関節拘縮は、病気やケガ、または長期の療養や臥床により関節の動きが制限されることで引き起こされる症状の一つです。
拘縮が生じると関節が硬くなり、日常生活で必要な動きが制限され、ADL(日常生活動作)が著しく低下します。
また、拘縮が重度になると自立した生活がほぼ不可能になるため、家族の介護負担も増大していきます。
関節拘縮は、訪問看護や訪問リハビリにおいても関わることの多い疾患であり、拘縮の原因や予防法、拘縮がある利用者の対応方法等について詳しく知っておくことはとても重要です。
今回は、関節拘縮をテーマにその概要から症状と訪問看護による在宅での支援のポイントなどについてお伝えします。
関節拘縮とは
関節拘縮とは、関節を伸ばしたり、曲げたりできなくなるなど関節ごとの関節運動が難しくなった状態のことを指します。
関節包外の靭帯などの軟部組織が原因で起こる関節可動域制限のことを「拘縮(contracture)」といい、関節を構成する骨・軟骨自体に原因がある場合には「強直 (ankylosis)」といいます。
関節拘縮は、体が伸びたまま・曲がったまま・捻じれたままなど様々な状態を引き起こします。
(1)屈曲拘縮
屈曲拘縮は、関節が変形したままで固まり、膝や肘などを伸ばせなくなる状態です。手指や足指にも拘縮が生じることがあります。
(2)伸展拘縮
屈曲拘縮の逆で、関節を伸ばしたまま曲げられなくなる状態を指します。
(3)線維性強直
関節包、腱、靭帯などの関節内組織が線維的に癒着し、可動域が制限された状態です。部分的な制限がある場合は部分的強直や不完全強直とも呼ばれます。
(4)骨性強直
関節面が骨同士で癒合してしまい、関節の可動性が完全に失われた状態です。全身性の炎症疾患である強直性脊椎炎や関節リウマチなどで見られます。完全強直とも呼ばれます。
関節拘縮の原因による分類
関節拘縮は、加齢の影響やパーキンソン病等の病気、麻痺、痛み、むくみ、寝たきりなど様々な原因で起こりますが、全ての拘縮に共通しているのは関節の周囲の組織に異常があり、可動域が制限されているということです。
関節拘縮は、その原因により次のような分類されます。
(1)皮膚性拘縮
やけどや手術の切開などによって皮膚の真皮が傷つくことケロイドや肥厚性瘢痕が形成され、関節の可動域が制限される拘縮です。
(2)結合組織性拘縮
皮下組織や腱、腱膜が外傷などで浮腫や感染を受け、それによって引き起こされる拘縮です。
(3)筋性拘縮
高齢者が長期間寝たきりだったことなどによる廃用性の萎縮が原因です。筋肉の緊張、委縮、長期間の固定などにより関節が引っ張られて発生します。
筋性拘縮には、以下のようなものがあります。
筋自体の病変による拘縮
急性や慢性の筋炎による筋線維の変化、筋断裂や筋肉内注射の反復実施による線維化が原因です。
筋の退行性変性による拘縮
長期臥床(寝たきり)による廃用症候群で、筋肉の収縮性や伸展性が低下し、関節が長期間一定の肢位に固定されて可動域制限が生じます。
筋肉が一定の期間固定されると、筋線維に退行性変化が生じ、筋肉の基本的な機能である伸展性が低下して可動域制限が発生します。
筋の血行障害による阻血性拘縮
筋の血行障害により母指内転や手関節掌屈など阻血性拘縮(フォルクマン拘縮など)があります
(4)神経性拘縮
神経性拘縮は、神経系に原因があって起こる関節拘縮です。
脳神経系の病気や損傷による神経の興奮で筋緊張が発生し、麻痺して関節拘縮が生じます。また、強い痛みからの逃避姿勢が原因になることもあります。
神経性拘縮には、以下のようなものがあります。
反射性拘縮
疼痛などの末梢刺激が神経の反射弓を通じて筋スパズムを引き起こし、反射的に痛みから逃れたい肢位を取りますが、これが長時間続くことで拘縮が生じます。
痙性拘縮
脳血管障害、脳性麻痺、脊髄疾患による中枢神経系麻痺が原因で、筋緊張亢進の結果として特定の肢位で拘縮が発生します。
弛緩性拘縮
末梢神経麻痺により拮抗筋と主動作筋の筋力のアンバランスから生じる拘縮です。
(5)関節性拘縮
関節の滑膜、関節包、靭帯など関節を構成する組織が炎症を起こしたり傷ついたりする事で起こります。
また、他にも指の変形から生じる拘縮として、手の酷使が原因で発生する「バネ指」や、腱膜の収縮によって手指が曲がり伸ばすことが難しくなる状態が長く続くことで発生する「デュピイトラン(Dupuytren)拘縮」があります。
拘縮が起きやすい場所とは
拘縮が起きやすい場所は肩関節、手指、股関節、膝関節、足関節などです。これらの関節に拘縮が生じると、日常生活の動作も低下してきます。
手・指の関節
・爪が手のひらに食い込んで痛みや傷つきが生じやすくなります。
・手のひらの清潔が保ちにくくなります。
肩・肘(ひじ)の関節
・起き上がるや食事するなどの動作や家事が難しくなります。
・脇の下の清潔が保ちにくくなります。
膝(ひざ)の関節
・座位(座った姿勢)の保持が難しくなります。
・歩きにくくなり、転倒しやすくなります。
・靴下や靴の着脱が困難になります。
足関節
・胼胝(たこ・うおのめ)ができて、歩行時に痛みが生じやすくなります。
・座位が不安定になりやすくなります。
・車いすのフットサポートに足の裏がつかなくなり、事故が起こりやすくなります。
股関節
・座位の保持や排泄(はいせつ)の姿勢が難しくなります。
・歩行が難しくなり、転倒しやすくなります。
・浴槽への入浴が難しくなります。
このほか、二関節筋(起始と停止が2つの関節をまたぐ筋)である腸腰筋、大腿筋膜張筋、ハムストリングス、大腿直筋、薄筋、腓腹筋は、拘縮を起こしやすい特性があります。
拘縮の合併症
関節拘縮は褥瘡、生活不活発病(廃用症候群)、日常生活動作の大きな低下につながります。
さらなる関節の拘縮
関節拘縮が進行すると、他の関節にも影響を及ぼし、さらなる拘縮が生じる可能性があります。
筋力の低下
関節拘縮により正常な運動が難しくなり、筋肉の使用が制限されます。これが続くと筋力が低下し、全身の体力が減少する可能性があります。
運動量低下による骨粗鬆症
活動が制限され、運動量が低下すると、骨密度が低下しやすくなります。これが続くと骨粗鬆症のリスクが高まります。
起立性低血圧
運動不足により血流が滞ることがあり、起立時に低血圧が起こる可能性があります。これはめまいやふらつきを引き起こすことがあります。
全身運動の不足による便秘
運動不足が続くと腸の活動が低下し、便秘のリスクが高まります。全身の運動が不足することで腸の動きも鈍くなります。
褥瘡
長時間同じ位置にとどまることが増えると、皮膚に圧力がかかりやすくなり、褥瘡(床ずれ)の発生リスクが上がります。
活動性低下による認知症、認知機能低下の進行
運動が制限されると、認知機能の低下や認知症の進行のリスクが高まる可能性があります。
食事量低下による低栄養
活動が減少すると食欲が低下し、食事量が減少する可能性があります。これにより栄養不足が引き起こされます。
拘縮の治療法とは
拘縮は治療が難しく、予防が非常に重要となります。
拘縮の予防には、拘縮の原因を理解し、関節の可動域訓練が基本となります。これに加えて、安静時のポジショニングも重要です。
(1)関節可動域訓練
関節拘縮が起きた場合、他動的な可動域訓練を行います。
この際、関節の各運動方向における可動範囲や、皮膚・筋・腱の緊張状態を確認し、関節拘縮の原因となっている組織を特定してストレッチすることが基本となります。
関節可動域訓練は、以下の点に留意しておこないます。
身体を温めてから行う
身体を温めた状態で行うことが重要です。身体が温まると筋肉の柔軟性が高まり、ストレッチの効果が増します。家庭では、温かいタオルを使ったり、入浴後の身体が温まった状態で行うのが効果的です。
反動をつけない
筋肉を伸ばす際には反動をつけないように注意しましょう。反動をつけると筋肉や腱を傷つける危険性があります。静かにゆっくりと伸ばしていくことが大切です。特に痙性がある場合は、さらに注意が必要です。
少しずつ伸ばす
筋肉を一気に伸ばすのではなく、少しずつ徐々に伸ばしていくことが重要です。動きを段階的に分けて、無理なく筋肉を伸ばしていきましょう。
ゆっくり, 大きく伸ばす
伸ばす際はゆっくりかつ大きく行います。痛みのない範囲まで伸ばし、その状態を一定時間維持します。継続的に時間を長くしていき、目標として30秒程度を目指します。
痛みに注意する
痛みには注意が必要です。痛みが出る場合は、炎症や浮腫が起こっている可能性があります。このような場合は、関節拘縮を助長してしまう可能性があるので注意が必要です。
重力を利用する
重力を利用して行うのも良い方法です。拘縮した筋や関節は、時間をかけて伸びる性質があるため、重力を利用してゆっくりと伸ばします。例えば、座位姿勢で重力を利用することが有効です。
呼吸を止めない
ストレッチを行う際は、呼吸を止めずに行います。息を止めると筋肉が緊張して伸びにくくなるため、ゆっくりとした呼吸をしながらリラックスして行います。
継続し複数回行う
継続して行うことが大切です。1日2回以上(できれば複数回)、時間を空けて実施することが望ましいです。毎日継続して行うことで効果を感じることができます。
(2)良肢位をとる
「良肢位(りょうしい)」とは、肢位の一種であり、身体が麻痺しているなどの理由で関節運動が制限されても、筋萎縮や関節拘縮を最小限に抑え、機能障害の影響を最小限にするための関節の最適な位置を指します。
良肢位は、股関節伸展位、 膝関節軽度屈曲位、足関節直角、肩関節外転位、肘関節屈曲位、手関節背屈位が基本となります。
各関節の良肢位
部位 | 良肢位 |
---|---|
肘関節 | 90度屈曲位 |
手関節 | 10~20度背屈位、内外中間位 |
手指 | テニスボールを握るような肢位 |
股関節 | 15~30度屈曲位、0~10度外転位、0~10度外旋位 |
膝関節 | 10~20度屈曲位 |
足関節 | 底背屈中間位 |
特に寝たきりの患者では、関節の可動域が制限され、関節可動域が低下することがよくあります。したがって、良肢位を維持することは、関節可動域を維持するために重要です。
ただし、良肢位を保っていても、拘縮が発生してしまう可能性があります。そのため、拘縮の予防と治療には、定期的な関節可動域訓練やストレッチ、適切な姿勢管理が必要です。
(3)安静時のポジショニング
安静時のポジショニングは、姿勢の安定と関節拘縮の悪化を防ぐことを目的にします。
不安定な肢位は全身の筋緊張を高め、拘縮を進行させる可能性があるため、
クッションなどを使って、ベッドと身体の接触面積を増やし、体圧を分散させるとともに、姿勢の安定を図ります。
足関節の底屈位での拘縮を防ぐためには、感覚に異常がなければ、短下肢装具の使用も効果的です。
身体の歪みや傾き、筋緊張の有無などに注意します。また、本人の自動運動を妨げないようにすることも重要です。
皮膚同士の接触を避け、皮膚表面の通気性を確保します。大転子や仙骨部など、骨が突出している部位には、褥瘡予防のために除圧を行います。
(4)その他の治療法
関節の拘縮が介護や患者の苦痛に影響を与える場合、強い緊張を持つ腱を切断する、あるいは延長術を行うことが検討されます。これらの手法は、関節拘縮の症状を緩和し、患者の機能的な回復を促すことが期待されます。
手術による治療
脳性麻痺などで、痙性や拘縮が運動発達を妨げる場合には、皮下切腱術やフェノールブロック、筋解離術などの手術が行われることがあります。
ボツリヌス菌の注射
ボツリヌス菌の毒素を注射して筋の緊張を和らげるボツリヌス療法は、脳卒中後遺症などの痙縮に効果があります。痙縮は日常生活やリハビリテーションに支障をきたすだけでなく、放置すると筋肉が固まり、拘縮につながることがあります。この治療は手技が必要で高価ですが、在宅でも行われるようになっています。
コラーゲン分解酵素の注射
手掌の腱膜に異常なコラーゲンが蓄積して拘縮索が形成され、手指の拘縮を引き起こすデュピュイトラン拘縮に用いられます。拘縮索に局所注射される薬剤(コラーゲン分解酵素)により、拘縮索を構成するコラーゲンを分解し、拘縮を解消する治療法です。
拘縮に関連する社会資源・制度
拘縮に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。
(1)関節可動域訓練、身体機能訓練、日常生活動作訓練
・介護保険法による通所介護(通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション)
・医療機関によるリハビリテーション
(2)関節拘縮予防、日常生活行動を支援する福祉用具の活用
・介護保険法による福祉用具の貸与(特殊寝台、床ずれ防止用具、体位変換器、車椅子、歩行器、取り付けに工事を伴わない手すりやスロープ、移動用リフト)
・介護保険法による福祉用具の購入(腰掛便座、特殊尿器、入浴補助用具、移動用リフトの吊り具)
(3)住宅改修
・介護保険法による住宅改修(手すりの取り付け、段差の解消、床材の変更、扉の取り替え、便器の取り替え)
・市区町村による住宅改修指導事業
(4)日常生活動作への支援
・介護保険法による訪問介護(訪問入浴介護)
・市区町村による家族介護用品支給サービス(紙おむつ、使い捨て手袋)
・民間の家政婦、ボランティア
訪問看護導入時における留意ポイント
拘縮がある利用者への訪問看護導入時には、以下の点に留意する必要があります。
(1)関節可動域訓練の説明
関節可動域訓練などのリハビリテーションを取り入れ、療養者が日常生活の中で関節を動かす機会が得られるよう、丁寧に説明を行います。
(2)適切な体位変換やポジショニングの説明
身体可動性を損なわないよう、適切な体位変換やポジショニングの方法について家族に説明します。ただし、家族の介護負担が大きい場合や介護力が脆弱な場合は、訪問介護などの社会資源の利用や福祉用具の活用を提案し、療養体制を整えることが重要です。
(3)専門家との協働体制の構築
必要に応じて、理学療法士や作業療法士などの専門家と協働体制を築きます。利用者の身体機能の評価やリハビリテーションが必要な場合には、専門家との連携を通じて適切な治療計画を策定し、利用者の状態を最適化します。
拘縮がある利用者への支援のポイント
拘縮がある利用者への支援を実施するにあたっては以下の点に留意する必要があります。
関節可動域の制限を予測し、予防する
利用者の疾患や加齢によって起こり得る関節可動域の制限を事前に予測し、それを予防することが重要です。
残存機能の維持・向上を目指したリハビリテーションの実施
拘縮がある利用者に対しては、残存機能の維持や向上を目指したリハビリテーションが重要です。関節可動域訓練や身体機能訓練、日常生活動作訓練などを行い、利用者の生活により良い影響をもたらすよう支援します。
福祉用具や社会資源の活用と生活の工夫による支援
療養者の残存機能や生活機能の維持・向上、そして家族の介護負担の軽減のために、福祉用具や社会資源の活用が必要です。また、日常生活での工夫やアドバイスを提供し、利用者や家族がより良い生活を送るためのサポートを行います。
リハビリテーションに対する継続的な支援
利用者がリハビリテーションに継続して取り組めるよう、努力を認める声かけや、認知能力に合わせたわかりやすい説明を行います。利用者のモチベーションを維持し、リハビリテーションの成果を最大限に引き出すためのサポートが必要です。
関節拘縮の状態に応じた支援のポイント
関節拘縮の状態は、利用者によりそれぞれです。
利用者の状態に応じた支援の視点・ポイントは、以下になります。
(1)立位・座位が可能な状態
関節拘縮のある利用者の場合、立位や座位を保持できるかどうかを確認することは、日常の食事や排泄などの生活動作に関わる重要な観点です。
可動域制限による痛みなどの症状を緩和しながら、利用者の残存機能を活かした日常生活動作の維持・促進を図ることが重要です。
支援のポイントしては、ベッドでの座位保持や車椅子移乗時には、クッションや枕を用いてポジショニングを保持することが役立ちます。
また日常生活の中で、立位・座位保持に必要な関節を動かすことのできる機会(食事や排泄、入浴など)を取り入れることも大切です。
(2)臥床(寝たきり)状態
臥床(寝たきり)状態の関節拘縮であっても、利用者の残存機能を活かし、身体可動性を高め、寝たきりの解消を図ることが重要です。
長時間同一体位で過ごすことによって、循環血液量が減少し、さらに関節拘縮が悪化する可能性があります。その結果、生活不活発病や褥瘡が発生し、家族の介護負担が増えるなどの悪循環が引き起こされます。
クッションや枕を用いて、良肢位が保持できるポジショニングを行うとともに、日常生活の中で体位変換や清拭、おむつ交換時などに腰を上げたり、ベッド柵を持つなど療養者ができることを積極的に行います。
また、ベッドで座位になる時間を増やしたり、車椅子に移乗したりして、生活リズムを確立することも重要です。
まとめ
今回は、関節拘縮に焦点を当て、その概要から症状、そして訪問看護における在宅支援のポイントについてご説明しました。
拘縮が生じると、日常生活で必要な動作や介助が困難になり、ケガや皮膚トラブルが起きやすくなるため、ADL(日常生活動作)のリスクが高まります。
関節拘縮は、予防が非常に重要であり、できるだけ日常生活の中で関節を十分に動かすことや、徒手的な関節運動などで予防していく必要があります。
訪問看護師は、これらを理解し、利用者や家族に対して、予防の重要性と拘縮を防ぐための可動域訓練やポジショニングなどについて具体的かつ丁寧に説明することが求められます。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。