身体の状態変化に伴い在宅療養が難しくなり、介護施設の入居を検討する段階にいる訪問看護利用者に対して、安心安全な生活環境の提供と、ステーション経営の安定化を実現するため、訪問看護ステーションが自ら介護施設を作ることを検討するステーション経営者が増えています。
訪問看護ステーションが介護施設の新規参入を検討する際、介護施設にはどのような種類があるのか、どれを選択することが最適であるかなど、情報収集をすることになると思います。
本日は、介護施設の種類と特徴を見た上で、訪問看護ステーションが介護施設の新規参入を検討する際に重要な視点となる
8つのポイントについてお伝えします。
介護施設の種類と特徴
訪問看護ステーションが介護施設の新規参入を検討するにあたり、まず介護施設の種類と特徴について見ていきます。
厚生労働省 老健局 高齢者支援課・振興課がまとめた「高齢者向け住まいの概要」では、介護施設の種類は、以下となっています。
①特別養護老人ホーム
②養護老人ホーム
③軽費老人ホーム
④有料老人ホーム
⑤サービス付き高齢者向け住宅
⑥認知症高齢者グループホーム
それぞれの介護施設の特徴は、下記になります。
参照元:厚生労働省「介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性―」
さらに、上記の④有料老人ホームは次のように分類されていますので、以下に補足を加えます。
(1)介護付き有料老人ホーム
「介護付き有料老人ホーム」は、都道府県による「特定施設入所者生活介護」の指定を受けた「特定施設」の介護施設で、人員配置、設備、運営には厳格な基準が設けられています。
食事や入浴、排泄など日常生活上の介護サービスだけでなく、必要に応じて看護やリハビリなども提供され、看取りが可能な施設もあります。
一般的に、居室をはじめとする設備面が充実していることが多く、入居者が支払う費用が高い傾向にありますが、特定施設の指定を受けることで、介護保険サービスは毎月定額となるため、支払う側としては月々の予算が立てやすいのが特徴です。
尚、介護付き有料老人ホームでは施設内介護が特定されているため、自宅で受けていた介護保険サービスを継続利用することはできません。
(2)住宅型有料老人ホーム(含むナーシングホーム)
「住宅型有料老人ホーム」は、自立した高齢者から要介護度が高い方まで広範な層を受け入れる施設です。
この中には「ナーシングホーム」も含まれ、主に重度の要介護者や難病患者を対象としています。
「住宅型有料老人ホーム」では、施設内がバリアフリーで、手すりやスロープの設置など、高齢者や難病患者が快適かつ安全に生活できる環境が整備されています。
これに加え、高齢者に限定せず難病を抱える若い人も対象とした施設もあります。
また、入居者の嚥下能力に合わせて介護食を提供するなど、個々のニーズに配慮したサービスが提供されています。
「住宅型有料老人ホーム」では、入居者の身体状況に応じた生活援助や外部の介護サービスを自由に組み合わせることが可能です。
そのため、在宅療養時に利用していた介護保険サービスを継続して利用することもできます。
医療提供体制も多岐にわたり、医療体制がない施設もあれば、近隣の医療機関と提携して医療ケアに対応する施設までさまざまな形態があります。
法律では看護職員の配置が義務付けられておらず、看護師がいない場合でも、訪問看護を通じて看護師の医療サポートが提供できます。
(3)健康型有料老人ホーム
「健康型有料老人ホーム」は、介護を必要としない自立度の高い高齢者のための施設です。
食事や掃除など生活支援サービスは提供されますが、あくまでも健康で介護の必要がない高齢者が対象で、介護が必要になった場合は別の施設へ移ることになります。
介護施設の8つのポイント比較
次に、介護施設の種類の中で、「特別養護老人ホーム 」「介護付き有料老人ホーム」「グループホーム※」「サービス付き高齢者向け住宅」「ナーシングホーム(住宅型有料老人ホームの類型)※」に焦点をあて、訪問看護ステーションが介護施設に新規参入を検討するにあたって、重要な視点である、
(1)参入障壁のレベル
(2)入居者ひとり当たりの保険収入
(3)建設コスト
(4)スタッフ待遇
(5)入居者の家賃設定
(6)再現性
(7)医療機関との連携
(8)重度者の受け入れレベル
これらの8つのポイントで比較します。
(※「グループホーム」:認知症高齢者のグループホーム
(※「ナーシングホーム」は、住宅型有料老人ホームの類型として行政への届出をすることが一般的です。)
(1)参入障壁のレベル
訪問看護ステーションが介護施設を新規で作るにあたり、参入障壁の高さは重要となります。
各種介護施設の参入障壁は以下のようになります。
「特別養護老人ホーム」を開設できるのは、地方公共団体 ・社会福祉法人 ・知事許可を受けた法人に限定されているため、営利法人の訪問看護ステーションが参入することは難しい施設となります。
「介護付き有料老人ホーム」は、特定施設の指定を受ける必要があります。
また自治体によっては介護保険費の抑制などの理由で、総量規制により年次ごとの新規開設数が制限されて、新規参入には競争の激しい業態とされています。
特定施設のため、人員配置、設備、運営の要件が厳格化されており参入のハードルが比較的高いとされています。
「グループホーム」は、平成18年4月より総量規制に規定化され、市区町村の公募により指定されるため、近年では公募数が減少し新規での参入が難しくなりました。
一方で「サービス付き高齢者向け住宅」と「住宅型有料老人ホーム」量的規制はなく、営利法人の運営も可能であることから、設置基準を満たした上で、行政に設置を届け出ることで開設できるため、参入障壁のレベルは低い種類の施設とされています。
住宅型有料老人ホームの類型で行政へ届け出る「ナーシングホーム」もこれに含まれます。
(2)入居者ひとり当たりの保険収入
「特別養護老人ホーム」は、要介護度が高く、医療ニーズにも対応するため、介護保険の限度額に加え医療保険の収入もあり、入居者ひとり当たりの保険収入は高水準となる施設です。
「介護付き有料老人ホーム」は、以下のグラフにあるように、特定施設入居者生活介護(内付けサービス)の利用額が設定されて、介護度が高くなるにつれて、区分支給限度基準額の約7~8割と介護報酬の収入が低くなる傾向があります。
介護サービス種別毎の利用額の比較
参照元:厚生労働省「介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性―」
また「サービス付き高齢者向け住宅」は、主に生活支援が中心となるため、入居者ひとり当たりの保険収入は低くなります。
一方で、住宅型有料老人ホームの類型の「ナーシングホーム」では重度や難病の医療ニーズに対応するため、入居者ひとり当たりの保険収入は必然的に高くなります。
(3)建設コスト
施設基準が厳格に設けられている、「特別養護老人ホーム 」「介護付き有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」では、一般的に建設コストは高い傾向にあります。
以下グラフの、各種施設物件における最多居室の面積を集計によると、「介護付有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」に ついては平均床面積が22~24㎡程度、住宅型有料老人ホームについては16㎡となっています。
「住宅型有料老人ホーム」では、13㎡未満の物件も30%存在していることから、入居対象者に合わせ柔軟に建設のプランニングができる住宅型有料老人ホームの類型で開設する「ナーシングホーム」では、適切な設備を備えつつも、居室など比較的コンパクトに設計することで、入居者のニーズに合われながらも建設コストを効果的に削減できる施設となります。
居室・住戸の規模【最多居室の面積】
参照元:厚生労働省「介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性―」
(4)スタッフ待遇
スタッフ待遇において、「特別養護老人ホーム」「介護付き有料老人ホーム」「グループホーム」では、公的な基準に基づいてスタッフの資格や人数が定められ、その範囲内での給与や労働条件が調整されることになることから、待遇の向上には限界があります。
一方で、「ナーシングホーム(住宅型有料老人ホームの一類型)」は以下の点から、スタッフの高待遇の実現が可能な施設とされています。
入居状況に合わせたスタッフ配置
「ナーシングホーム」は入居状況やニーズに合わせ、必要なスタッフを配置することができるため、スタッフへの給与を高水準に設定できます。
収入の高さ
「ナーシングホーム」は重度の介護や難病患者にも対応するため、その提供するサービスに対して高い収入が得られます。この高い収入がスタッフへの給与や待遇向上につながります。
加算対象となるケースがある
重度の介護や難病患者に対応することで、加算による収入が発生します。この収入をスタッフへ還元し、高待遇を提供できる余地が生まれます。
経営の柔軟性
「ナーシングホーム」は住宅型有料老人ホームの一類型であり、入居者に合わせた柔軟な経営ができます。この柔軟性はスタッフの働きやすさや労働条件にも影響を与え、高待遇を実現する要因となります。
「ナーシングホーム」では、柔軟な経営スタイルや高い収入を活かすことで、工夫次第でスタッフへの高待遇を実現することができるとされています。
(5)入居者の家賃設定
入居者の家賃設定において、以下のように各種介護施設の特性が異なります。
「特別養護老人ホーム」は公的な施設であるため、入居者の家賃設定は低く抑えられています。
「介護付き有料老人ホーム」は、介護が付いた有料の老人ホームであり、そのサービスの提供に対して入居者が一定の費用を支払います。
家賃は一般的に一定水準以上となりますが、サービスの充実度によって変動します。
また「グループホーム」は認知症の高齢者が少人数で共同生活を送る施設であり、中程度の家賃設定が一般的です。
「サービス付き高齢者向け住宅」の家賃設定は、建設会社による運営や特定の条件下では安い家賃が実現されることがありますが、訪問看護ステーションが、地主に建ててもらって運営する建て貸しの場合は家賃を低く抑えるのが難しいとされています。
訪問看護ステーションが同じ組織内で「ナーシングホーム」を運営することで、人材や資源の共有が行われ、コストを削減できるため経済的な効率性を確保することが可能となり、入居者の家賃を低く抑えることができます。
(6)再現性
介護施設では入居者が定員数に達した際に新たな施設を建設して棟数を増やし、入居者数を拡大することが一般的です。棟数を増やすためにはその施設の再現性は重要となります。
「特別養護老人ホーム」「介護付き有料老人ホーム」「グループホーム」は総量規制や公募制度があるため、定員が満ちた段階での施設増設が容易でない場合があります。
同様に、「サービス付き高齢者向け住宅」も施設の建設コストが高額で、資金調達に時間を要することがあるため、適切なタイミングで施設を拡大することが難しい状況が生じることがあります。
一方で、「ナーシングホーム」は住宅型有料老人ホームの一類型であり、入居者の需要が増加する場合や、新しい地域に進出する際に、総量規制がないことで迅速に施設の設置計画を進めることが可能です。
また、公募制度ではないため、競争が少なく、事業展開が迅速に行えます。
このように再現性が高い「ナーシングホーム」は、満床が近づいた段階で新しい施設の建設計画を柔軟に進めることができます。
(7)医療機関との連携
訪問看護ステーションが介護施設に参入する際に、これまで築き上げた医療連携の強みを活かせる優位性があります。
「特別養護老人ホーム」「介護付き有料老人ホーム」「グループホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」と比較して、「ナーシングホーム」は介護度が重度な人や難病患者への医療ケアが多くなるため、医療連携が特に重要です。
こうした視点からも訪問看護ステーションが介護施設に新規参入するにあたり、最も強みを活かせる施設は「ナーシングホーム」であるといえます。
(8)重度者の受け入れ
早期退院の増加に伴い、重度者への医療ケアができる施設が求められています。
「特別養護老人ホーム」「介護付き有料老人ホーム」では、看護師の24時間体制がないケースが多く、夜間の医療ケアが必要な人の受け入れを制限しています。
また、「グループホーム」は認知症ケアに特化している施設で、医療ケアが必要な人は対象としていないケースがほとんどです。
「サービス付き高齢者向け住宅」は比較的、介護度が軽度な人の入居施設となっています。
入居者の要介護度を表した下のグラフにありように、「住宅型有料老人ホーム」の入居者は、要介護3以上の要介護者が入居者全体の半数近くを占めており、 「介護付き有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」と比較的して、重度な要介護者の割合が高いことがわかります。
入居者の要介護度
参照元:厚生労働省「介護を受けながら暮らす高齢者向け住まいについて―住まいとサービスの関係性―」
看護師主体の訪問看護ステーションでは、介護度が高いケースや難病患者の受け入れ体制を作ることが可能であることから、介護施設の参入においては、住宅型有料老人ホームの類型の「ナーシングホーム」が最適であると言えます。
以上のように、訪問看護ステーションが介護施設に新規参入を検討するにあたって、重要な視点である、(1)参入障壁のレベル(2)入居者ひとり当たりの保険収入(3)建設コスト(4)スタッフ待遇 (5)入居者の家賃設定(6)再現性(7)医療機関との連携(8)重度者の受け入れレベルの8つのポイントで比較すると、いろいろな施設の種類の中で、住宅型有料老人ホームの類型の「ナーシングホーム」が高い優位性を持ち、最適であることがわかります。
以下は、8つの比較ポイントをチャートに表したグラフです。
訪問看護ステーションの介護施設参入で高い優位性を持つナーシングホームの展開
上述のポイント比較から、訪問看護ステーションがその事業の特性を活かしつつ、最も高い優位性を持つ介護施設となるのが、住宅型有料老人ホームの類型のひとつである「ナーシングホーム」であることがわります。
以下に訪問看護ステーションによる「ナーシングホーム」の持つ優位性をまとめました。
(1)低い参入障壁による円滑な事業展開が可能
「ナーシングホーム」は他の施設に比べ、参入障壁が低い特徴がありあります。
参入障壁が低いことで、地域に既に浸透している訪問看護ステーションのネットワークを活かすと同時に、自宅で訪問看護を提供してた利用者に、入居後も継続的に看護ケアを提供するために、複数の施設を比較的迅速にでき事業展開を円滑に進められます。
(2)入居者ひとり当たりの保険収入が他の施設よりも高い
訪問看護ステーションの「ナーシングホーム」では、医療ケアや頻回な介護ケアを提供できるため、入居者ひとり当たりの保険収入が他の施設よりも高くなります。
このことから、「ナーシングホーム」では収益の向上と事業拡大が期待できます。
(3)低コスト建設の利点を活かした展開ができる
「ナーシングホーム」は他の施設に比べ、建設コストが低いため、運営の安定性が期待でき、サービスの提供や家賃設定においても競争力を強化できることから、地域ニーズに応え事業拡大につなげることができます。
(4)スタッフに高待遇を提供できる
訪問看護ステーションの「ナーシングホーム」がスタッフへの高待遇を提供することで、質の高い介護士や看護師の確保が可能で、これが入居者、その家族、連携先に評判を上げることにつながり事業成長が期待できます。
(5)入居者に対して安価な家賃設定が可能
訪問看護ステーションの「ナーシングホーム」は多くの医療ケアを提供する一方で、入居者に対して相対的に安価な家賃設定が可能です。
これは、地域の多くのニーズを満たすため、入居率が向上し、複数の施設展開による事業拡大につながります。
(6)再現性が高く複数の施設展開が可能
「ナーシングホーム」は再現性が高い施設のため、複数の施設を展開しやすくなります。
(7)重度の方対応なため、医療機関との連携が強い
訪問看護ステーションが既に医療機関との強固な連携を築いていることで、「ナーシングホーム」においても継続的で円滑な医療連携が実現できます。
このことで、医療的なサポートが必要な入居者に対して、迅速で適切な医療サービスを提供できます。
(8)重度者の受け入れレベルが高い
訪問看護ステーションの「ナーシングホーム」では、医療ニーズの高い人々を重点的にケアできるため、重度のケアが必要な入居者を積極的に受け入れることが可能です。
まとめ
訪問看護ステーション経営者が介護施設に新規参入を検討する際には、複数の施設を展開できるか、スタッフの確保が容易か、訪問看護の特性を活かせるかなど、複数の要素を比較し、最適な種類の施設を選択することが重要です。
具体的な比較ポイントとして、参入障壁の低さ、入居者ひとり当たりの保険収入の高さ、建設コストの低さ、スタッフに対する高待遇、入居者の低額な家賃設定、再現性の確保、医療機関との連携のしやすさ、そして重度者の受け入れが可能かどうかが挙げられます。
本日のコラムでは、これらの比較から、訪問看護ステーションが介護施設に新たに進出する際には、「ナーシングホーム」が最も優れた選択肢となり得ることを解説しました。