在宅療養者を介護する家族の多くが抱える問題の一つに、「介護疲れ」があります。
介護疲れとは、介護に伴う身体的・精神的・経済的負担により、心身に不調をきたすことを指し、家族の介護疲れは、療養者の在宅生活の継続に大きな影響を与えます。
そのため、訪問看護師は、家族の介護疲れの有無とその要因を把握した上で、介護疲れを軽減する視点をもって支援することが求められます。
今回は、家族の介護疲れをテーマに背景や特徴、訪問看護師が知っておくべき支援の視点などについてお伝えします。
家族の介護疲れとは
家族の介護疲れは、在宅で療養者の介護を担うことで生じる疲労感を指します。
また、介護疲れに関連する用語として、介護負担があります。介護負担は、障害を持った親族の世話をする家族が経験する身体的、精神的、社会的、経済的な負担を指します。
家族の介護疲れ・介護負担が増加している社会背景
日本において、家族の介護疲れや介護負担が増加している社会背景として、高齢者社会の進展が挙げられます。
高齢化と人口減少の進行に伴い、家庭の形態も大きく変化しています。65歳以上の人が住む家庭では、「単身世帯」と「夫婦のみの世帯」が増え、令和4年時点では高齢者だけの世帯が全体の6割以上を占めています。
参照元:厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況「65 歳以上の者のいる世帯の世帯構造の年次推移」令和4年
さらに、要介護者がいる家庭を見ても、同様の傾向が見られます。要介護者がいる家庭では、「単身世帯」と「高齢者世帯」の割合が増加しています。
参照元:厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況「世帯構造別にみた「要介護者等のいる世帯」の構成割合」令和4年
このような背景から、今後一層、家族介護者の負担が増し、「介護疲れ」が増加することが予想されます。
家族が在宅介護で担うさまざまな役割とは
在宅介護において家族は、さまざまな役割を担います。
(1)直接的な介護
高齢者の日常生活支援には、身体的な介護が不可欠です。これは、着替えや食事、排泄などの日常生活動作を支援することを指します。また、入浴や移乗などの身体的なケアも含まれます。デイサービスへの送迎や介助も、直接的な介護の一環として考えられます。
(2)家事的な手伝い
家族は高齢者の生活環境を維持するために、家事の手伝いを行います。これには、買い物や食事の準備、家の掃除や洗濯、財産管理などが含まれます。また、家族とのコミュニケーションを円滑にするための手助けも重要です。
(3)気持ちを支える
心理的な支援も介護の重要な側面です。家族は高齢者とのコミュニケーションを通じて、療養者の心の健康を支えます。悩みや不安を聞き、適切なアドバイスやサポートを提供することが求められます。
(4)付添い
高齢者が外出する際には、付添いが必要とされる場合があります。これには、病院や医療機関への付き添いや、外出時の安全確保が含まれます。また、外出先での移動やコミュニケーションの支援も重要です。
(5)調整
高齢者のケアを円滑に行うためには、家族が様々な調整を行う必要があります。これには、ケアプランの立案や調整、医療機関や介護サービスとの連絡調整、サービスの利用や予約の手配などが含まれます。また、介護負担の軽減や社会資源の活用も、家族の重要な役割となります。
家族の介護疲れが起こる要因とは
家族の介護疲れは、様々な要因があります。
(1)介護の長期性
介護は目標が見えにくく、24時間365日継続的に行われます。
(2)家族の介護担当者の年齢特性
介護を担う家族の多くは、壮年期や老年期にあります。壮年期の場合、仕事や家庭内の役割と介護の両立が困難になることがあります。一方、老年期の場合は、老老介護となり、家族も心身の課題を抱えることがよくあります。
(3)療養者と家族の関係性による介護拒否の可能性
療養者の要因として、疾患の影響によって心身の変化が見られやすいことや、これまでの療養者と家族の人間関係(親子、嫁姑など)によって役割意識が働き、介護拒否が生じることが挙げられます。
また、疾患の影響により、家族がこれまでのコミュニケーション方法を変更する必要が生じることもあります。しかし、家族が変更できないままコミュニケーションに食い違いが生じ、関係が悪化することもあります。
(4)家族側の介護疲れ
家族側の要因として、自分の時間が取れないこと、思い通りに介護ができないこと、他者に介護状況を理解されないことから、悩みや不安、ストレス、いら立ちを抱えやすいことが挙げられます。また、心配性や完璧主義といった家族の特性が介護に妥協できない場合もあります。
家族の介護疲れの健康への影響
家族の介護疲れが、家族の心身状態の悪化(循環器疾患、うつ病等)を招くことがあります。介護による長期間のストレスや負担が、家族の健康に悪影響を与える可能性があります。心理的な負担が高まることで、うつ病や不安障害などの精神的な問題が発症することもあります。また、身体的な負担が続くことで循環器疾患などの身体的な病気が発症するリスクも増加します。
家族の健康状態が悪化すると、療養者の在宅生活が維持できなくなり、療養者の健康悪化につながることも多いです。介護を担う家族が健康問題を抱えると、介護が適切に行えなくなる可能性があります。介護者の健康状態が悪化すると、療養者への適切なケアが十分に行われなくなり、療養者の健康状態が悪化するリスクが高まります。
また、家族の介護疲れは高齢者虐待の要因の1つになりうると言われています。介護疲れやストレスが高まると、家族の介護行動に不適切な影響を与える可能性があります。その結果、高齢者に対する暴力や虐待が発生するリスクが高まることがあります。
※高齢者虐待についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
家族の介護疲れの状況の把握と支援体制の構築
家族の介護疲れは、療養者の在宅生活に大きな影響を与えるため、家族の介護疲れの有無とその原因を理解した上で、介護負担を軽減する支援が重要です。
また、介護疲れが見られない場合でも、加齢や療養者の病気や障害の進行、家族の心身の変化や生活の変化によって介護疲れが発生する可能性があります。そのため、介護者の状況を把握し、介護疲れを軽減するための看護手技を提供する必要があります。
一部の家族は介護を自ら抱え込み、他者の支援を受け入れることを拒否するかもしれません。そのため、将来を見据えつつ、家族のニーズに応じた支援体制を構築することが重要です。
家族が介護を受け入れやすい環境を整え、持続的な支援を提供することで、家族の介護疲れを軽減し、より良い介護環境を築くことができます。
療養者・家族の特徴からみた援助・対策
家族の介護疲れは、家族の特徴や環境などにより様々なケースが考えられます。療養者・家族の特徴からみた援助と対策についてみていきたいと思います。
(1)介護する家族が男性の場合
多くの男性は、社会的な役割を果たすことに慣れており、介護もその一環として捉える傾向があります。
このため、介護が予想通りに進まないと、精神的なストレスを感じることがよくあります。また、女性と比べて家庭の問題を他人に相談しにくい傾向があり、支援を求めずに悩みを抱え込むこともあります。
そのため、家族介護者が介護をどのように捉えているかを理解しながら、適切な支援を提供することが重要です。
(2)介護する家族が子ども (実子) の場合
子どもは過去の親との関係が強く、介護を受けている親の状況を受け入れられない場合もあり、介護に苦慮したり精神的なストレスを感じることがあります。
一方で、親への過剰な愛情や「介護は家族の責任」といった価値観から、介護疲れを引き起こしている場合もあります。
そのため、これまでの親子関係や現在の介護の受け入れ状況を理解しながら、適切な支援を提供する必要があります。
(3)介護する家族が義理の息子・娘の場合
義理の息子や娘との関係は、過去の嫁姑関係などが現在の介護状況に影響を与えることがあります。
また、義理の息子や娘といった関係から、介護に疲れ果てていることを他人に打ち明けずに抱え込んでいることもあります。
そのため、これまでの療養者との関係や療養者に対する思いを理解しながら、適切な支援を行う必要があります。
(4)家族が複数の介護を担っている場合
介護者の高齢化や核家族化の進行により、家族が複数の介護を担っているケースが増えています(多重介護)。
そのため、家族がどれだけの介護を行っているのか、介護に費やしている時間などを把握し、適切な支援の方針を検討する必要があります。
家族の介護疲れに関連する社会資源・制度
介護疲れを予防するためには、公的介護保険制度や民間介護保険、民間の介護サービスなどを活用し、介護の負担をできるだけ軽減することが重要です。
家族の介護疲れに関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。
(1)レスパイトケア
・介護保険法によるデイサービス、ショートステイ
(2)日常生活動作(入浴、更衣、整容、食事)の介助
・介護保険法による訪問介護 訪問入浴介護
・市区町村による家族介護用品支給サービス(紙おむつ等)、寝具類の洗濯乾燥消毒サービス
(3)日常生活の移動・移乗を支援する福祉用具貸与と購入支援
・介護保険法による福祉用具貸与 (車椅子、特殊寝台 特殊寝台付属品,床ずれ防止用具,体位変換器,移動用リフト)
・有償移送サービス、介護タクシー
(4)機能訓練,日常生活動作訓練、アクティビティケア
・介護保険法によるデイケア、デイサービス、訪問リハビリテーション
(5)交流の場
・地域の会合、多世代参加型の交流の場
・家族介護者の会
・趣味などの会 (運動、音楽など)
ではこれらを踏まえて家族の介護疲れに関して訪問看護に求められる役割についてみていきたいと思います。
訪問看護師に求められる視点とは
在宅看護において、家族の捉え方には2つのアプローチがあります。1つは療養者個人の人的環境としての家族であり、つまり、療養者の介護を行う家族や、家族が療養者に及ぼす影響など、療養者中心の家族視点です。
もう1つは、システムとしての家族そのものを看護の対象とするアプローチです。
これは、例えば介護者に小さな子どもがいる場合には、介護者が子どもとの時間を確保できるように療養者のレスパイトケアを提案するなど、家族全体の健康や機能を考慮する視点です。
在宅看護においては、療養者の権利を尊重しつつ、家族全体を1つの単位として捉え、療養生活や介護を家族の活動全体の中に統合して考えることが重要です。
(1)療養者をみる視点
・家族の介護疲れに影響を与えている要因を解消する視点を持つ。
・家族の介護疲れを増強しないように、療養者の健康状態や心身機能の低下・悪化を予防・予測する視点を持つ。
・家族の健康状態や心身機能を把握し、今後起こりうるそれらの変化を予測する。
・療養者と家族のニーズとそれぞれが持つ強みに着目する。
家族の介護疲れの支援のポイント
(1)家族の介護疲れが現れている場合
家族の介護疲れが既に現れている場合、療養者と家族の両者が健康問題や心理社会的問題に直面するリスクが高まります。このような状況では、それぞれの問題に焦点を当てつつ、悪循環に陥らないように支援する必要があります。
そのためレスパイトケアを活用した息抜きやリフレッシュの時間を確保などの介護負担の軽減や療養者と家族の健康管理にも重点を置いた支援が必要になります。
(2)家族の介護の維持・促進が必要な場合
家族の介護の維持・促進が必要な場合には、療養者と家族に合った介護方法が適切であるかどうかや、必要な場合にはどのように社会資源を導入すれば良いか、また家族が介護以外の時間を確保できているかなど、様々な視点から現在の介護状況をアセスメントする必要があります。
そのため療養者と家族に合う介護方法を助言したり、必要なサービスを調整することも重要です。
家族が介護以外の時間を確保したり、社会的な活動を維持できるように支援することも重要です。
まとめ
今回は、家族の介護疲れをテーマに背景や特徴、訪問看護師が知っておくべき支援の視点などについてお伝えしました。
在宅療養者にとって家族は、療養生活を支える環境的存在であると同時に、家族も自分自身の生活や人生を生きる存在です。
そのため、訪問看護師には、介護を担う介護者だけでなく、介護者以外の家族や家族全体を見る視点を持つことが求められます。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。