マーケティングとは、商品やサービスを提供する企業や組織が、顧客のニーズや要求を理解し、それに適した商品やサービスを開発・提供し、顧客に対して価値を提供するための活動です。訪問看護ステーションという事業においても、マーケティングは重要な要素となります。
本コラムでは、管理者が身につけておきたい訪問看護ステーションのマーケティングに必要な5つの要素と、その重要性について解説します。マーケティング力を身につけることで、訪問看護ステーションの成長と地域への貢献を実現しましょう。
訪問看護ステーションのマーケティング活動とは
マーケティングは、事業やサービスを提供する際に顧客のニーズや要求を理解し、それに基づいて戦略を立案し、顧客への価値を提供するための活動です。
訪問看護ステーションは、患者やその家族に寄り添いながら、医療や看護のサービスを提供する役割を果たします。しかし、単にサービスを提供するだけではなく、患者のニーズや要望を把握し、それに合わせた個別のケア・サービスを提供する必要があります。このような活動を実現するために、マーケティングの考え方や手法を活用することが重要です。
もちろん訪問看護の管理者がマーケティング力を身に着けることは、事業の成長や地域での存在感を高めるために不可欠です。
訪問看護の管理者がマーケティング力を身に着けることで、競争激化する医療市場において差別化を図り、患者やその家族からの信頼を獲得することができます。さらに、地域の医療ニーズやトレンドに合わせた戦略的な活動を行うことで、訪問看護ステーションの存在感を高め、より多くの患者に必要なケアを提供することができるのです。
訪問看護ステーションのマーケティングに必要な5つの要素
訪問看護におけるマーケティングの要素としてマインドフロー、プロダクトフロー、売上五原則、ニーズの深さ・広さ、そして強みが挙げられます。
これらの要素は、訪問看護ステーションがビジネスを成功させるために必要なポイントをカバーしています。
まず、「マインドフロー」では、利用者の心理的なプロセスに着目し、認知からリピートや口コミ紹介までのステップを順に進めることで、訪問看護の利用へと導きます。
次に、「プロダクトフロー」では、訪問看護のサービスが利用者にどのような経路で届けられているかを考えます。強い経路を伸ばし、弱い経路を改善することで、効果的なサービス提供を実現します。
「売上五原則」では、新規利用者の増加、終了者の減少、利用頻度の増加、依頼件数の増加、そして訪問単価の向上を追求します。これにより、訪問看護ステーションのビジネス成長と収益向上を図ります。
「ニーズの深さ・広さ」では、ケアマネジャーや利用者、地域のニーズを理解し、地域の特性や健康課題、利用者の偏在などを把握します。これにより、ターゲットのニーズに合わせた戦略を立てることができます。
最後に、「強み」では、自ステーションが他の競合ステーションと異なる特徴や利点を持っていることを把握し、それをターゲットに伝えていきます。
これらの要素を理解し、適切に活用することで、訪問看護ステーションは競争力を高め、顧客のニーズに応えながら持続的な成長を達成することができます。
それぞれの要素について詳しく解説していきます。
マインドフロー
マインドフローは、訪問看護のマーケティングにおいて重要な要素の一つです。この要素は、訪問看護の制度やサービスを知らない利用者や関係者に対して認知を広げることを目的としています。具体的には、以下の2つの側面での認知拡大が重要とされます。
(1)利用者への認知拡大
訪問看護の制度やサービスを利用する必要がある利用者に対して、訪問看護の存在や利点を広める必要があります。訪問看護が提供する利点としては、自宅での医療ケアやリハビリテーション、定期的な健康チェックなどがあります。訪問看護の利点を利用者に対して明確に伝えることで、利用者の関心や興味を引き、訪問看護へのニーズを高めることができます。
(2)関係者への認知拡大
訪問看護を提供するステーションが地域の医師、ケアマネジャー、病院の看護師、特に退院調整部門の看護師などと連携し、訪問看護の重要性を共有することも重要です。これにより、関係者が訪問看護の存在や利点を把握し、適切な場面で訪問看護を推薦・紹介する機会が増えます。特に退院調整部門の看護師との連携は重要であり、入院患者の退院後に訪問看護を提案することで、適切なケア環境の提供につながるでしょう。
訪問看護が本当に必要な人々に届くためには、認知をもっと広めていく必要があります。広報活動や情報発信を通じて、訪問看護の存在や利点を地域の利用者や関係者にアピールしましょう。また、訪問看護の効果や成功事例を積極的に共有することも効果的です。認知を広げることで、本当に必要な人々が訪問看護を利用できる地域をつくり上げることができます。
プロダクトフロー
プロダクトフローは、訪問看護のマーケティングにおいて重要な要素の一つです。この要素は、訪問看護の依頼や利用がどのような経路で行われているかを把握し、効果的なアプローチを行うことを目的としています。具体的には、以下の要素がプロダクトフローに関わっています。
(1)利用者獲得の経路の把握
訪問看護の利用につながる経路や入口を理解することが重要です。訪問看護への依頼や利用がどのような経路で起こっているのかを把握するために、ケアマネジャー、地域の開業医、病棟の看護師などとのコミュニケーションやデータ収集を行います。さらに、利用者自身がどのような経路で訪問看護につながっているのかも調査することが重要です。
(2)強い経路の拡大と弱い経路の改善
強い経路を伸ばすためには、関係者とのコミュニケーションや連携を強化し、訪問看護の利点や効果を積極的に伝えることが重要です。例えば、訪問看護をよく知るケアマネジャーや地域の開業医との連携を強化し、共同のセミナーや研修を開催することで、訪問看護への理解を深めることができます。
また、弱い経路の改善には、情報発信やマーケティング活動の見直しが必要です。例えば、利用者が訪問看護について情報を得る主要なチャネルが明確でない場合は、ウェブサイトやパンフレットなどの情報資源を充実させることが重要です。さらに、利用者のニーズや好みに合わせた情報提供やコミュニケーション手段を検討し、利用者との関係を強化することも効果的です。
プロダクトフローの分析と改善は、訪問看護ステーションが効果的なマーケティング戦略を展開するために欠かせない要素です。強い経路を伸ばし、弱い経路を改善するアプローチを取ることで、訪問看護の需要を増やし、より多くの人々に訪問看護の恩恵を届けることができます。
訪問看護の「売上五原則」
売上五原則は、訪問看護のマーケティングにおいて重要な要素の一つです。これは、訪問看護ステーションが売上を増やすために注力すべき項目を示しています。
(1) 新規利用者の増加
新規利用者の増加は、訪問看護ステーションが成長し続けるために重要な要素です。新たな利用者を獲得するためには、前述したプロダクトフローの分析と改善、市場調査や競合分析を行い、ターゲットとする需要層を明確にし、そのニーズに合わせたアプローチを効果的に行うことが重要です。
(2) 終了者の減少
終了者の減少は、訪問看護ステーションが提供するケアサービスの質や満足度に関わる重要な要素です。利用者の状態が良くなり、訪問看護の提供が終了することは、訪問看護の成功と言えます。一方で、ケアマネジャーや利用者が訪問看護ステーションの提供するケアサービスに失望し、離れてしまうことは避ける必要があります。
(3) 利用頻度の増加
利用頻度の増加は、訪問看護ステーションの売上を向上させるために重要な要素です。利用者がより頻繁に訪問看護のサービスを利用することで、収益を増やすことができます。利用頻度の増加を促すためには、適切なフォローアップや定期的なケアプランの提供、ニーズに応じた追加のサービスの提供などが必要です。
(4) 依頼件数の増加
依頼件数の増加は、訪問看護ステーションのビジネスの拡大につながる要素です。依頼件数の増加を実現するためには、利用者の状態から訪問リハビリなど必要と思われる訪問看護サービスの提案を行うことで訪問看護の需要を増やし、売上を伸ばすことができます。
(5) 訪問単価の向上
訪問単価の向上は、訪問看護ステーションの売上を拡大するために重要な要素です。訪問単価を向上させるためには、算定可能な加算はきちんと算定する、効果的な訪問ルート調整で無理なく看護師一人当たりの訪問件スを増やす、ケア手順のマニュアル化により無駄を省くなどの取り組みが必要になります。
売上五原則を達成するためには、市場調査や競合分析を通じて顧客のニーズや要望を的確に把握し、それに合わせた戦略や施策を立案することが重要です。訪問看護ステーションは、患者や家族のケアニーズを満たすための継続的なサービス提供や、顧客満足度の向上に取り組むことで、売上を増やすことができます。
ニーズの深さ・広さを理解する
ニーズの深さ・広さを理解することは、訪問看護のマーケティングにおいて重要な要素です。自分がいる地域がどのような地域なのかを理解することで、効果的なアプローチを考えることができます。
まず、ケアマネジャーのニーズを理解することが重要です。ケアマネジャーは、訪問看護を利用する患者や利用者のケアプランを立案し、調整する役割を担っています。ケアマネジャーが抱えるニーズや課題を把握することで、訪問看護ステーションはケアマネジャーとの連携を強化し、効果的なケアプランの提供や情報共有を実現することができます。
次に、利用者のニーズを理解することが重要です。利用者のニーズは多様であり、個別のケアニーズや要望に応えることが求められます。利用者のニーズを把握するためには、利用者とのコミュニケーションやアンケート調査などを通じて、彼らの要望や意見を収集することが重要です。利用者の声を聴きながら、訪問看護のサービスやプログラムの改善を行い、より満足度の高いケアを提供することができます。
さらに、地域のニーズを把握することも重要です。地域の特性や特定の健康課題、地域内の医療リソースの分布などを理解することで、訪問看護ステーションは地域のニーズに合わせた戦略を立てることができます。高齢化率や地域的な利用者の偏在、どの地域の人がどの病院に入院するかなどのデータ収集を行うことで、地域の健康ニーズを把握し、訪問看護の需要や潜在的な利用者層を特定することができます。
地域を理解することで、訪問看護ステーションは効果的なアプローチを考えることができます。
自ステーションの「強み」を理解し発信する
強みは、訪問看護のマーケティングにおいて重要な要素の一つです。自ステーションが他の競合ステーションとは異なる特徴や利点を持っていることを把握し、それを目指すターゲットに伝えていくことが求められます。
そのためにも、まず、自ステーションの強みを明確にすることが重要です。強みとは、他の競合ステーションと比較して自ステーションが優れている点や特徴のことを指します。例えば、経験豊富なスタッフや専門的な知識、資格、高いケア品質や安全性、利用者の個別ニーズに対応する柔軟なサービス提供などが自ステーションの強みとなる場合があります。
次に、強みを目指すターゲットに伝えるために、適切なメッセージを発信する必要があります。メッセージは、自ステーションの強みや提供する価値を的確に伝えるために使われます。例えば、スタッフの経験と専門知識を強調して、高品質なケアを提供していることを伝えるメッセージを作成することができます。また、利用者のニーズに寄り添った柔軟なサービス提供をアピールするメッセージも効果的です。
強みを伝えるメッセージは、ターゲットのニーズや要望に合わせてカスタマイズされるべきです。例えば、高齢者向けの訪問看護サービスを提供している場合、高齢者やその家族が求めるケアの安心感や信頼性を強調するメッセージが効果的です。また、地域における強みや地域の特性を活かしたメッセージもターゲットに訴求力を持つことができます。
自ステーションの強みを知り、目指すターゲットに伝えるためには、競合分析や市場調査を行い、自ステーションが他のステーションと異なる点や優位性を明確にする必要があります。それに基づいて訴求力のあるメッセージを作成し、広告やウェブサイト、資料などの媒体を活用して伝えることが重要です。
競合他社にはない自社独自の付加価値についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
https://digmar.jp/2023/07/06/5510/
まとめ
今回は、訪問看護ステーションのマーケティング活動の概要や、成功のために必要な5つの要素について解説しました。
訪問看護ステーションの成功には、マーケティング力が欠かせません。マインドフローやプロダクトフロー、売上五原則、ニーズの深さ・広さの理解、そして自ステーションの強みの活用は、訪問看護ステーションの成長と地域への貢献に大いに役立ちます。
管理者の皆さんは、これらの要素を組み合わせて戦略的なマーケティングを展開し、訪問看護ステーションの発展に尽力してください。積極的なマーケティング活動を通じて、より多くの人々に高品質なケアを提供する訪問看護ステーションの存在を知らせ、社会に貢献しましょう。