厚生労働省によると、2022年4月時点における特養(特別養護老人ホーム)に入所を申し込んでいるものの、ホームに入所していない方の待機者数は、27.5万人いると報告をしています。
参照元:厚生労働省:特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)
2025年問題が間近に迫る中、特別養護老人ホームの不足や入所待機者の問題がさらに深刻化します。
そこで、本日は特別養護老人ホームの待機者問題を解決する取り組みとして注目されている、訪問看護ステーションによるナーシングホーム併設について解説します。
特養(特別養護老人ホーム)とは
特別養護老人ホームの待機者問題を解決する、訪問看護ステーションによるナーシングホーム併設について解説するにあたって、特養(特別養護老人ホーム)とは、どのような施設なのかについて概要を説明します。
特養(特別養護老人ホーム)は、介護を必要とし、自宅での生活が困難な高齢者が入居可能な介護施設であり、社会福祉法人や地方自治体などが運営する公的な施設です。
特養の利用対象者は、原則として「要介護3以上の65歳以上の方」ですが、「要介護3以上で特定疾患が認められた40~64歳の方」や、「特例的な入居が認められた要介護1・2の方」も対象となります。
特養では利用者が寝たきりになったり、認知症でも、高度な医療が必要にならない限り住み続けることが可能です。
※特養や老健についてはについてはこちらの記事も参考にしてみてください
https://caresul-kaigo.jp/column/articles/special_nursing_home_for_the/
https://caresul-kaigo.jp/(ケアスル介護)
最近では看取りにも対応している施設が増加し、終の棲家として入居を希望する高齢者も増えています。
民間の有料老人ホームよりも入居費用が安い点が人気のポイントです。
特養には「従来型」と「ユニット型」の2つの施設タイプがあります。
1.従来型特養
従来型特養では、2名から4名までの多床室が多く、施設全体で介護を提供します。
2.ユニット型特養
ユニット型特養は、個室なので利用者はプライベートな空間を確保できます。ユニットごとにケアを提供し、1ユニットの人数は多くても10人程度となります。
また、特養には、「広域型」「地域密着型」「地域サポート型」の3つの種類があります。
1.広域型特養
広域型特養は、施設のある地域外の方でも入居ができる施設です。入居条件に入居者の現住所の制限がないため、自宅から離れた施設にも入居でき、費用や家庭の事情などの条件に合う施設の選択肢が広がります。
2.地域密着型特養
地域密着型特養は、定員が29名以下の小規模な特養です。少人数の家庭的な雰囲気の中で、地域や家族との結びつきを重視したケアが受けられるのが特徴です。
地域密着型特養は、2006年の介護保険法改正により設置された介護施設です。地域に住む高齢者がなるべく住み慣れた地域で生活をつづけられるよう、身近な市区町村が主体となってサービスを提供しています。
3.地域サポート型特養
地域サポート型特養は、在宅介護を行っている高齢者を支援するための施設です。
24時間体制で生活を見守ります。日中の巡回訪問を行い、夜間の看護師への相談対応や緊急時の対応を実施します。
特養待機が長期化することによる影響
次に、特養待機が長期化することによって、どのような影響が生じる可能性があるのかをまとめました。
1.高齢者の生活困難化
特養に入所することができない高齢者は、自宅での生活や他の介護施設でのケアを求めることになります。
しかし、自宅や他の施設では、重度者に対する介護サービスを提供できる施設が限られているため、入所希望者が適切なケアを受けることが難しくなり、生活の困難化が懸念されます。
2.家族の負担増大
特養待機者の中には、家族が介護を担うことになるケースも多くあります。
高齢者の介護は身体的・精神的な負担が大きく、家族の負担が増加することで、家庭内のストレスや経済的な負担が重くなる可能性があります。
3.医療・介護体制の過重負荷
特養待機者が増加すると、地域の医療・介護体制にも負担がかかります。
医療介護サービスの需要が増えることで、医療介護人材の不足がさらに深刻化する可能性があります。
4.社会全体への影響
高齢化が進行する中で、特養待機者の問題は社会全体にも影響を及ぼす可能性があります。
介護の必要な高齢者の数が増えて、適切な受け入れ体制がないことで、医療費の増大や福祉制度への負担が増え、社会的な課題となることが予想されます。
特養待機者が多い背景~在宅介護・医療政策の遅れ
なぜ、特養の待機者が多くなっているのでしょうか。
特養待機者が多い背景には、在宅介護・医療政策の遅れによる施設数の不足が主な要因とされています。
特別養護老人ホームの新設や既存施設の拡充が遅れている理由として、財政的な制約が挙げられます。
特別養護老人ホームは公的性格の強い施設であり、主に、社会福祉法人や地方自治体が設立・運営を許可されています。
※特養や老健についてはについてはこちらの記事も参考にしてみてください
https://caresul-kaigo.jp/column/articles/special_nursing_home_for_the/
https://caresul-kaigo.jp/(ケアスル介護)
これらの施設には建設や改築、修繕に多額の費用がかかりますが、自治体には財政的な制約があるため、新設や拡充に限界が生じています。
また、高齢者の在宅での介護や医療を支援する政策の中で、独居高齢者や老々介護、介護離職といった問題が大きいとされています。
特に介護度3以上の重度の独居高齢者や老々介護に対する自宅での充分な介護を提供する制度設計に遅れが見られます。
在宅介護・医療政策の遅れによる特養待機者の問題を解決するためには
在宅介護・医療政策の遅れによる特養待機者の問題を解決するために、次のような対策が考えられます。
1. 特別養護老人ホームの整備促進
財政的な制約により新設や拡充が遅れている特別養護老人ホームの整備を促進するためには、自治体の補助金の枠を拡大したり、民間の法人にも設置の許可を与えるなどの措置を検討することで、施設数の増加を図ることができます。
2. 在宅介護支援の充実
介護度3以上などの重度者が在宅で過ごしやすいような制度を整えることが重要です。
これには、在宅介護の専門的な支援体制の充実や、家族の負担を軽減するための経済的支援、訪問医療・看護の強化などが含まれます。
3. 労働環境の改善
医療介護離職の問題に対処するために、医療介護労働者の労働条件や待遇の改善が必要です。
適切な報酬や労働時間の適正化、働き手の育成・確保を支援する施策を実施することで、介護サービスの安定性を確保します。
4.介護人材の確保と育成
介護職員の数を増やすために、資格取得支援や労働条件の改善など、介護人材の確保と育成に力を入れる必要があります。
5.予防と地域ケアの強化
高齢化社会においては、予防と地域ケアの強化が必要不可欠です。
地域における医療・介護機関との連携を強化し、高齢者の健康状態を早期に把握・サポートすることで、特養入所を回避できる場合も増えるでしょう。
6.情報発信と意識啓発
高齢者やその家族に対して、在宅介護・医療の選択肢や制度についての情報発信や意識啓発が必要です。
適切な介護プランの立案や特養入所を検討する際の情報提供が、利用者側の選択肢を広げることにつながります。
これらの対策を実施することで、在宅介護・医療の整備が進み、特養待機者の問題を解決する一助になります。
しかしながら、これらの対策は残念ながら、制度の見直しなどいずれも実現が長期化するものばかりです。
2025年問題が間近に迫る中、特別養護老人ホームの不足や入所待機者の問題解決が長期化し、問題が解決されなければ高齢者やその家族に大きな負担を強いることになります。
特養不足を解決するための訪問看護ステーションの取り組みとは
2025年問題が迫る中、特別養護老人ホームの不足を解決する比較的即効性のある一つの有効な取り組みとして、訪問看護ステーションが、特養とほぼ同額の月額費用で入居できる、ナーシングホームの運営をすることです。
訪問看護ステーションの運営するナーシングホームは、民間事業者によって運営される民間型特養といえます。
その特徴は、介護度3以上の方、ターミーナル、看取りに対応でき、医療的ケアも可能、看護師が24時間365日常駐し、月額の費用負担が比較的安価である入居施設です。
こうした特徴を満たすナーシングホームは、訪問看護ステーションを営む事業所が運営することが最も望ましいとされています。
民間型特養のナーシングホームを訪問看護ステーションを営む事業所が運営する理由はいくつかあります。
(1)訪問看護ならではの専門知識と経験
一つ目は、専門知識と経験です。訪問看護ステーション事業者は、看護師が中心となり、在宅でのケアを提供することに特化しています。
入居施設で24時間365日の看護師常駐を実現するためには、看護師が高度な医療的ケアの知識や経験を持っていることが求められ、訪問看護ステーションには備わっています。
(2)医療的ケアの提供体制
二つ目は、医療的ケアの提供体制です。介護度3以上の方やターミナルケアを必要とする入居者に対しては、医療的ケアの提供が必要です。
訪問看護ステーション事業者は、医師や薬剤師、リハビリテーションスタッフなど、多職種の専門家と連携し、総合的な医療的ケアを提供する体制を整えています。
(3)費用負担の軽減
三つめは、費用負担の軽減です。特養並みの月額費用を実現するために、訪問看護ステーションならではの効率的な経営や、コスト管理の取り組みが重要となります。
(4)多様なサービスの提供
四つ目は、多様なサービスの提供です。訪問看護ステーションは、民間企業が多く、公的な特養と比較して、より多様なサー
ビスを提供できます。
例えば、個室の提供や、レクリエーションの充実、個別の多様なニーズへの対応が可能となります。
こうした理由から、近年では訪問看護ステーションのナーシングホーム参入が増えています。
入所希望者にとっても、公的な特養だけでなく、訪問看護ステーション事業者が上記の要件を満たし、民間型特養~ナーシングホームを提供することで、高齢者やその家族がニーズに合った入居施設を見つけることができて、選択の幅も広がるメリットがあります。
訪問看護ステーションがナーシングホームを経営するメリット
近年、介護度が高い方、がんの終末期、難病、医療処置が必要、医療機器を使っている場合などでも24時間、365日体制で医療的ケアを行う訪問看護ステーションも増えてきています。
しかしながら、訪問看護には時間的な制約があります。
訪問看護師が自宅で看護している限られた時間以外は、家族などの介護者が看ることがほとんどで、介護者がいない独居高齢者が重度化したり、医療処置が必要となった場合、訪問看護などの在宅サービスをつなげながら在宅療養を継続することが限界となるケースが多くあります
訪問看護ステーションがナーシングホームを経営することは、独居や高齢者のみ世帯の方の重度化によって在宅療養が困難となった場合でも、ご利用者を継続してケアできます。
訪問看護ステーションがナーシングホームを経営することの具体的なメリットとして、次のことがらがあります。
(1)シームレスな医療・介護サービスの提供が可能
入居者の医療・介護ニーズに合わせて、訪問看護と施設内での介護を連携して提供することができます。
(2)ご利用者の継続が実現
独居や高齢者のみ世帯の方の重度化によって在宅療養が困難となった場合でも、利用者を継続してケアできます。
(3)コスト削減が可能
訪問看護ステーションとナーシングホームの両方で必要となる設備や人材の共有ができ、人件費や運営費などのコストを削減することができます。
(4)需要に応じた柔軟なサービス提供が可能
入居者のニーズに応じた柔軟なサービス提供が可能になります。
(5)市場競争力の強化が期待できる
入居者の状況に応じて、訪問看護ステーションやナーシングホームのどちらを利用するか選べるようになるため、利用者の選択肢が広がります。
(6)入居者のコスト負担が軽減される
入居者が必要とする医療・介護サービスを一括して提供することができ、入居者は個別に医療・介護サービスを利用する場合よりも費用を抑えることができます。
(7)スタッフの効率化が図られる
訪問看護ステーションのスタッフがナーシングホーム内で働くことができるため、スタッフの希望や利用者の状況に合わせた効率的な勤務形態が作れます。また、スタッフのパートや臨時雇用による人件費の削減ができます。
(8)施設管理の統合が可能になる
施設管理に関する業務が一元化され、効率的な運営が可能になります。
まとめ~訪問看護ステーションの開業はナーシングホーム経営も視野に
高齢化社会において、高齢者の医療介護ニーズが増加している中で、訪問看護ステーションの開業が注目されています。訪問看護ステーションの開業により、高齢者や身体障害を持つ方々が、住み慣れた地域で在宅でも自立した生活を送ることが可能となります。
一方で、在宅での医療介護ニーズに応えるだけでなく、多様化する医療介護サービスの需要を捉えるためには、ナーシングホーム経営も視野に入れる必要があります。
ナーシングホームは、高齢者が共同生活を営みながら、24時間看護や介護を受けられる施設であり、特養待機者の受け皿となります。
訪問看護ステーションと安価で快適かつ安全なナーシングホームの統合的な取り組みにより、高齢化社会の医療介護ニーズに対応し、高齢者のQOL(生活の質)向上と地域の医療・介護体制の充実が実現することが期待されます。