在宅看護の対象は、療養者やその家族、そしてそれを取り巻く地域(コミュニティ)です。訪問看護師の役割は、療養者とその家族を支えることにあります。
在宅看護においては、療養者とその家族が何を望んでいるのかを見極めることが特に重要です。
療養者の意思を尊重しながら、訪問看護師としての技術や知識を提供し、地域で安心して自立した生活を続けられるように支援していくことが求められます。
今回は、訪問看護師に求められる在宅看護において大切にすべき姿勢についてお伝えします。
療養者・家族の価値観の尊重とは
在宅看護では、療養者の価値観や生き方を最優先することが大切です。そのため、療養者や家族の意思を尊重して看護を提供することが必要です。
療養者・家族中心の看護を提供するには、まず彼らがどのような生活を望んでいるのか、何を大事にしたいのかを知ることが重要です。
看護師が専門家の視点から「ここではこの看護ケアや技術が最適だ」と考えても、療養者の意思を無視して看護を進めてはいけません。
療養者・家族との信頼関係を築きながら、時間をかけて彼らが納得し、快く受け入れてくれることを待つことが大切です。
その過程で、看護師は専門知識や技術を提供できるよう心がけます。その結果、最良の看護を提供することが可能となります。
療養者・家族と信頼関係を築くために必要なこととは
訪問看護は療養者と契約を結び、それに基づいてサービスを提供します。
そのため、療養者の自宅で訪問看護を提供するには、療養者や家族との信頼関係が必要です。セルフケアの指導も、療養者や家族との関係性が構築されていなければ効果を発揮しません。
※セルフマネジメント支援についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
療養者の安全を守り、病状の悪化を防ぎ、家族の介護負担を軽減し、在宅療養生活の継続を支援するためには、看護師が療養者・家族との信頼関係を築くことが不可欠です。
在宅で看護実践をする上で必要とされる資質
療養者や家族との信頼関係を構築するためには、看護師として次のような基本的な資質や能力を備えている必要があります。
必要とされる資質 | 具体的内容 | 資質が必要な理由 |
---|---|---|
自己の肯定感 | 自分らしくていいという安定した感覚をもち, 困難な状況においても物事の現象を肯定的に解釈できる | 在宅でさまざまな困難な状況が生じたときに,そ の困難を次に生かせることができる思考が必要で ある |
誠実な気持ち | わからないことを曖昧にせず 「わからい」ことを相手に伝え、その後,調べる | 在宅では看護師一人での訪問が基本であり, 判断も行う. 不確かな判断や情報は療養者の状況判断を正しく行うことができない。 同僚スタッフや関連職種に確認等することが必要である. |
柔軟性 | 療養者 家族の価値観を否定せず受け入れることができる | 療養者家族の価値観はさまざまであることを理解し,受け入れることが必要である |
自律性 | 自分の行動や気持ちをコントロールできる | 療養者・家族に対して行った看護判断や行為が適切であったか否かを振り返ることが必要である |
協調性 | 他職種や同僚と協力して仕事に取り組むことができる | 訪問看護師同士で支えあい, 多職種とも連携するために必要である |
感受性 | 療養者 家族の悩みや苦しみを看護師としてではなく、一人の人間として感じることができる | 療養者・家族の生活上の困難や苦しみを理解するために必要である |
倫理感 | 療養者 家族の心身の利益を考慮した判断ができる | 療養者・家族の心身の状況から生活を守るために何を優先すべきかを判断できることが必要である. |
信頼関係形成のために訪問看護師に必要な能力とは
療養者・家族との信頼関係形成のためには、以下の能力が必要となります。
(1) コミュニケーション能力
在宅では、積極的に話をしてくれる療養者ばかりではありません。看護師は言葉だけでなく、表情や家族の態度などの非言語的なコミュニケーションからも療養者の思いを察することが重要です。
また、訪問看護では、生活環境や室内の様子から療養者の価値観や生活の様子を感じ取ることができます。ただし、他人のプライバシーに関わる観察は、支援に直接関係する場合を除いて配慮が必要です。
訪問看護の回数や時間は限られていますが、その滞在時間中は療養者や家族とじっくり向き合うことが大切です。ケアを行いながらコミュニケーションをとることも多く、表面的な意向の裏にある真意を理解しようと努めることが求められます。
療養者と家族、あるいは家族間で意向が異なることもあります。特に、家族の問題は療養者の前で話しにくい場合があります。そのため、家族の表情や態度、室内の雰囲気から家庭の状況を察し、療養者と家族それぞれに別々にコミュニケーションをとるなどの配慮が必要です。
(2)療養者・家族の生活に即したケアの組み立て
在宅での療養において、療養者も家族も自分たちの生活を維持できることが基本となります。昼夜問わず介護を行う家族に対して、病棟看護師が交代勤務で提供していたケアをそのまま押し付けることはできません。
在宅で療養者や家族が自分たちの状況を理解し、自分たちに合った療養生活を決められるよう支援します。
家族内で何を優先するかを考え、療養者や家族の生活に即したケア内容や方法を一緒に考え、組み立てていきます。
(3)療的確な判断と支援技術
在宅看護では、限られた滞在時間内でどれだけ情報を得られるかが重要です。
適切なフィジカルアセスメントを行い、療養者の病状の悪化や二次的合併症の兆候を早期に察知します。療養者や家族から得た情報と看護師が収集した客観的なデータを総合して、療養者の身体状況を判断します。
また、連絡ノートなどから看護師が訪問していない時間帯の情報も収集し、現在の状況を総合的に判断します。さらに、看護師が訪問していない時間帯でも療養者と家族が安全に生活できるように、起こりうる変化や危険を事前に予測して家族への教育や多職種との連携体制の構築を行います。
(4)時間経過に伴う変化を予測する
在宅では医療従事者が常駐していないため、療養者の身体状態が時間とともにどのように変化するかを予測することが重要です。
人工呼吸管理、中心静脈栄養法、持続皮下注入、胃瘻管理など医療依存度の高い療養者の場合、在宅で起こりうる事故リスクを想定し、予防に努めることが求められます。また、緊急時の対応方法も事前に決めておく必要があります。
さらに、長期療養では家族の負担も長期化します。家族の心身の健康や家族構成員の生活変化に伴い、介護体制も変わることがあります。療養者の病状が進行し、ケアニーズが増加するにつれて、介護体制が整わないと在宅療養の継続が難しくなることもあります。
そのため、在宅療養が継続できるかどうかを見極め、事前に対応策を検討しておく必要があります。
(5)多職種を調整する技術と情報を得る技術 (コーディネート力)
在宅療養を支えるのは看護師だけではありません。療養者や家族が希望する生活を実現するために、主治医、ホームヘルパー、理学療法士、薬剤師、介護支援専門員など、多くの職種との連携が必要です。
多職種チームを形成し、その中で意見を調整する力が求められます。何よりも、日ごろから顔の見える関係を築いておくことが大切です。
療養者と家族の力を引き出すために
在宅看護では、療養者の強み(ストレングス)に注目し、できることとできないことを見極めます。そして、利用可能な援助と結びつけることで、生活の自立を促します。このようにすることで、療養者自身の意欲を高めることができます。
ストレングス (強さ) の種類とその内容
ストレングスの種類 | 関連する内容(例) |
---|---|
本人のストレングス | 人柄(個性) 才能 技能 生活に抱く願望や抱負、興味、経験、経験からくる自負、希望する生活環境の継続 |
環境のストレングス | ・制度的環境(年金 介護保険等) ・家族構成 (関係性の良しあし 等) 持家 ・住環境 駅や商店が近い等) ・人的環境(知人や親戚が近隣に住んでいる 等) |
また、療養者を身近で支えるのは家族です。家族の力が療養者のやる気を引き出し、療養者自身が自分に強さがあることを信じる助けになります。在宅では、療養者と家族の両方へのサポートが重要です。
療養者や家族には外部からの影響もあります。近隣住民や親戚、友人が顔を見せてくれるだけでも、精神的な支えになります。
また、介護保険を利用することで社会資源や福祉用具を活用することも効果的です。例えば、布団からベッドに変えるだけでも家族の介護負担が軽減され、療養者の自立支援につながります。
これらの要素が在宅療養生活を送る際にポジティブな思考につながり、療養者や家族の強さを引き出すことになります。
療養者の自己効力観を高め意欲を引き出す
強みを引き出すには本人のやる気(意欲)が重要です。在宅療養においては、療養者自身の意欲を引き出すためにエンパワメントによる支援が効果的です。
入院では、医療機関のルールに従って受け入れざるを得ず、患者の自主性が弱まる傾向があります。また在宅でも、療養者の安全を保つために介護者から行動の制限を受けたり、ADL(日常生活動作)の低下によって以前できていたことができなくなり、意欲を失うことがあります。
入院生活や病状の変化によって、療養者の身体機能が低下していても、医療者は今の本人の能力を活かす方法を探り出し、引き出すことで療養者のやる気を引き出すことができます。
支援がすぐに意欲を高めることが保証されているわけではありません。看護師は、療養者の自己効力感を増すために時間をかけて関わり、療養者の声に耳を傾けて、自信を持ち、自ら意思を表現できるように見守る姿勢が必要です。
まとめ
訪問看護師に求められる在宅看護において大切にすべき姿勢についてお伝えしました。
訪問看護師が療養者に直接ケアを提供する場面でも、療養者の自立を促すためには一時的な介入ではなく、その介入がきっかけとなって療養者や家族自身が継続できるようにする必要があります。
在宅看護では、療養者の病気やできないことにとらわれることなく、療養者のできることを常に考慮し、生活の不自由さに対処するために、住居空間の改善や介護保険サービスの利用などの社会資源、また友人や他者との交流などの社会参加を含めて、多角的に検討し、療養者や家族が望む自立と生活の質の向上を支援することが重要です。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。
参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」