介護が必要な高齢者の状態が悪化し、自宅での介護が限界となった場合、老人ホームの入居を検討することになります。
介護度が重い方が老人ホームを選ぶにあたり、多くの方が終のすみかとして入居を希望される施設が特別養護老人ホーム(特養)です。
特養は、費用が安い上に看取りの対応が可能な施設も多く、終身で利用できることなどから人気を集め、地域によっては、数年の入居待ちを要することも少なくはありません。
しかし、一方で特別養護老人ホーム(特養)には、医療依存度が高く、常時看護師がいる施設でないと生活が困難な方は入居できないことや、入居中にあまりにも医療依存度が上がってしまった際には退去を余儀なくされるなどの課題もあります。
また、特養の中でも人気を集める個室タイプのユニット型の特養は、建築コストやスタッフの配置などから多床室型(2人部屋・4人部屋タイプ)に比べ、入居費用が高くなり、民間の介護施設とさほど変わらない費用がかかってしまうという問題点もあります。
さらに、近年では介護スタッフの不足により、稼働率が低下している特別養護老人ホームも存在しています。
訪問看護ステーションがナーシングホームの開設を考える上で、特養のこれらの課題や問題点を解決していくことは、満足度が高く、多くの方から選ばれる施設作りへの大きなヒントとなります。
本日は、あらためて特別養護老人ホームとはどのような施設なのか、選ばれる理由や抱えている課題や問題点を明らかにした上で、今後訪問看護ステーションがそれらを踏まえて、どのようにナーシングホームに取り組んでいくかをお伝えしたいと思います。
特別養護老人ホーム(特養)とは
まず、特別養護老人ホームとはどのような施設であるかについてみていきましょう。
特別養護老人ホームは、地方公共団体や社会福祉法人が設置する公的な介護施設であり、職員の人員配置基準、居室の広さ、定員などの設備基準が、厳格に定められています。
入居一時金は不要で、月額費用は10万円前後と安価で利用できる上、所得が少ない方に対する減免制度も、設けられていることも特徴です。
以下に、特別養護老人ホームの特徴を項目ごとに解説します。
居室の形態
特別養護老人ホームには、ユニット型個室、ユニット型準個室、従来型個室、多床室の4つの居室形態があります。
入居条件
特別養護老人ホームへ入居するには、一定の条件が決められています。主な条件は、「原則として要介護3以上」、「伝染病に罹患していない」、「65歳以上」の3点です。
入居者の自己負担費用
特別養護老人ホームの入居者の自己負担費用の種類は、以下となります。
① 施設介護サービス費
特別養護老人ホームで受けるサービスに対する費用
② 居住費(賃料)
いわゆる家賃
③ 食費
1日3食分の費用
④ 日常生活費
日用品や嗜好品の代金、医療費、理美容代などの日常生活費
尚、①施設介護サービス費と②居住費(賃料)は、居室の形態によって異なり、低額な方からは、多床室→従来型個室→ユニット型準個室→ユニット型個室、といった順番になります。
また、特別なサービスを受けるために、施設の設備、介護体制、介護サービスなどに応じて、「日常生活継続支援加算」や「看取り介護加算」など加算される費用があります。
特別養護老人ホーム(特養)のサービス内容
特別養護老人ホームでは次のようなサービスが提供されます。
(1)身体介助・生活援助
特別養護老人ホームでは、身体介助として、食事、排せつ、入浴の介助、生活援助として、食事の提供、掃除、洗濯といった介護サービスが提供されています。
(2)機能回復(リハビリ)
特別養護老人ホームでは、機能訓練指導員によるリハビリを受けることができます。ただし、特別養護老人ホームでのリハビリは、食事やトイレへの歩行といった、日常生活の中での訓練が中心となり、通常サービス内で、療法士による専門的なリハビリを行うことはほとんどありません。
(3)レクリエーションやイベント
特別養護老人ホームでは、施設内で様々なレクリエーションを行っています。心身の健康のために、頭を使ったり、身体を動かしたりするようなゲームを行ったり、季節の行事や入居者の誕生日などにイベントを行っているところもあります。
(4) 医療サービス
特別養護老人ホームでは、医療サービスも提供されています。
看護師は常勤の配置が義務付けられてますが、24時間365日体制が義務付けられておらず、夜間には不在となる施設が多く、日中に医療ケアを受け、夜間は「オンコール体制」をとり、緊急時に看護師が駆け付けるという対応になっているケースが多いです。
特別養護老人ホームの人員配置基準
特別養護老人ホームでは、下記の表の人員配置基準が設けられています。
出典元:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」
特別養護老人ホーム(特養)が抱える課題や問題点
上記のように、特別養護老人ホームは、安い料金で入居可能な上、身体介助・生活援助、機能回復、レクリエーションなど充実したサービスが提供されることから満足度が高く、人気がある老人ホームです。
一方、特養は、様々な課題や問題点を抱えています。具体的にみていきましょう。
(1)深刻なスタッフ不足
特別養護老人ホームで職員が不足していると回答した施設は68.6%にのぼり、2021年度調査より13.5 ポイント悪化しています。これにより稼働率を下げざるを得ないなど、スタッフ不足の問題は深刻です。
(2)医療的ケアが不十分
看護師の24時間365日の常勤体制がない施設が多く、医療的ケアを重視したい高齢者の入居の受け入れに課題があります。
(3)個室形態の高額利用料
ユニット型個室は、 全室個室で設備も充実している反面、居住費や光熱費が割高となるため、従来型と比べると、入居者の月々の利用料が高く設定されています。
(4)長期間の入居待ち
特養は安い費用で利用できることから、入居希望者が多い傾向にあります。待機者が多ければ、入居するまでに長期間にわたり待たなければなりません。待機期間は、地域や施設によって異なりますが、場合によっては数年間がかかることもあります。
スムーズな入居ができる対策を講じることが課題となっています。
(5)国や地域の財政難
公的な特別養護老人ホームの新改築や運営には多くの公的資金が必要となります。高齢者の医療や福祉に関連する経費支出が急増し、社会保障予算は逼迫しています。こうした財政難の状況下で、特別養護老人ホームへの公的資金の導入が課題となります。
特養が抱える課題・問題点を解決する訪問看護のナーシングホームとは
では今後、訪問看護ステーションが新たな事業展開のひとつとしてナーシングホームを手掛ける場合、上記にあげた特養の課題や問題点をどのように解決し、満足度の高い施設を実現するには、どのようにすればいいのでしょうか。
入居者や家族、病院、国と地方財源、スタッフなど、複数の観点からみていきたいと思います。
(1)入居者から見た特養とナーシングホームの違い
医療的ケア
特別養護老人ホームでは、看護師を24時間配置しなければならない義務がなく、医療体制に限界があり、医療依存度によっては入居に制限があります。
一方、訪問看護によるナーシングホームでは、看護師の24時間365日常駐により、下記のような継続的に医療が必要な入居者も受け入れ可能であり、状態悪化による退去もありません。
・食事が摂れなくなり「経管栄養」の状態
・糖尿病が進行して「インスリン注射」が必要
・排便困難となり「人工肛門(ストマ)」の状態
・排尿困難となり「導尿」の状態
費用負担
プライバシーを重んじ個室を望む入居者にとって、特別養護老人ホームのユニット型個室は、比較的高額になっています。
特養のユニット型個室の月々の費用概算は以下のとおりです。
① 居住費(賃料) 60,180円
② 施設介護サービス費(介護度5) 27,870円
③ 1日3食の食費×30日 約45,000円
④ 日常生活費 15,000~25,000円
月額合計 約15万~16万円
令和2年度の厚生年金の平均受給額は146,145円となっています。ユニット型個室に入居した場合、年金額より1ヶ月利用料の方が高くなってしまします。
一方、訪問看護ステーションのナーシングホームでは、運営の工夫次第で、月額の居住費、食費、共益費(水光熱費、管理費等)介護保険1割負担(要介護3)で、140,000円程度の設定ができます。
医療依存度が高く医療的ケアが必要でありながら、厚生年金と同額程度の利用料金で、完全個室となる、訪問看護ステーションのナーシングホームは入居を希望する本人にとって、特別養護老人ホームを超える満足度ガ得られるといえます。
(2)家族から見た特養とナーシングホームの違い
次に、家族から見た特養とナーシングホームの違いをみていきます。
待機、退去
家族介護が限界である状態にもかかわらず、入居するまでに長期間の特別養護老人ホーム待機は、家族のストレスや、介護離職につながります。
また、特別養護老人ホーム入居後、継続的な医療的ケアが必要になった際に退去を余儀なくされた際に、医療的ケアの整っている施設探しが難航するケースも少なくありません。
一方、訪問看護ステーションのナーシングホームは、近隣に複数棟運営しているケースも多く早い段階での入居が可能となります。入居後の状態変化による退去もありません。
費用負担
前述のように、特別養護老人ホームのユニット型個室よりも安い、訪問看護ステーションのナーシングホームも近年では増えてきています。費用負担は、家族にとって最重要課題です。
待機、退去の不安がなく、費用負担が軽減できる訪問看護ステーションのナーシングホームは、入居者の家族にとって満足度が高い施設といえます。
(3)病院 から見た特養とナーシングホームの違い
病院からみた、訪問看護のナーシングホームが特養の満足度を超える状況は次の通りです。
円滑な退院支援
病院では、入院患者が病院を退院する際に、退院後の生活、医療、介護のあり方を調整、支援を行います。ナーシングホームを運営するステーションの看護師と退院時カンファレンスを行うことができて、スムーズに入居できため、病院の退院支援担当者の業務負担を軽減でき、満足度を向上させることができます。
円滑な連携
訪問看護ステーションのナーシングホームに入居後も、訪問看護師による、情報共有や連携が円滑となることが期待できます。
(4) 国と地方財源から見た特養とナーシングホームの違い
国や地方自治体は、特別養護老人ホームを運用する社会福祉法人などへ助成金の交付や税金面での優遇措置を実施しています。
近年では、特別養護老人ホームの建設は高騰し、2010年度以降で最高額を記録しています。ユニット型個室の建築費は、定員1人当たり16,121,000円、平米単価は 327,000円に達しています。
それに対し、国や地方自治体は、特別養護老人ホーム整備費補助制度を策定しています。
下の表にあるように、特別養護老人ホーム等整備費補助制度の概要令和5年3月 東京都福祉保健局施設支援課の資料によると、
特別養護老人ホームユニット型新規創設の時 定員1人当たりの補助額は、500万円、改築では、定員1人当たりの補助額は、600万円などとなっています。
50人定員の特別養護老人ホームユニット型個室を作る場合に、国や地方自治体から2億5千万円が補助金として支出されることになります。
出典元:東京都福祉保健局施設支援課「特別養護老人ホーム等 整備費補助制度の概要」
一方、訪問看護ステーションのナーシングホームでは、国費や地方財源からの公的資金の補助を受けずに、ステーション経営者が融資などで資金調達し、建築や設備整備、運営を行います。税制面での優遇措置もありませんので、民間企業が納付義務のある税金はすべて納税します。
このことから、公的資金に依存しない訪問看護ステーションのナーシングホームを増やすことで、国や地方財政の支出を抑制することができます。訪問看護ステーションのナーシングホームを増やすことは、財政難の面から満足度を上げられることになります。
(5)スタッフから見た特養とナーシングホームの違い
スタッフから見た特養とナーシングホームの違いは次のようになります。
賃金
厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、医療・福祉施設等介護職員(平均年齢44.2歳)の平均年収は362万円となっています。全職種平均が496.5万円です。
特別養護老人ホームでは、介護職員への賃金は、概ね平均値で設定されています。特別養護老人ホームが、人手不足となる要因の一つにこの賃金設定の低さがあります。
一方、訪問看護ステーションのナーシングホームでは、人員配置基準が定められていないことや運営を工夫することで、全職種平均並みの賃金設定を実現しているケースが多くあります。
スキルアップ
訪問看護ステーションのナーシングホームでは、難病や重度の疾患を積極的に受け入れています。こうした入居者のケアには、高い知識や経験が必要となり、スキルアップを望む向上心のあるスタッフには魅力的な職場となっています。
やりがい、働き方
訪問看護ステーションのナーシングホームでは、企業理念や方針を遵守しながら、入居者の生活の質の向上を優先したケア方法や、様々なレクリエーション、イベントを企画することができます。
仲間と協力しながら、入居者と強いつながりを築く機会を持ち、多くのスタッフがやりがいや働きがいを感じています。
こうしたことから、スタッフにとって訪問看護ステーションのナーシングホームは、特別養護老人ホーム満足度を超える職場になっています。
まとめ
特別養護老人ホームは、社会福祉の観点から、要介護度の重い方や低所得者の方の保護と支援に重点を置き、公的に運営されていることから、民間運営の有料老人ホームと比較して費用が安く設定され、手厚い介護が受けられることで満足度が高い施設として人気を集めていました。
しかし一方で、スタッフ不足、待機、医療的ケアの限界、個室の高額料金、財政難などさまざまな課題や問題点があります。
特別養護老人ホームが抱える課題や問題点を克服し、入居者本人、家族、病院、国と地方財源、スタッフ、いずれの視点からも特別養護老人ホームを超える満足度を実現できる施設が、訪問看護ステーションのナーシングホームといっても過言ではありません。
訪問看護ステーションがナーシングホームを運営する場合には、その特性を活かし、看護師の24時間365日常勤体制による高品質な医療的ケアを提供することが可能となります。
また、療法士による専門的な機能訓練の提供し、入居者のリハビリテーションや生活の質の向上をサポートできます。
さらに地域の医療機関との緊密な連携を築き、入居者の医療情報、健康状態の共有や緊急時の適切な対応を図ることもできます。
加えて、運営を工夫することで、入居者の費用負担を軽減しつつスタッフの高待遇が実現できるようになります。
近年、比較的利用料が安く、医療的ケアが充実している訪問看護ステーションのナーシングホームが増えてきています。
介護が必要な高齢者の状態が悪化し、自宅での介護が限界となった場合、老人ホームの入居を検討する際に最優先に選択される施設が、訪問看護ステーションのナーシングホームとなる時代も近いかもしれません。
訪問看護ステーションが運営するナーシングホームに興味のある方は、いろいろナースまでお気軽にご相談ください。