近年、長期的な療養が必要な難病患者の数が増加しています。難病患者の医療的ケアは、酸素療法や人工呼吸器のサポート、リハビリテーション、など、患者の特定の疾患や状態に合わせて多岐にわたります。
状態によっては、24時間365日の見守りと医療的ケアが必要なケースもあり、これにはケアスタッフの高度なスキルと専門知識が求められます。
難病患者とその家族は、安全な療養生活を送るために、専門的なケアスタッフと必要な設備が整った施設への入居望を望むケースが多くあります。
しかし、社会保障費の増加による病床機能の見直しなどにより、難病患者を受け入れる施設が不足しており、住み慣れた地域を離れ、遠方の施設に入居するケースもあるなど、不足の解消は社会課題となっています。
こうした課題の一つの解決策として、訪問看護ステーションがその特性を活かし、地域において、難病患者にも対応できるナーシングホームを設立することが期待されています。
本日は、難病に関する情報や、受け入れ可能な施設を示した上で、訪問看護ステーションのナーシングホームが難病患者にとって有益な施設であることを説明します。
難病を抱える患者とは
最初に難病を抱える患者とは、どのような状況であるのかを疾病、状態、特徴などからみていきたいと思います。
難病の定義
「難病」とは、2015年1月施行の「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」により次の1~3のとおり定義されています。
1.発病の機構が明らかでない
2.治療方法が確立していない希少な疾病である
3.当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの
また、国が「難病」の具体的な疾病を継続的かつ専門的に選定し、そのうち以下の要件を満たす疾患を「指定難病」と位置づけ、医療費の助成が行われています。
1.患者数が我が国で一定数に達しない
2.客観的な診断基準、またはそれに準ずる基準が確立している
難病の特徴
難病は、一般的には以下のような特徴が挙げられます.
1.低い発症率
難病は、一般の疾患に比べて発症率が非常に低い疾患を指します。
2.多様な種類
難病は、さまざまな種類の疾患が含まれます。これらの疾患は遺伝子異常、免疫系の障害、代謝異常、感染症などさまざまな原因によって引き起こされることがあります。
3.診断と治療の難しさ
難病はしばしば診断や治療が難しい特徴を持ちます。
4.重篤な症状
難病にかかる患者は、症状が重篤で、生活の質に大きな影響を及ぼすことが多いです。これには慢性疼痛、運動制限、器官機能の障害、知的障害などがあります。
5.国の取り組み
難病患者やその家族が適切な医療および支援を受けられるようにするため、難病に関する法律や規制が整備されてきています。
我が国の難病患者数
2016年度末現在の指定難病患者総数は、986,071人(平成28年度衛生行政報告)に上り、2012年から4年間で約175,000人増加しています。
また、患者数が多い指定難病上位50疾患は次の通りです。
患者数が多い指定難病上位50疾患
順位 | 患者数 | 疾病名 |
---|---|---|
1 | 167,872 | 潰瘍性大腸炎 |
2 | 127,347 | パーキンソン病 |
3 | 63,792 | 全身性エリテマトーデス |
4 | 42,789 | クローン病 |
5 | 38.039 | 後縦靱帯骨化症 |
6 | 31,057 | 全身性強皮症 |
7 | 27,968 | 特発性拡張型心筋症 |
8 | 26,968 | 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く) |
9 | 26,245 | 網膜色素変性症 |
10 | 25,074 | 特発性血小板減少性紫斑病 |
11 | 24,279 | サルコイドーシス |
12 | 22,998 | 重症筋無力症 |
13 | 22,474 | 原発性胆汁性肝硬変 |
14 | 21,832 | 皮膚筋炎/多発性筋炎 |
15 | 20,485 | 多発性硬化症/視神経脊髄炎 |
16 | 19,205 | ベーチェット病 |
17 | 17.602 | もやもや病 |
18 | 17.596 | 特発性大腿骨頭壊死症 |
19 | 13,747 | 下垂体前葉機能低下症 |
20 | 11.639 | 多系統萎縮症 |
21 | 11,201 | シェーグレン症候群 |
22 | 10.935 | 混合性結合組織病 |
23 | 10.588 | 特発性間質性肺炎 |
24 | 10,523 | 再生不良性貧血 |
25 | 9,557 | 筋萎縮性側索硬化症 |
26 | 9,551 | 進行性核上性麻痺 |
27 | 9,120 | 顕微鏡的多発血管炎 |
28 | 7,007 | 多発性囊胞腎 |
29 | 6,568 | lgA 腎症 |
30 | 6,128 | 高安動脈炎 |
31 | 6,067 | 悪性関節リウマチ |
32 | 6,061 | パージャー病 |
33 | 5,944 | 広範脊柱管狭窄症 |
34 | 5,802 | 一次性ネフローゼ症候群 |
35 | 5,693 | 天然痘 |
36 | 5,290 | 黄色靭带骨化症 |
37 | 4,926 | 慢性炎症性脱髄性多発神经炎/多巣性運動ニューロパチー |
38 | 4,667 | 肥大型心筋症 |
39 | 4,337 | 下垂体性成長ホルモン分泌亢進症 |
40 | 4,199 | 神経線維腫症 |
41 | 4,143 | 大脳皮質基底核变性症 |
42 | 4,047 | 自己免疫性肝炎 |
43 | 3,422 | 好酸球性副鼻腔炎 |
44 | 3,369 | 肺動脈性肺高血圧症 |
45 | 3.305 | 結節性多発動脈炎 |
46 | 3,200 | 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 |
47 | 2,789 | 下垂体性 ADH 分泌異常症 |
48 | 2,784 | 筋ジストロフィー |
49 | 2,708 | 多発血管炎性肉芽腫症 |
50 | 2,579 | 下垂体性 PRL 分泌亢進症 |
難病患者の受け入れ可能な施設の条件とは
難病患者を受け入れることができる主な施設として
(1) 「介護付き有料老人ホーム」・「住宅型有料老人ホーム」
(2) 「介護療養型医療施設」
(3)「介護医療院」
があります。それぞれの内容をみていきましょう。
(1) 介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム
「介護付き有料老人ホーム」と「住宅型有料老人ホーム」はどちらも運営母体は主に民間企業です。
「介護付き有料老人ホーム」は、日中常勤の看護師と、24時間の介護スタッフが人員の配置基準として設けられており、介護サービス提供体制が整っているため、重度の要介護状態になった場合でも住み続けることができる施設です。
医療的ケアが必要な場合でも、看護師がいる日中は、胃ろうなどの経管栄養、膀胱留置カテーテル・ストーマ(人工肛門)の管理、在宅酸素の管理などの医療行為も行われるところも多くあります。
夜間は、緊急時に看護師がオンコール対応したり、医療機関に搬送するなどの対応がなされますが、日常的に夜間の痰吸引など医療行為が必要な場合は、対応が困難場合がほとんどです。
「住宅型有料老人ホーム」は、人員や設備の基準が細かく設定されておらず、医療行為が必要な場合は、訪問看護によるサービスを利用する場合があります。
基準の定めが少なく、幅広い形態での運営が可能なため、施設によっては看護師や介護スタッフを配置して医療的ケアの対応を特徴として、重度や難病の受け入れを積極的に行うところもあります。
利用料金は、初期費用が0~数百万円、月額費用は15~30万円となっています。看護師が24時間365日常勤で、夜間の医療処置が可能な「住宅型有料老人ホーム」では、利用料金が高額となります。
上記施設はどちらとも難病の症状が軽度である場合や、施設側の整備が充実している場合には難病患者を受け入れることが可能です。
ただし、高額な利用料金や、症状が進行し重度化した場合に対応してもらえないなどのデメリットがあります。
(2) 介護療養型医療施設
「介護療養型医療施設」は公的な施設で、主な運営母体は医療法人です。
以下のような人員配置基準があり、医師や看護師が常勤しているため、痰吸引、胃ろう、酸素吸入、経鼻栄養などの日常的な医療的ケアが必要な難病患者も安心して入居できる体制が整っています。また、リハビリや食事指導なども手厚く提供しているという特長があります。
「介護療養型医療施設」の人員配置基準】
医師 入居者48人につき1人
薬剤師 入居者150人につき1人
看護師 入居者6人につき1人
介護士 入居者6人につき1人
栄養士 入居定員100人以上で1人
介護支援専門員 100床以上の場合 1人
療法士 適当数
利用料金は、初期費用はかからず、月額費用は9~17万円程度です。居室は、ほとんどの施設が4人の多床室です。
医療体制が整備されて、難病患者の安心できる施設でしたが「介護療養型医療施設」は、2024年3月末に廃止することが決定しています。
(3)介護医療院
上述の「介護療養型医療施設」の廃止は2017年に決定されてから、経過措置期間の2024年3月末までは利用可能となっていますが、2024年3月以降は完全廃止となる予定のため、この期間内に他の施設へ転居する必要があります。
そこで「介護療養型医療施設」の転換施設として、2018年4月に新たに創設されたのが「介護医療院」です。「介護療養型医療施設」同様、「介護医療院」も難病患者の受け入れが可能な施設です。
ここからは、「介護医療院」について説明します。
「介護医療院」の大きな特徴は、医療や介護だけでなく「生活の場」を提供することで、長期療養が必要になっても、住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを送れることも目的としています。
このように、「介護医療院」は「介護療養型医療施設」の転換施設でありながら、医療も提供しながら住まいと生活をサポートするというプラスの役割を担っています。
そのため、「介護療養型医療施設」とは異なり、レクリエーションやイベントなども提供され、快適な生活を送るための場所と、入居者と社会とのつながりを育む機能も提供されています。
人員配置基準が以下のように厳格で、医師、看護職員や介護職員が常駐しているため、難病患者が、医療と介護を受けながら安全に生活し、最後を迎える場所としても提供されています。
「介護医療院」の人員配置基準(類型1の場合)
医師 入居者48人につき1人
薬剤師 入居者150人につき1人
看護師 入居者6人につき1人
介護士 入居者5人につき1人
栄養士 入居定員100人以上で1人
介護支援専門員 入居者150人につき1人
療法士、放射線技師、その他従業員 適当数
利用料金は、初期費用はかからず、多床室は月額9~17万円程度、ユニット型個室25万円程度となっています。現在はほとんどの居室が多床室となっています。
比較的安価で、医療体制が整備されていることに加え、レクリエーションやイベントが提供されるなど、難病患者にとって「介護医療院」は安心して入居できる施設として期待されています。
期待される「介護医療院」の現状とは
「介護療養型医療施設」の廃止までの移行期間は2024年3月までと短く、残り時間はわずかとなりました。
この施設の廃止が予定通りに実現できるかどうか、また、代替施設として期待されている「介護医療院」の設置が順調に進んでいるかどうか、その状況をみてみましょう。
「介護療養型医療施設」の数は、2016年に比べて減少しておりますが、2021年12月時点で421施設が残っています。
一方、下記グラフのように、「介護医療院」は、制度開始から増加傾向にありますが、2021年3月末時点で572施設しか設置されておらず、都道府県当たりの平均施設数は 12.2施設と低い水準にとどまっています。
全国の介護医療院の開設数
出典元:独立行政法人 福祉医療機構「介護医療院の開設状況および運営実態について」1(図表 1)全国の介護医療院の開設数
また、開設数には都道府県によるばらつきがあり、一部の県では1施設しか開設されていない地域も存在しています。
2022年1月から3月までの「介護医療院」の増加数はわずか15施設であり、「介護療養型医療施設」から「介護医療院」への移行速度が遅いと指摘されています。
2024年3月末までに「介護療養型医療施設」をゼロにして、入居者を適切な施設に移行させる必要がありますが、移行のスピードが遅いことが問題視されています。
このように難病患者も入居でき、終身施設として地域に増設されることが期待されている「介護医療院」ですが、現実的には整備には長期間を要する状況なのです。
難病患者の施設不足を解消する訪問看護のナーシングホーム
民間企業が運営する「介護付き有料老人ホーム」と「住宅型有料老人ホーム」はどちらとも難病の症状が軽度である場合や、施設側の整備が充実している場合には難病患者を受け入れることが可能ですが、高額な利用料金の支払いや、症状が重度化した場合に対応してもらえないなど課題があります。
また、公的な施設で医療体制が整っていて難病患者の終身入居が可能な「介護医療院」は、整備の遅れが課題となっています。
こうしたことから、増える難病患者に対して受け入れ可能な施設が不足としているのが現状です。
このような難病患者の施設不足の課題を解決する一助となるのが、訪問看護ステーションが開設するナーシングホームといえます。
以下に、訪問看護ステーションのナーシングホームが難病患者の施設となる有益性について説明します。
(1)看護師の24時間365日常勤体制
難病のALSの患者への喀痰吸引頻度は、1日平均約21回となっています。また、難病患者の中には、人工呼吸器をつけている人もいます。こうしたケースでは夜間の医療的ケア体制は不可欠となります。
訪問看護ステーションのナーシングホームでは、24時間365日看護師の常勤体制をとり、どのような状態であっても、難病患者へのサポートを提供できます。
(2)進行する病状に合わせたケア
訪問看護ステーションでは、難病患者の訪問看護を行っています。難病患者向けのケアは、進行具合や日々の症状の変化に合わせた対応が必要です。訪問看護ステーションでは、個別のニーズに対応し、その人が自分らしい生活を送ることを支援しています。
進行した病状に合わせて日々の変化を観察し、症状を正確に捉えることを重視し、病状や環境に応じたケアを実施しています。
こうしたことから、訪問看護ステーションが運営するナーシングホームでは、難病患者に対し、進行する病状に合わせ、安全で高度なケアを提供できます。
(3)多職種チームの連携
難病患者のケアは多岐にわたるため、さまざまな専門職からなる多職種のチームが協力して行います。訪問看護では、往診医、専門医、医療相談員、保健師、薬剤師、生活相談員、ケアマネジャー、訪問介護士、福祉用具事業者、訪問歯科医、言語聴覚士、作業療法士など、時には10人を超える専門職が関与する場合でも連携と情報共有を行います。
これら多職種連携の経験とスキルは、難病患者が入居する施設に不可欠であり、訪問看護ステーションのナーシングホームが有益である理由の一つとなります。
(4)服薬管理と栄養管理
難病患者は、病状の進行を遅らせるための薬を服用していることが一般的です。さらに、難病以外の疾患でも複数の薬を処方されている場合もあります。
訪問看護の服薬管理は、健康状態を支える重要な要素となります。また、難病患者は嚥下機能や摂食機能の低下により、必要な栄養の摂取が難しい場合があります。訪問看護は、患者の機能に合わせた食事形態や食事摂取方法の提案を行います。
難病患者の服薬管理と栄養管理は、入居施設でも適切に行う必要があるため、これらの経験とスキルを持つ訪問看護のナーシングホームは難病患者にとって適した施設といえます。
(5)意思決定のサポート
難病は進行性の障害を伴い、先の経過を見通しながら将来の治療について考える必要があります。
医師が説明し、訪問看護師はこれを補完しながら、患者とその家族に寄り添い、医療処置に関する意思決定をサポートします。
たとえば、嚥下障害が深刻化した場合の胃ろうの導入や、肺炎の再発を防ぐための気管切開など、一つ一つの決定が必要です。
難病は効果的な治療法が未だ確立されておらず、在宅での生活を続けながら進行する病状に向き合う本人は、苦痛と共に重要な人生の決断を繰り返す必要があります。
訪問看護師は、病気から予想される症状や対策を考慮しながら、意思決定のサポートを行います。
このような経験から、訪問看護ステーションの看護師がかかわるナーシングホームは、難病患者にとって心の支えとなる施設となります。
まとめ
長期的な療養が必要な難病患者の数が増える一方で、社会保障費の増加による病床機能の見直しなどにより、難病患者を受け入れる施設が不足しています。
難病患者に対応する施設では、24時間365日の見守りと医療的ケア、スタッフの高度なスキルと専門知識、進行に合わせたケアや多職種連携、また意思決定サポートが欠かせません。
これらに精通した訪問看護ステーションが、地域において難病患者にも対応できるナーシングホームを設立することが、不足を解消し、高品質なケアを提供する施設として今後ますます期待されています。
訪問看護によるナーシングホームの相談をお受けしています
いろいろナースでは、訪問看護によるナーシングホームの相談をお受けしています。
訪問看護ステーションが運営するナーシングホームに興味のある方は、いろいろナースまでお気軽にご相談ください。