訪問看護は、利用者が望む「自分らしく生きる」のために、生活の場で看護を提供します。
病院とは異なり、病気やケガだけでなく、生活全体を見ながら、利用者の力を最大限に引き出し、自主性と満足感を促すアプローチを行います。
よりよい訪問看護の提供のためには、訪問看護師自身が健康で幸福であることが必要不可欠です。
いろいろナースでは、「訪問看護師のウェルビーング」と題して訪問看護師が幸せに働くための様々なニュース・トピックをシリーズでお伝えしていきます。
第3回目は、季節の変わり目の寒暖差や花粉飛来など、肌トラブルがおきやすくなるこの時期特有の「春のゆるぎ肌」について、その原因や対策方法について恵比寿こもれびクリニックの西嶌暁生先生に解説していただきます。
訪問看護師に多い「春のゆらぎ肌」とは
こんにちは、医師の西嶌暁生です。
気温の変化や新生活による環境の変化で、春に肌荒れが起きやすい現象を「春のゆらぎ肌」と呼びます。
実はこの「春のゆらぎ肌」で悩んでいる訪問看護師は多いのです。今回はその原因と対策についてお伝えします。
春におこる肌のかさつきやごわつきの原因は?
このような症状は、花粉症の時期に、「花粉皮膚炎」として見られる症状かもしれません。
これは、くしゃみ・鼻水といった一般的な症状の有無に関わらず、花粉の時期にのみ、肌の赤みやかゆみ、湿疹、痛み、乾燥といった肌トラブルが生じるものです。
特に訪問看護師の場合は、移動時に外気に触れることも多く、花粉症で悩んでいる方も多いです。「春先は毎年お肌の調子が悪い」と感じている方は、実は花粉が原因なのかもしれません。
上まぶた、頬骨、あご、首など、露出が多く花粉が付着しやすい部分に発症しやすいのが特徴です。
花粉との接触をさける対策が必要!
耳鼻科などで抗アレルギー薬、減感作療法などの花粉症治療を行うと症状が和らぎやすいです。
また、肌を外的刺激や異物から守っているバリア機能を正常に保つことも大切です。
花粉が飛んでいる時期には、外出時は眼鏡・マスク・帽子などの着用、帰宅後はすぐ洗顔をしたり、シャワーを浴びて花粉を落とすこと、室内では空気清浄機の使用などで、花粉との接触を少なくすることが重要です。
また、肌の角質を守るために、過度の洗顔や化粧のクレンジングには注意しましょう。
春に悪化する敏感肌の原因は?
冬は湿度、気温が低くなり、寒さで末梢循環も悪くなりやすく、肌は乾燥しやすくバリア機能も低下しやすい時期です。
冬の乾燥とバリア機能の低下で肌が弱った状態に、春になり花粉などの異物刺激が加わるので、赤みや湿疹が出やすくなったり、普段使っている化粧品が合わなくなったりしやすいです。
また、春には花粉以外にも刺激となるものがあります。
花粉以外の春の肌リスク要因
(1)PM2.5の影響
PM2.5は、偏西風の影響で日本で最も観測値が高くなるのは春です。
(2)汗や皮脂の増加
ポカポカ陽気が増え気温や湿度が上がると、汗や皮脂の分泌も多くなります。これらを放ったままにしておくと、ニキビなどの原因になりかねません。患者さんへの看護や移動で汗をかきやすい方は要注意です。
(3)寒暖差の激化
昼間は汗ばみ、朝晩は凍えるなど、春は寒暖差が激しい季節です。不安定な天候も肌を疲れさせ、バリア機能の低下を招きます。室内と外の出入りの多い訪問看護師は特に肌への負担がかかりやすいです。
(4)新生活ストレス
日本は春に年度を切り替えます。引っ越しをしたり新生活をスタートさせる人も多いでしょうが、生物にとって環境の変化はストレスの元。精神的負担から肌の調子が落ちるといったケースもあります。
訪問看護師におススメ!敏感肌向けのスキンケア方法
(1)基礎化粧品の塗り方
何かを肌に塗る際は、肌にのせてから塗り広げるのではなく、手の平にクリームなどを乗せ温め塗り広げた状態で、顔を包み込むようにして摩擦をかけずにぬりましょう。
(2)余計な摩擦に注意
皮膚のバリア機能を一手に担っている角質の厚みは、わずか0.02mmと薄く、デリケートな構造をしています。角質層はふやけたり、傷ついたりすることで、構造が容易に崩れます。過剰な摩擦はメラノサイトを刺激しシミや色素沈着につながることもあります。
摩擦が加わるのは、洗顔やスキンケア時だけではありません。例えば、洗顔後のタオルによるふきとり、美顔ローラー、枕カバーや布団などにも注意が必要です。清潔なタオルを使用し、ふく際も擦らないように、押さえつけるように拭きましょう。
寝具もいつも清潔に保ち、肌触りの良い素材のものを選ぶのがおすすめです。
(3)潤いの補給
バリア機能が整っている肌では、肌そのものに保湿力があるので、ワセリンやオイルで蓋をし、水分の蒸発を防ぐだけでも十分です。
一方で、不適切なスキンケアや生活習慣によりバリア機能が破綻している肌では、化粧水で水分を補う必要がありますが、水分はやがて蒸発してしまいます。
バリア機能が壊れていると、細胞間脂質や天然保湿因子も減少しているので、これらの代用となる成分を補ってあげるとよいです。中でもおすすめはヒト型セラミドです。
細胞間脂質の4割を占めるセラミドは、脂質でありながらも水分をはさみこみミルフィーユのような層構造「ラメラ構造」をつくり水分をキープしています。
天然保湿因子の代用としては、アミノ酸類(セリン、グリシン、アスパラギン酸、アルギニンなど)です。湿度が低いと保湿力が下がってしまうので、冬場にはセラミドのほうがおすすめです。なるべく香料や着色料、アルコール、防腐剤など、肌に刺激を与える成分が少ない物を選びましょう。
化粧品の使用によりかゆみや刺激を感じるほどダメージがあるような場合は、あれこれ塗らずワセリンのみで済ますのも一つです。白色ワセリンは不純物が少なく、傷口にも塗れる程肌への刺激が少なく、また合成界面活性剤を使用していないので、赤ちゃんから安心して使えるアイテムです。
西嶌医師が開発した美容ワセリン:
おわりに
肌は季節や環境に影響を受けやすい器官です。さらに訪問看護師は、体力が必要な業務で、かつストレスも多い職業です。
ご利用者様のことを大切に思うのと同じぐらい、自分の肌のことも見つめ直して、ケアしてあげてください。
西嶌 暁生(にしじまあきお)プロフィール
医学博士、形成外科専門医
恵比寿こもれびクリニック 院長
2013年より筑波大学の形成外科で、創傷治癒、外傷、再建、美容外科及び美容皮膚科を専門とする臨床医として従事。その後、「恵比寿形成外科・美容クリニック」の副院長を経て、2023年7月に「恵比寿こもれびクリニック」を開院。肌細胞の再生をキーワードに、美と健康のパーソナルドクターとしてオーダーメイド医療を提供している。