訪問看護「5年後の業界予測」(NO.3)~急増する団塊世代の利用者に応える訪問看護—求められる進化と新たな対応力

~いろいろナースでは、訪問看護の業界予測をテーマにしたコラムをシリーズでお届けします~

今年2025年、団塊世代が後期高齢者となり、医療や介護のニーズが大きく変化し、多様化しています。

特に在宅医療の要となる訪問看護では、急増する団塊世代の利用者に対応するため、画一的なサービスではなく、個々の価値観や生活スタイルに寄り添った、より個別化されたケアが求められる時代に入っています。

このコラムでは、自立心が強く自己決定を重視する団塊世代の特徴を踏まえ、多様なニーズへの対応や多職種連携の強化、人材育成、テクノロジー活用といった観点から、5年後を見据えた訪問看護の進化と必要な対応力について考えます。

目次

2030年には団塊世代が80歳を超える

2030年には団塊世代が80歳を超える

まず、団塊世代について整理してみましょう。

団塊世代とは何か?

団塊世代とは、第二次世界大戦後の1947年から1949年に生まれた人々を指します。この時期は「第一次ベビーブーム」の真っ最中であり、焼け跡世代に続く世代として知られています。

この世代は戦後の文化や思想の変革を共有し、多くの若者が大学進学後に学生運動に熱中した時代を生き抜きました。また、日本の高度経済成長やバブル景気を実際に体験し、日本経済の成長を支えた世代でもあります。

「団塊世代」という呼び名の由来

「団塊世代」という言葉は、1974年に作家・堺屋太一氏が発表した小説『団塊の世代』に由来します。この作品では、オイルショック後の日本経済が、この世代の動きによりどう変化するかを描いています。

厚生労働省も「団塊世代(1947年〜1949年生まれ)」と公式資料に記載しており、この名称は人口が集中して“団塊”のように膨らむ世代構造を象徴しています。

団塊世代の人口と現在の年齢

この世代の出生数は、1947年から1949年の3年間で約806万人に達します。各年の出生数は以下の通りです。

1947年生まれ:2,678,792人
1948年生まれ:2,681,624人
1949年生まれ:2,696,638人

2030年には団塊世代が全員80歳を超える

団塊世代は1947年から1949年に生まれた人々を指します。2030年には、

1947年生まれの人が83歳
1948年生まれの人が82歳
1949年生まれの人が81歳

このように、2030年には団塊世代全員が80歳を超えることになります。

これにより、日本の社会保障制度や医療体制、労働市場に大きな影響を与えることが予想されます。高齢化がさらに進む中で、この世代の動向は引き続き重要な課題として注目されるでしょう。

要介護認定者数が急増する80歳代、訪問看護利用も増加

要介護認定者数が急増する80歳代、訪問看護利用も増加

厚生労働省が作成した「年齢階級別の要介護認定率」のグラフによると、65歳以上の要介護認定率は、18.3%ですが、年齢が上がるにつれて急激に増加します。

・75歳以上では認定率が31.5%

・85歳以上になると認定率は57.8%

に達し、半数以上の人が要介護認定を受けています。

年齢階級別の要介護認定率

出典元:厚生労働省HP 図表2-1-4 年齢階級別の要介護認定率

団塊世代の特性を考慮した訪問看護の進化と対応力強化

団塊世代の特性を考慮した訪問看護の進化と対応力強化

5年後の2030年には、団塊世代がすべて80歳を超え、要介護認定率が急増すると予測されています。これに伴い、団塊世代による訪問看護の利用が急増することが見込まれます。

このような状況を踏まえ、訪問看護ステーションは団塊世代の特性を理解し、対応力を強化する必要があります。以下では、団塊世代の特徴と、それに基づく訪問看護の進化について解説します。

団塊世代の4つの特性

1.人口規模の大きさ

約806万人と非常に多い団塊世代が後期高齢者になることで、医療や介護分野への負担が大きく増加し、訪問看護の需要も飛躍的に高まります。

2.価値観の多様性

激動の時代を生きてきた団塊世代は、従来の高齢者像に縛られず、個性や価値観を重視します。そのため、画一的なサービスではなく、個別に最適化されたケアを求める傾向があります。

3.主体的な医療への意識

団塊世代は医療や介護において受け身ではなく、積極的に情報を集め、医師や看護師と対等に意見を交わすことを重視します。納得のいく医療や丁寧な説明、意思決定支援を求めます。

4.健康寿命とQOLへの関心

健康意識が高く、アンチエイジングや生活の質(QOL)の維持・向上に強い関心を持っています。単に病気を治すだけでなく、健康を保ちながら充実した生活を送ることを目指しています。

訪問看護に求められる進化と対応力

訪問看護に求められる進化と対応力

団塊世代の特性を踏まえ、訪問看護には以下のような進化と対応が求められます。

1.需要の急増と高度なケアへの対応

団塊世代が80歳を超えることで、要介護認定率が大幅に上昇します。特に医療ニーズの高い重度要介護者への対応が求められ、看護師には高度な知識と技術が必要になります。

2.個別化されたケアの提供

多様な価値観に応じて、一人ひとりの生活歴や希望を丁寧にヒアリングし、利用者に最適なケアを提供することが不可欠です。

3.情報提供と意思決定支援の強化

利用者が主体的に医療を選択できるよう、わかりやすく正確な情報提供が重要です。また、選択肢の提示や丁寧な説明を通じて、利用者の意思決定を支援します。

4.予防的アプローチの強化

健康寿命を延ばすため、疾病管理だけでなく、運動・栄養指導や生活習慣改善のアドバイスを行い、利用者の健康増進とQOL向上に取り組むことが求められます。

5.多職種連携の強化

医師やケアマネジャー、リハビリ職、薬剤師などと連携し、チームで切れ目のないケアを提供する体制が必要です。

6.ICTの活用

ICT機器を活用し、利用者や多職種間での情報共有を進め、効率的かつ質の高いケアを実現します。

7.住み慣れた地域での生活を支える

地域包括ケアシステムの中心として、利用者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう支援する役割が求められます。

8.報酬改定や制度変更への適応

社会保障費増加への対応として、効率的で質の高いサービスを提供し、柔軟に制度変更に対応する力が必要です。

2030年に向けた課題と展望

2030年に団塊世代が80歳を超える状況を見据え、訪問看護には、効率的で無駄のないサービス提供と高品質なケアの両立が求められています。

また、予測が難しい変化にも柔軟に対応できる先見性も重要です。そのため、訪問看護ステーションは今後の大きな変化に対応するため、自らの役割やサービスのあり方を見直し、進化させる必要があります。

同時に、あらゆる状況に適応できる対応力や柔軟性を備えることが、これからの時代に求められる課題となります。。

団塊世代を見据えた訪問看護の進化と対応力強化への対策

団塊世代を見据えた訪問看護の進化と対応力強化への対策

2030年に団塊世代が80歳を迎えることを見据え、訪問看護が進化し、変化に柔軟に対応するための方向性を示します。それぞれの課題に対する具体的な対策を以下にまとめました。

これらは時間と労力を要する取り組みですが、5年間の計画を立て、一歩ずつ確実に進めることが重要です。

1. 急増する需要とケアの高度化への対応

高度人材の育成

専門知識や技術を持つ看護師を育成するため、認定看護師・専門看護師の育成支援や研修制度を充実させます。対象領域にはがん看護、認知症、ターミナルケアなどが含まれます。

多職種連携の強化

医師やケアマネジャーなど他職種と連携できるスキルを習得するため、合同研修や事例検討会を実施します。

ICT活用の推進

情報共有ツールやデータ分析のスキルを身につけ、効率的で質の高いケアを提供します。

2. 個別最適化されたケアの提供

アセスメント能力の向上

 利用者の生活背景や価値観を丁寧に把握する技術を習得するための勉強会を開催します。

計画作成スキルの強化

 利用者の意向を尊重した看護計画の作成を学び、根拠に基づいたケアを推進します。

信頼を築くコミュニケーション

 傾聴や共感力、説明力を高めるトレーニングを行い、利用者との信頼関係を築きます。

3. 情報提供と意思決定支援の強化

情報提供スキルの向上

病状や治療法をわかりやすく説明する技術を習得し、最新情報を適切に提供します。

意思決定を支援する技術の向上

利用者が主体的に選択できるよう、選択肢を分かりやすく提示するスキルを習得します。

4. 予防的視点と健康寿命延伸への貢献

生活習慣病予防プログラムの提供

食事や運動に関する個別プランを作成し、利用者の健康維持をサポートします。

地域資源の活用

地域の健康増進施設やボランティア団体と連携し、利用者が継続的に健康づくりに取り組める環境を整えます。

5. 多職種連携のさらなる強化

地域連携の推進

医療・福祉機関と連携体制を構築し、地域全体で高齢者を支える仕組みを作ります。

合同カンファレンスの実施

多職種が集まり、利用者のケアプランを共有・検討する場を定期的に設けます。

6. ICTの活用促進

ICT機器の導入と効果検証

情報共有システムやAIツールを導入し、効率的な業務を実現します。

ICTリテラシー向上

スタッフ向け研修を実施し、ICT活用スキルを高めます。

7. 地域生活を支える役割の強化

地域資源マップの作成

地域の医療・福祉サービスやイベント情報を集めたマップを作成・更新します。

地域住民との交流

地域イベントに積極的に参加し、住民とのつながりを深めます。

8. 報酬改定や制度変更への対応

情報収集と共有

制度改正に関する最新情報を収集し、ステーション内で共有して対応策を検討します。

柔軟な経営戦略の構築

報酬改定に合わせて経営戦略を見直し、効率的な運営と新サービス(例:自費サービス、ナーシングホームなど)の導入を図ります。

一歩ずつ着実に行動を積み重ねていくことが重要です

これらの対策は、短期間で成果を出せるものではなく、時間と労力が必要です。しかし、2030年に団塊世代が80歳を迎えるまでの5年間を活用し、具体的な行動を積み重ねていくことが重要です。一歩ずつでも着実に取り組むことで、大きな成果につながります。

変化が激しい時代において、すべてを完璧に整えてから動き始めるのは現実的ではありません。重要なのは、現状を正確に把握し、課題を明確にした上で、できることから始めて改善を続ける姿勢です。

例えば、人材育成では、すぐに多数の認定看護師や専門看護師を育成するのは難しいかもしれませんが、まずは現スタッフのスキル向上のために研修の機会を増やしたり、外部研修への参加を促すなどの小さな取り組みから始められます。

ICTの導入も、いきなり高額なシステムを導入するのではなく、無料または低コストのツールを活用して情報共有を効率化するなど、段階的なアプローチが可能です。

5年間という時間は短くはありません。この期間を計画的に活用し、各対策を着実に進めることで、2030年には80歳を迎える団塊世代に対応した高品質な訪問看護体制を築くことができるでしょう。

まとめ

まとめ

今回は、団塊世代が80歳を超える2030年を見据え、訪問看護に求められる進化と対応力について考察しました。

団塊世代は自立心や自己決定を重視し、ニーズが多様です。

そのため、訪問看護はケアの質を高め、個別化を進め、情報提供や意思決定のサポートを強化し、予防的視点や多職種連携、ICTの活用、地域包括ケアの役割を発揮し、報酬改定や制度変更にも柔軟に対応する必要があります。

今から具体的な対策を着実に進めることで、団塊世代に適した質の高い訪問看護体制が整い、選ばれる訪問看護ステーションとして成長していくでしょう。

>保険外美容医療での看護師独立ストーリー

保険外美容医療での看護師独立ストーリー

石原看護師は、約1年前に美容エステと美容医療を組み合わせた独自メニューを提供する美容サロンを自宅で開業されました。
週に2回はクリニックに勤務しながら、子育てや家事と両立できるサロン運営を軌道に乗せています。

石原看護師がどのようにして時間や場所にとらわれない働き方を実現できたのか、その経緯、現在の状況、そして今後のビジョンについてお話をうかがいました。

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