2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、利用控えやスタッフの感染による訪問件数の減少など、訪問看護ステーションの売上や資金繰りに深刻な影響を与えました。
この危機的な状況を乗り切るために「コロナ融資」を受け、経営を立て直した方も多くいらっしゃいました。
しかし、コロナ融資の返済が本格化した昨今において、返済や今後どのように資金調達を進めていけばいいのか頭を悩ませる経営者も少なくありません。
本日は、コロナ融資の現状やその対応策、そしてアフターコロナ時代に、銀行と良好な関係を築いていくためのポイントについて、専門家のアドバイスを交えて紹介していきたいと思います。
コロナ融資( ゼロゼロ融資)とは
まず、コロナ融資について振り返ってみましょう。
コロナ融資は、新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少した個人事業者や中小企業向けに、実質無利子・無担保で融資を行う支援制度です。
コロナ禍が始まった2020年から開始され、政府系金融機関では2022年9月まで、民間金融機関では2021年3月まで新規貸付が実施されました。
中小企業は最大3億円が実質無利子で借りられ、返済が滞った場合でも信用保証協会が一部または全額を肩代わりし、利子の免除期間は3年間で、4年目以降は利子が発生します。
このように、コロナ融資は、新型コロナウイルス感染拡大により多くの事業者が売上減少に直面し、経営が困難になることを受け、経済の回復を支援するために政府が導入した制度でした。
コロナ融資を利用するメリットとデメリット
コロナ融資を利用するメリットは、実質無利子・無担保で融資を受けられる点です。これにより、融資を受けた企業は元本に加えて利息も返済する必要がないため、負担が大幅に軽減されます。また、借入額よりも大きな金額を返済する必要がないため、資金繰りの改善が容易になります。
さらに、複数回借り入れが可能なため、新型コロナウイルスの影響が長期化しても資金繰りを安定させることができました。
一方で、コロナ融資の利用にはデメリットも存在します。代表的なのは、無利息期間が制限されていることです。利息免除期間は3年間と設定されており、その後は通常の利息が発生します。このため、現在では既に返済期間に入り、利息の支払いが始まっている企業も多くあります。
コロナ融資を利用した事業者の中には、かろうじて倒産を免れた企業も多いため、返済が始まると困難に直面するケースも生じます。売上が回復せず、返済が厳しい状況にある企業が増えれば、倒産件数の増加も懸念されると言われています。
2024年、コロナ融資の返済がピークを迎えます
コロナ融資を活用した多くの企業は、返済の据置期間を設定していました。
これらの据置期間が終了し、元本返済が開始される企業数が今後急増する見込みです。
コロナ関連融資(政府系金融機関のコロナ融資と民間金融機関のゼロゼロ融資を合わせたもの)の総額は2022年9月時点で42.2兆円に達しました。
政府系金融機関が実施したコロナ融資に関しては、約8割の企業が返済を開始していますが、民間金融機関が提供したいわゆるゼロゼロ融資については、元本の返済が2024年4月に開始する予定です。
コロナ関連融資の返済開始時期の実績と見通し(2022年3月末時点)
物価高騰や人件費の上昇などで、中小企業は資金繰りが厳しくなっています。
そのため、今後のコロナ融資の返済開始は、資金繰りへの負担がますます増すことになります。
アフターコロナ時代の円滑な資金調達方法とは
コロナ融資の返済が本格化したアフターコロナ時代において、今後円滑に資金調達を行うための最適な方法を模索している経営者も多くいらっしゃると思います。
本日は、訪問看護ステーションをはじめ、介護関連企業の資金調達サポートや、財務状況の改善、マーケティング戦略構築など経営支援を13年にわたり手がけた実績を持つ、株式会社Total Agent代表取締役の金原隆之様に、コロナ融資の事情や返済対策、アフターコロナ時代の銀行との付き合い方について伺いました。
——それでは、金原様よろしくお願いします。
まずはじめに、そもそもコロナ融資とはどんな融資だったのでしょうか。金原様の視点でお聞かせください。
はい、コロナ融資というのは、コロナになってしまって、ダメージを受けてしまったからといって企業を潰す訳にはいかないので、延命してもらい、この辛い時代を乗り越えてもらいましょうといった、期限が限られた特別な制度でした。
日本政策金融公庫であったり、銀行、信用金庫の保証協会が付いた融資ということで、コロナ禍において、売り上げが下がってしまったり、経費ばかり掛かってしまうとか、そもそも融資が出ないような段階にきている企業であっても、受けられた制度でした。
通常の融資は、強者の理論
通常の融資制度というのは、これだけの業績があって、将来こういう事業を計画していて、それを実現するにはお金が掛かるから事業融資をしてください。そして、そのお金を使って利益を出して経済を回します、ということで融資を受けるというもので、未来に向けた数値が設定されています。
ですので、将来展望を持った、強者の理論と言えるのが通常の事業融資なんです。
コロナ融資は弱者の理論だった
ところが、コロナ融資は逆で、今これだけ苦しいです、コロナの影響でこんなにダメージを受けてしまいました。そこで、この極地を乗り切るためになんとかして下さい、というある意味、弱者の理論の上で行われた融資制度なんです。
通常の事業融資とコロナ融資では、強者の理論で行われるのか、弱者の理論で行われるのかいった大きな違いがあるのです。
コロナ融資の返済が本格化~その対応策とは
——なるほど!コロナ融資は弱者の理論であって、これまでの通常の融資とは異なるものであったのですね。
それでは、コロナ融資が終了した今後はどうなるのか、また元本返済が始まったり、利息がかかってきて返済が厳しくなった際の対策はあるのでしょうか。
はい。語弊があるかも知れないですが、コロナ融資というのは誰でも借りられたんです。通常借りられないような企業でも借りられたわけです。
ただ、こんなに貸し付けばかりしていたら財政がもたない、もういい加減やめましょう、さらにコロナは5類になるわけですし、もう緊急事態ではなくなる、との判断から、コロナ融資は終わりになりました。
そして、今対策として残ってるのはコロナ融資を受けた人の借り換えです。
これは、今までコロナ融資受けた人が、その借り換えをする、という保証制度で、金融機関がその企業に伴走しながら、モニタリングをしつつ、その回復状況を確認しながら利用出来るといった伴走型支援融資になります。
コロナ融資の返済が厳しくても、この伴走型支援のコロナ借換保証を活用すれば業績回復までの資金繰りを安定させることが期待できます。
中小企業庁 コロナ借換保証 制度概要
保証限度額 | 1億円 |
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保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
金利 | 金融機関所定 |
保証料(事業者負担) | 0.2%等(補助前は0.85%等) |
要件 | 売上または利益率が5%以上減少 など |
その他 |
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取扱期間 | 2024年3月31日まで(予定) ※信用保証協会に保証申込がなされたもの |
参照元:中小企業庁HP「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換保証)について」令和4年12月23日 令和5年1月17日更新
コロナ融資が終わったら、昔に戻る
コロナ融資が終わって、借り換えしたい、でもその借り換えも期限があるんです。
このコロナ融資や借り換えが終わったらどうなるのかって言ったら端的に言うと、コロナ前の昔に戻るだけです。先ほど申し上げた「通常の融資、強者の理論」の時にです。
どういう事になるかと言ったら、資金調達ができず潰れるそうになる企業と、コロナ融資を返せた上で、さらに資金調達がうまくいって復活出来る企業との差がどんどん広まるという事です。
これは、訪問看護ステーション業界も同じです。
アフターコロナ時代、資金調達で大事なポイント
——コロナ融資が終わったアフターコロナ時代において、これからの訪問看護ステーション経営者が銀行などの融資を利用する時に大事なことは何でしょうか。
そのポイントを教えてもらえますか。
はい。もうコロナ禍ではないので誰でも借りれる訳じゃないんです。
そうなった時に大事なことは、まず前提として、古い考え方は通用しないということを理解することです。
例えば、昔からこの銀行さんと付き合いがあるとか、社長の役員報酬がいっぱいあるから最悪の時はこの役員報酬を会社に戻してやればいいんだ、なんていうのはもう通用しません。
また、以前言われていた、いかに節税し、節税した決算書を作る事が大事だよ、なんていう考えも、もう違うんです。
そういう昭和的な、平成初期的な話はもう通用しませんよって事なんです。
古い考えに惑わされない!通用する決算書を作るために
——なるほど、これまでの融資の考え方は通用しないということですね。。
はい。これからは、決算書、資金の流れ、資金繰り、返済原資、かつ将来に向けた経営計画といった、過去から現在までの経営状況を踏まえて、未来に至る経営を考えることが必要になってきますね。
要は決算書や計画書によって、金融機関に前向きになってもらわなければならない。そう考えると、決算書のやり方も、作り方も変わってくるんです。
決算書を作る上でまず意識したいのは、ちょっとハードル高いかも知れないんですけど、税理士に丸投げしてはダメという事です。
細かい税務申告までやってくださいとは言わないですが、会社経営者である以上、貸借対照表、損益計算書、もう一つは資金繰り表、この三つは確実に理解して管理出来るようにしましょうという事です。
補足ですが、財務3表とは、通常は貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を言いますが、実はキャッシュフロー計算書は、私は必要ないと思ってるんです。
なぜかというと、キャッシュフロー計算書の作成義務があるのは、上場企業だけなんです。さらに、作りましたということで、見せてもらうキャッシュフロー計算書は、ほぼ間違ってるんです。
——ほぼ間違っているんですね…
はい。ですので、訪問看護ステーション含め中小企業は、キャッシュフロー計算書じゃなくて、実際のお金の流れがこうなっているよっていうものを作るのが合ってるんです。
だから、これ造語ですけど「新財務3表」と言っています。
繰り返しになりますけれど、貸借対照表、損益計算書、あとは資金繰り表を税理士に丸投げせずに、経営者が理解して、金融機関が前向きになるやり方を押さえていただきたいと思います。
–税理士さんに丸投げせずに経営者自身が理解することが大切なんですね。
あと大事なのは、銀行、信用金庫、公庫といった金融機関さんとのお付き合いの方法をしっかり見直しましょうって事ですね。
今まではお金を借りたい時とか、返せない時しか連絡してない経営者がほとんどなんです。でも普通に考えたら銀行だって、信用金庫だって取引先なんです。
取引先の人に連絡しないってないじゃないですか。だから、金融機関も同じ取引先として対応する。
今、会社はこんな風になっています、などと言って、いい時も悪い時も連絡をして関係性を構築するって事が大事です。
現状報告や今後の計画だったり、貸借対照表、損益計算書、資金繰り表を持っていったり、今、会社がどんな状況であるかを、四半期や半年に1回でも銀行に、連絡して、しっかりと話すことで関係性を構築する。
そして、アフターコロナ時代に、借り入れが必要な時に大事なことは、さきほど話した新財務3表に加え、コロナの影響を受けた後、今は回復に向かっていることや、今後のさらなる回復に向けた取り組みや見通しを計画書にまとめて提出することですかね。
それと、借りた資金の使い道を明確にすること。
それから、返済の可能性を示すため、返済期間や計画を出して、確実な返済をアピールすることも必要が重要です。
強者の理論である通常の融資になるアフターコロナ時代では、これらのことを具体的にやらなきゃ、資金調達は難しくなる事になると思います。
経営者の努力を超えることは、アウトソーシング
——訪問看護経営者にとって、新しい制度や、有効な銀行対策を理解することは難しいと思いますが。
そうですね。訪問看護経営者が今まで、貸借対照表と損益計算書を再確認したり、資金繰り表を作成するとかをやっていなかったとしたら、それは努力すれば出来る事です。
でも新しい制度や、対策などを調べて理解することはひとりでは限界が来ますね。ひとりで全部抱えると経営者は潰れてしまいます。そこは専門家に聞いた方がいいです。
アフターコロナ時代には、努力を超える部分がやってくるので、そういう時に人に相談するとか専門家に聞く事を毛嫌いしないで、ある意味アウトソーシングするイメージを持つ事が大事かなと思います。
——金原様、非常に的確でわかりやすいお話しを有難うざいました。
株式会社 Total Agent 代表金原さんの情報はこちらです。
会社名 | 株式会社 Total Agent |
代表 | 金原 隆之 |
ホームページ | https://www.total-agent.com/ |
金原さんのXアカウント | https://twitter.com/Kimbara_tky |
編集後記
今回ご紹介した金原様へのインタビューの後に以下の政府発表がありました。
「ゼロゼロ融資」返済ピーク 資金繰り支援策 6月末まで延長へ 2024年3月8日
コロナ禍で中小企業向けに実施されたいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が最後のピークを迎えることから、政府は借り換え保証などの資金繰り支援策をことし6月末まで延長した上で、経営改善などの支援を強化することになりました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240308/k10014383741000.html
このコラムが、訪問看護ステーションの円滑な資金調達と良好な資金繰りに役立ち、事業成長につながれば幸いです。
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