高齢化や急速な人口減少の影響により、高齢者や要介護者の数が増加している一方で、適切な介護や支援を受けるための施設やサービスが限られているため、必要なケアを受けることが難しい状況が広がっています。
また、家族による介護も限界に達するケースが増えています。
こうした背景から、高齢者や障がい者などが自宅や医療施設、介護施設などで適切な介護サービスを受けることが難しい状況に置かれている人々を、介護難民と呼んでいます。
この問題は、日本の高齢化社会が直面する重要な課題の一つとされ、その数は年々増加しています。特に首都圏では、2025年までに約13万人が介護難民となると予測されています。
近年では、訪問看護ステーションがナーシングホームを併設することが注目を浴びており、個別の要望に合わせた柔軟な介護医療ケアを効率的に提供することが、難民化する高齢者や障がい者を支え、介護難民の問題の解決に繋がる可能性があるとされています。
そこで今回は、介護難民問題の背景や要因、そしてその解決策として訪問看護ステーションがナーシングホームを設けることの意義について解説します。
年々増加する介護難民、その背景にあることは
介護難民が年々増加する背景は次のようなことがあります。
(1)「後期高齢者」の増加
日本国内における後期高齢者(75歳以上)の爆発的な増加は、2060年まで減少に転じることはないとされています。後期高齢者人口は2025年までに2,180万人(人口割合18.1%)、2055年に2,401万人(人口割合26.1%)到達すると予測されています。
(2)「要介護認定者」の増加
厚生労働省の介護保険状況報告によると、要介護認定者数(総数)は以下となっており、年々増加をたどっています。
2020年3月 要介護認定者数 6,686,282人
(前年より約10万人増)
2021年3月 要介護認定者数 6,818,244人
(前年より約13万人増)
2022年3月 要介護認定者数 6,895,735人
(前年より約8万人増)
2023年3月 要介護認定者数 6,944,377人
(前年より約5万人増)
(3)「特別養護老人ホーム」の入居待機者
比較的費用が安く、入居期間に定めのない、看取りも対応可能な特別養護老人ホームへの入居待機者は、2019年には29万人を突破しています。
この待機者の中には充分な介護サービスを受けられず、将来の介護の見通しも立たない人も多く、介護難民となる可能性があります。
(4)病床数の削減
「後期高齢者」、「要介護認定者」、「特別養護老人ホーム」の待機者の中には、医療的ケアの必要な人も増えてきています。
しかしながら、政府は医療費削減を目的に2025年時点の病床数を現在よりも16万~20万床減らす目標を示しています。
これにより、医療的ケアや治療の継続が必要な場合でも、自宅療養や介護施設への転居を余儀なくされている人が増加することになります。
しかし、自宅での療養が難しい場合や、高度な医療行為に対応できない介護施設では入居を受け入れてもらえないケースがあることも事実です。
こうした背景も、介護難民の増加の要因となっています。
介護難民が増加する要因とは
介護難民の増加には、いくつかの主要な要因が影響しています。以下にその主な要因を説明します。
1. 介護施設不足
介護施設の数や設備が需要の増加に追いついていない地域が多くあります。これにより、介護を必要とする人々が適切なケアを受けることが難しくなります。また、長期間の入所待ちが生じ、状態が悪化しても適切なケアが受けられないケースも見られ、介護難民の増加の要因となっています。
2. 重度化による自宅介護の難しさ
高齢者や障がい者が病状の悪化により自宅での生活が難しくなる場合があります。特に重度の疾患や制約がある場合、家族や周囲の支援だけでは十分なケアが難しく、専門的な介護・医療が必要です。しかし、そのようなケアを提供する手段が不足していることが多くあり、介護難民の増加を促進しています。
3. 介護スタッフ不足
介護スタッフの需要が高まっている一方で、報酬や労働条件の面で不十分なことがあります。これにより、適切な訓練を受けた介護スタッフが不足し、高品質な介護サービスの提供が難しくなります。スタッフ不足により、介護を必要とする人々のケアが充足されない場合があります。
4. 経済的負担
高品質な介護サービスや施設の利用は、経済的に負担が大きいことがあります。介護費や医療費やサービス料、備品費などがかかるため、家計への影響が大きくなる場合があります。また、介護を受けるために家族の中から誰かが仕事を辞める必要がある場合、経済的な負担が増加します。
これらの要因が重なり合い、介護難民の増加が引き起こされています。介護難民問題の解決には、適切な施設の増加や訓練されたスタッフの確保、経済的支援などが必要です。
中でも訪問看護ステーションによるナーシングホームの設立は、これらの問題への対策として有望なアプローチとされています。
介護難民を増やさない対策~ナーシングホームの役割
介護難民を増やさない対策として、介護と医療が一体となった施設であるナーシングホームを増やすことに注目を浴びています。
ナーシングホームは、24時間体制で介護士や看護師が駐在し、高齢者や医療ケアを必要とする人々が安心して日常生活を送ることができる環境を提供しています。
特に医療依存度の高い高齢者の増加や、病院からの早期退院が必要なケースが増えている現代社会において、ナーシングホームの重要性はますます高まっています。
前述の介護難民が増える原因を対処し、介護難民の問題を解決する対策として、ナーシングホームがその役割を果たすことが期待されています。
今後、より質の高い介護と医療を提供し、介護難民を減少させる施設としてナーシングホームの需要が一層高まると予測されています。
介護難民に対応する、ナーシングホームの提供サービスとは
介護難民が増加する原因となっている施設の不足や病状の重度化に対応する施設であるナーシングホームで提供するサービス内容は、大きく次の3つに分けられます。
(1)医療ケア
(2)介護サービス
(3)日常生活のサポート
各サービスを詳しく解説します。
(1)医療ケア
ナーシングホームで提供されている医療ケアとしては、主に次のものがあげられます。
• 喀痰吸引
• 胃ろうや腸ろう、鼻腔経管栄養
• 点滴
• 在宅酸素
• 尿バルーン、ストーマ(人工肛門
• 褥瘡(じょくそう)のケア
• 注射や薬の処方
• 看取りやターミナルケア
上記項目のように。ナーシングホームがでは、喀痰吸引や点滴などを始め、胃ろうや腸ろう、鼻腔経管栄養といった栄養補給のサポートも行います。
また、褥瘡のケアによって床ずれを防ぐといった日常的なケアや、入所者の最期を看取ったり、穏やかに最期の瞬間を迎えるための、ターミナルケアを行います。
治療行為ではなく、あくまでも日常生活を送るために必要な医療ケアがメインになります。
(2)介護サービス
ナーシングホームでは、医療ケアのみならず、以下のような介護ケアを提供します。
• 食事介助
• 排せつ介助
• 入浴介助
• レクリエーション
• 機能訓練
上記項目のように、食事・入浴・排せつをはじめとした、日常生活を送るうえで必要な生活動作全般の介助やサポートが受けられるだけではなく、施設によってはレクリエーションや機能訓練(リハビリ)などのケアを行います。
生活動作の介助だけではなく、レクリエーションやリハビリなどによる身体機能の向上や精神面の充実が期待できることから、高齢者が心身ともに健康に過ごすためのケアが充実していると言えます。
また、レクリエーションはスタッフが実施するだけではなく、地域のボランティアの人が参加し異世代で交流するケースも多く、コミュニケーションが生まれやすいケア体制を取っているため、孤独感の解消などの効果も期待できるとされています。
(3)日常生活のサポート
ナーシングホームでは、医療ケアや介護サービスが受けられる点が注目されますが、以下のような日常生活のサポートを目的としたサービスを受けることが可能です。
• 掃除・洗濯といった生活支援
• 緊急時対応
• 生活相談
上記項目のように、ナーシングホームでは、要介護度の進行によって自立して行うことが困難になる掃除や洗濯といった生活支援のサービスをケアプランに基づく訪問介護サービスによって受けることができるため、身体的負担の大きい生活動作をする必要がありません。
緊急時対応も行っており、職員が少ない夜間帯などの事故も適切に対処することができるため、入所者の方やご家族の方も安心することができます。
このように、ナーシングホームの提供サービスは、介護難民に対応できるサービスが充実している環境といえます。
介護難民を支える訪問看護ステーションによるナーシングホーム~その意義とは
訪問看護ステーションによるナーシングホームの設立は、高度な医療ケアと介護サービスを必要とする介護難民の方々に対して、適切な支援を提供するための重要な取り組みです。以下に、その意義を詳しく説明します。
1. 包括的なケアの提供
訪問看護ステーションが提供する在宅ケアは、医療ケア、介護サービス、日常生活のサポートなどを包括的に提供します。これにより、高齢者や病気により高度な介護が必要な方々に、継続的で適切な支援を提供することができます。
2. 専門機関との連携
訪問看護ステーションは、医療や介護の専門機関と連携を取る体制を整備しています。そのため、ナーシングホーム内での医療ケアや介護サービスの質を向上させることができます。特に、専門家のアドバイスや指導を受けながら運営されることで、高度なケアが求められる方々に最適なサービスを提供できます。
3. 効率的なスタッフ配置
訪問看護ステーションは既に看護師を有しており、その看護師をナーシングホーム内で効率的に配置することが可能です。これにより、迅速な医療処置やケアを提供しながら、運用コストを抑制することができます。
労働力の効率的な運用は、サービスの持続性と経済的な側面の両方において大きな利点となります。
4. 経済的負担の軽減
介護難民の方々は、高度な医療や介護が必要な場合があり、それに伴う費用がかかることがあります。訪問看護ステーションによるナーシングホームの設立は、既存のスタッフや連携ネットワークを活用することで、サービス提供のコストを抑えることができます。これにより、介護難民の方々への経済的負担を軽減させる一助となります。
5. 専門知識と経験の共有
訪問看護ステーションは、長年の経験と知識を有する看護師や専門家が関与しています。そのため、ナーシングホーム内でのケアの提供においても、高い専門知識と経験を共有することができます。これにより、より質の高いケアが実現されます。
訪問看護ステーションによるナーシングホームの設立は、介護難民の方々の生活の質を向上させ、適切なケアを提供するための有益な手段となります。包括的なケア、専門機関との連携、効率的な運用、経済的負担の軽減など、さまざまな側面から意義があります。
まとめ
「後期高齢者の増加」や「要介護認定者の増加」といった要因により、日本における介護難民の問題は拡大し続けています。
さらに、「特別養護老人ホーム待機者」の数や「病床の削減」による影響も重なり、適切な介護を必要とする方々に対する支援の必要性が高まっています。
このような状況を踏まえて、介護難民を支える方法として、訪問看護ステーションがナーシングホームを設けるアプローチが注目を集めています。これにより、個々の要望やニーズに合わせた柔軟な介護医療ケアを提供できるため、効果的なケア体制が構築されます。
最近では、訪問看護ステーションがナーシングホームを併設するケースが増加していますが、まだまだ需要の増加に追いついていない状況が続いています。
このような状況からも、介護難民の支援には迅速な対応が求められていることがわかります。
今後は、介護難民の支援をより充実させるために、訪問看護ステーションによるナーシングホームの参入がますます重要となります。需要に対する適切な対応や、高品質なケアの提供を通じて、介護難民の方々の生活の質向上に貢献することが期待されます。このような取り組みが、将来的な介護難民の増加を防ぎ、社会全体の健康と幸福を支える一翼を担うものと考えられます。