訪問看護ステーションは、地域社会の健康維持に貢献する重要な役割を果たしています。そのためには、明確な運営方針が必要です。
本コラムでは、訪問看護ステーションの運営方針に焦点を当て、その定義やPEST分析やバックキャスティングといった策定プロセス、具体的な手法と共に、運営方針の伝達における重要性を探求します。
訪問看護ステーションの運営方針とは何か、経営理念との違い
最初に運営方針と経営理念の違いについて解説します。
訪問看護ステーションの運営方針は、組織の目標達成や長期的な方向性を確立するための指針や方針のことを指します。運営方針は、組織全体の活動や戦略に関する基本的な枠組みを提供し、ステーションの成長、品質向上、効率化、持続可能性などを実現するための計画を示します。
一方、経営理念は、組織の存在意義や基本的な価値観、使命、ビジョンなどを表すものです。経営理念は、組織の根幹に関わるものであり、ステーションの目的や理念、顧客への価値提供などを明確にする役割を果たします。経営理念は、組織のアイデンティティや文化を形成し、組織の方向性や行動指針に影響を与えます。
経営理念が訪問看護の事業成長の重要な要素となる理由
https://iroiro-nurse.net/philosophy/
※訪問看護ステーションの経営理念については、こちらをご覧ください。
運営方針と経営理念の違いを具体的に説明すると、以下のような点が挙げられます。
(1)範囲と具体性の違い
運営方針は、具体的な目標や方針、行動計画を示すため、より具体的な内容を持ちます。一方、経営理念は、より広範な視点で組織の存在意義や基本的な価値観を示すため、抽象的で一般的な性質を持ちます。
(2)影響範囲の違い
運営方針は、組織内の各部門やチームに直接的な指針を提供することが多く、組織の日常的な活動や戦略に関与します。一方、経営理念は、組織全体に対して共有される価値観やビジョンを提示するため、より広範な範囲に影響を与えます。
(3)影響のレベルの違い
運営方針は、組織内の具体的な業務やプロセスに直接影響を与えます。具体的な運営目標や方針を通じて、業務の改善や効率化を図り、ステーションの成果を最大化します。一方、経営理念は、組織の方向性や文化に影響を与えるため、ステーションのビジョンや価値観を共有し、組織の一体感と共通の目標達成に寄与します。
運営方針と経営理念は、相互に補完し合う関係にあります。経営理念は組織の基盤となり、経営の指針を提供します。それに対して、運営方針は、経営理念を具体的な行動計画や戦略に落とし込み、組織の運営や業務に反映させる役割を果たします。
運営方針は経営理念を具現化し、日々の業務において方針を実践することで、組織の目標達成と成長を実現します。
重要なのは、運営方針と経営理念が一致し、互いに補完しあうことです。経営理念が明確であれば、それを基に運営方針を策定することができます。運営方針は、経営理念を実践するための具体的なアクションプランを示し、組織全体の一体性を確保します。
運営方針策定のためのPEST分析とは
訪問看護ステーションの運営方針を決める上で忘れてはいけないのが訪問看護ステーションという事業は国の制度下にある事業ということです。
訪問看護ステーションの運営方針を決める際に、国の制度や環境の変化を考慮することは非常に重要です。
PEST分析は、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの要素を考慮し、外部環境の変化を把握するためのツールです。
以下にPESTの視点を含めた解説を提供します。
(1)政治(Political)
政治的な要素は、法律、規制、政府の政策などを含みます。訪問看護ステーションは、国の制度下で運営される事業であるため、政府の政策変更や法律の改正が運営に大きな影響を与える可能性があります。例えば、医療制度の改革、訪問看護サービスの補助金制度の変更などが挙げられます。政治的な動向を把握し、将来の政策変更や法律の影響を予測することは、運営方針の決定において重要です。
(2)経済(Economic)
経済的な要素は、景気状況、財政状態、予算配分などを含みます。訪問看護ステーションの運営は、経済的な安定や資金の確保に依存しています。経済の変動や予算配分の変化は、ステーションの収益性や運営方針に直接影響を及ぼす可能性があります。経済的な動向を監視し、将来の予測に基づいて資金計画や収益モデルを構築することは重要です。
(3)社会(Social)
社会的な要素は、人口構成、人々の意識やニーズ、健康・医療に関する価値観などを含みます。訪問看護は、高齢化社会や在宅医療の需要の増加など、社会的なトレンドや変化に密接に関連しています。社会的なニーズや期待を把握し、それに合わせたサービス提供やケアモデルの開発が求められます。また、多様な人々のニーズに対応するため、文化的な敏感さや多文化への理解を持つことも重要です。
(4)技術(Technological)
技術的な要素は、医療技術や情報技術の進歩、デジタル化の進展などを含みます。訪問看護ステーションの運営は、最新の医療技術や情報システムを活用することで効率化や品質向上を図る必要があります。新たな技術の導入や情報セキュリティの確保、データ管理の適切な実施などが求められます。技術の進歩を追跡し、ステーションの運営における効果的な技術の活用を計画することは重要です。
PEST分析を通じて、政治、経済、社会、技術の要素を運営方針に組み込むことで、ステーションの長期的な成功に寄与することができます。これにより、将来の政策変更や法的な制約、経済的な課題、社会的なニーズの変化、技術の進歩に対応し、柔軟な運営方針の策定が可能となります。
運営方針は常に見直しが必要であり、外部環境の変化に敏感に対応することが求められます。PEST分析を適用することで、組織の状況やリソースを最適化し、適切な戦略を立案することができます。外部環境の変化に迅速かつ適切に対応することで、訪問看護ステーションは持続的な成長と成功を実現することができます。
逆算的な思考で運営方針を考えるバックキャスティング
バックキャスティング(Backcasting)は、将来の目標やビジョンを設定し、そこに到達するための具体的な手段や選択肢を逆算して考える手法です。訪問看護ステーションの運営方針を定める際に、バックキャスティングを活用することで、より効果的な方針策定が可能となります。
以下に、バックキャスティングの考え方を詳しく説明します。
(1)目標の設定
まず、将来の目標やビジョンを明確に設定します。ステーションがどのような状態や業績を達成したいのかを明確にイメージしましょう。例えば、患者の満足度を向上させる、地域で最も信頼される訪問看護ステーションとなるなど、具体的な目標を設定します。
(2)逆算の開始
次に、目標を達成するためにはどのような具体的な手段や選択肢が必要なのかを逆算して考えます。目標達成に向けて必要な要素や行動を特定し、それを順序立てて考えます。
(3)現在の状況の把握
逆算を始める前に、現在のステーションの状況や課題を把握します。業績や資源、人材の状況、競合環境などを分析し、目標達成に向けてどのような障害や課題があるのかを明確にします。
(4)選択肢の探索
目標達成に向けて必要な手段や選択肢を探索します。既存の業務プロセスやシステムの改善、新たな技術やツールの導入、人材の育成や配置の見直しなど、様々な選択肢を検討します。
(5)優先順位の付け方
複数の選択肢がある場合、それらを優先順位付けします。目標達成により大きな影響を与える可能性のある手段や、効果が高くリソースを効率的に活用できる選択肢を選びます。
(6)具体的なアクションプランの策定
優先順位の付けられた選択肢に基づいて、具体的なアクションプランを策定します。各手段や選択肢に対して、目標達成に向けたステップや具体的な行動項目を明確にしましょう。アクションプランは具体的で実行可能なものであることが重要です。
(7)リソースとスケジュールの確保
アクションプランの実施に必要なリソース(人材、予算、設備など)とスケジュールを確保します。目標達成に必要なリソースや期間を適切に計画し、スムーズな実行に向けて準備を整えましょう。
(8)監視と評価
アクションプランの実施後は、定期的に進捗状況を監視し、評価を行います。目標に向けた進展や課題の把握、必要な修正や改善の実施などを行い、適切な方向性を保ちながら進めていきます。
バックキャスティングは、訪問看護ステーションの運営方針を定める際に非常に有効な手法です。将来の目標やビジョンを明確に設定し、逆算的な思考を通じて具体的なアクションプランを策定することで、組織の方向性を確立し、目標達成に向けた戦略的な取り組みを実現することができます。
運営方針を持つことの意味と管理者が心掛けること
運営方針は、組織の目標やビジョン、価値観を具体的な行動指針に落とし込んだものです。この方針を持つことで、管理者はぶれない軸を持ち、組織の方向性を明確にすることができます。
経営方針を持つことにより、管理者はリーダーシップを発揮することができます。経営方針は、組織のメンバーに対して共有され、指針となるものです。
日頃からスタッフに運営方針を伝える
運営方針を口に出し、スタッフに伝えることは管理者の重要な責任です。言葉で語るだけでなく、実践することが求められます。
管理者が自ら運営方針の考えを実践する姿勢を示すことで、スタッフに対して方針の信頼性や重要性を伝えることができます。実践することで、スタッフは管理者の姿勢や行動からモチベーションや指針を得ることができ、組織全体で方針に向かって行動する文化が醸成されます。
スタッフが自ら考え行動できる環境を作り出す
運営方針を日頃からスタッフに伝えることは、スタッフが自ら考え行動できる環境を作り出すためのとても重要な要素です。
スタッフが運営方針や目指す方向を耳にすることで、それに向かって自分たちが果たすべき役割や具体的な行動について考えることができます。方針を明確に伝えることで、スタッフは自身の業務や行動を方針と照らし合わせることができ、現状の課題や改善点を見つけることができます。
また、運営方針を共有することで、スタッフ同士の意識や協力体制が高まり、組織全体で目標達成に向けて取り組むことができます。
運営方針の伝達と共有は単なる指示やルールの伝達ではありません。それは組織のビジョンや価値観を共有し、組織の一体感を高めるための重要なプロセスです。管理者は継続的に運営方針をスタッフに伝え、意見交換やフィードバックの場を設けることで、組織内の理解と協力を促進します。
また運営方針の伝達は一度きりではなく、定期的に繰り返されるべきです。状況や環境が変化する中で、運営方針を見直し、組織全体で方針に向かって進むための戦略を再評価する必要があります。
定期的なコミュニケーションとフィードバックを通じて、運営方針の改善や適応が行われることで、組織は変化に対応し続けることができます。
まとめ
経営方針を持つことは、訪問看護ステーションの運営において極めて重要です。それは単なる方針やガイドラインではなく、管理者が持つべきぶれない軸であり、リーダーシップを発揮することです。運営方針が明確に定められ、それを実践する姿勢が示されることで、スタッフは自ら主体的に活動することができます。結果として、訪問看護ステーションの質の向上につながるのです。