訪問看護の営業活動は、利用者を獲得し、自社サービスを広く知ってもらうための重要な取り組みです。
これまでは、「ステーションの認知を広げるPR活動」としての側面が強く、チラシ配布や定期訪問が営業の中心となっていました。
しかし、訪問看護ステーションの増加により、こうした従来型の方法だけでは利用者獲得が難しい時代へと変化しています。
そして、この傾向は、今後さらに加速していくことが予想されます。
今回は、訪問看護の営業をより効果的に行うために、経営者や管理者の皆さまが押さえておくべきポイントと、単なるご挨拶から具体的な利用者獲得へと繋げるための4つのステップを、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説していきます。
ごあいさつ営業で獲得できる利用者とは
自ステーションの存在を知ってもらうためのごあいさつ営業(PR・プロモーション営業)で獲得できる利用者は、実際には限られています。
(1)他のステーションで受け入れを断られた依頼
(2)たまたまタイミングよく巡ってきた依頼
※特にステーション開設当初の依頼の場合
もちろん、開業当初は、まず依頼元との接点を作ることが不可欠です。
しかし、同じエリア内で競合ステーションが急増するいま、このわずかなチャンスすら容易には得られなくなっています。
「ごあいさつ営業を続けていればそのうち依頼が来る」という時代は、すでに終わりを迎えているのです。
「あなたのステーションに頼みたい」と言われるために
では、ケアマネジャーや病院から「ぜひあなたのステーションにお願いしたい」と指名されるためには、何をすべきでしょうか。
地域から選ばれるステーションになるためには、スタッフ全員が営業の意義を理解し、主体的に動ける組織づくりが不可欠です。単なる現場対応力だけでなく、営業力を備えたチームでなければ、これからの競争時代を生き抜くことはできません。
しかも、スタッフの営業力向上は、単なる利用者獲得だけにとどまらず、ステーションが抱える深刻な人材課題の解決にも直結します。
自主的な営業活動ができないステーションでは、経営者・管理者は次のような悩みに苦しむことになります。
・人材が定着せず、重要な課題にも取り組めない
・スタッフとの信頼関係が築けず、組織運営がぎくしゃくする
・内部トラブルが絶えず、悪循環に陥る
・相談できる相手もおらず、孤立しながら一人で悩みを抱え込む
一方、スタッフ側も次第に不満を募らせていきます。
・組織の目標や方針が曖昧で、自分の役割が見えない
・仕事の意図が伝わらず、やらされ感ばかりが募る
・チームワークが機能せず、働きづらさを感じる
・自分勝手な行動がまかり通り、不信感が広がる
・組織のために頑張っても、負担だけが増え報われない
こうして、経営者とスタッフの間に大きな溝が生まれ、組織の土台そのものが揺らぎ始めます。
当然、このような環境下では、スタッフ一人ひとりが自ら営業活動に取り組むことなど到底望めません。
しかし、逆に言えば――。
この壁を乗り越え、営業を「自分ごと」として捉えるチームを育てることができれば、利用者獲得力は飛躍的に高まり、組織の一体感も生まれます。
そして、地域から自然に選ばれるステーションへと、大きく成長していくことができるのです。
利用者獲得型営業へ変化するための4つのステップ
ここからは、「ごあいさつ営業」から「利用者獲得型営業」へ転換するために必要な以下の4つのステップをご紹介します。
STEP1:スタッフのマインドセット~訪問看護における営業の本質を理解する~
STEP2:役割と目標を共有し、自律的に動ける組織のためのMVVの作成
STEP3:スタッフの自主性を引き出す仕組みを整える
STEP4:ケアマネさんを理解する
STEP1:スタッフのマインドセット~訪問看護における営業の本質を理解する~
まず最初のステップは、スタッフ全員が「訪問看護における営業とは何か」を正しく理解することです。
訪問看護ステーションには、国から次のような役割が求められています。
・不要な入院を減らし、地域で安心して暮らせる人を増やす
・入院せず、地域で療養生活を送れる体制を整える
超高齢化社会と社会保障費の抑制という背景のもと、国はできるだけ多くの方に訪問看護を届けることを推進しています。そのため、地域で療養できる仕組みづくり――「地域包括ケアシステム」の整備が全国で進められているのです。
実際、医療現場の厳しさは年々増しています。
物価・人件費の高騰により、昨年は病院の半数が赤字に転落し、今年は約8割が赤字になる見通しです。特に、地価や人件費が高い都市部では深刻な影響が出ています。
このような状況下で、訪問看護ステーションには、地域での在宅医療を支える中心的な役割が期待されています。
国も、訪問看護ステーションの「大規模化」を推奨し、事業の成長を後押ししています。
もちろん、利用者数の拡大は、訪問看護ステーションを立ち上げた経営者にとって、事業成長の根幹となる使命です。事業計画の達成も、銀行からの融資や資金調達も、すべてこの「成長性」を前提として成り立っています。
これら訪問看護の役割や使命をスタッフ一人ひとりが正しく理解し、主体的に行動できる「マインドセット」を持つことが、事業成功には不可欠なのです。
STEP2:役割と目標を共有し、自律的に動ける組織のためのMVVの作成
では、スタッフに訪問看護の役割、営業活動の必要性を伝えた上で、その役割と目標を共有し、自律的に動ける組織にするためには、どうすれば良いのでしょうか。
そのツールとして有効なのが企業が設定するMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。
しかし、残念ながら世の中の大半の訪問看護ステーションのMVVは、効果的に機能していないのが実情です。
ステーションが設定するMVVが形式的になり、有効に機能しない理由には、以下のような要因が考えられます。
(1)抽象的で曖昧な表現が多い
「地域社会への貢献」「地域の笑顔を支える」といった標語は、耳障りは良いものの、具体的な行動指針に落とし込むことが難しく、スタッフが日々の業務においてどのように意識すべきかが不明瞭です。
(2)MVVの浸透のための取り組みが不足している
MVVを作成しただけで、社員への周知や理解促進、日々の業務への落とし込みといった活動が不足している場合、MVVは単なる飾り物と化してしまいます
(3)評価制度や行動規範と連動していない
MVVが評価制度や行動規範と連動していない場合、社員はMVVを意識せずとも業務を遂行できてしまうため、MVVが形骸化してしまいます。
社員が共感し、日々の行動の意識が変わるMVVには、以下の要素が不可欠です。
(1)組織の存在意義を明確に示す目的(ミッション)
私たちのステーションが、何のために存在し、地域社会においてどのような使命を果たすべきなのかを、スタッフが共感できる言葉で明確に表現する必要があります。
(2)実現可能で魅力的な将来像(ビジョン)
将来、私たちのステーションがどのような姿を目指し、地域社会にどのような価値を提供していくのかを、具体的かつ魅力的に描き出す必要があります。
(3)日々の業務における行動原理となる価値観(バリュー)
スタッフが日々のケアや地域連携において、何を大切にし、どのような行動を心がけるべきかを具体的に示す必要があります。
(4)具体的な行動に繋がる指針
MVVが抽象的な概念に留まらず、「土日・夜間対応できる体制をつくる」、「ケアマネからの問い合せにはすぐに対応する」といった具体的な行動目標や規範を示すことで、日々の業務に落とし込むことが可能になります。
貴社の訪問看護事業におけるMVVを見直すにあたり、改めて以下の視点から深く考察してみてください。
・なぜ、私たちは訪問看護ステーションという事業を行うのか。
・地域社会のどのような方々、どのような状況の方々に対して、どのようなサービスやケアを提供したいのか。
・そのために、地域の連携機関に対して、私たちのどのような強みや特徴を伝え、利用者様の紹介に繋げていくのか。
・そして、その先に、私たちの事業をどのように発展させていきたいのか。
これらの問いに対する真摯な探求こそが、スタッフ一人ひとりの共感を醸成し、自律的な組織へと成長するための重要な一歩となるでしょう。
STEP3:スタッフの自主性を引き出す仕組みを整える
訪問看護の仕事内容や会社の理念をしっかりと理解・共有した上で、いよいよ営業活動へと進む段階では、スタッフ一人ひとりと丁寧に向き合い、綿密なコミュニケーションを図ることが不可欠です。
(1)個々の強みを活かす営業サポート
スタッフが営業活動に対して萎縮することなく、むしろ意欲的に取り組めるようにするためには、それぞれの得意分野を活かす支援が重要となります。
例えば、「〇〇さんは傾聴力に長けているから、じっくりと話を聞いてくれるタイプの利用者さんや、親身な対応を重視するケアマネージャーさんにアプローチしてみましょう」といった具体的な提案を通じて、共に戦略を練ることが有効です。
これは、一方的な指示ではなく、伴走者のように共に考え、試行錯誤する姿勢が、スタッフの不安を払拭し、前向きな気持ちを引き出す鍵となります。
(2)明確なペルソナ設定による効率的な営業
訪問看護ステーションの営業活動を成功に導くためには、以下の点を明確にすることが効果的です。
スタッフ自身の特性と強み
各スタッフの個性や得意分野を把握することで、より適したターゲット設定が可能になります。
理想の利用者像
私たちのサービスが最も貢献できるのは、どのようなニーズや課題を抱える利用者さんなのかを具体的に描きます。
連携すべきケアマネージャーのタイプ
どのような価値観や課題を持つケアマネージャーと連携することで、より円滑な関係性を構築できるのかを分析します。
特に、ケアマネージャーとの営業活動を通じて「相性の良いタイプ」を把握し、それを基に各スタッフが成果を出しやすく、長期的な信頼関係を築ける相手を明確にすることは、効率的で効果的なマネジメントの鍵となります。
(3)自己分析を通じた主体的な成長
ステーションへの入職時などに、自身の強みや特性を分析する課題を与えることは、非常に有益です。
自分の得意分野や個性を深く理解し、それを営業活動においてどのように活かせるのかを考察するプロセスは、スタッフの主体的な成長を大きく促します。
自己理解が深まることで、自信を持って営業活動に取り組むことができ、結果として利用者さんの獲得やサービスの質の向上に繋がります。
(4)営業活動を数値化・見える化する
営業活動の進捗や成果を数値化し、スタッフ全員が共有できる状態にすることは、組織全体のモチベーション向上に不可欠です。
・訪問件数、紹介件数、契約数を月ごとに集計し、全体会議などで定期的に報告・共有します。
・データをグラフやチャートを用いて視覚的に表現し、現状や成果が一目で理解できる資料を作成します。
・定期的な進捗確認の場を設け、達成状況や課題についてスタッフ間で意見交換を行います。
これにより、スタッフは自身の活動が具体的な成果に繋がっていることを実感しやすくなり、次なる行動への意欲・モチベーションを高めることができます。
また、課題が明確になることで、具体的な改善策を迅速に講じることが可能となり、組織全体の営業力強化に繋がります。
STEP4:ケアマネさんを理解する
訪問看護ステーションの営業活動で成果を出すためには、主要な訪問先であるケアマネージャー(ケアマネさん)の役割や本音を理解し、その視点に立った営業活動が不可欠です。
ケアマネさんの本音とは
これまで国は全国に1万件の訪問看護ステーションを目指してきましたが、2024年時点でその目標を大きく上回る数の訪問看護ステーションが存在しています。
以前、訪問看護ステーションの数がまだ少なかった2010年代には、ステーション自体が珍しい存在だったため、ケアマネさんからの依頼ももらいやすく、とにかく営業先を数多く訪問することが効果的でした。
しかし、訪問看護ステーションの数が急増した現在、
「新設のステーションが増えすぎて、どこに何を頼んだらいいのかわからない…」
というのがケアマネさんの本音となっています。
ケアマネさんは、利用者に適切なサービスを提供する責任があるため、信頼できる(馴染みの)ステーションを選ぶのは当然のことです。
当然、小規模のステーションよりも人が沢山いるステーションのほうが安心して利用者を紹介できます。
このような背景を踏まえると、営業活動では「熱意ややる気をアピールする」だけでは十分ではありません。
ケアマネさんが信頼して利用者を紹介できる根拠となるステーションの特徴や強みを明確に伝えていくことが必要です。
ケアマネさんの役割を理解する
ケアマネージャー(ケアマネさん)との信頼関係を築くためには、まずその役割を理解することが非常に重要です。
ケアマネさんは、介護サービスを提供する事業者と利用者をつなぐ「総合窓口」としての役割を担っています。つまり、利用者が必要とするサービスを適切に調整し、提供するための中心的な存在です。
通常、1人のケアマネージャー(居宅ケアマネ)は、約35人の利用者を担当しています。この数は基準となっており、そのためケアマネさんは多くの利用者の状態やニーズを把握しなければなりません。さらに、利用者の状態だけでなく、その人の希望や生活背景、家族構成に至るまで幅広い情報を理解している専門家です。
ケアマネさんの役割を理解することで、彼らとのコミュニケーションがよりスムーズになり、信頼関係の構築が進みます。
ケアマネさんへのアプローチ方法とは
前述のように、ケアマネさんは利用者の状態だけでなく、本人の希望や家族との関係、生活環境など、生活全般を深く理解している専門家です。
そのため、ケアマネさんは担当する利用者の療養生活に最適な介入ができる訪問看護ステーションを選び、そのステーションに依頼を出します。
つまり、ケアマネさんが求めているのは単なる看護だけではなく、在宅医療の専門的なサポートを提供できる訪問看護ステーションであることを理解することが重要です。
患者さん像を明確にする
訪問看護ステーションがケアマネさんと効果的にコミュニケーションを取るためには、患者さん(利用者)の状態だけでなく、その家族の特徴や住んでいる地域、家の環境、そしてどのような生活をしているかを深く理解することが大切です。
・疾病や症状、年齢・性別、医療的な状態
・生活環境(家族関係、地域、住環境、利用している社会資源など)
・病気が生活に与える影響(本人や介護者への影響)
・訪問看護による介入効果(療養生活の改善や期待できる成果)
これまで関わった患者さんをイメージしながら、できる限り具体的に「患者さん像」を明確にしましょう。
限られた時間で効果的に伝える方法を考える~ケアマネさんの頭の中に残す営業を~
「患者さん像」を明確にしたら、ケアマネさんとの限られた時間でどのように伝えるかを工夫しましょう。重要なのは、ケアマネさんが看護やリハビリの場面を具体的にイメージできるように話すことです。
例えば、以下のように伝えると効果的です。
「実は、以前整形外科で膝の疾患を専門的に診ていたので、膝へのアプローチが得意なんです。膝の痛みが進行すると、階段の昇り降りや正座が難しくなり、日常生活に支障が出てしまいます。もし、患者さんの中で膝の疾患でお悩みの方がいらっしゃったら、ぜひ一度私にご相談ください。」
このように具体的なエピソードや自分の専門性をアピールしながら話すことで、ケアマネさんに強い印象を与え、信頼感を築きやすくなります。
信頼関係を築くための配慮と工夫
ケアマネさんの仕事を少しでも楽にする工夫はとても大切です。誰でも、気持ちよく仕事ができる相手と一緒に働きたいと考えます。そのためには、分かりやすい報告や的確な連絡を心がけましょう。
また、ケアマネさんとの連携をスムーズにするためには、「どうすれば役立てるか」という気遣いを忘れずに持ちましょう。ちょっとした工夫や配慮が、信頼関係の構築に大きく役立ちます。
さいごに
今回は、訪問看護ステーションの認知度を広げるための「ごあいさつ営業」から「利用者獲得型営業」への進化を目指す4つのステップについて解説しました。
新規開業のステーションが増え続ける中で、営業活動と利用者獲得は大きな課題となっています。
今後、ステーションを大きく成長させるためには、訪問看護の「営業活動」のあり方を見直すことが重要です。
本記事が、訪問看護事業に従事している方や、これから参入を考えている方々の参考になれば幸いです。
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