VUCA時代の介護施設の課題を解決する!訪問看護のナーシングホームの可能性

先日このコラムで「VUCA時代における訪問看護の管理者のあり方」についてお伝えしましたが、近年では、今までの「当たり前」と感じていたものが大きく変わってきています。

訪問看護の次の事業展開として有望な介護施設運営も、これまでは、国の定める介護施設の定義に従って運営することで安定的に成長することが可能でした。

しかし、今や介護施設を取り巻く環境は大きく変化し、これまで通りの運営では、経営が立ちいかなくなりつつあります。

では、これからの時代に求められる介護施設を運営していくためには、国の基準に加え、どんなことに留意し、取り組んでいかなければいけないのでしょうか。

今回は、訪問看護ステーションがこれから介護施設運営に参入するにあたり、時代の変化や今後のニーズなど知っておくべきことについてお伝えします。

これまでの介護施設の状況とは

これまでの介護施設の状況とは

まず、これまでの介護施設の状況についてみていきましょう。

(1)介護施設の増加状況

下記グラフにあるように、介護施設はこれまで増え続けてきました。

介護施設の中でも、特に有料老人ホームの増加が著しく、2006年に約12万人であった定員数は、2021年に約63万5千人と、15年間で約5.25倍となりました。

介護施設等の定員数(病床数)の推移

参照元:内閣府「令和5年度版高齢者白書第1章 高齢化の状況第2節 高齢期の暮らしの動向(図1-2-2-10)介護施設等の定員数(病床数)の推移

(2)国が定める介護施設(有料老人ホーム)の定義

老人福祉法(昭和 38 年法律第 133 号)第 29 条第1項において、有料老人ホームとは、以下の2つが定義されています。

(1)高齢者を住まわせる、入居サービスを提供する施設

(2)入居者に対して①「食事の提供」②「入浴、排せつ又は食事の介護」③「洗濯、掃除等の家事」又は④「健康管理」の少なくとも一つの介護サービス供与する施設

国が定める介護施設(有料老人ホーム)の定義

参照元:厚生労働省 老健局 高齢者支援課・振興課「介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性―

(3)介護施設が守るべき事項

介護施設を適切に継続性を持って運営するためには、省令や条例で定められている指定基準や様々な関連法規を満たす必要があります。

介護保険制度の仕組み・考え方 介護保険法に基づく仕組みと理念を理解し、適切なサービス提供を行うことが求められます。
介護保険制度の改正への対応 介護保険法の改正に迅速に対応し、施設の運営を適切に調整する必要があります。
人員・施設設備・運営基準 人員配置、施設の設備、運営基準の変更に迅速に対応し、法令遵守を確保します。
運営指導における指摘事項への対応 監督官庁や行政機関からの指摘に真摯に向き合い、改善策を提案・実施します。
高齢者虐待防止 高齢者虐待の予防と対応策を確立し、安全な環境を提供します。
身体拘束廃止 身体拘束の廃止を積極的に進め、個々の尊重と自立を尊重します。
認知症施策の推進 認知症に対する適切な支援プログラムを提供し、生活の質を向上させます。
労働法規の遵守 労働法規を遵守し、従業員の権利と福祉を守ります。
人材確保対策 適切な人材を確保し、教育・研修を通じてスキルアップを促進します。
消防法関係 施設内の消防法規を遵守し、安全な施設を維持します。
災害対策 災害時の適切な対応策を策定し、安全な避難や復旧を実施します。
衛生管理 衛生管理を徹底し、入居者の健康と安全を保つための施策を講じます。
地域支援事業の推進 地域との連携を強化し、地域社会への貢献を進めます。
医療介護連携 医療機関との連携を深め、入居者に対する総合的なサービス提供を目指します。
法令等遵守の推進、業務管理体制の届出 全ての法令や規制を順守し、必要な届出や報告を適切に行います。
報酬請求事務 介護報酬の請求において正確かつ公正な手続きを確保します。
事故・苦情の事例、行政への報告方法等 発生した事故や苦情に適切に対応し、必要な場合は行政への報告を遵守します。
ケアマネジメント・プロセスに基づくサービス提供 ケアマネジメントの原則に基づいて、入居者に最適なサービスを提供します。

このように、これまでは、介護施設は国が定めた基準に基づき、入居者に適切な介護サービスを提供し、上記の基準を遵守することで安定的な施設の経営をおこなうことができたのです。

介護施設を取り巻く環境の変化と求められる新たな変革とは

介護施設を取り巻く環境の変化と求められる新たな変革とは

しかし、最近では、介護施設を取り巻く環境や需要の変化に伴い、必要とされる介護施設のあり方も大きく変化しつつあります。

これまで順調だった施設でも、入居定員が埋まらないケースや、収支が悪化して赤字に陥るなど、経営状況が悪化する施設が増えています。

つまり、施設のあり方には従来のやり方とは異なる変革が求められる時代になりつつあるのです。

では、これからの介護施設に求められる新たな変革について以下の6つの視点からみていきます。

(1)施設入居者の特性の変化


(2)介護ニーズの変化~介護度の重度化


(3)インターネットとSNSの普及


(4)看護師の在宅医療に関する知識と技術の向上


(5)在宅ターミナルケアの増加


(6)高齢者の経済状況

(1)施設入居者の特性の変化

(1)施設入居者の特性の変化

介護施設の入居者は、戦時中を生きた世代から団塊の世代へと移行しつつあります。

これまでの主な入居者は戦争を経験した世代でした。この世代は、助け合いの精神が強く、新しい環境にも適応しやすい傾向がありました。そのため、施設では個別性を考慮することがあまりありませんでした。

しかし、今後は団塊の世代が主な入居者となります。彼らは高度経済成長やバブル景気を経験し、豊かな生活を楽しんできました。また、多様な価値観を持ち、意見をはっきりと述べる人が多いとされています。

(2)介護ニーズの変化~介護度の重度化

(2)介護ニーズの変化~介護度の重度化

高齢化の進展により介護ニーズが以前よりも重度化してきています。

下図にあるように、日本の要介護(要支援)者数の予測では、要介護(要支援)者と認定される人数は、2025年の815万人から20%以上増加する2040年には998万人でピークを迎えるとされています。

日本の要介護(要支援)者数の予測

参照元:経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会

2040年と2025年の要介護度別の比較によると、要支援1は1.09倍、要支援2は1.14倍、要介護1は1.19倍、要介護2は1.22倍、要介護3は1.26倍、要介護4は1.29倍、要介護5は1.27倍に増加します。

増加率が最も高いのは要介護4です。

2025年から2040年に増加する要介護(要支援)認定者数173万人のうち、要介護3~5の重度の要介護者は81万人で、ほぼ半数を占めます。

その結果、重度の要介護者の割合は37.8%になります。

このように、要介護(要支援)認定者の数だけでなく、重度の要介護者の割合も上昇することが予測されます。

この傾向に伴い、介護施設の入居者の介護ニーズがより高度化するでしょう。

(3)オンライン相談や遠隔診療、SNSの普及

インターネットの普及により、入居者や家族は医学的な情報や介護ケアに関する知識を手軽に入手できるようになりました。また、SNSを通じて介護者や関係者同士が経験や意見を共有できるようになりました。

さらに、オンライン相談や遠隔診療の進化により、医療に関する疑問や悩みに迅速に対応できる環境が整いました。これにより、入居者や家族は自身の医療ケアやケアプランについて深い理解を得ることができ、治療方針や介護計画に関する情報格差が減少しました。

また、オンラインでの教育プログラムが充実し、医療・介護スタッフや関係者の継続的な教育が推進できるようになりました。これにより、最新の医療・介護技術やトレンドに対応したスキルレベルの向上が期待されます。

(4)看護師の在宅医療に関する知識と技術の向上

4)看護師の在宅医療に関する知識と技術の向上

日本における在宅医療・看護の需要が高まり、1994年に「少子高齢社会看護問題検討会報告書」に基づき、看護師養成課程に「在宅看護論」が新設されました。

その後、2000年に介護保険法の施行により、在宅看護が専門分野として設けられました。これには全ての年齢層や医療依存度の高い人々、難病や障害を持つ人々、そして在宅で最期を迎える希望を持つ人々が含まれます。

在宅看護は、地域で生活する人々とその家族を理解し、看護実践の基礎を学び、最期まで在宅で過ごす人々に必要な看護技術を身につける「統合分野」として位置づけられました。

こうした進化の中で、在宅看護に特化した高度な知識やスキルを持つ看護師が増えています。

(5)在宅ターミナルケアの増加

(5)在宅ターミナルケアの増加

日本は現在、「少子超高齢社会」として進んでおり、同時に「多死社会」でもあります。

下記の図にあるように、年間の死亡者数は増加を続け、2003年には100万人を超え、2040年には約168万人になると予測されています。

年間の死亡者数

参照元:厚生労働省「「人口動態統計」による出生数及び死亡数(いずれも日本人)

高齢者が最期を迎える場所は、1975年代以降、医療機関が自宅を上回り、今では医療機関での死亡が全体の8割近くを占めています。

しかしながら、将来的には死亡者数が増える一方で、病床数の増加が見込めないため、在宅で最期を迎える「在宅ターミナル」と呼ばれる状況が急速に増加することが予想されます。

(6)高齢者の経済状況

(6)高齢者の経済状況

厚生労働省の生活保護の被保護者調査(令和5年1月分概数)によると、生活保護を受けている人の55.3%が高齢者世帯であり、その数は約90万世帯です。

2000年には約34万世帯だったのが、2015年には80万世帯を超え、その後わずか8年でさらに約10万世帯が貧困に陥り、高齢者の貧困率は急速に上昇しています。

また、「令和2年版高齢社会白書」によれば、高齢者世帯の所得階層別分布では、所得が150万円から200万円未満の世帯が最も多く、年収が150万円以下の世帯も23.5%に達しています。

また、下記図のように、高齢者で、貯蓄額が300万円未満の世帯は、全体の14.4%を占めています。

高齢者世帯の所得階層別分布

参照元:総務省統計局「家計調査報告 貯蓄・負債編」令和5年5月12日

令和4年度末現在の厚生年金保険の受給者の平均年金は、月額14万5千円です。状態によっては、医療・介護を年金だけで受け続けるのは困難であることが予想されます。

厚生年金保険の受給者の平均年金

参照元:厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」令和5年12月

以前は、子どもたちとの同居が一般的であり、それにより家計の負担が軽減されていました。

しかし、最近では世帯の分離が進み、子どもたちとの共同生活が難しくなっています。

かつては、別居していても子どもたちからの経済的支援が期待されることもありましたが、今では子世代も生活が厳しくなっており、経済的な援助を期待することが難しくなっています。

その結果、高齢者の貧困率が上昇し、経済状況が悪化している状況になりつつあります。

これからの時代に必要とされる介護施設になるための変革内容とは

これからの時代に必要とされる介護施設になるための変革内容とは

これらの状況の変化を踏まえて、これからの時代に必要とされる介護施設になるためは、以下のポイントに押さえた変革を実施していく必要があります。

(1)入居者層の変化に対する対応

まず、入居者層が移行し、団塊の世代が主な入居者となる時代においては、その特性を考慮し、個別性を尊重し、入居者それぞれの生活経験や価値観に配慮したサービス提供や施設設計を行う必要があります。

(2)介護度の重度化への対応

次に、介護度の重度化が進む状況においては、施設内の医療・看護体制の充実が必要です。高度な医療ケアやリハビリテーションが提供できる施設が求められるようになります。

(3)テクノロジーの活用と情報共有の重要性

さらに、インターネットやSNSの普及により、入居者や家族が医学的な情報や介護ケアに関する知識を得やすくなったことから、施設もこれらのテクノロジーを積極的に取り入れ、情報共有やオンライン相談の仕組みを整え、入居者と家族のサポート体制を向上させることとなります。

(4)在宅ターミナルの増加への対応

加えて、在宅ターミナルが増加する中、施設にも看護や緩和ケアや看取りの対応が求められ、そのための協力医療機関との連携や、専門看護師の配置などの整備が必要となります。

(5)高齢者世帯の経済的な課題への対策

また、高齢者世帯の経済状況が悪化している中、施設では、コスト削減や収入源の多様化など工夫をして、入居者の費用負担を著しく低減させる必要があります。


今後、変革を行わない介護施設は、入居者が減少し、地域の支持を失い、経営状況が悪化することが予測されます。

一方、守るべき施設基準を順守しつつ、時代の変化に柔軟に対応する施設は、入居者を増やし、スタッフの定着率を高め、経営を安定させる可能性が高まります。

VUCA時代の介護施設の課題を解決する!訪問看護のナーシングホームの可能性とは

介護施設の課題を解決する!訪問看護のナーシングホームの可能性とは

これまで介護施設を取り巻く環境の変化とその状況に対応していくためにどのように変革をおこなうべきかをみてきました。

時代の変化や介護施設への入居が必要な高齢者の問題について、日々の経験から最も深く理解しているのは、訪問看護に携わる看護師ではないでしょうか。

さいごに訪問看護のナーシングホームの可能性についてお伝えします。

訪問看護ステーションは、これまでの在宅ケアで、個々の利用者のニーズに細やかに対応し、そのニーズに合わせたサービスを提供してきました。

そのため、訪問看護のナーシングホームでは、主となる入居者である団塊の世代の特性を考慮し、生活経験や価値観に配慮した個別のケアやコミュニケーションを提供できます。

また、訪問看護のナーシングホームでは、在宅医療の経験や医療連携を通じて、高度な医療ケアやリハビリテーションを提供できる体制を整えることができます。

さらに、テクノロジーを積極的に活用し、入居者や家族との情報共有やオンライン相談の仕組みを整備することが可能です。これにより、医学的な情報や介護ケアに関する知識を提供し、サポート体制を向上させることができます。

訪問看護ステーションのほとんどがターミナルケアを提供しているため、在宅での看護や緩和ケア、看取りの対応も行えます。

最後に、訪問看護のナーシングホームは、適材適所のスタッフ配置やコスト削減、収入源の多様化を通じて、入居者の費用負担を低減する努力を行うことができます。

このように、訪問看護のナーシングホームは、時代の変化に適応し、介護施設の新たなモデルとして持続的な発展を達成する可能性が高まっているのです。

まとめ

今回は、訪問看護ステーションがこれから介護施設運営に参入するにあたり、時代の変化や今後のニーズなど知っておくべきことについてお伝えしました。

今や介護施設のあり方においては従来の延長線上にはないこと、時代の変化に伴い噴出している様々な課題、そして訪問看護ステーションが手がける介護施設(ナーシングホーム)の可能性などをご理解頂けたのではないでしょうか。

今後の事業展開としてナーシングホームを検討されている訪問看護事業者様の参考になれば幸いです。

訪問看護ステーションのナーシングホーム参入事例について詳しく知りたい方は、以下のフォームよりお気軽にお問合せください。

>保険外美容医療での看護師独立ストーリー

保険外美容医療での看護師独立ストーリー

石原看護師は、約1年前に美容エステと美容医療を組み合わせた独自メニューを提供する美容サロンを自宅で開業されました。
週に2回はクリニックに勤務しながら、子育てや家事と両立できるサロン運営を軌道に乗せています。

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