機能強化型訪問看護ステーションは、成長戦略の切り札となるか?

人件費の高騰や事業所間の競争激化により、訪問看護ステーションの経営環境はますます厳しさを増しています。

今後5年を見据えたとき、この流れはさらに加速することが予想され、収益の安定と持続的な成長には「他のステーションと差別化できる強み」が不可欠です。

その有力な選択肢の一つとして今、注目されているのが「機能強化型訪問看護ステーション」です。

制度上の評価が高く、地域からの信頼も厚いこの形態は、収益性の向上にも直結する可能性を秘めています。しかし導入には、いくつかの要件と課題が立ちはだかります。

本コラムでは、訪問看護ステーションを取り巻く現状と課題を整理しながら、収益向上と成長を実現する具体的な戦略として「機能強化型」という選択肢がなぜ重要なのかを解説します。

目次

平均的な訪問看護ステーションの約3割が赤字──経営実態を示す3つの指標とは?

平均的な訪問看護ステーションの約3割が赤字──経営実態を示す3つの指標とは?

訪問看護ステーションの未来を見据えた経営戦略を考えるためには、まず「今」の現実を正しく把握することが欠かせません。

厚生労働省や日本訪問看護財団の最新データによると、平均的な訪問看護ステーションのおよそ3割が赤字という厳しい現状が明らかになっています。

特に、赤字経営との関連が強いとされる3つの指標に注目すると、経営が安定していない背景がより具体的に見えてきます。

経営実態を表す3つの指標とその平均値

1.看護職員の常勤換算数:平均 4.8人
(フルタイムに換算した職員数)

2.月間の延べ訪問回数:平均 375.5回
(1か月間に実施した訪問の合計回数)

3.1ステーションあたりの利用者数:平均 約70人
(1つの事業所が対応している利用者の人数)

各指標ごとの赤字割合

① 看護職員数別の赤字割合(平均:4.8人)

① 看護職員数別の赤字割合(平均:4.8人)

・3人未満:51.6%

・3~5人未満:35.6%

・5~10人未満:26.0%

・10人以上:14.8%

➡ 職員数が少ないほど赤字リスクが高まります。


② 月間訪問回数別の赤字割合(平均:375.5回)

② 月間訪問回数別の赤字割合(平均:375.5回)

・200回未満:61.1%

・200~300回未満:36.5%

・300~500回未満:29.5%

・500回以上:14.8%

➡ 月に300回を下回る訪問数では、収益確保が困難になる傾向が。


③ 利用者数別の赤字割合(平均:約70人

③ 利用者数別の赤字割合(平均:約70人

・20人未満:66.7%

・20~50人未満:39.1%

・50~100人未満:29.0%

・100人以上:16.3%

➡ 利用者が少ないステーションほど、赤字に陥る可能性が高いことが分かります。


これらのデータから見えてくるのは、平均的な規模のステーションであっても、約3割が赤字を抱えているという事実です。

この厳しい状況を打破し、収益を高めて持続的に成長していくには、経営の「強み」となる戦略が不可欠なのです。

参照元:厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査結果」P9

参照元:公益財団法人 日本訪問看護財団「日本の訪問看護のしくみ

5年後、訪問看護ステーションの赤字はさらに拡大へ──その主な4つの要因とは?

5年後、訪問看護ステーションの赤字はさらに拡大へ──その主な4つの要因とは?

現在、訪問看護ステーションの約3割が赤字経営という現状がありますが、今後5年の間に、この割合がさらに増える可能性が高まっています。

その背景には、以下のような深刻な構造的課題が潜んでいます。

1. 競争激化による利用者数の伸び悩み

訪問看護ステーションの開設数は年々増加しており、同一エリア内での競争が激化しています。その結果、利用者の新規獲得が難しくなり、収益の伸びが鈍化するリスクが高まっています。

2. 看護師の採用難がさらに深刻化

すでに多くのステーションが人手不足に直面していますが、看護師の採用難は今後さらに深刻化する見込みです。
求人費用や紹介料の高騰などにより、人材確保にかかるコストが経営を圧迫する構図が続くと見られます。

3. 人件費の高騰が収支を直撃

採用したスタッフに長く働いてもらうためには、給与や待遇の改善が不可欠です。しかし、これにより人件費は増え続け、利益を圧縮する大きな要因となっています。

4. 報酬改定リスクによる不安定な収益構造

介護報酬や診療報酬は数年ごとに見直されますが、内容によっては訪問看護の主要な収益源が削られるリスクもあります。

制度改定の方向性次第では、これまで黒字だったステーションが一気に赤字転落する可能性も否定できません。


このように、訪問看護ステーションを取り巻く経営環境は、今後ますます厳しさを増すと予測されます。だからこそ今、競争力のある経営基盤を築く戦略が必要なのです。

訪問看護が5年後も成長し続けるための3つの収益アップ戦略とは?

訪問看護が5年後も成長し続けるための3つの収益アップ戦略とは?

現在、訪問看護ステーションの経営環境は厳しさを増していますが、未来に向けて成長する道はあります。

5年後を見据えて赤字を回避し、収益を安定的に伸ばすためには、以下の3つの取り組みがカギとなります。

① 訪問件数を増やして、売上を底上げする

1人あたりの訪問件数を増やすことで、ステーション全体の売上高を拡大することが可能です。

そのためには、以下のような工夫が有効です。

訪問ルートの最適化

地図アプリなどのICTツールを活用し、移動効率を高めます。近隣エリアの訪問を優先するなど、無駄な移動時間を削減することがポイントです。

スケジュールの柔軟化

短時間訪問と長時間訪問をバランスよく組み合わせることで、1日の訪問件数を最大化します。早朝・夜間・祝日など、ニーズが集中する時間帯の対応も強化しましょう。

訪問エリアの拡大

営業範囲を広げることで、潜在的な利用者を新たに取り込むチャンスが生まれます。

② 単価を上げて、質の高いケアで売上アップ

訪問の「単価」を上げることで、少ない件数でも高い売上を実現できます。これを支える具体策は以下の通りです。

加算の取得体制を整える

報酬加算の仕組みを理解し、要件を満たす体制を整えましょう。高品質なケアの提供と加算取得が両立できれば、収益は確実に上がります。

自費サービスの導入

介護保険外のニーズに応えることで、高単価のサービスを提供できるようになります。

機能強化型ステーションの認定取得

要件をクリアして認定を受ければ、より高い診療報酬を得ることが可能になり、経営の安定につながります。

③ コストを見直して、利益率を高める

売上を増やすだけでなく、「コスト削減」も収益向上には欠かせません。特に人件費と固定費の見直しは、効果が大きい分野です。

離職防止で人件費のムダを抑える

働きやすい職場づくり(柔軟な勤務体制・福利厚生の充実)により、離職に伴う再採用コストを回避します。

採用コストの削減

自社サイトやSNSでの採用活動を強化し、紹介会社に頼らない体制を整えましょう。社員紹介制度の活用も効果的です。

車両コストの見直し

燃費効率のよい車両の導入や、車両管理の徹底によって維持費を削減します。

ICT活用による業務効率化

クラウド型の業務支援ツールでペーパーレス化・業務自動化を進め、間接業務にかかる時間とコストを減らします。

消耗品と光熱費の適正管理

在庫管理の徹底や、電気・ガス会社の見直しによって日々のランニングコストを削減できます。

このように、訪問件数の増加・単価アップ・コスト削減という3つの視点から収益改善に取り組むことで、5年後も成長し続ける訪問看護ステーションを目指すことができます。

なぜ今、「訪問単価を上げる」戦略に力を入れるべきなのか?

なぜ今、「訪問単価を上げる」戦略に力を入れるべきなのか?

前述した訪問看護ステーションが5年後の成長と安定経営を実現するための「3つの収益向上策」の中でも最も優先して取り組むべき戦略は、「訪問単価を上げること」です。

その理由について詳しく解説していきます。

他の2つの方法に潜む「リスク」と「限界」

1. 訪問件数を増やす戦略

一見、売上を増やすために有効な手段に思えますが、実際には以下のような問題が起こりやすくなります。

・移動や業務の負担増により、スタッフが疲弊・離職するリスク

・サービスの質が下がり、利用者の満足度が低下

・移動中の事故リスクや時間のロスも増加

つまり、成長の持続性に欠ける方法なのです。

3. コスト削減による収益アップ

短期的には効果がありますが…

・人件費を削れば、職員のモチベーションが下がる

・安全管理やサービス品質の低下を招く可能性

・削減できるコストには限界があり、やがて行き詰まる

コスト削減だけに頼るのは、将来的な信頼や価値の損失につながる恐れもあります。

訪問単価を上げることが、持続可能な成長への近道

対して、「訪問単価を上げる」戦略は、以下のようにリスクが少なく、長期的な安定経営に直結します。

・質の高いケアに対する正当な対価として、スタッフのやりがいと満足度が向上

・単価が上がれば、件数を無理に増やす必要がなく、働き方も安定

・売上のベースが上がることで、経営にも余裕が生まれる

訪問件数を無理に増やすことも、コスト削減に走ることも、持続可能な経営にはつながりません。

だからこそ、「訪問単価を上げる」ことを最優先に取り組むべきなのです。

特に、「機能強化型」の認定を目指すことは、訪問看護ステーションにとって長期的な安定と成長を実現する最も現実的で有効な戦略といえるでしょう。

機能強化型訪問看護ステーションとは?

「機能強化型訪問看護ステーション」は、より専門的で、手厚い訪問看護サービスを提供するために機能を強化した事業所です。

常勤看護師を多く配置し、24時間体制で対応できる仕組みを整え、重症の方や終末期の方、小児など、医療ニーズの高い利用者を積極的に受け入れています。これにより、住み慣れた自宅で質の高い医療を受けることが可能になります。

さらに、国が定めた条件を満たすことで「機能強化型訪問看護管理療養費(1・2・3)」を算定でき、通常よりも高い報酬体系が適用されるため、事業としての収益の安定化にもつながります。

機能強化型訪問看護ステーションになるための要件とは?

機能強化型訪問看護ステーションになるための要件とは?

機能強化型ステーションになるためには、まず通常の「訪問看護管理療養費」を算定できる体制を整えた上で、以下のような条件を満たす必要があります。

訪問看護管理療養費の基本要件

・安全にサービスを提供できる体制が整っていること

・主治医に対して、訪問看護計画書・報告書を紙または電子で提出していること

・主治医と常に連携が取れていること

・休日や祝日も含めた継続的なサービス管理体制があること

機能強化型(1・2・3)の要件

この部分は厚生労働省が定めた基準に基づき、常勤看護師数、24時間対応の実績、重症者の受け入れ件数など、一定の水準をクリアする必要があります。詳細は令和6年度診療報酬改定の資料をご確認ください。

機能強化型訪問看護管理療養費1、2、3の算定要件の項目

参照元:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】厚生労働省保険局医療課

課題とメリット:機能強化型ステーションを目指す意味

課題とメリット:機能強化型ステーションを目指す意味

■ 課題

1. 複雑で厳しい要件

人員配置や連携体制、24時間対応など、多くの厳格な要件を満たす必要があります。中小規模の事業所にとっては、経営資源の確保が課題になることも。

2. 専門人材の確保

重症者に対応できる看護師の確保が必須ですが、専門性の高い人材は慢性的に不足しています。採用だけでなく、育成や働きがいのある環境づくりも重要です。

3. 地域との連携構築

病院・施設・行政などとのスムーズな情報共有と連携体制づくりには、時間と関係構築力が求められます。

4. 24時間体制の整備

夜間や休日の対応はスタッフへの負担も大きく、働き方改革やシフト管理の工夫が不可欠です。

5. 経営基盤の強化

人材育成やICT導入などにはコストがかかります。経営の効率化や差別化戦略が鍵となります。

■ メリット

● 高報酬による収益安定

機能強化型の算定ができれば、通常の訪問看護よりも高報酬が得られ、安定した収益につながります。

● 利用者の幅が広がる

専門性の高いサービスが提供できるため、重症者や医療依存度の高い利用者の受け入れが可能になります。

● 地域との連携が強化

居宅介護支援事業所との連携や、同一敷地内での開設により、情報共有が円滑に進み、紹介件数の増加にもつながります。

● 地域医療への貢献

研修や情報発信を通じて、地域全体の医療・介護の質を高める存在として評価されます。

5年後の飛躍を見据えたステップと戦略

5年後の飛躍を見据えたステップと戦略

機能強化型ステーションを目指すには、段階的な準備と中長期的なビジョンが必要です。以下は、5年計画で機能強化型を実現するためのステップです。

1年目:土台づくり

・専門性の高い人材の採用計画と育成プログラムを始動

・オンコール体制に向けた準備、ICT導入の検討

・緊急対応マニュアルの整備と研修の開始

2年目:24時間体制と地域連携の開始

・オンコール体制の本格運用と改善

・地域医療機関との連携スタート、情報誌や勉強会による地域貢献の開始

3年目:連携の拡大と居宅介護支援事業所の準備

・多職種連携、学生実習受け入れなどを通じて地域との接点を広げる

・居宅介護支援事業所設置に向けた準備と計画立案

4年目:居宅介護支援事業所の開設と申請準備

・居宅介護支援事業所を開設し、訪問看護との連携強化

・各種要件を最終確認し、機能強化型の申請手続きを実施

5年目:機能強化型として本格稼働・収益最大化へ

・地域の医療介護に貢献しながら、サービス品質と収益の両立を図る

・ICTの活用で業務効率を高め、広報活動も強化

まとめ:機能強化型訪問看護ステーションという選択肢

高齢化の進行により、在宅での重症ケアや専門的な看護のニーズが年々高まっています。そうした背景の中、機能強化型訪問看護ステーションは、地域医療における重要な役割を担う存在として注目されています。

この体制を整えるには、専門性の高い看護師の配置や24時間対応、医療機関との密な連携など、一定の条件を満たす必要があり、経営的・人的なハードルも少なくありません。

一方で、報酬加算による収益性の向上や、サービスの質や人材育成への再投資といったメリットも期待できます。

また、地域の医療・介護機関との連携が強化されることで、紹介の増加や信頼性の向上といった効果も見込まれます。

今後、地域包括ケアの推進やICTの活用が進む中で、機能強化型ステーションにはさらなる可能性が広がっていくかもしれません。

機能強化型への移行は、すべてのステーションにとって最適とは限りませんが、地域に根ざしたサービスのあり方を見つめ直す一つの選択肢として、検討してみる価値はありそうです。

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