脳血管疾患の在宅療養を支える訪問看護ステーションの役割と責任

脳血管疾患は、脳の血管に問題が生じる疾患の総称です。この疾患は脳梗塞や脳出血のような状態を引き起こし、身体機能や認知機能に重大な影響を与えることがあります。

脳血管疾患は、訪問看護ステーションの利用が最も多い傷病のであり、訪問看護は、脳血管疾患の患者が在宅で療養する際に重要な役割を果たしています。

本稿では、脳血管疾患についての概要から、訪問看護がなぜこの疾患に関わることが多いのか、そして訪問看護師が果たす役割、患者の家族への配慮などについて解説していきます。

目次

脳血管疾患とは

脳血管疾患とは、脳の血管に異常が起きることによって引き起こされる疾患の総称です。

脳血管疾患とは、脳の血管に異常が起きることによって引き起こされる疾患の総称

脳血管疾患の症状は、疾患の種類や範囲によって異なりますが、一般的な症状には以下のようなものがあります:

脳梗塞(脳梗塞)の症状

突然の強い頭痛

突然のしびれや麻痺(特に顔や手足の一部)

言語や理解能力の障害

突然の視力の喪失や視野の欠損

突然のめまいやバランスの悪化

脳出血の症状

突然の激しい頭痛

意識の喪失や意識レベルの変化

呪血や嘔吐

けいれん

突然の麻痺やしびれ(特に顔や手足の一部)

脳血管疾患が訪問看護の利用が最も多い傷病である理由

脳血管疾患が訪問看護の利用が最も多い傷病である理由

厚生労働省の「令和元年介護サービス施設・事業所調査」では、脳血管疾患が訪問看護の利用が最も多い傷病であることが確認できます。

訪問看護ステーションの利用者傷病別内訳

参照元:訪問看護の現状とこれから2022年版 公益財団法人日本訪問看護財団

脳血管疾患が訪問看護における利用が一番多い理由と背景には、以下のような要因があります:

(1)高齢化社会

脳血管疾患は高齢者によく見られる疾患であり、高齢化社会の進展に伴い、脳血管疾患の患者数も増加しています。高齢者は通院が困難な場合があるため、訪問看護が重要なサービスとなっています。

(2)在宅療養の需要

脳血管疾患の患者の多くは在宅での療養が可能な状態です。しかし、その療養には専門的な医療ケアやサポートが必要です。訪問看護は、在宅での療養をサポートするための重要な役割を果たしています。

(3)残存機能の維持・向上の必要性

脳血管疾患によって生じる後遺症や身体機能の低下を改善するためには、定期的なケアとリハビリテーションが必要です。訪問看護師は、患者の残存機能の維持や向上をサポートし、生活の質を向上させる役割を果たしています。

(4)家族のサポートの必要性

脳血管疾患の患者は、身体的な制約や認知機能の低下などの影響を受けることがあります。そのため、家族や介護者への支援も重要です。訪問看護は、患者の家族や介護者に対して情報提供や教育を行い、適切なケアの提供に貢献しています。

これらの要因が組み合わさり、脳血管疾患の患者が訪問看護における利用が一番多い傷病となっています。訪問看護は、患者と家族のニーズに応え、在宅での療養と生活の質の向上を支援する重要な役割を果たしています。

脳血管疾患の利用者が訪問看護を利用する5つの理由

脳血管疾患の利用者が訪問看護を利用する5つの理由

では、具体的に脳血管疾患の利用者は、訪問看護ステーションをどのような理由で利用しているのでしょうか。

脳血管疾患の患者が訪問看護ステーションを利用する理由は、以下の5つの点に集約されます。

(1)後遺症に対する医療的ケア・介護

脳血管疾患の後遺症は、患者の生活に大きな影響を与えることがあります。例えば、片麻痺や言語障害などの身体的な障害、認知機能の低下などが挙げられます。訪問看護ステーションは、患者の自宅や施設で、後遺症に対する医療的ケアや介護を提供します。これには、傷病状態の監視、傷病管理の支援、排泄ケア、身体的なリハビリテーション、日常生活のサポートなどが含まれます。

(2)血圧や全身状態の管理

脳血管疾患のリスク要因の1つは、高血圧です。訪問看護ステーションは、患者の血圧や全身状態を定期的にモニタリングし、必要に応じて薬物管理や適切なケアプランの調整を行います。これにより、脳血管疾患の再発や進行を予防するための管理が行われます。

(3)生活習慣の改善

脳血管疾患のリスクは、生活習慣にも関連しています。訪問看護ステーションは、患者とその家族に対して、健康的な生活習慣の重要性や食事管理、適度な運動、禁煙などのアドバイスを提供します。生活習慣の改善は、脳血管疾患の予防や管理において重要な役割を果たします。

(4)服薬管理

脳血管疾患の患者は、多くの場合、薬物療法を受けています。訪問看護ステーションは、患者の薬物管理を支援し、正しい薬の服用方法やタイミングの確認、薬物の説明などを行います。また、薬物の補充や処方箋の管理、副作用や相互作用の監視も行います。これにより、患者が適切な薬物療法を受けることができ、治療効果を最大限に引き出すことができます。

(5)リハビリテーション

脳血管疾患の患者は、リハビリテーションが重要な要素となります。訪問看護ステーションは、患者のリハビリテーションプログラムを支援し、運動療法や言語療法、理学療法、作業療法などを提供します。また、リハビリテーションの進捗状況のモニタリングや調整、日常生活へのリハビリテーションの統合も行います。これにより、患者の機能回復や生活の質の向上を促進することができます。

訪問看護ステーションは、これらの要因を考慮して、脳血管疾患の患者に対して包括的なケアを提供します。

これにより、患者が自宅や施設で適切な医療的ケアやリハビリテーションを受けることができ、安心して生活を送ることができます。また、訪問看護ステーションは、患者の家族や介護者に対しても教育やサポートを提供し、疾患管理の負担を軽減します。

訪問看護ステーションに求められる役割

訪問看護ステーションに求められる役割

訪問看護は、脳血管疾患の利用者と家族のニーズに応え、在宅での療養と生活の質の向上を支援する重要な役割を果たしています。

脳血管疾患の利用者に対して訪問看護ステーションに求められる役割についてみていきます。

(1)残存機能の維持・向上

訪問看護ステーションは、脳血管疾患の患者の残存機能を最大限に維持し、向上させるためのケアを提供します。これには、リハビリテーションプログラムの支援、運動療法や言語療法、理学療法、作業療法などの実施、患者の日常生活への機能統合のサポートなどが含まれます。

(2)摂食嚥下・栄養管理

脳血管疾患の患者は、摂食嚥下障害や栄養不良のリスクが高い場合があります。訪問看護ステーションは、患者の食事摂取や嚥下機能の評価を行い、適切な食事プランや栄養管理を提供します。また、栄養状態のモニタリングや栄養補助食品の提供、食事介助の支援なども行います。

(3)再発予防と対応

脳血管疾患の再発は深刻なリスクです。訪問看護ステーションは、患者の定期的な健康状態の評価や血圧モニタリング、薬物管理、生活習慣の改善などを通じて再発を予防し、必要なケアを提供します。

(4)慢性期合併症の予防と対応

脳血管疾患の患者は、慢性期合併症(例:感染症、褥瘡)のリスクがあります。訪問看護ステーションは、患者の合併症の早期発見と管理を行い、感染予防や適切な創傷ケアなどを提供します。

(5)事故防止

脳血管疾患の患者は、転倒や誤嚥、誤薬などの事故のリスクがあります。訪問看護ステーションは、患者の環境評価や安全対策の実施、適切な介助や監視、事故予防のための教育やアドバイスを提供します。また、薬物の説明や適切な保管方法の指導、転倒予防のための適切な装置やアドバイスの提供も行います。

(6)生活目標

脳血管疾患の患者は、自身の生活目標を持っています。訪問看護ステーションは、患者とのコミュニケーションを通じて、その目標を支援し実現するための計画を立てます。例えば、自宅での生活再開や職場復帰、趣味や社会活動への復帰などが考えられます。訪問看護ステーションは、患者の自立を促し、生活の質を向上させるための支援を行います。

訪問看護ステーションは、これらの役割を遂行することで、脳血管疾患の患者が安心して自宅で適切なケアを受けることができるよう支援します。また、家族や介護者にも情報やサポートを提供し、総合的なケアを提供します。

脳血管疾患の慢性期にみられる合併症とは

脳血管疾患の慢性期にみられる合併症とは

脳血管疾患の慢性期は、脳卒中や脳出血などの急性期の病状が一定期間経過し、一定の安定状態に入った後の状態を指します。

慢性期の脳血管疾患では、症状や障害が持続し、長期的な管理や支援が必要となるとともに、様々な合併症にも注意を払う必要があります。

脳血管疾患の利用者の合併症の早期発見や管理、適切なケアプランの提供も訪問看護ステーションの大きな役割の一つです。

脳血管疾患の慢性期にみられる合併症について詳しく説明します。

(1)嚥下機能低下による合併症

脳血管疾患による嚥下機能低下は、嚥下困難や誤嚥(食物や液体が誤って気管に入ること)などを引き起こします。これによって以下の合併症が発生する可能性があります。

(2)呼吸器感染

誤嚥により気管に食物や液体が入り、肺炎や気管支炎などの呼吸器感染症が起こるリスクがあります。

(3)脱水

嚥下困難により、食事や水分摂取が制限されることがあり、脱水症状が現れる可能性があります。

(4)低栄養

嚥下困難により、十分な栄養摂取が困難になり、栄養不良が起こる可能性があります。

(5)神経因性膀胱による合併症

脳血管疾患による神経因性膀胱は、膀胱の筋肉や神経の機能障害を引き起こします。これによって以下の合併症が生じる可能性があります。

(6)排尿障害

神経因性膀胱により、排尿困難や尿意の制御が難しくなることがあります。尿の貯留や頻尿、尿失禁などが生じることがあります。

(7)尿路感染

神経因性膀胱により、尿の滞留や尿漏れが起こることで、尿路感染症のリスクが高まります。

(8)その他の合併症

脳血管疾患の慢性期では、以下のような合併症もみられることがあります。

1.排便障害

脳血管疾患により、便秘や腸の運動障害が生じることがあります。

2.褥瘡

寝たきりや長期の不動状態により、皮膚の圧迫や摩擦が起こり、褥瘡(床ずれ)が生じることがあります。特に脊髄損傷や重度の運動障害を伴う場合にリスクが高まります。

3.認知機能低下

脳血管疾患により、認知機能の低下や記憶障害、判断力の低下などが起こることがあります。これによって日常生活の自立が困難になる場合があります。

これらの合併症は、脳血管疾患の慢性期によく見られるものです。訪問看護ステーションは、嚥下機能の評価や指導、呼吸器管理、栄養サポート、尿路ケア、褥瘡予防、認知機能の評価やトレーニングなど、それぞれの合併症に応じたケアを提供します。また、患者や家族に対して情報や教育を提供し、合併症の予防や早期対応に役立つサポートも行います。

訪問看護師が心掛けるべき、脳血管疾患の利用者の家族に対する説明と配慮

訪問看護師が心掛けるべき、脳血管疾患の利用者の家族に対する説明と配慮

脳血管疾患の患者を介護する家族や介護者は、身体的・精神的な負担を抱えていることがあります。訪問看護ステーションは、介護者への情報提供や教育、心理的なサポートを提供します。

訪問看護師が心掛けるべき、脳血管疾患の利用者の家族に対する説明と配慮についてみていきます。

(1)情報提供と教育

利用者の家族に対して、脳血管疾患の状態や合併症、ケアの目的や内容についてわかりやすく説明します。病状の理解や適切なケア方法についての教育を行い、家族が利用者をサポートするための知識とスキルを身につけることが重要です。

(2)コミュニケーションと共有

家族とのコミュニケーションを大切にし、彼らの質問や懸念を丁寧に受け止めます。情報を共有し、治療やケアにおける意思決定に家族を巻き込むことが重要です。また、連携医療機関や他の医療専門家との情報共有も行い、継続的なケアの連携を図ります。

(3)感情的サポートと心理的配慮

脳血管疾患の利用者の家族は、患者の病状や合併症への不安やストレスを抱えています。訪問看護師は、家族の感情に寄り添い、励ましや支えを提供します。また、家族の心理的なケアも行い、必要に応じて専門家やサポートグループへの紹介を行います。

(4)リソースと情報の提供

利用者の家族には、地域のリソースやサービスについての情報を提供します。例えば、地域のリハビリテーションセンターやサポートグループ、在宅介護サービスなど、家族が利用できるサポートを紹介します。また、保険や福祉制度に関する情報も提供し、必要な手続きのサポートを行います。

(5)連携と継続的なケアプラン

家族との連携を通じて、利用者の状態やニーズを把握し、適切なケアプランを立てます。訪問看護師は、家族と協力し、継続的なケアの提供を計画します。利用者の状態の変化や家族の要望に対応しながら、ケアプランを柔軟に調整し、最適な支援を提供します。

(6)安全な環境づくり

家族に対して、利用者の安全に配慮した環境づくりのアドバイスや指導を行います。例えば、転倒予防や誤飲・誤嚥の予防策、身体的な安全対策などを提案します。また、利用者の生活環境の適応やアセスメントを行い、必要に応じて改善や修正のアドバイスを提供します。

(7)家族の自己ケアの支援

脳血管疾患の利用者の家族は、長期的な介護やストレスにさらされることがあります。訪問看護師は、家族の健康と自己ケアを支援するために、家族の負担を軽減する方法やリラクゼーション技法、自己ケアの重要性についてアドバイスを提供します。家族が自分自身を大切にし、心身のバランスを保つことで、利用者へのケアがより良くなることを促します。

訪問看護師は、利用者の家族がサポートを受けながら、脳血管疾患の利用者のケアに向き合えるように努めます。家族の理解や協力を得ながら、継続的かつ総合的なケアを提供し、利用者と家族の生活の質を向上させることが目標です。

脳血管疾患の利用者や家族と関わることでの訪問看護師の学びや気づき

脳血管疾患の利用者や家族と関わることでの訪問看護師の学びや気づき

訪問看護師が脳血管疾患の利用者や家族と関わる中で得られる学びや気づきはさまざまです。以下にいくつかの例を挙げます。

(1)人間の強さと回復力

脳血管疾患の利用者やその家族と接することで、人間の強さと回復力についての深い理解を得ることがあります。利用者や家族が困難な状況に直面しても、希望を持ち前向きに取り組む姿勢や、困難を乗り越えて回復しようとする意志の強さに触れることができます。

(2)家族の支えの重要性

脳血管疾患の利用者のケアにおいて、家族の存在とサポートの重要性を実感することがあります。家族が利用者を支え、連携してケアに取り組むことで、利用者の回復や生活の質の向上に大きく貢献することがわかります。家族とのコミュニケーションや協力関係の構築が、ケアの成功につながることを学ぶことができます。

(3)継続的な学習と最新情報へのアクセス

脳血管疾患のケアは常に進化しています。訪問看護師は利用者の最新の治療法や介入方法、合併症の管理に関する知識を継続的に学び、実践する必要があります。利用者や家族との関わりを通じて、自身のスキルや知識の向上に取り組むことが重要です。

(4)人間関係の大切さ

脳血管疾患の利用者やその家族との関わりを通じて、人間関係の重要性に気づくことがあります。訪問看護師は信頼関係を築き、利用者や家族との絆を深めることで、より良いケアを提供することができます。思いやりと共感を持ちながら対話し、利用者や家族の声に耳を傾けることが、信頼を構築するために重要です。

(5)柔軟性と創造性の重要性

脳血管疾患の利用者や家族は、多様なニーズや制約を抱えています。訪問看護師は柔軟性と創造性を持ちながら、利用者と家族の個別の状況に合わせたケアを提供する必要があります。ケアプランの調整や問題解決の能力を発揮し、利用者と家族のニーズに適切に対応します。

(6)自己成長と専門性の向上

脳血管疾患の利用者や家族との関わりを通じて、自己成長の機会が与えられます。訪問看護師は自身のスキルや知識を向上させるために、経験を通じて学び続けることが重要です。セミナーや研修への参加、同僚や他の専門家との情報交換を通じて、専門性を向上させることができます。

以上が、訪問看護師が脳血管疾患の利用者や家族と関わる中で得られる学びや気づきの一部です。これらの経験を通じて、訪問看護師はより良いケアの提供に取り組むことができます。

まとめ

今回は、脳血管疾患についての概要や訪問看護の重要な役割に焦点を当て、さまざまな視点から探求しました。

脳血管疾患は、訪問看護の利用が最も多い疾患であり、今後もニーズは、増え続けることが予想されます。脳血管疾患の在宅療養において、訪問看護は不可欠な存在です。

訪問看護師が脳血管疾患の利用者や家族を支えるためには、柔軟性、継続的な学び、そして共感と思いやりの心が必要です。

彼らの生活の一部となり、支援を通じて彼らの健康と福祉を向上させることは、訪問看護師にとって大きな喜びと充実感につながります。

本記事が訪問看護師、そしえてこれから在宅医療、訪問看護に挑戦してみたい看護師の参考になれば幸いです。

>保険外美容医療での看護師独立ストーリー

保険外美容医療での看護師独立ストーリー

石原看護師は、約1年前に美容エステと美容医療を組み合わせた独自メニューを提供する美容サロンを自宅で開業されました。
週に2回はクリニックに勤務しながら、子育てや家事と両立できるサロン運営を軌道に乗せています。

石原看護師がどのようにして時間や場所にとらわれない働き方を実現できたのか、その経緯、現在の状況、そして今後のビジョンについてお話をうかがいました。

無料でダウンロードできますので、看護師の独立にご興味のある方は、是非この機会にご一読ください。

CTR IMG