訪問看護ステーションの立ち上げ時には,多くの人が銀行融資を受けられると思います。開業資金を調達するための融資申請で必要になるのが「収支計画書」です。
「収支計画書」とは、計画している事業の「収入」と「支出」を表にまとめた文書であり、新規事業が現実的かどうかを判断する重要な資料です。
訪問看護ステーションでの独立起業においては、この「収支計画書」の目的や作成方法を理解することが不可欠です。
このコラムでは、訪問看護ステーションの独立起業に必要な「収支計画書」の目的、妥当性が高い「収支計画書」を作成するポイント、記載する項目、注意点などをお伝えします。
収支計画書とは?
収支計画は、事業の収入と支出、借入と返済などの関係を予測するための計画です。収入は主に事業の売上や借入金から生じ、支出は事業に必要な経費や借入金の返済にかかります。
「収支計画書」は、長期的に利益をどれだけ確保できるかを計画し、それを文書にまとめたものです。事業を運営する際には、持続的な利益の確保とキャッシュの管理が非常に重要です。
収支計画書があれば、資金繰りの状況を把握し、資金不足のリスクなどを事前に把握することができます。
収支計画書を作成する目的
収支計画書を作成する目的は、主に以下の2つです。一つは経営者が資金の流れを把握するため、もう一つは金融機関からの借入を受けるためです。
(1)お金の流れを把握し、今後の収支の見通しを立てる
収支計画書は、資金繰りを管理し、お金の動きを把握するために不可欠です。例えば、支払い日が顧客や金融機関によって異なる場合、集金と支払いのタイミングなどによっては手元の資金が不足する可能性があります。
資金をショートさせないことは事業を継続するうえで大前提となります。そのため、収入と支出の金額とタイミングを正確に把握することは、事業の持続性を確保する上で非常に重要です。
しっかりとした収支計画書を作成することで、現在から将来にかけての資金の流れを把握できます。
(2)金融機関から借入、融資の申請に必要
訪問看護ステーションを開業する際、金融機関から融資を受けるためには、前回のコラムで説明した「事業説明書」と共に「収支計画書」が必要です。
融資は未来の収益を見越して行われるものであり、このため、金融機関の担当者は収支計画書を詳細に精査します。
したがって、収支計画書は入出金のタイミングや事業の成長予測などに合理的な根拠を提供するものとして、非常に重要です。
訪問看護ステーションの収支計画の立て方
収支計画書を作成する際には、まず収支計画を策定することが必要です。以下では、収支計画を策定する方法と収支計画書の主要な項目について説明します。
(1)固定費を書き出す
収支計画を立てる際、まずは固定費を詳細にリストアップします。これには家賃、給与、光熱費、保険料、車両維持費など、事業運営に必要な定期的な支出が含まれます。これらの固定費は毎月、または一定の周期で支払われるため、計画において重要な要素です。
(2)借入金と利息の予定を記入する
事業に借入金がある場合、借入金とその利息に関する情報を計画に組み込みます。借入金の元本返済と利息支払いは、収支計画において優先順位の高い支出です。これらの支出を計画に含め、借入金の返済スケジュールを確実に守ることが重要です。
(3)原価率や粗利益率から売上高を計算する
収支計画の中で、売上高の予測も重要な要素です。原価率や粗利益率を用いて、売上高を計算しましょう。原価率は製品やサービスの提供にかかる直接的な費用の割合を示し、粗利益率は売上高から原価を差し引いた利益の割合を示します。これらの率を用いて売上高を予測することで、収支計画をより具体的に作成できます。
これらのステップを踏んで、収支計画を立てることで、事業の財務健全性を評価し、適切な資金管理を実現する基盤を築くことができます。
訪問看護ステーションの収支計画書に記載する主な項目
訪問看護事業における収支計画書には、詳細な収支計算を行うために
・営業日数・営業時間
・訪問1回あたりの売上金額・単位数
・利用者数・訪問回数
・従業員の職種・人数、人件費の内訳
・その他の主な経費の内訳と金額
・借入返済
等の必要な情報を記載する必要があります。
(1)訪問件数・訪問単価の設定と売上の算定
訪問看護ステーションの修正計画策定において、詳細な収支計算を行うためには、売上の算出が重要です。売上は以下の要素に基づいて計算されます。
1.訪問件数
1か月間に訪問される利用者の数です。この数を把握することは、ステーションの需要を理解する上で非常に重要です。
2.訪問単価
1回の訪問あたりの請求額であり、通常は8,000円から9,000円の範囲に設定されています。平均単価は、ステーションが提供するサービスや地域によって異なることがあります。
訪問看護における売上の算出式は、「売上=訪問件数×単価」になりこの式を用いて、1か月間の売上を計算できます。しかし、より詳細な収支計画を立てるためには、以下の項目も考慮することが重要です。
利用者数
1か月間に利用者がどれだけ増減するかを把握することで、需要の変動を予測できます。
利用回数
1人の利用者が何回訪問ケアを必要とするかを考慮し、月間の訪問回数を算出します。
営業日
ステーションが営業する日数を考慮に入れ、売上の期間を定義します。
営業時間
1日の営業時間が売上に影響を与えるため、これを考慮に入れます。
訪問1回あたりの売上・単位数
異なるサービスや診療内容に応じて、1回の訪問あたりの売上が異なる場合、これを詳細に計算します。
介護保険、医療保険ごとの売上
異なる保険制度に基づいて売上が異なる場合、各保険ごとに売上を計算します。
算定する予定の加算
特定の条件やサービスに対する追加の加算料金を考慮に入れ、これを売上に追加します。
以上の要素を考慮し、詳細な売上計画を立てることで、訪問看護ステーションの収支をより正確に評価し、適切な戦略を策定できます。
(2)人員配置と採用数を決定して人件費を計算する
訪問看護ステーションの修正計画策定において、詳細な収支計算を行うためには、人員配置と採用人数を決め、人件費を算定することが不可欠です。人件費は訪問看護事業における主要な支出項目であり、経営において大きな影響を及ぼします。
従業員の職種・人数・勤務形態
従業員の種類や職種を明確にし、例えば看護師、療法士、事務職などをリストアップします。各職種ごとに必要な人数を決定し、常勤やパートタイム、契約社員などの勤務形態を明示します。
1人あたりの人件費
各従業員の1人あたりの人件費を計算します。これには給与、賞与、手当、社会保険料、年金、労働保険などが含まれます。職種や経験に応じて、異なる人件費を設定することがあります。
法定福利費
法定の福利厚生費用を計算に含めます。これには健康保険、厚生年金、雇用保険、労働災害保険などが含まれます。法令や規則に基づいて支払う必要があるため、必ず計算に含めます。
人件費は訪問看護事業において特に重要であり、適切な人員配置と給与設定が経営の持続性に大きな影響を与えます。
(3)経費を特定し、それらのコストを算定する
訪問看護ステーションの修正計画策定において、詳細な収支計算を行うためには、その他の経費も洗い出し、経費を算定することが必要です。以下に、これらの経費項目を解説します。
賃貸料
訪問看護ステーションのオフィスやクリニックスペースを借りている場合、賃貸料がかかります。月々の支払額を計算しましょう。
光熱費(水道・電気・ガス)
オフィスやクリニックの光熱費(水道、電気、ガスなど)は、施設の運営に必要です。月間の料金を把握しましょう。
車両(リース)・電動自転車
ステーションが訪問看護用の車両や電動自転車をリースしている場合、これにかかる費用を計算します。
駐車場代・駐輪場代
訪問看護ステーションの従業員が駐車場や駐輪場を利用する場合、これらの駐車場代や駐輪場代を考慮します。
ガソリン代
訪問看護車両にかかるガソリン代を計算します。燃費や走行距離に応じて予算を設定します。
看護用備品消耗品(手袋・消毒薬等)
看護に必要な備品や消耗品(手袋、消毒薬など)の購入費用を把握し、予算に組み込みます。
訪問看護ソフト利用料
訪問看護に関連するソフトウェアや情報システムの利用料を計算します。
通信料(携帯電話・PC回線等)
スタッフの携帯電話やPC回線などの通信料を考慮に入れます。
求人広告費
新しいスタッフを募集するための求人広告費を予算に含めます。
雑費
その他の細かな経費(事務用品、書籍、研修費用など)を洗い出し、予算に加えます。
これらの経費項目を詳細に計算し、収支計画に組み込むことで、訪問看護ステーションの運営コストを正確に把握し、持続可能な経営計画を立てるのに役立ちます。
(4)借入返済
訪問看護ステーションの修正計画策定において、詳細な収支計算を行うためには、借入返済に関する情報を正確に把握し、計画に組み込むことが必要です。以下に、借入返済に関する項目を解説します。
借入金
借入金額は、ステーションが借り入れた資金の総額です。借り入れた金額を正確に把握しましょう。借入金の種類や利率も考慮に入れ、異なる条件の借入金について情報を整理します。例えば、銀行からの融資、個人からの借金、金利の違いなどが挙げられます。
月々の返済金
借入金に対する月々の返済金額を計算します。これには元本の返済と利息の支払いが含まれます。返済スケジュールを確認し、毎月の返済金額や期間を把握します。金利率の変動がある場合には、それも考慮に入れましょう。
借入返済に関する情報を詳細に把握し、計画に反映させることで、ステーションの財務健全性を確保し、返済スケジュールに従って資金を使い、収支計画を適切に管理するのに役立ちます。
また、返済スケジュールに変更がある場合や資金繰りに調整が必要な場合にも、計画を柔軟に対応させるために大切な情報です。
表:訪問看護ステーションの収支計画書に記載する主な項目
様式 | 大項目 | 小項目 |
収支計画書(月別) | 売上 |
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売上の算出根拠 |
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経費 |
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経費の算出根拠 |
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借入返済 |
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訪問看護の収支計画書を作成する際の注意点
(1)売上金が入金されるまでのタイムロスがある
訪問看護事業の特徴として、介護報酬・診療報酬は約2か月遅れで入金されます。開業当初は、設備投資や家賃などの固定費だけでなく、人件費などの支出が多い一方で、売上金が入金されるまでには時間がかかることも注意が必要です。
また、レセプトの返戻などがあると、さらに入金までに時間がかかるケースも出てきます。このような事態を想定しながら、売上目標や資金繰り計画を慎重に立てることが重要です。
(2)キャッシュアウトに注意する
売上代金の回収や、仕入れや経費を支払うタイミングがズレることを考慮して、キャッシュフローにも気を配る必要があります。
キャッシュフローとは、文字通りお金の動きを指します。特定の期間内に、いくらのお金が入ってきて、いくらが出て行ったかを表すものです。
現金が不足すると、商品を仕入れたり、借金を返済したり、給与を支払ったりするのが難しくなります。月単位で、どれだけ現金が会社にあるかを把握することは非常に重要です。
(3)余裕がある状況で損益分岐点を超えられるように計画を立てる
訪問看護ステーションを開業する際には、毎月どのくらい利用者がきて,何か月目に単月で損益分岐点を超える見込みがあるかを予想し計算する必要があります。
「損益分岐点」とは、収入から支出を差し引いた損益がゼロになる利益状態を指します。しかし、計画を立てる際には「予定月に損益分岐点を超えれば資本が足りるだろう」と楽観的に考えないように注意が必要です。なぜなら、予測できない出来事が起きる可能性があるからです。
急な災害の発生やスタッフが病気で休むなど、さまざまな状況を考慮し、資本が余裕のある状況から損益分岐点を超える計画を立てることが大切です。
まとめ
今回は、訪問看護ステーションの開業前に知っておきたい「収支計画書」の書き方とポイントについてご紹介しました。
訪問看護ステーションを成功させるためには、慎重な予測をもとに収支計画書を作成し、具体的な数字として確認し、冷静に検討することが不可欠です。
収支計画書は金融機関から融資を受ける際に必要となりますが、また自身の資金の流れを明確に把握するのにも役立ちます。
収支計画を立てる際にはポイントを押さえ、厳格な視点からも利益を確保できる計画を策定し、事業を健全に継続できるように心がけましょう。
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