訪問看護は、疾患や障害を抱えていながらも出来るだけ自分らしく過ごしたいと願う利用者に関わる仕事です。
病院看護とは違い、利用者の生活面まで寄り添える訪問看護が大好きという看護師さんも多くいらっしゃいます。
しかし、訪問看護を受けられる方の状態、状況は様々であり、特指示が出た方への頻回訪問やオンコール、在宅でのお看取り対応など無理せざるを得ない状況が続くこともあります。
知らず知らずのうちに頑張りすぎてしまっている…そんな看護師さんも少なくないのではないでしょうか。
心身のストレスや不規則な生活が続くと自律神経のバランスが乱れ、肌トラブルが起きやすくなります。
今回は、肌の悩みで多く挙げられる「大人ニキビ」について、その原因や特徴、改善策などについて恵比寿こもれびクリニックの西嶌暁生先生に解説していただきます。
実は訪問看護師に多い「大人ニキビ」とは
こんにちは、医師の西嶌暁生です。
朝、鏡を見たたらプツプツと吹き出物ができていた…そんな経験はありませんか?
仕事前の素肌のコンディションは、1日のモチベーションが決まってしまうくらい重要なものです。
今回解説させて頂く「大人ニキビ」とは、思春期を過ぎた20歳前後からでき始める吹き出物のことです。
ニキビといえば思春期を連想しますが、20~30歳代の肌トラブルとして「大人ニキビ」で悩んでいる方も多くいらっしゃいます。
皮脂の過剰分泌が原因となる思春期ニキビに対して「大人ニキビ」は、睡眠不足やストレス、食生活の乱れや、間違ったスキンケアなどのさまざまな要因が複雑に関わって発生します。
大人ニキビができやすい人の特長とは
まずは、大人ニキビができやすい人の特長を10個挙げます。このうち、4つ以上に当てはまる方は、大人ニキビができやすい肌状態になっているかもしれません。
<大人ニキビができやすい人の特長10選>
1.睡眠時間が6時間以下
2.運動不足
3.入浴頻度が少ない
4.水をあまり飲まない
5.砂糖を含むドリンクを好む(甘いタピオカやミルクティ、カフェオレなど)
6.タンパク質(肉・卵・魚・豆類など)が不足している
7.脂肪分を含む食事が多い
8.職場などでストレスを感じやすい
9.洗顔の際ゴシゴシ洗ってしまう
10.化粧水をつける際パチパチ叩いてしまう
忙しく、体力を消耗しやすい職場で働く訪問看護師の方々の中には、複数個の項目が当てはまる方も多い事でしょう。
大人ニキビの特長とは
前述の通り、大人ニキビは、睡眠不足や食生活の乱れが原因になる場合が多く、思春期ニキビよりも治りにくい傾向にあります。
必ずしも脂性肌(オイリー肌)が原因ではなく、敏感肌や乾燥肌がベースにあることも多いです。(乾燥肌がベースにある場合は、掻痒感を伴うことがあります。)
大人ニキビは、フェイスラインや口の周りにできやすく、治しても同じ場所にニキビが繰り返しできるなど慢性化していることが多いため、思春期のニキビよりも硬くて芯があるような傾向があります。
また、10代に比べて、皮膚のターンオーバーが遅いため、ニキビができたあとは色素沈着が起きやすいという特徴もあります。
「自分でどうにかできる」と思って、患部に触る方が多いので、診察時には状態が悪化していることも多いです。
ニキビとは何なのか?
では、そもそもニキビとは、皮膚のどのような状態を指すのでしょうか。
この記事の読者の多くは医療従事者であり、特に看護師が多いと思います。そのため、一般の読者よりも少し専門的な知識や内容を盛り込んでお伝えしていきたいと思います。
まず、ニキビとは医学用語では尋常性痤瘡と呼ばれ、角化異常、皮脂分泌および男性ホルモンの亢進などにより、Cutibacterium acnes(以下、アクネ菌)が増殖・活性化して引き起こされる皮膚の炎症性疾患です。
このアクネ菌は皮膚の常在菌(日和見菌)なので、誰の肌にも存在しています。そのため、その方のコンディションや肌状態によって、善玉菌としても、悪玉菌としても機能することがあります。
ニキビは環境次第で誰にでも発症する
ニキビの原因としてアクネ菌がやり玉に挙げられることが多いですが、実はこの10代〜40代を対象とした臨床研究において、両頬におけるアクネ菌の検出率(PCR)は全体で 82.3%なのです。
さらに、検出率における年代および性別間では差が認められず、年代・性別を問わずアクネ菌を高率で保有しているのです。
すなわち、たとえ大人であってもアクネ菌が過剰増殖可能な環境になればいつでもニキビを発症しうるのです。
特に、30代や40代などの年代の(訪問)看護師は、仕事量も責任も増える時期なので、ストレスがかかり、ニキビが発症しやすいコンディションになりやすいのです。
ニキビの種類とニキビ跡になる可能性
大人ニキビは炎症の程度によって、白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビという4つの段階に分類されます。
基本的に、白、黒、赤ニキビの場合は、適切なケアや処置をした場合、ニキビ跡になることはありません。ただし、赤ニキビの場合は、しばらく色素沈着が起きることがありますが、その頻度は、スキンタイプ※によって異なります。
フィッツパトリックによるスキンタイプ
スキンタイプ | 反応 |
---|---|
Ⅰタイプ | 常に赤くなり、決して皮膚色が濃くならない |
Ⅱタイプ | 常に赤くなり、その後少し皮膚色が濃くなる(日本人に多いタイプ) |
Ⅲタイプ | 時々赤くなり、必ず皮膚色が濃くなる(日本人に多いタイプ) |
Ⅳタイプ | 決して赤くならず、必ず皮膚色が濃くなる |
Ⅴタイプ | 皮膚色がとても濃い |
自分が日焼けした時、どのように皮膚が反応するか観察すると自分のスキンタイプがわかります。
スキンタイプがⅣ以上の方は、特に色素沈着が起きやすいです。
また、重症なニキビ、慢性化したニキビ、大人ニキビほど、色素沈着が起きやすく、治りにくいです。
通常の色素沈着であれば、6か月程度で改善しますが、ものによっては、2年ぐらいかかる場合もあります。しかし、長期的には茶色の色素はなくなることがほとんどです。
クレーター状になったニキビ跡のケア法とは
(1)隆起したニキビ跡
自分で触らないように心がけてください。医療機関では、ステロイド治療(塗布、貼付、局所注射)が行われます。これらの治療は保険診療で受けることができます。
(2)陥凹したニキビ跡(クレーター)
クレーター状のニキビ跡は、繰り返してできるニキビの炎症によって皮膚が損傷を受け、凹凸ができた状態です。
真皮の深い層に達するようなクレーターはホームケアだけでは治りません。
表皮にとどまる浅い凹みであれば、ピーリング成分が含まれた製品の使用によるターンオーバーの活性化で改善する場合もあります。しかし、改善しない場合は、医療機関での治療が必要です。
ニキビ跡が出来やすい場所とは
脂腺が良く発達して皮脂の産生が多い部分を脂漏部位と呼び、ニキビの好発部位になります。
前額部、眉間、頬部、前胸部、肩甲骨間です。目の周りは脂腺が少ないので、ニキビができにくいです。ただし、脂腺が少ないと逆に乾燥するため、乾燥に伴うちりめんジワなどが生じやすいです。
陥凹したニキビ跡(クレーター)ができやすい部位は、真皮が厚く、皮膚の深くまで炎症がおよぶ部位です。
顔面の場合は、頬部や鼻尖部になります。一方、皮膚が薄い前額部(おでこ)などはニキビ跡にはなりにくいです。
隆起したニキビ跡(ケロイド、肥厚性瘢痕)が出来やすい部位はフェイスラインです。この部位は、常に皮膚の緊張がかかる部分なので、瘢痕組織が増大してしまい、隆起したニキビ跡になりやすいです。
ニキビ跡を放置してしまうと…
ニキビ跡を放置した場合、状態が変わらないこともありますが、時間が経過すると皮膚が正常に再生し、改善することもあります。
しかし、加齢とともに肌がたるんでくると、瘢痕組織によって陥凹部分が下床に固定されるため、さらに目立つことがあります(特にrolling scarの場合)。
また、ニキビ跡がケロイドである場合、拡大する可能性があります。
皮膚科の診断が必要な時とは
大人ニキビを初めて自覚した場合は、活動期(赤くはれている時期)に一度、受診することをお勧めします。
診察や処方だけでなく、生活習慣のアドバイスももらえると思います。
また、しっかりと陥凹したニキビ跡は、少なくともホームケアでの改善は無理です。
また大きな跡になってしまった後では、医療機関で治療しても完全に消せません。まずは、皮膚科・美容皮膚科・美容外科を標榜している医療機関への受診をお勧めします。
しかし、陥凹したニキビ跡は、自由診療の対象となることが多いです。一分一秒を焦る病態ではないので、その場ですぐには決めず、まずは相談から始めるのがよいと思います。
大人ニキビができてしまったときの対処方法
それでは、ここからは、大人ニキビができてしまったときの対処方法、そして予防法についてお伝えします。
まず、大人ニキビの場合、市販しているイオウやニキビ用化粧品は向いていないことが多いです。これらの商品は、肌を乾燥させる傾向にあるからです。
女性の大人ニキビの場合、脂性肌(オイリー肌)以外でもできる場合が多いため、これらを使っても肌荒れを助長させるだけで、ニキビがよくならない場合があります。
また、ニキビ用化粧品は肌表面の皮脂膜の除去を目的とすることが多いため、要注意です。一方で、10代のニキビ患者には効果的な場合もあります。
上述したように、大人ニキビの原因はさまざまなので、それぞれの原因に対する対策・改善を行っていただければと思います。
そして、一番大事なことは、“ニキビを作らない(予防)”することです。
一度できてしまったニキビに対しては、特効薬はありません。
黙っていても、細胞の再生能力で改善することがほとんどです。すなわち、ニキビのケアは、いかに我々の肌細胞を活性化させて、ニキビのできにくい肌作り、たとえできたとしても、治りやすい細胞状態を構築するかが重要なのです。
ニキビができにくい肌を作る方法とは
ニキビができにくい肌、健康な肌、免疫力の強い肌を内側から作るためには、以下の3つが重要です。
(1)腸活
(2)皮膚によい栄養素を摂る
(3)食習慣の改善
(1)腸活
腸活は、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えることで、免疫力を高め、皮膚の健康を促進します。腸内のバランスが乱れると炎症が引き起こされ、ニキビなどの皮膚トラブルが起こりやすくなります。
腸活には、3つのアプローチがあります。
1.老廃物・有害物質を取り除く
腸活においては、まず体内に蓄積した老廃物や有害物質を排出することが重要です。これには、ファスティング(断食)を行うことで毒素を排出したり、活性炭、シリカ、ゼオライトなどの物質を摂取して腸内のデトックスを促すことが含まれます。
2.腸内の善玉菌を育てる
次に、腸内の善玉菌を増やし、バランスの取れた腸内環境を整えることが重要です。これには、酪酸菌(ぬか漬けや臭豆腐などの発酵食品)、乳酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌を意識的に摂取することが有効です。
3.腸内の環境を整える
最後に、腸内の環境を整え、健康な状態を保つために、オリゴ糖、食物繊維などプレバイオティクス食材を摂取することが重要です。これにより、善玉菌の増殖を促し、腸内のバランスを整えることができます。
(2)皮膚によい栄養素を摂る
ニキビができにくい肌、健康な肌、免疫力の強い肌を内側から作るためには、以下の栄養素が重要です。
タンパク質 | 肌を形成するコラーゲンの産生に必要です。 |
鉄(特にヘム鉄) | 肌を形成するコラーゲンの産生に必要です。 |
ビタミンC | 肌を形成するコラーゲンの産生に必要で、また抗酸化作用も持ちます。 |
オメガ3とオメガ9脂肪酸のオイル(大匙1杯程度) | 肌の保湿や柔軟性を保つのに役立ちます。 |
ビタミンB群 | 皮膚の健康を維持し、代謝を促進します。 |
イソフラボン | ホルモンバランスを整え、肌のトラブルを予防します。 |
酵素(発酵食品や生野菜など) | 消化や吸収を助け、肌の健康をサポートします。 |
(3)食習慣の改善
食習慣の改善は、健康な肌を作るために重要です。規則正しい生活リズムやバランスの取れた食事が必要です。
1.低GI食品を選ぶ
GI値(血糖値の上昇速度を示す指標)が低い食品を選び、急激な血糖値の変動を抑えます。これにより、肌の状態を安定させ、ニキビができにくい健康な肌を促進します。
2.食事の順番を意識する
野菜、肉・魚、炭水化物の順番で食べることで、食物の消化・吸収がスムーズになります。野菜から始めることで食物繊維を摂取し、肉・魚でタンパク質を補給し、最後に炭水化物を摂取することで、血糖値の急激な上昇を抑えます。
3.就寝の3時間前までに夕食を済ませる
夕食を早めに摂ることで、消化器官に十分な休息を与えます。これにより、睡眠中に消化器官が活発に働くことを防ぎ、質の高い睡眠を促進します。良質な睡眠は免疫力を高め、健康な肌を作るのに役立ちます。
大人ニキビ予防に効果的なスキンケアのポイント
さいごに大人ニキビ予防に効果的なスキンケアのポイントについてお伝えします。
(1)洗顔
1.洗顔剤を使用するのは1日に1回
洗顔剤は1日に1回のみ使用します。過剰な洗顔は肌を乾燥させ、逆にニキビを悪化させる可能性があります。
2.純石鹸がおすすめ
肌に優しい純石鹸を使用することがおすすめです。界面活性剤や香料が含まれていないものを選びます。
3.34度以下のぬるま湯で
洗顔時には、34度以下のぬるま湯を使用します。高温のお湯は肌を刺激し、乾燥を招くことがあります。
4.石鹸を泡立てて、肌は直接こすらない
洗顔時には石鹸をよく泡立て、直接肌をこすらないように注意します。
5.クレンジングは行わない
クレンジングを行うと、肌を刺激しすぎる可能性があるため石鹸で落とせる化粧をすることが望ましいです。
(2)化粧水
1.化粧水の習慣を見直す
できるだけ化粧水を使用しないことを考えます。化粧水に含まれる成分が肌を刺激し、ニキビの原因になることがあるため、必要以上の使用は避けるべきです。ただし、使用する場合は保湿を重視し、肌の乾燥を防ぐことが重要です。
2.成分に注意する
化粧水を選ぶ際には、界面活性剤や防腐剤の含有量に注目します。可能であれば、界面活性剤が入っていないか、極力少ない製品を選択しましょう。また、防腐剤の多い化粧水は肌に負担をかける可能性があるため、避けることが望ましいです。
(3)美容液
1.美肌菌(表皮ブドウ球菌)を育てる成分にこだわる
美容液を選ぶ際には、美肌菌を育てる成分、つまり育菌成分を含んだ製品を選択することが重要です。美肌菌は肌の健康をサポートし、ニキビの予防に役立ちます。
2.セラミド含有製品はOK
セラミドは肌の保護バリアを強化し、潤いを保持するのに役立つ成分です。美容液にはセラミドが含まれている製品を選ぶことで、肌の保湿力を高めることができます。
3.成分に注意する
美容液を選ぶ際には、防腐剤や界面活性剤の含有量にも注意を払います。肌に負担をかける可能性のある成分が多い製品は避け、肌に優しい製品を選択しましょう。
(4)乳液やクリーム
1.油分や界面活性剤の含有に注意する
乳液やクリームには、しばしば油分や界面活性剤が多く含まれています。これらの成分は肌に余分な油分を与え、毛穴を詰まらせることでニキビが発生しやすくなる可能性があります。
2.ニキビができやすい部位には避ける
特にニキビができやすい部位には、乳液やクリームを付けるのを避けるようにしましょう。これにより、余分な油分や界面活性剤が毛穴に詰まることを防ぎ、ニキビの発生を予防することができます。
(5)パックや導入液
多くの市販のパック製品は、防腐剤、界面活性剤、化粧水がたっぷりと入っています。ですので、やりすぎると、角質のバリア機能が破壊され、過乾燥がおきて、逆に肌荒れの原因になります。パックを使用する際には十分に注意が必要です。
ビフィズス菌は美肌菌(表皮ブドウ球菌)を増やす働きが報告されているので、ビフィズス菌を含むヨーグルトあるいはホエイ液でのパックは育菌にとって効果的です。また、美肌菌はアクネ菌の増殖を抑えるので、ニキビにも効果的です。
おわりに
訪問看護師は体力的にも、環境的にも、精神的にもニキビができやすい条件が整っており、肌トラブルも多い職場環境かと思います。
ただし、適切な知識と対処法を行えば、無理なく素肌美人を目指すことができます。本稿が訪問看護師の「大人ニキビ」の解決の一助になれば幸いです。
西嶌 暁生(にしじまあきお)プロフィール
医学博士、形成外科専門医
恵比寿こもれびクリニック 院長
2013年より筑波大学の形成外科で、創傷治癒、外傷、再建、美容外科及び美容皮膚科を専門とする臨床医として従事。その後、「恵比寿形成外科・美容クリニック」の副院長を経て、2023年7月に「恵比寿こもれびクリニック」を開院。肌細胞の再生をキーワードに、美と健康のパーソナルドクターとしてオーダーメイド医療を提供している。
まとめ
今回は、肌の悩みで多く挙げられる「大人ニキビ」についてその原因や対策、間違ったスキンケアや改善策などについて西嶌暁生先生に解説していただきました。
利用者様、ご家族と長く関わる続けるためにも無理は禁物です。日頃から体調管理を意識し、身体からのサインを見逃さず、自分を労わってあげることが大切です。
フィジカルコンディションを整え、綺麗な肌で笑顔で訪問看護を楽しんでください。
いろいろナースでは、これからも訪問看護師が幸せに働くための様々なニュース・トピックをお伝えしていく予定です。お楽しみに!