クローン病は、炎症性腸疾患(IBD)の一種で、消化管の慢性的な炎症を特徴とする疾患です。クローン病は欧米の先進国に多く見られ、近年は日本国内でも増加傾向にあります。
またクローン病は、厚生労働省が指定する特定疾患(指定難病)であり、訪問看護においても関わることのある病気の一つです。
今回は、クローン病をテーマにその特徴から療養生活における支援内容やアセスメント項目などクローン病の看護をおこなう上で知っておきたい内容をお伝えします。
クローン病とは
クローン病は、下痢、腹痛、発熱、体重減少などがその主な症状として知られる、消化管における炎症性疾患の一つです。
この疾患は、口から肛門までの消化管全体にわたって発症することがあり、特に小腸と大腸、特に回盲部が好発部位として知られています。
クローン病の潰瘍は、深部にまで侵食し進行する特徴があります。このため、潰瘍性大腸炎と比較しても、下痢の症状が異なり、血便や粘血便が見られる頻度は低い傾向にあります。代わりに、痔瘻や腸管の瘻孔、穿孔が特に顕著な特徴として挙げられます。
クローン病の原因
クローン病の原因として、遺伝的な要因が関与するという説や、結核菌に似た細菌や麻疹ウイルスによる感染症説、食事中の特定成分が腸管粘膜に異常な反応を引き起こすという説、そして腸管の微小な血管の血流障害説などが報告されていますが、いずれもはっきりと証明されたものはありません。
最近の研究では、何らかの遺伝的な要因を背景に、食事や腸内細菌に対する腸に存在するリンパ球などの免疫細胞が過剰に反応し、病気の発症や悪化に至る可能性が考えられています。
クローン病の疫学
わが国のクローン病の患者数は、特定疾患医療受給者証の発行件数を基にすると、1976年には128人でしたが、平成25年度には39,799人に増加しました。
クローン病医療受給者証交付件数の推移
参照元:難病情報センターホームページ
現在もクローン病の患者数は増加の傾向が続いており、令和4年度の医療受給者証の保持者数は50,184人に達しています。
またクローン病は、10~20歳代の若年者に多く見られ、男女比は2:1であり、男性が女性よりも発症率が高い傾向にあります。
クローン病に対する医療費助成制度
クローン病は、根治療法がまだ見つかっていないため、「指定難病」として医療費助成制度の対象とされています。
症状が重度である方や、症状が軽度でも高額な医療が必要な方が、助成の対象となります。
厚生労働省が定めるクローン病の診断基準「IOIBDスコア」
1項目1点とし、2点以上で 医療費助成の対象となります。
1 | 腹痛 |
---|---|
2 | 1日6回以上の下痢または粘血便 |
3 | 肛門部病変 |
4 | 瘻孔 (炎症で腸管に穴が開き、近くの臓器とつながってしまった状態) |
5 | その他の合併症 |
6 | 腹部腫瘤 (腹部を触ったとき、こぶのようなものがある) |
7 | 体重減少 |
8 | 38℃以上の発熱 |
9 | 腹部圧痛 (腹部を押したときに痛みがでる) |
10 | 10g/dL以下のヘモグロビン (貧血) |
クローン病の確定診断を受けるためには、「指定医療機関」で「難病指定医」の診断が必要です。
その後、所在地を管轄する最寄りの保健所で所定の手続きを行い、認定されると、指定医療機関における医療費の一部が国や都道府県から助成されます。
助成の内容
・医療費の自己負担割合が2割になります。
・医療費に自己負担の上限が設定され、上限以上の支払いは不要となります。
また、クローン病にかかる費用と、それに関連して発生する 以下の医療費助成の対象になります。
助成の対象となる医療費
・病院または診療所での診察や治療代
・薬局等での薬代
・病院や訪問看護ステーションからの訪問看護や訪問リハビリの費用
「軽症高額」の場合の助成
IOIBDスコアが1点以下であっても、高額な医療費を支払っている場合(軽症高額)は、助成の対象となります。
月ごとの医療費が33,330円を超える月が年間3回以上ある方は、難病医療費助成制度を申請することができます。(例:医療保険の自己負担割合が3割の場合,医療費の自己負担が10,000円以上の月が年間3回以上となる方)
参照元:杏林製薬ホームページ「瘍性大腸炎・クローン病患者さんのための難病医療費助成制度」
「高額かつ長期」の場合の助成
長期間にわたって高額な医療費がかかる場合(高額かつ長期)は、負担上限額が軽減されます。
※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある方(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。
医療費助成における自己負担上限額(月額)
参照元:難病情報センターホームページ
クローン病の症状
クローン病の症状は、患者によって異なります。小腸にのみ病変が見られる「小腸型」、小腸と大腸に病変が見られる「小腸大腸型」、大腸にのみ病変が見られる「大腸型」など、侵される部位によっても異なります。
特徴的な症状の中には、腹痛と下痢が挙げられます。これらの症状は、半数以上の患者でみられます。さらに、発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状も頻繁に現れます。
また、クローン病は腸管の合併症として瘻孔、狭窄、膿瘍などを引き起こすことがあります。また、関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門部病変などの腸管外の合併症も多く見られ、これらの有無によってさまざまな症状が現れます。
クローン病の経過
クローン病の経過は、症状の落ち着いた寛解期と炎症が再び悪化する再燃期を繰り返します。若年者に多く見られるため、学校生活や進学、就職、結婚、出産などのライフイベントに影響を及ぼす可能性があります。
そのため、症状が落ち着いていても、治療を継続しながら、定期的な画像検査などで病気の状態を把握することが非常に重要です。
クローン病の再燃時における苦痛
病気が悪化し再燃すると、腸管内の炎症が進行し、発熱や腹痛が生じます。繰り返し起こる炎症によって腸管粘膜が引きつれ(縦走潰瘍)や腫れ上がり、小石を敷き詰めたような潰瘍(敷石状潰瘍)が形成されます。この状態が進行すると、腸管狭窄が起こり、その部分での通過障害による腹痛も生じます。
食事の消化吸収が困難になることや、炎症による体力消耗が加わるため、体重減少もよく見られます。再燃時には、数週間で3~5kgの体重減少が頻繁に起こります。
潰瘍が深刻に進行し、腸管粘膜下層に浸潤して腸穿孔を起こしたり、肛門近くで痔瘻が形成されることもあります。穿孔の場合は、緊急の手術が必要となります。
クローン病の治療方法
クローン病の治療には、内科治療(栄養療法や薬物療法など)と外科治療があります。
治療の目標は、再燃の予防と炎症の沈静化です。炎症の原因となるものを避け、腸に負担がかからないようにして腸管を良好な状態に整え、栄養を十分に消化吸収できる機能を保つことが重要です。
そのため、薬物療法と栄養療法を組み合わせて、腸の状態に合わせた調整を行います。
一般的には、内科治療が主体ですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症がある場合には外科治療が必要となります。
薬物療法
症状のある活動期には、主に5-アミノサリチル酸、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬などの内服薬が使用されます。
5-アミノサリチル酸や免疫調節薬は、症状が改善しても再燃を予防するために継続して投与されます。
また、これらの治療が効果がない場合には、抗TNFα抗体、抗インターロイキン12/23p40抗体、抗インターロイキン23p19抗体、抗α4β7インテグリン抗体、ヤヌスキナーゼ阻害薬などが使用されます。
また、薬物治療ではないですが、血球成分除去療法も行われる場合があります。
栄養療法
栄養療法には、経腸栄養と完全中心静脈栄養があります。
経腸栄養療法では、抗原性を示さないアミノ酸を主体とし、脂肪をほとんど含まない成分栄養剤と、少量のタンパク質を含む消化態栄養剤が使われます。
一方、完全中心静脈栄養は、狭窄が進行している場合や、広範囲にわたる小腸病変がある場合、または経腸栄養療法が困難な場合などに適用されます。
食事療法
クローン病の患者であっても、寛解期には通常の食事が可能ですが、腸への負担を最小限に抑えることが重要です。これにより、病状の悪化や炎症の再燃を予防できます。
消化に時間がかかりすぎないようにするためには、低残渣食が推奨されます。また、原因となると考えられる脂肪分を制限し、食事の量を適切に調整することも再燃の予防に役立ちます。
外科治療
高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が選択されます。この際、腸管を最大限に保持するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。
肛門病変のうち、難治性痔瘻には切開排膿やドレナージ術が行われます。また、限られた場合ではありますが、ヒト体性幹細胞を用いた治療も試みられています。
さらに、クローン病に伴う狭窄に対しては、内視鏡的に狭窄部を拡張する治療も行われることがあります。
クローン病患者および家族への看護のポイントとは
クローン病は、10代から20代にかけて多く発症し、腹痛や下痢など特有の症状があるにもかかわらず、その痛みや苦しみが青年期特有の心理的な問題によるものと勘違いされることがあります。
さらに、進学や就職などの重要な人生の段階で、病気を抱えながらどのように進んでいくかを考えなければならないという心配もあります。
できるだけ症状のない寛解の状態を維持し、健康な生活を送るためには、患者自身が自らの腸の状態をアセスメントし、必要な栄養療法や薬物療法の自己管理ができることが必要となります。
このようなクローン病患者の身体的、心理・社会的特徴を踏まえて、適切な療養生活を送ることができるように支援していくことが看護のポイントとなります。
クローン病患者への援助の方針
① 初発時の援助方針
初発時は、まずクローン病についての理解を促し、自分の腸の状態をアセスメントし、適切な栄養療法を実施できるよう援助します。
② 再燃増悪時の援助方針
再燃増悪時は、炎症の沈静に必要な治療を施し、状態の改善をはかるとともに、再燃予防方法について患者とともに考えます。腸の状態をキャッチする方法を習得し、その状態に適した薬物療法、栄養療法の具体的療養方法を実施できるよう支援します。
③ 寛解維持期の援助方針
寛解維持期は、よりよい状態を維持できているのは、どのような対処行動をとっているからかを患者とともに分析し、適切な自己管理方法を維持していくことができるよう支援します。
クローン病患者へのアセスメント項目とは
患者自身が自らの腸の状態をアセスメントすることにより、下痢や腹痛、発熱などの症状から適切な療養行動(薬物・栄養療法の調整)をとることができます。
また病院での検査によっても、腸の状態をより詳細に把握することができます。
それでは、クローン病患者へのアセスメント項目について(1)身体的側面、(2)日常生活の側面、(3)認知・心理的側面、(4)社会・経済的側面からみていきます。
(1)身体的側面
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
病歴 | ・現病歴、既往歴、治療歴、家族歴など |
検査データ | ①血液検査: CRP、白血球数、リンパ球数、血小板数、赤血球沈降速度 (炎症の程度を知る指標)、総タンパク アルブミン、総コレステロール (栄養状態を知る指標)
②造影検査:小腸大腸造影 (小腸大腸の形状・状態、潰瘍の範囲狭窄の部位と範囲・程度) ③内視鏡検査 胃カメラ (胃・十二指腸の状態把握) ダブルバルーン小腸内視鏡・大腸内視鏡 (小腸および大腸の状態、潰瘍の範囲、狭窄の部位と範囲・程度) |
バイタルサイン | ・体温 (発熱の有無) 脈拍数 (頻脈) |
身体所見 | ・全身倦怠感 |
徴候症状 | ・下痢、発熱、体重減少、貧血症状 |
リスク要因 | ・食生活 |
合併症 | ・腸管外合併症 関節痛・関節炎、結節性紅斑) の有無、症状の程度 |
(2)日常生活の側面
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
環境 | ・なし |
食事 | ・食事内容量: 消化に時間がかかるもの、刺激物などの摂取量を多くとりすぎていなかったか |
排泄 | ・便の回数および性状: 下痢の程度 (水様便、泥状便、軟便など)、血便の有無と血液混入の程度 ・睡眠不足、不眠の有無 |
睡眠 | ・睡眠不足、不眠の有無 |
清潔 | ・肛門の状態: 下痢 肛門病変 (痔瘻) による肛門および周囲の皮膚障害の有無 |
動作 活動 | ・発熱・腹痛や下痢の程度に応じて活動をコントロールできているか、十分な休息がとれているか、疲労の蓄積 体力の消耗がないか |
趣味 余暇活動 | ・ストレス解消につながる活動ができているか |
セルフケア能力 | ・日常生活を調整しながら治療を継続する能力の有無、程度
・食事摂取についての自己管理、 |
(3)認知・心理的側面
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
疾患や治療の理解およ受け止め | ・クローン病についてどのように理解しているか、病気であることのストレスはどのようであるか (自身の受け止めかたによって適切な療養行動がとれるかが左右される) |
価値・信念 | ・何に価値を置き、何を大切にしているか、信仰する宗教は何か
・仕事・学校生活など役割遂行と病気の状態との調整において、症状緩和にうまくつながる行動をとることができるか |
対処方法 | ・これまで問題にどのように対処してきたか
・腸の炎症の再燃など病状悪化したときに、適切な療養行動 対処 (食事の調整、安静の確保など) はできていたか |
心理状態 | ・ストレスをためていないか |
認知機能 | ・なし |
(4)社会・経済的側面
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
役割 | ・学校生活に支障はないか、就業に支障はないか |
職業 | ・就業状況に病気が影響しているか |
家族構成 | ・家族内での自身の役割を発揮できているか、果たせているか |
家族の状態 | ・ストレスをためていないか |
キーパーソン | ・家族または周囲の人の中でのキーパーソンは誰か |
経済状態 | ・就業状況に病気が影響しているか |
ソーシャルサポート | ・患者会などのセルフヘルプグループによる支援、指定難病制度などの医療助成制度の利用、腸管障害 栄養状態に応じて身体障碍者手帳の申請 |
クローン病におけるセルフモニタリングの指標の提示と指導
良好な状態を維持するためには、腸の状態に応じた栄養療法を自己管理できるようになることが必要です。このため、看護師は利用者に対し、炎症の再燃の兆候を早めに把握し、腸の状態をアセスメントできるようセルフモニタリングの指標を提示します。
また、炎症が増悪している可能性がある①下痢、②腹痛、③発熱、④体重減少などの4つの症状に注意を払うよう指導します。
①下痢
炎症が再燃すると、腸の消化吸収機能が低下し、下痢の回数が増えます。多い場合には1日10回以上に達し、同時に、便の性状も泥状から水様の状態に変化します。患者自身がこの程度や頻度から再燃の兆候を把握することができます。
②腹痛
腸の機能が低下すると、摂取した食物を十分に消化吸収できなくなります。その結果、潰瘍や狭窄の部位に食物が停滞し、その刺激で腸の収縮が増加して腹痛が悪化します。
造影検査の結果をもとに、患者が自分の腸のどこに狭窄があるかを把握しておくことで、その部位の腸の収縮の増加や痛みに注意を払い、腸の機能の低下の兆候を把握できます。
③発熱
全身の状態を示す重要な指標となります。患者自身が無理をしていないつもりでも、疲労が蓄積すると抵抗力が低下し、微熱が持続したり、発熱が生じたりすることがあります。
全身的な炎症の兆候として、これらの症状に注意を払う必要があります。
④体重減少
腸の炎症が進行すると、体力の消耗が激しくなります。同時に、腸の消化吸収能力が低下し、下痢が増え、栄養の吸収量が減少するため、急激な体重減少が起こることがあります。
患者自身でも体力が低下し、疲労感を感じることがよくあります。これらの症状も再燃の増悪を示している可能性があります。
まとめ
今回は、クローン病をテーマにその特徴から療養生活における支援内容やアセスメント項目などクローン病の看護をおこなう上で知っておきたい内容をお伝えしました。
クローン病患者が適切な栄養療法を調整し、より健康に近い寛解状態を維持できれば、学校生活や就職、仕事、結婚に制限が生じることはありません。
自身の腸の状態に応じて必要な栄養療法を行い、より良い体調を維持することが、心理的および社会的な側面を良好に保つことにつながります。
そのため、看護師は日常生活で患者が自分の腸の状態に合った方法を実践できるよう、具体的な方法を共に考え、実行できるよう教育的支援を行っていく必要があります。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。