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高齢透析患者のQOL向上に向けた訪問看護の重要性と支援策

高齢者にとって慢性腎臓病は深刻な健康課題であり、その中でも高齢透析患者の数が増加しています。このような状況の中で、訪問看護は高齢透析患者のQOL(生活の質)向上に向けて重要な役割を果たしています。

本コラムでは、高齢透析患者が抱える課題と訪問看護が果たす役割について考察し、彼らのより充実した生活を築くための可能性を探ります。

高齢の透析患者数が増え続けている背景

高齢の透析患者数が増え続けている背景

65歳以上の透析治療を受ける高齢者の割合は、年々増加傾向にあります。2017年時点では、透析患者数は32万1,516人でしたが、そのうち65歳以上の高齢者が21万5,646人を占め、透析患者の67%を65歳以上の高齢者が占めていました。

この高齢者の透析療法が増加している背景には、わが国の高齢化率の上昇が大きな要因として挙げられます。高齢者は一般的に慢性疾患のリスクが高く、その中には腎臓病も含まれます。高齢者が腎臓病に罹患しやすいことから、透析患者の中でも65歳以上の高齢者の割合が増えているという背景があります。

さらに、高齢者が透析治療を受ける割合が増えている要因として、透析技術や機器の向上が挙げられます。透析の技術や機器が進化したことにより、高齢者でも安全かつ効果的に透析治療を受けることが可能になりました。

また、透析導入までの期間が、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎などの原疾患に対する治療の進歩や管理体制の確立によって延長されています。これにより、高齢者でもより長期にわたって原疾患を管理できるようになり、透析治療が必要になるまでの期間が長くなっています。

75歳以上の高齢透析患者の上位を占める3大疾患とは

75歳以上の高齢透析患者の上位を占める3大疾患とは

次に75歳以上の高齢透析患者の上位を占める3大疾患、糖尿病性腎症、慢性糸球体炎、賢硬化症についてみていきます。

(1)糖尿病性腎症

高齢者において糖尿病の発症率が高く、長年にわたって高血糖が続くことで腎障害が進行する可能性が増します。糖尿病は日本でも高い患者数を持ち、高齢化社会においても糖尿病患者の割合が増加しています。

(2)慢性糸球体炎

慢性糸球体炎は免疫反応により糸球体に炎症が生じる疾患であり、高齢者にも発症する可能性があります。老化により免疫機能が低下し、自己免疫の異常が原因で糸球体炎が発症することが考えられます。

(3)賢硬化症

高齢者は血管が老化し、動脈硬化が進行する傾向があります。この動脈硬化が腎臓の細動脈に影響を及ぼすことで、賢硬化症が発症することがあります。高血圧による腎臓の血流障害も賢硬化症のリスクを高める要因となります。

高齢者においてこれらの疾患が上位になる理由は、老化による身体機能の低下や免疫機能の変化、生活習慣などが影響しています。高齢者の腎臓は老化により機能が低下する傾向があるため、これらの原疾患が進行しやすくなります。

それではこの3大疾患の病態と治療法について詳しくみていきたいと思います。

糖尿病性腎症の病態と治療法

糖尿病性腎症の病態と治療法

糖尿病性腎症は、長期間の高血糖が原因で腎臓の糸球体が障害され、腎臓の機能が低下する疾患です。高血糖によって、糸球体という腎臓の構造が損傷され、タンパク質や血液中の毒素などが尿中に漏れ出してしまいます。これにより、腎臓のフィルタリング機能が低下し、腎機能が次第に悪化していく状態となります。

糖尿病性腎症の特徴として、心血管疾患の発症率が高いことが挙げられます。高血糖が続くことで、血管が損傷しやすくなり、動脈硬化や高血圧などの心血管疾患が促進されます。そのため、糖尿病性腎症の治療には心血管リスクの管理も重要なポイントとなります。

糖尿病性腎症の治療において、第一に行われるのは血糖コントロールです。インスリンや内服薬を使用して、血糖値を適切な範囲に保つことが重要です。血糖コントロールが不十分な場合、腎臓へのダメージが進行するリスクが高まります。

以下は、糖尿病性腎症の治療において行われるサポートや治療法の例です:

食事療法

血糖コントロールをサポートするために、糖尿病患者にはバランスの取れた食事が重要です。血糖値の急激な上昇を防ぐため、糖分や炭水化物の摂取量を管理します。

禁煙指導

喫煙は心血管疾患のリスクを高める要因となるため、禁煙を促す指導が行われます。

血圧管理

高血圧は腎臓に対する負担を増加させるため、血圧を適切に管理することが重要です。ACE阻害薬やARB(血管収縮抑制薬)などの降圧薬が使用されます。

運動指導

適度な運動は血糖コントロールや心血管機能の改善に役立ちます。

血栓予防

抗血小板薬が使用されることがあります。これにより、血栓の発生を抑え、心血管疾患の予防に寄与します。

脂質管理:コレステロールや中性脂肪の管理が重要です。脂質異常症を適切にコントロールすることで、心血管リスクを軽減できます。

糖尿病性腎症は進行性の疾患であるため、早期発見と適切な治療が重要です。定期的な検診や医師の指導のもとで、糖尿病性腎症の進行を抑え、患者の健康状態を維持・改善するための取り組みが行われています。

慢性糸球体炎の病態と治療法

慢性糸球体腎炎は、糸球体(腎臓の構造の一部)に慢性的な炎症が起こる疾患の総称であり、蛋白尿や血尿などが特徴的な症状として現れます。以下に慢性糸球体腎炎の代表的なタイプと治療法を解説します:

膜性腎症

糸球体に免疫複合体が沈着する病気で、原因不明の特発性(原因が不明の)膜性腎症と、他の病気によって発症する二次性膜性腎症があります。蛋白尿や高コレステロール血症が見られることがあります。治療では、ステロイド薬など免疫抑制剤が使用されることがあります。

巣状分節性糸球体硬症

一部の糸球体が分節状に硬化する病気で、多くは原因不明の特発性巣状分節性糸球体硬症と、他の病気による二次性巣状分節性糸球体硬症があります。蛋白尿や血尿、高血圧が見られることがあります。治療では、ステロイド薬や免疫抑制剤が使用されることがあります。

lgA腎症

糸球体に免疫グロブリンA (lgA) が沈着する病気で、慢性糸球体腎炎の中で最も多いタイプです。血尿や蛋白尿が主な症状で、上気道感染後に症状が増悪することがあります。治療にはステロイド薬や免疫抑制剤が使用されることがありますが、効果は個人によって異なります。

微小変化型ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群の一種で、光学顕微鏡では変化が見られないか、わずかな変化があるものを指します。主に幼少期から若年層に発症し、蛋白尿や浮腫(むくみ)が特徴です。ステロイド薬が治療に使用され、効果がある場合があります。

治療においては、ステロイド薬や免疫抑制剤が中心となります。これらの薬物によって免疫反応を抑制することで、糸球体の炎症を抑え、腎機能の改善を図ります。ただし、個人の病態や反応によって効果が異なるため、適切な治療法の選択と定期的なフォローアップが重要です。病気の進行を遅らせるために、早期の発見と治療が大切です。

賢硬化症の病態と治療法

腎硬化症(腎硬化性腎疾患)は、長年の高血圧によって腎臓の細動脈に動脈硬化が起こり、腎臓の血液供給が不足し、腎機能の低下が進行する疾患です。初期には無症状であることが多いですが、病気が進行すると全身倦怠感、食欲不振、浮腫、貧血など、尿毒症の症状が現れることがあります。

腎硬化症の治療においては、以下の点が重要となります:

血圧管理の徹底

高血圧が腎硬化症の原因となるため、血圧を適切に管理することが重要です。血圧を下げることで、腎臓への負担を軽減し、病気の進行を抑えることが期待できます。

塩分制限

塩分摂取量の制限も重要な対策です。塩分を過剰に摂取すると、体内の水分量が増え、血圧が上昇するため、塩分制限によって血圧をコントロールします。

薬物治療

血圧を下げる降圧薬を適切に使用します。降圧薬は患者の個別の状態に合わせて処方され、血圧を安定させることが目標となります。

食事指導

減塩を実施するために、栄養士による食事指導が行われます。患者が無理なく減塩を実践できるよう、個々の生活スタイルに合った方法を提案します。

生活習慣の改善

喫煙や過度な飲酒を控える、適度な運動を行うなどの生活習慣の改善も腎硬化症の治療に重要です。

腎硬化症は進行性の疾患であるため、早期発見と適切な治療が重要です。定期的な医師の診察や検査を受けることで、腎機能の変化を把握し、適切な対応を行い、病気の進行を抑えることが目指されます。患者の協力と生活習慣の改善が、治療の成果に大きく影響するため、医師や医療スタッフとの協力体制が重要となります。

在宅療養を行っている高齢透析患者が抱える問題

在宅療養を行っている高齢透析患者が抱える問題

次に在宅療養を行っている高齢透析患者が抱える様々な問題についてみていきます。

①ADLの低下,フレイルの発症などによる通院困難

高齢者は身体的な機能が低下することがあり、日常生活動作(ADL)に対する制約が生じることがあります。特にサルコペニア(筋肉量の低下)やフレイル(虚弱)の発症によって、通院が困難になることがあります。このような場合、訪問看護や移動式透析クリニックの利用などのサポートが必要となります。

②長期の入院が出来ない(最長3ヶ月)

在宅療養を行っている高齢透析患者は、通院や透析のために長期の入院が難しいことがあります。入院が困難なため、病状の悪化や合併症の発生時に迅速かつ適切な対応が求められます。これには、在宅透析チームとの連携や予め計画的な対応策の策定が重要です。

在宅療養を行っている高齢透析患者は、通院や透析のために長期の入院が難しいことがあります。

③加齢による記憶力の低下や動脈硬化の進行

高齢透析患者には、加齢による記憶力の低下や認知機能の変化が見られることがあります。また、動脈硬化の進行により認知機能にも影響が及ぶ可能性があります。このような状態では、治療や薬物の管理、自己管理が難しくなる場合があります。家族やケアマネージャー、在宅医療スタッフのサポートが必要です。

④身体のかゆみ、不眠など精神面への影響

高齢透析患者は、身体的な不調だけでなく、身体のかゆみや不眠などの精神面への影響も抱えることがあります。透析治療自体や慢性的な疾患への対処、さらには社会的な孤立感なども精神面への影響を及ぼす要因となります。精神的な健康状態の管理や精神面への配慮が必要とされます。

訪問看護がおこなう高齢透析者のQOLを高めるための5つ支援

訪問看護がおこなう高齢透析者のQOLを高めるための5つ支援

高齢透析者が家庭での生活を充実させるためには、総合的な医療ケアと環境整備が必要となります。

訪問看護がおこなう高齢透析者のQOLを高めるための5つ支援をご紹介します。

(1)長期透析療法に伴う合併症の予防

高齢透析者は、透析療法を長期間受け続けることで合併症のリスクが高まります。訪問看護師は、定期的に患者の健康状態をモニタリングし、合併症の早期発見や予防に努めます。例えば、血圧のコントロール、貧血の改善、感染症の予防などのための適切な対策を提供します。

(2)心身の苦痛の緩和

透析療法や慢性疾患により、高齢透析者は心身の苦痛を抱えることがあります。訪問看護師は、痛みや不快感の緩和のために症状管理を行い、適切な医療ケアを提供します。また、精神的なサポートやコミュニケーションを通じて、心理的な苦痛の軽減を図ります。

(3)アドビアランスの改善

高齢透析者は複数の薬剤や治療計画を遵守することが重要ですが、認知機能の低下や日常生活の制約によりアドヒアランスが難しい場合があります。訪問看護師は、患者や家族に対して治療計画の理解と遵守をサポートし、薬剤の正しい服用や医療スケジュールの管理を支援します。

(4)在宅療養への継続的な支援

高齢透析者の在宅療養には家族やケアマネージャーとの連携が重要です。訪問看護師は、在宅療養の継続的な支援を行い、必要なケアやサービスの提供を調整します。また、治療やケアの進捗状況を定期的に評価し、必要に応じて計画の見直しや調整を行います。

(5)環境整備~生活環境の把握と改善

高齢透析者の生活環境がQOLに大きく影響します。訪問看護師は、患者の生活環境を把握し、必要な場合はバリアフリー化や安全対策の提案を行います。また、必要な医療機器や支援具の適切な配置や利用方法を指導し、患者の生活の質を向上させるようサポートします。

訪問看護師の利用者の立場や思いを理解し、共感する大切さ

訪問看護師の利用者の立場や思いを理解し、共感する大切さ

訪問看護師には、単に治療やケアを提供するだけでなく、利用者の立場や思いを理解し、共感するが姿勢が求められます。

主治医の指示を守るためのサポート

高齢透析者の治療においては、主治医の指示を正確に守ることが非常に重要です。透析療法や薬の服用などは定期的かつ正確に行う必要があり、それをサポートするのが訪問看護師の役割です。利用者が主治医の指示を遵守できるようにサポートすることで、治療の効果を最大化し、合併症やリスクの軽減に寄与します。

生活上の制限やストレスの軽減

透析療法や肝臓病治療は厳しい食事制限や生活上の制限が多く、それに伴うストレスも大きな課題です。訪問看護師は患者の日常生活を理解し、治療における課題や困難を共感し、適切なサポートを提供することで、利用者の負担を軽減することができます。

まとめ

高齢透析患者の在宅ケアにおいて、訪問看護が果たす役割は非常に重要です。高齢者の透析治療が増加する中で、彼らのQOL向上に真摯に向き合うことが不可欠です。慢性腎臓病に苦しむ高齢者たちが抱える様々な課題に対し、訪問看護師は専門的な知識と経験を活かして個別に合わせた支援策を展開し、心身の健康状態の向上を図ります。

訪問看護師は、長期透析療法に伴う合併症の予防や心身の苦痛の緩和、アドビアランスの改善などの専門的なケアを提供するとともに、在宅での療養生活を快適にするために生活環境の把握と改善も大切にしています。また、高齢透析患者の立場や思いを理解し、共感することが訪問看護の大切な要素となります。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

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いろいろナースから生まれた看護師の独立事例を冊子にまとめました。岩田看護師(34才女性)は、総合病院に勤めながら「看護師が働き続けられる職場を作りたい」と訪問看護での独立を志望。

訪問看護は未経験であり自己資金もゼロでしたが、ある経営者さんとの出会いにより新規立ち上げの訪問看護ステーションで将来の独立を前提に管理者として働くことが決定しました。 現在年収600万円を得ながら経営ノウハウを習得し、3年後の独立、理想の訪問看護ステーション作りに邁進されています。

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