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訪問看護師が知っておきたい!在宅人工呼吸療法(NPPV/TPPV)の管理について

在宅人工呼吸療法は、呼吸器疾患や神経・筋疾患などにより換気補助が必要な療養者に対し、在宅で人工呼吸による補助換気を行う治療方法です。

この治療は、単なる病態管理や延命のためだけでなく、在宅でのリハビリテーションや呼吸苦の改善を目的にした緩和ケアとしても活用されています。

在宅人工呼吸療法には、マスクを使用して実施する方法(NPPV)と、気管切開をして実施する方法(TPPV)があります。それぞれの特徴や管理方法について正しく理解しておくことは訪問看護師にとってとても大切です。

今回は、在宅人工呼吸療法の概要からNPPV、TPPVの看護ポイント、在宅人工呼吸療法の管理において注意すべきポイントなどについてお伝えします。

在宅人工呼吸療法(HMV)とは

在宅人工呼吸療法(Home Mechanical Ventilation:HMV)は、慢性の呼吸障害に対処するための治療法であり、装置を使用して呼吸を補助または代行します。

在宅人工呼吸療法(HMV)とは

在宅人工呼吸療法には、気管切開を必要とする気管切開下陽圧換気療法(TPPV)、マスクによる非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)があります。

いずれも病状が安定しており、主治医が「在宅人工呼吸療法が妥当」と判断した場合に導入します。

適応疾患には、主に慢性閉塞性肺疾患、肺結核後遺症、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー症などの神経筋疾患が挙げられます。

在宅人工呼吸療法(NPPV/TPPV)の主な適応疾患

在宅人工呼吸療法(NPPV/TPPV)の主な適応疾患

※在宅NPPV患者のうち、61%が在宅酸素療法を併用。在宅TPPV患者のうち、41%が在宅酸素療法を併用しており、24時間処方は、44%になります。

呼吸器疾患の患者の多くは、NPPV での管理が可能ですが、神経筋疾患では病状の進行とともに気管切開下による人工呼吸が必要となる場合があります。そのため、看護師は療養者の病状を見極める必要があります。

また、在宅人工呼吸療法は以前は神経筋疾患を主な対象としていましたが、現在では先天性疾患などの小児(医療的ケア児)も増加しています。

NPPV療法(非侵襲的陽圧換気療法)とは

NPPV(non-invasive pressure ventilation)療法とは、気管挿管や気管切開を行わず、上気道から陽圧を用いて換気を行う療法です。

嚥下・食事・会話の機能が保持でき、療養者本来の咳嗽・加温加湿機能が損なわれず、声帯損傷・下気道の感染を防げます。

医療機関内では主に慢性呼吸不全患者の急性増悪時や神経筋疾患の患者に用いられますが、在宅においては高CO2血症を伴う慢性呼吸不全の療養者に対して主に夜間睡眠時に使用されます。

NPPV療法の長期的な効果

1.在宅生活の可能期間の延長(入院回数 入院日数の改善)

NPPV療法は、慢性呼吸不全患者に対して在宅での治療を可能にし、入院回数や入院日数の削減に寄与します。患者が定期的に在宅で治療を受けることで、医療機関への頻繁な通院や入院が減少し、生活の質が向上します。

2.QOLの向上

NPPV療法は患者の生活の質(Quality of Life, QOL)向上に寄与します。正しい設定と使用により、呼吸機能のサポートを通じて患者の活動量や日常生活への参加が向上し、心理的な側面も含めてQOLが改善されます。

3.動脈血液ガスの改善

NPPV療法は患者の呼吸機能をサポートし、動脈血液ガスのバランスを改善する効果があります。特に高CO2血症を伴う慢性呼吸不全患者において、適切な換気支援により血液中の酸素や二酸化炭素のレベルを維持できます。

4.生命予後の改善

NPPV療法が適切に行われた場合、慢性呼吸不全患者の生命予後を改善することが期待されます。適切な換気サポートにより身体への酸素供給が安定し、関連する合併症のリスクが低減することがあります。生命予後の改善は、治療の効果的な管理と継続的なモニタリングが重要です。

NPPV療法の適応条件

1.意識がよく協力的である

NPPV療法は、患者が治療に協力的であり、自分の意志で補助呼吸を受け入れることが必要です。患者の十分な意識水準が確保されることで、治療の適切な使用が可能となります。

2.循環動態が安定している

NPPVは患者の循環動態が安定している場合に有効です。循環不全や血行動態の不安定さがあると、補助呼吸が適切に機能しづらくなります。

3.気管挿管が必要でない (気道が確保できている、喀痰の排出ができる)

NPPVは気管挿管が不要な場合に適しています。患者の気道が確保され、十分な喀痰の排出が可能であることが条件です。

4.顔面の外傷がない

顔面に外傷がないことが重要です。マスクの密閉性が確保され、気道への換気が妨げられないようにするためです。

5.マスクをつけることが可能

患者がマスクを適切に装着できることが必要です。マスクの密着性や適切なフィットが確保されることで、有効な換気が行えます。

6.消化管が活動している (閉塞などがない)

消化管が活動しており、閉塞などの問題がないことが条件です。胃腸の正常な機能が維持されることで、気道へのプレッシャーが適切に分散され、治療の安全性が確保されます。

NPPV療法の使用機器と管理法

NPPV療法には、療養者の負担を考慮したNPPV機器の操作方法とインターフェイスの選択が特に重要です。

インターフェイスはNPPVにおいて最も重要であり、患者が不快感を最小限に抑えられるものを選択します。

インターフェイスはNPPVにおいて最も重要であり、患者が不快感を最小限に抑えられるものを選択します。鼻マスク、ピロー型、フルフェイス型に加えて、顔を覆うトータルフルフェイス型やヘルメット型もあります。

有効な換気効果を得るためには、マスクフィッテングが非常に重要です。正しいサイズのマスクとヘッドギアの調整を行い、正しい装着方法を習得する必要があります。特にヘッドギアを締めすぎて皮膚損傷や疼痛が生じないように気を付けなければなりません。締めすぎによる問題があると、NPPVとの非同調が起こる可能性があるので、注意が必要です。

NPPV療法の看護のポイント

導入期

利用者・家族の教育がNPPV療法導入の前提となります。

主治医は導入効果についての事前説明を行います。適応の条件として、本人や家族の協力が不可欠です。

そのため、認知機能の変化やうつ症状などにも注意が必要です。

機器の操作方法や手入れ、マスクの装着、トラブルシューティングなどについては、家族や本人が対応可能な方法を貼り紙にして見えるところに掲示するなど、工夫が必要です。

また、在宅療養を継続するためには、訪問看護や医療サービスを増やして対応するだけでなく、見守りなどは近所の人にも協力してもらうなど、社会資源を活用することが継続の鍵となります。

維持期

指示通りにNPPV機器装着ができているかを確認し、療養者の自覚症状の改善やバイタルサイン、SpO2などを観察します。

維持期になり、自覚症状が改善されてくると、装着せずに療養をすることも少なくなります。

そのため、療養者から状況を聞き取り、医師に情報提供し、呼吸器の設定、療養者のデータ、換気量、リークの量などの数字データと比較しながら、次の方針を相談します。積算時間で使用時間を確認することもできます。

トラブル対応

NPPVの合併症としては、陽圧負荷、睡眠時の使用による不眠、マスクに関連する不快感、顔面の皮膚の紅斑、鼻根部潰瘍、閉所恐怖症などがありますので、これらに対する調整が必要です。

時折、気胸や誤嚥性肺炎、低血圧などのより重篤な合併症も発生する可能性があります。予防には十分な注意が必要です。

TPPV療法(経気管人工陽圧呼吸療法)とは

TPPV療法(経気管人工陽圧呼吸療法)

TPPV(Tracheostomy Positive Pressure Ventilation)療法とは、気管切開を行った患者に対して行われる人工呼吸療法の一形態です。気管切開を経て気管にチューブ(気管カニューレ)を挿入し、そのチューブを通じて陽圧換気を行います。

通常、慢性呼吸不全や神経筋疾患により自発的な呼吸が困難な患者に対して適用されます。

TPPVは生命維持装置として、24時間の介護体制が必要です。短時間のエラーでも生命にかかわるため、介護者としての家族は強い精神的な重圧を感じます。

また、利用者自身も不安感が非常に大きいものとなります。訪問看護師には、人工呼吸器を使用するという選択の重さを十分に理解した上で、患者と家族をサポートしていくことが求められます。

TPPV療法の使用機器と管理法

TPPV療法の使用機器と管理法

在宅でのTPPVには、小型のバッテリー付機種が使われます。人工呼吸器は生命維持装置であるため、停電時にも使用できるように、内部バッテリーに加えて外部バッテリーの準備が必要です。

機器の稼働時間や充電時間を確認し、同時に取り扱い業者の緊急連絡先などを明確にしておくことが重要です。これにより、緊急時に備えられます。

また、人工呼吸器が正常に作動するためには、日常的な点検と管理が不可欠なため、訪問看護師は、以下のことを確認、実施する必要があります。

1.設定の確認

訪問看護師は患者の人工呼吸器の設定を確認します。これには正確な換気パラメータや酸素濃度などが含まれます。患者の状態に合わせて正確な設定が行われているかを確認し、必要に応じて調整を行います。

2.作動状態の確認

人工呼吸器の作動状態を確認することは非常に重要です。正常に稼働しているか、異常な騒音や振動がないか、エラーコードが表示されていないかなどをチェックします。作動異常があれば修理や交換が必要な場合があります。

3.定期的な人工呼吸器回路交換

人工呼吸器回路は定期的に交換する必要があります。これは衛生上の理由や患者の安全性を確保するためです。訪問看護師は適切なタイミングで回路の清潔さや劣化状態を確認し、必要に応じて新しい回路に交換します。

4.フィルター交換

人工呼吸器のフィルターは空気中の微細な粒子や微生物を除去する役割があります。フィルターの清潔さや効果を確認し、定期的に交換することが必要です。これにより患者の呼吸に清浄な空気が供給されます。

5.加温加湿器の動作確認

加温加湿器は人工呼吸器と共に使用され、呼吸空気を温め湿化することで患者の呼吸を快適にします。訪問看護師は加温加湿器の正確な動作を確認し、必要に応じて水の補充や機能の修理を行います。

TPPV療法の看護のポイント

導入期

(1)TPPV導入に伴う患者指導

TPPV導入に伴う患者への指導は入院中に行います。在宅で使用する際に実際の機器を使って、機器の操作や注意事項、緊急時の対処方法などについて、療養者と家族が不安なく、かつ安全に取り扱えるように指導します。

(2)退院前カンファレンスの開催

退院前カンファレンスを開催します。医師、訪問看護師、保健師、ケアマネジャー、ホームヘルパー、医療機器取扱業者、サービス関係者などが参加し、療養者と家族と共に情報を共有し、方針を統一し、サービス体制を整えます。

(3)退院に向けての外泊・アセスメントの実施

退院に向けて、療養者と家族が不安を感じる場合、外泊を試みて、在宅で実際に人工呼吸管理ができるか、問題点がないかを確認することが良い方法です。

その際、訪問看護師が療養者宅を訪れてアセスメントを行い、生活や療養について具体的に指導することで、退院後の生活に安心感を持つことができるようにサポートします。

維持期

TPPV療法の伊敷に起こりうる問題として、病状の変化、医療器機の故障や管理不足によるトラブル、在宅療養支援体制の変化(介護者や支援者の変更など)が挙げられます。

TPPV療法を継続するにあたり、療養者や家族の不安や負担に十分な配慮を払い、相手の不安の内容を掘り下げて傾聴します。

緊急時の対応

TPPV療養者にとって緊急事態は生命への危険を伴います。

医師や療養者、家族とは、予め異常事態への対処法について話し合っておく必要があります。介護保険利用者の場合、サービス担当者会議により、支援チームの連絡体制や統一事項の確認を行います。

在宅人工呼吸法の管理のポイント

在宅人工呼吸法の管理のポイント

家族や他職種に異常時の連絡方法を伝えておく

人工呼吸器を使用している利用者は、ケアの必要度が高く、しばしば複数の事業所が介入しています。そのため、関係者間での情報共有が重要です。

異常時の連絡方法については、「通常は人工呼吸器を外すときしかアラームが鳴りませんので、他の場面でアラームが鳴ったらその内容を確認し、訪問看護師に連絡してください」といった具体的な説明を行い、家族やヘルパーなど他の職種にも理解しやすく伝えておきます。

チェックリストを活用してケアの抜けを防ぐ

人工呼吸器は確認事項が多いため、チェックリストを作成して、訪問のたびに確認することをお勧めします。

特にTPPVの場合、胃瘻や尿管など他の管理が必要なことが多くケアの組み立てが複雑になりがちなため人工呼吸器に関するケアのチェックリストを用意すると、抜けを防げます。

在宅人工呼吸療法チェックシート

チェックリストはこちらからダウンロードいただけます。

停電に備える

停電は一部のエリアで発生することがあり、他の地域からは気づかないこともあります。停電で対応に困ったときには、あらかじめ連絡してもらうように伝えておくと良いでしょう。

自治体が運営するエリアメールで停電情報が得られる場合もあるため、看護師が登録しておくのがおすすめです。

停電対策についてのポイントは以下の通りです。

バッグバルブマスク(アンビューバッグ)の置き場所と使用方法を関係者で共有し、いつでも使える状態になっているか、訪問時に確認します。


人工呼吸器に内部バッテリーがあるか確認します。特にTPPVにはほとんど内部バッテリーがありますが、それ以外のものには内部バッテリーがない場合もあります。


発電機や外部バッテリーを準備し、定期的に充電と作動確認を行います。


内部バッテリーと外部バッテリーを足すと何時間もつのかを把握しておきます。

災害時の避難先・避難方法を確認しておく

災害時の連絡先や避難先などを確認し、わかりやすい場所に貼っておくことが重要です。また、普段から散歩を兼ねて人工呼吸器をつけて移動する練習をしておくと良いでしょう。

人工呼吸器をどこに乗せるのか、移動に何人必要かなど、予め確認しておくことが重要です。

特に近年は、災害が増えていることもあり、自治体で災害時の個別支援計画を立てる動きが進んでいます。取りまとめ役は自治体によって異なるので、ケアマネジャーや自治体の障害担当などに確認するとよいでしょう。

まとめ

今回は、在宅人工呼吸療法の概要からNPPV、TPPVの看護ポイント、在宅人工呼吸療法の管理において注意すべきポイントなどについてお伝えしました。

訪問看護師が在宅人工呼吸療法の管理について理解を深めていくことは、患者の安全と快適な療養生活の確保につながっていきます。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

参考文献:医療法人財団健和会 訪問看護ステーション「訪問看護アイデアノート」

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訪問看護は未経験であり自己資金もゼロでしたが、ある経営者さんとの出会いにより新規立ち上げの訪問看護ステーションで将来の独立を前提に管理者として働くことが決定しました。 現在年収600万円を得ながら経営ノウハウを習得し、3年後の独立、理想の訪問看護ステーション作りに邁進されています。

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