近年、高齢者数の増加と慢性疾患患者の長期療養化が進んでおり、その結果、在宅で褥瘡が発症するリスクが増加しています。
在宅で療養中の患者が褥瘡を発症すると、創部のケア、感染予防、全身状態の管理などが必要となり、これによりケアの負担や介護者の負担も増大します。
褥瘡の発症を未然に防ぎ、発症した場合でも適切な看護ケアを提供するためには、褥瘡に関する知識を深めておくことが非常に重要です。
今回は、訪問看護における褥瘡ケアについて褥瘡の評価、日常ケア、医療処置、注意すべきポイントなどについてお伝えします。
褥瘡とは
褥瘡(じょくそう)とは、寝たきりや身体に障害があり上手く体を動かせない(体位変換ができない)など体の特定の部位が長時間圧迫されたことにより、その部位の血流がなくなった結果、組織が損傷されることです。
褥瘡を発症しやすい方としては以下の方が挙げらます。
・長期間寝たきりを余儀なくされる方
・糖尿病などの神経障害があって、痛みやしびれを感じない方
・脳血管障害や脊髄疾患等で運動障害のある方
・栄養状態が悪い方
・高齢で皮膚が薄く弱くなっている方
特に、認知症の高齢者は低栄養、サルコペニア、フレイルなど、発症リスクの高い症状を併せ持つことが多いため、特に注意が必要です。
また、褥瘡はひとたび悪化してしまうと、治るまでに時間がかかり、痛みや不快感が続くことになり、介護者の負担も増します。
訪問看護師は、家族や訪問介護員と連携しながら、予防に努めることが非常に重要です。
褥瘡の出来やすさは、ブレーデンスケールで予測
ブレーデンスケールは、褥瘡のリスクを客観的に評価するための目安(スケール)です。6つの褥瘡発生の危険要因を4段階で評価し、その合計得点でリスクを評価します。
このスケールを利用することで、ケアチームが統一した評価をすることができ、リスクの増減をより正確に判断することができます。
点数が低いほど褥瘡ができやすく、在宅ケアの場合、17点未満では対策が必要であると考えられます。
ブレーデンスケール
項目 | 1 | 2 | 3 | 4 |
---|---|---|---|---|
知覚の認知 | まったく 知覚なし |
重度障害あり | 軽度障害あり | 障害なし |
湿潤 | 常に湿潤 | たいてい湿潤 | 時々湿潤 | めったになし |
活動性 | 臥床 | 坐位可能 | 時々歩行可能 | 歩行可能 |
可動性 | まったく 体動なし |
非常に限定 | やや限定 | 自由に体動 |
栄養状態 | 不良 | やや不良 | 良好 | 非常に良好 |
摩擦とずれ | 問題あり | 潜在的に 問題あり |
問題なし |
DESIGN-R®で褥瘡の重症度をチェック
褥瘡の重症度は、日本褥瘡学会の「DESIGN-R®」スケールを用いて定期的に評価し、治療経過をモニタリングします。このスケールは7つの項目に基づく採点を行い、得点が高いほど重症度も高くなります。
褥瘡評価ツール DESIGN-R®
褥瘡の日常ケア~看護のポイント~
褥瘡は医療処置だけでは治癒しない病態です。利用者の自立度や危険因子をアセスメントし、褥瘡の発生や悪化を防ぐために体圧管理、栄養管理、局所管理のコントロールが不可欠です。
(1)基本のアセスメント
褥瘡がある方は感染症にも注意が必要です。基本的なアセスメントに加えて、褥瘡の発生や悪化に影響する栄養状態も評価します。
1.体温測定
発熱がある場合、それが全身性の感染症によるものか、褥瘡部の創感染に関連するものかを確認します。
2.聴診
胸部の音を聴取します。発熱時に通常と異なる音が聞かれる場合、呼吸器感染症などの可能性を検討します。
3.触診
手足や胸などの部位を触診します。皮膚にハリがなく、脂肪も少ない場合、褥瘡が発生しやすい可能性があります。
4.危険因子のアセスメント
利用者の生活前提を確認し、自立度の変化、日中の過ごし方、姿勢などから危険因子を評価し、療養環境を調整します。
(2)栄養指導
褥瘡治癒に必要な栄養指導を行います。高齢者は通常低栄養(PEM)になりやすいため、通常のエネルギー摂取の1.5倍以上を目指して改善を図ります。
特にアルブミン値が3.5g/dL以下の方は、栄養改善が必要です。高エネルギー・高蛋白の栄養補助飲料や亜鉛が豊富な栄養剤を導入します。亜鉛が豊富な栄養補助飲料を選択し、経口摂取可能な方にはドリンクタイプをお勧めします。
(3)体位の調整
外圧に対処するために、まず療養者の生活状況全体を確認します。
例えば、療養者が常に同じ向きでテレビを見ている場合、その姿勢を変えなければ褥瘡は治りません。通常の体位変換が介護者に負担となる場合には、体圧を変化させる小さな動きで「スモールチェンジ」という方法も利用できます。
1.体位変換
訪問看護 訪問介護, ホームヘルパーなどの連携により可能な訪問回数の中で体位変換を実施します。
2.臥位のポジショニング
ベッドの角度調整(ギャッチアップ)時に、強いズレの力が褥瘡の発生や悪化の原因となるため、必ず「圧抜き」としてマットレスと体の間に手を入れて圧力を緩和します。
褥瘡のリスクが高い人には、高機能エアマットやウレタンマット、ポジショニング用クッションを活用して、ずれや摩擦を防ぎ、圧力除去を促します。
3.座位のポジショニング
長時間車椅子に座っている場合、車椅子用の圧力除去クッションを使用し、適切な姿勢を保ちつつ圧力を緩和します。
(4)清潔ケア
皮膚が湿潤しているか、排泄物によって創が汚染されていると、褥瘡の治癒が難しくなります。訪問介護員や家族と連携して、適切な清潔ケアを習慣化しましょう。
1.排泄ケア
仙骨部褥瘡は排泄物による汚染を受けやすいため、汚染を防ぐドレッシング方法を選択します。
おむつ内での排泄の場合、褥瘡の悪化を防ぐために、専用のおむつやコンドーム型収尿器などを一時的に活用します。
2.スキンケア
褥瘡の発生しやすい部位や骨突出部、療養者の好む体位などで圧迫、摩擦、ずれが生じやすい部位に対して予防的な保湿ケアを継続します。
褥瘡の医療処置
褥瘡は、早期に発見および処置を行うことが、深達度を軽減し、治癒にかかる時間を短縮するのに役立ちます。
褥瘡の深達度は、ステージⅠからⅣ、そして「分類不能」および「深部組織損傷疑い」といった6つのカテゴリに分類されます。
「分類不能」は、表面が壊死組織で覆われており、深達度が確定できない状態を指します。一方、「深部組織損傷疑い」は、皮膚に発赤が見られなくても、皮下軟部組織が損傷している可能性がある症例を示します。
ステージⅠからⅣの褥瘡の深達度と医療処置例
一般的な褥瘡の医療処置手順は、創およびその周辺の清浄化、必要な薬剤の塗布、そしてガーゼまたはドレッシング材での保護といった段階から成ります。
【ステージⅠ】消退しない発赤、紅斑
局所の圧迫を解消しても、消えない皮膚の発赤や紅斑の状態で、皮膚損傷はありません。
医療処置例
撥水クリームを塗り、排泄物による汚染による悪化を防ぎます。クリームはおしりの中央部から全体に広げます。
【ステージⅡ】真皮にまでとどまる皮膚傷害
浅い部分の欠損または水疱です。欠損部の底は薄い赤色で、色壊死組織はありません。
医療処置例
薄いドレッシング材を貼ります。褥瘡の2倍ほどの大きさのドレッシング材を使用し、患部が見える程度の透明フィルム材を選びます。
【ステージⅢ】全皮膚欠損(脂肪層の露出)
皮膚が損傷し、皮下脂肪が露出した状態で、黄色い壊死組織、ポケット、および瘻孔を伴うこともあります。
医療処置例
軟膏を塗ります。ポケットがある場合、十分に洗浄し、古い軟膏を取り除いてから新しい軟膏を塗り、ガーゼで覆います。ガーゼがずれないように、必要に応じてテープで固定することも検討します。
【ステージⅣ】全層組織欠損
骨、腱、および筋肉が露出した状態で、多くの場合ポケットや瘻孔を伴います。黄色い壊死組織や黒色の壊死組織が付着していることもあります。
医療処置例
外科的処置の後、ドレッシング材を使用することもあります。感染した傷には使用しないでください。医師と協力して、適切な製品を選択します。
褥瘡ケアに用いる薬剤やドレッシング材
褥瘡のケアには、さまざまな薬剤やドレッシング材が利用されます。褥瘡の深達度だけでなく、浸出液の量、創の状態、利用者や家族の経済的状況、介護の能力なども考慮して選択することが重要です。
ドレッシング材の種類 | 使用目的・特徴 |
---|---|
ポリウレタンフィルム | 保険適用外。 創面の保護のために用いられる。 二次ドレッシング材としても使用される |
ポリウレタンフォーム | 滲出液の吸収力が高く、 滲出液が多い際に用いられる。 クッション性があり創部への衝撃を緩和する効果もある |
ハイドロコロイド | 創面を閉鎖し、創面に湿潤環境を形成する。 比較的、 滲出液が少なく浅い潰瘍に使われる |
ポリウレタンフォーム/ ソフトシリコン |
滲出液の吸収にすぐれたポリウレタンフォームと、皮膚の保護効果の高いソフトシリコンを一体化させたタイプ |
ハイドロジェル | 乾燥した創を湿潤させる。 壊死組織のみを融解し、 健常皮膚の損傷なくデブリードマン効果 (壊死組織を除去する効果)を促進する |
ハイドロファイバー | 内部に吸収した滲出液の広がりが少なく、 健常皮膚の浸軟が抑えられる。 吸水力が高く、 長時間の貼付が可能 |
アルギン酸塩 | 滲出液を吸収してゲル化し、創面の湿潤環境を保持する。 強力な止血効果を有する |
褥瘡ケアの注意ポイント
在宅での褥瘡ケアは、長期間なケアが必要になるため、様々なトラブルが発生する可能性があります。
(1)褥瘡の原因を明確に特定し、原因の除去と基本的なスキンケアを継続しなければ、褥瘡は再発しやすくなります。
(2)利用者の自立に合わない体圧分散寝具を選択すると、褥瘡の悪化や残存能力の低下を招き、転倒の危険性も増加します。
(3)褥瘡ケアのアプローチが異なると、利用者と家族への負担と苦痛を増加させるリスクがあります。
(4)家族に伝言役をするのではなく、画像やDESIGN-Rなどを使用して定期的に評価し、連絡ノートに記録するなど、訪問看護師が主導し調整を行います。
まとめ
今回は、訪問看護における褥瘡ケアについて、褥瘡の評価、日常のケア、医療処置の例、注意すべきポイントなどをお伝えしました。
褥瘡が発生した場合、長期的なケアが必要です。そのため、褥瘡の治癒に対する利用者や家族の意向や希望を確認し、身体的および経済的負担をかけない継続可能なケア内容を明確にすることが重要です。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護
参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」