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訪問看護によるナーシングホームは、「建て貸し」「自社建築」どちらが有利か!?

近年では、訪問看護ステーションを営む経営者がサービスの拡充、安定収益の確保、継続的ケアの提供、地域社会への更なる貢献を目指して、ナーシングホーム運営を検討するケースが増えています。

訪問看護ステーションの経営者がナーシングホーム運営を検討する際に悩むポイントとして、ナーシングホームの建物を土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入して建築する「自社建築」のどちらを選択するべきか、ということではないでしょうか。

本日は、訪問看護ステーションの経営者がナーシングホームに参入する際の建物を建築する方法として「建て貸し」と「自社建築」でどちらが有利であるかについて、いくつかのポイント比較をもとに解説します。

将来ナーシングホームを運営したいとお考えの訪問看護ステーション経営者や、ナーシングホームの物件情報を集めている方の適切な選択の一助となれば幸いです。

目次

ナーシングホームの「建て貸し」と「自社建築」について

ナーシングホームの「建て貸し」と「自社建築」について

ナーシングホームを経営する際の建物を建築する主な方法として、土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入して建築する「自社建築」の2種類があります。

以下にその内容を説明します。

土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」とは

「建て貸し」とは、土地所有者がナーシングホームの建物を建築し、その建物全体を一括借り上げる形態で、ナーシングホームを運営する事業者と土地所有者との間で賃貸借契約が締結される方法です。

土地所有者は土地の所有と建設にかかるコストを負担し、ナーシングホームの施設をナーシングホーム経営者に貸し出します。
ナーシングホーム経営者は、土地所有者に家賃を支払い、施設を借りてナーシングホームを運営します。

「建て貸し」の方法は、土地購入と建設コストをかけずにナーシングホームを開設できることから、これまでの訪問看護ステーション経営者にはこの方法を選ぶ方も多くいました。

自社で土地を購入して建築する「自社建築」とは

「自社建築」とは、ナーシングホームを運営する経営者が土地を購入し、自社の資金負担で建物を建築し、自社所有の施設でナーシングホームを運営する方法です。

この方法は、自社で土地を所有し、建築から運営までを完全にコントロールでき、長期的な収益が期待できるなど、多くのメリットがあるとされ、最近ではこの方法を選ぶ経営者が増えてきています。

「自社建築」を進めるためには、的確で緻密なナーシングホームの事業計画を立案し、金融機関から土地購入と建築にかかる費用を調達するケースが一般的です。

どちらの方法を選択するかは経営者の資金調達能力、リスク許容度、土地入手の可否、地域の需要などによりますが、長期的な経営戦略とリスク管理を考慮し、最適な方法を選択することが重要です。

「建て貸し」と「自社建築」の比較

「建て貸し」と「自社建築」の比較

訪問看護ステーションの経営者が、ナーシングホームを運営する方法として、土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入して建築する「自社建築」を、長期的な経営戦略とリスク管理の観点から、どちらが有利であるかについて比較しましょう。

比較するポイントは

(1)建物に関わる総額の支出

(2)入居者の家賃の価格競争が激化した場合

(3)事業売却を検討した場合

(4)入居者が減るリスク

(5)法改定のリスク

の5つとします。

これらの要因を考慮して、「建て貸し」と「自社建築」の選択を検討しましょう。

(1) 建物に関わる総額の支出の比較

(1) 建物に関わる総額の支出の比較

ナーシングホームを経営する方法として、土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入して建築する「自社建築」を、建物に関わる総額の支出を長期的な視点から比較します。

ここでは、1月あたり20人以上の利用者により10%保険収入が減る同一建物等減算を回避できる19床のナーシングホームを運営するケースで考えてみましょう。

ナーシングホームにおいて19床の建物の建築における概算コストは、居室や共有スペースのサイズ、建築材料、設備品質などによって異なりますが、基本的な仕様で計画した場合、おおよそ1億円ほどと見込まれます。

「建て貸し」の建物に関わる、ナーシングホーム経営者の総額の支出

ナーシングホームを土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」では、ナーシングホームの運営における建物に関連する支出は、賃貸借契約に基づいて土地所有者に支払う家賃となります。

1部屋の月額家賃を4万円と設定した場合、月額の家賃支出は760,000円(19床×4万円)となります。

また年間の家賃支出は、9,120,000円(760,000円×12か月)となります。

25年間では、さらにその後は

25年間で算出すると、総額約2億3千万円の家賃支出になります。
その後もナーシングホームの運営を続ける間、土地所有者への毎月、毎年の家賃支払いは発生します。

「自社建築」の建物に関わる総額の支出は?

次に、自社で土地を購入して建築する「自社建築」を採用した際の、建物に関わる総額を見ていきましょう。

150坪の土地を坪単価20万円で取得し、建築コストの1億円、合計1億3千万円を返済期間25年、金利1.5%で借り入れるケースとします。

その場合、月額返済額およそ520,000円、年間返済額およそ6,240,000円となります。(うち支払利息総額は、およそ2千6百万円)

25年間では、さらにその後は

返済期間の25年で、返済総額1億5千6百万円となります。
25年の完済後、ナーシングホームの運営を続ける場合は建物に関する支出はゼロになります。

※上記算出には「自社建築」でかかる固定資産税や不動産取得手数料、法的手続き費用などの諸費用は含めていません。

「建て貸し」と「自社建築」の建物に関わる総額の支出の比較

25年で見たときに、建物に関わる総額の支出は、「建て貸し」では2億3千万円となり、「自社建築」では1億5千6百万円で、「建て貸し」では総額支出として7400万円が大きくなります。

さらに25年を過ぎてから「建て貸し」では毎年9,120,000円の支出が続きますが、「自社建築」はゼロとなります。

短期的には「建て貸し」は、大きな資金支出がないことから魅力がありそうですが、建築に関する総額の支出を比較し、長期間の事業運営の視点で考えたときに「自社建築」が有利であることがわかります。

(2)入居者の家賃の価格競争が激化した場合の比較

(2)入居者の家賃の価格競争が激化した場合の比較

ナーシングホームの収入の大きな柱は2つあります。

ひとつは、入居者から支払われる家賃、食費、水道光熱費などの生活全般の費用と、ふたつ目は、介護・看護サービスを提供して国や自治体から支払われる介護報酬や診療報酬です。

このうち入居者から支払われる家賃、食費、水道光熱費などの生活全般の費用は事業者が自由に設定できます。

ナーシングホームは、設備の設置や人員の配置などに関してガイドラインはあるものの厳格な規制はなく、地方自治体に届け出を行えば、比較的手軽に開設できると考えられているため、低コストで建物を建てたり、既存の建物をリフォームしたり、最低限の設備やスタッフで運営することで支出を抑えて、相場よりも低価格な家賃で入居者を集めようとする事業者が増える可能性があります。

こうした事業者が作るナーシングホームでは必要な環境が整備されておらず、入居者に充分なサービスを提供できないケースもあります。

しかしながら最終的には入居者や家族が価格で選ぶことになるのも事実です。

そうなればナーシングホームの事業所間では、入居者獲得のための家賃の価格競争が起きます。

そのため、ある程度の価格競争は避けられない現実として考えなければなりません。

家賃の価格競争が激化した場合の「建て貸し」と「自社建築」の競争力を比較しましょう。

「建て貸し」の入居者家賃の競争力

ナーシングホームを土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」では、賃貸借契約に基づいて建物の所有者に上記のケースでは、1部屋4万円、月総額760,000円の家賃を払い続けなければなりません。

これは、入居者から支払われる家賃とほぼ同額に設定されていて、家賃収支はほとんど相殺されています。

家賃の競争が激しくなって、入居者からの1部屋の家賃を4万円未満に設定せざるを得ない場合、それに応じて家賃収支が赤字に転じます。

たとえば、入居者の1部屋の家賃が3万円に設定された場合、月ごとに約19万円の赤字が発生し、年間で約228万円の損失が生じます。これはナーシングホームの経営を圧迫する要因となります。

この損失を補填するために、人員を削減するなどの措置を取ったり、提供サービスの品質を犠牲にすることも起こりえます。

「自社建築」の入居者家賃の競争力

一方、自社で土地を購入して建築する「自社建築」であれば、月額返済額およそ520,000円を賄う家賃設定まで引き下げが可能となります。

この方法ですと、入居者の家賃を1部屋2万円台後半まで家賃を下げる余地があります。

「建て貸し」と「自社建築」の入居者家賃の価格競争が激化した場合の比較

このような状況から、将来的に起こりうる入居者の家賃の価格競争が激化した場合、土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」では対抗しがたい状況になりますが、「自社建築」では競争力があり、有利であることがわります。

(3)将来のナーシングホームの売却を検討した場合の比較

(3)将来のナーシングホームの売却を検討した場合の比較

将来、ナーシングホームを売却する必要が生じた場合、土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入し建築する「自社建築」のどちらが適しており、スムーズで有利に進行できるかについてみていきましょう。

「建て貸し」で売却を検討した場合

「建て貸し」では、土地所有者との契約が存在することで、建物の所有権や売却条件において買い手との交渉が複雑になる可能性が高いです。

また、売却プロセスにおいて土地所有者の意向や要求を考慮する必要があり、これが売却手続きを遅らせることがあります。

「自社建築」で売却を検討した場合

「自社建築」では、土地と建物が自社所有であるため、所有者であるナーシングホーム経営者がほとんどすべての決定権を持っていて売却プロセスが一元化されます。

これにより、交渉や合意の達成が比較的迅速に進むことが期待されます。

また、自社で土地と建物を管理しているため、買い手に対して詳細な情報を提供しやすく、信頼性を高めることができます。
さらに、法的手続きや書類作成が簡略化されることがあります。

「建て貸し」と「自社建築」の売却を検討した場合の比較

「自社建築」では事業主体が単一であり、交渉が円滑に運ぶ点や信頼性の高い点で「建て貸し」と比較して売却が有利でスムーズに進むと考えられます。

(4)ナーシングホームの入居者が減るリスクを考慮した比較

(4)ナーシングホームの入居者が減るリスクを考慮した比較

ナーシングホームを長期経営する場合、社会情勢や同業者の進出によって入居者が減少するリスクを考慮する必要があります。

「建て貸し」と「自社建築」のどちらの方法でも入居者の減少はリスクとなりますが、その影響やリスクの大きさ、リスク分散の柔軟性は異なります。

以下に入居者減少リスクを比較します。

「建て貸し」で入居者が減少した場合

「建て貸し」で入居者が減少し、収益が減少した場合でも土地所有者へ支払う家賃の値下げ交渉は困難で、賃貸借契契約で設定されている家賃を満額、土地所有者へ必ず支払わなければなりません。

また、用途変更などの対応も困難な場合が多くあります。

「自社建築」で入居者が減少した場合

一方、「自社建築」では、返済が終了していれば建物に関する支出がなくなる分、入居者減少による収支への影響が軽減されます。

また、土地と建物が自社所有であることから、運営において柔軟な方針を取ることができます。

例えば、入居者数の変動に対応し、他の用途に建物を一部転用することや、新たなサービスを提供するなどリスクを分散する対策も進めやすいです。

「建て貸し」と「自社建築」の入居者が減少した場合の比較

「建て貸し」では契約条件や契約期間が要因となり、入居者の減少に対処する柔軟な対策は制限されます。

「自社建築」では入居者の減少の収支の影響が少なく手済み、また運営の柔軟性やリスク分散の機会があるため、入居者数の減少に対処しやすくなります。

こうしたことから、入居者が減るリスクを考慮した場合、「建て貸し」より「自社建築」が有利であると言えます。

(5)法改定のリスクを考慮した比較

(5)法改定のリスクを考慮した比較

「建て貸し」で法改定があった場合

「建て貸し」では、土地所有者との一括借り上げの賃貸借契約により、土地利用や建物に関する条件が明確に定められています。

法改定により、契約条件や土地利用に変更が必要な場合、土地所有者との交渉が必要となります。

土地所有者との合意が得られない場合、法改定に適応するのが難しいことがあります。

また一括借り上げの賃貸借契約には20年間など、比較的長期の契約期間が設定されています。法改定が契約期間内に発生して、改定内容に適用できない場合は長期的なリスクが生じる場合があります。

「自社建築」で法改定があった場合

一方、「自社建築」では、自社で土地と建物を所有しているため法改定があり土地利用や建物の改修・更新を行う必要がある場合でも、改定の適用範囲で柔軟で適切な対応策を講じることができます。

「建て貸し」と「自社建築」の法改定があった場合の比較

法改定のリスクを考慮した場合、「建て貸し」では適応が困難なケースがりますが、「自社建築」は比較的柔軟に適応することができるため、法改定のリスクを考慮した場合、「自社建築」有利であると言えます。

まとめ

訪問看護ステーションの経営者がナーシングホーム運営を検討するにあたり、ナーシングホームの土地・建物を土地所有者に建築してもらって一括借り上げる「建て貸し」と、自社で土地を購入して建築する「自社建築」の2種類のうち、長期的な経営戦略とリスク管理を考慮し、最適な方法を選択することが重要です。

支出の面からは「自社建築」は初期投資の負担が大きいと考えてしまいがちです。

しかしその後の「建て貸し」での土地所有者への家賃支出の総額と「自社建築」の支出総額と比較した場合、大幅に低くなる「自社建築」が有利となります。

また、「自社建築」の場合、入居者の家賃における価格競争にもある程度の競争力があります。さらに、ナーシングホームの売却や入居者の減少にも柔軟かつ迅速に対応できます。

「自社建築」は長期的な継続経営に対応でき、リスクを管理しやすい選択肢と言えます。

おおよそ3年間の訪問看護ステーション経営により、事業収益を安定させ、金融機関からの信用を高めた上で、的確かつ緻密なナーシングホーム事業計画を策定し、借り入れを実現させ、「自社建築」のナーシングホームを目指すことが戦略的であると言えます。

>保険外美容医療での看護師独立ストーリー

保険外美容医療での看護師独立ストーリー

石原看護師は、約1年前に美容エステと美容医療を組み合わせた独自メニューを提供する美容サロンを自宅で開業されました。
週に2回はクリニックに勤務しながら、子育てや家事と両立できるサロン運営を軌道に乗せています。

石原看護師がどのようにして時間や場所にとらわれない働き方を実現できたのか、その経緯、現在の状況、そして今後のビジョンについてお話をうかがいました。

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