(4)終末期ケアプランの尊重と支援
がんの終末期には、療養者や家族のケアプランを尊重し、その意向に沿ったサポートを提供することが重要です。症状の増悪や療養状況の変化に対する適切な対応や、終末期に向けた心理的、精神的な支援が求められます。
(5)身体的苦痛の早期把握と緩和
がんの終末期には、身体的な苦痛が増悪する可能性があります。がん性疼痛、呼吸困難、疲労感などの症状は、利用者の苦痛や生活の質に大きな影響を与えます。これらの症状を早期に把握し、適切な緩和措置を講じることが必要です。
(6)精神的苦痛のサポート
がん告知や治療計画の決定などは、利用者や家族にとって精神的な負担を与えることがあります。早期に療養者や家族の精神的な苦痛を把握し、適切なカウンセリングや心理的支援を提供することが重要です。
(7)社会的苦痛の軽減
がん治療や療養生活は、学業や仕事、家族関係などの社会的な要素にも影響を与えることがあります。これにより、役割喪失や収入の低下などの社会的苦痛が発生する可能性があります。利用者や家族の社会的なニーズを適切に評価し、必要な支援を提供することが求められます。
(8)スピリチュアルなケアの提供
利用者や家族の信念や価値観、スピリチュアルなニーズは、終末期ケアにおいて重要な要素です。そのため、宗教や信仰に関する情報を把握し、スピリチュアルなペイン(死の恐怖、人生の意味など)を緩和するための支援を提供します。
(9)鎮痛薬の使用や医療用麻薬の管理についての説明
鎮痛薬の使用や医療用麻薬の管理についての説明は、がん患者の痛み管理に欠かせません。鎮痛薬の種類や効果、副作用について明確な説明が必要です。また服薬スケジュールの説明や、適切な量の使用方法、副作用や依存性など適切な管理も重要です。
(10)ストーマ管理や点滴管理、酸素療法などの指導
がん治療や療養中には、ストーマ(人工肛門や人工膀胱など)の管理や点滴の管理、酸素療法などの医療処置が必要となる場合があります。これらの医療処置に関する指導は、利用者と家族が正確な知識を身につけ、自己管理能力を向上させることを目的に指導をおこないます。
(11)急激な症状悪化や変化の予測
がん患者の病状はしばしば急激に悪化することがあります。そのため、療養生活の中で急激な症状悪化や変化を予測し、適切な対応を行うことが不可欠です。必要に応じて緊急医療サービスやホスピスケアなどの導入準備など早めの準備をすることで、療養者と家族が緊急時に安心して最適なケアを受けられる環境を整えることができます。
がん慢性期の状態に応じた支援のポイント
疼痛コントロールが良好な状態
痛みがしっかりとコントロールされている状態では、療養者は身体的にも精神的にも安定した療養生活を送ることが一般的です。訪問看護師は、将来起こり得るがん性疼痛や不安を考慮し、療養者の状態変化を早期に把握します。
支援のポイント
・新たな身体症状が出現していないかを把握します。
・楽しみや生きがいになる活動を行っているか、日常生活動作に変化がないかを把握します。
・疼痛やその他の症状が現れた際に必要以上の不安がないかを把握します。
疼痛コントロールが不良な状態
疼痛のコントロールが不十分な状態では、療養者は痛みを和らげることが療養生活の主な目標となり、生きがいや楽しみを失うことがあります。
身体的な苦痛が家族や療養者自身の精神的な苦痛(悲嘆、予期せぬ悲しみ、絶望、うつなど)につながることを意識して支援をおこなう必要があります。
支援のポイント
・疼痛の適切な評価のために、療養者の表情や行動に加えて、ペインスケール(フェイススケール、視覚的アナログスケールなど)を使用して疼痛をアセスメントします。
・療養者が離床できるか、夜間に入眠できるか、外出できるか、疼痛が日常生活にどれだけ影響しているかを把握します。
・処方された鎮痛薬の種類(非ステロイド性消炎鎮痛薬、医療用麻薬)、剤形(経口薬、坐薬、貼付薬)や使用状況を把握し、主治医や薬剤師と共有して鎮痛薬の調整を行います。
・不安やストレスが疼痛の閾値を下げているかどうか、また療養生活について話し合える家族がいるかを把握します。
まとめ
今回は、がん慢性期をテーマに在宅における特徴や家族へのサポート、支援のポイントなど訪問看護の役割の役割についてお伝えしました。
がん治療もかつては入院が一般的でしたが、現在では在宅での治療が普及しています。薬物治療に伴う副作用の管理から、末期における心のケアまで、訪問看護ステーションの役割はますます重要になっています。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。