みなさんは、ウェルビーイングという言葉をご存じでしょうか。
ウェルビーイング(well-being)とは、Well(良い)とbeing(であること・状態)を合わせた言葉で、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。
ウェルビーイングを大切にするということは、身体と心を共に大切にする生き方を探求することであり、働き方にも良い影響を与えます。
病気や障害を抱えた利用者や家族の「人生に関わる」仕事である訪問看護においても、看護師自身が健康で幸福な状態にであることは、よりよい看護の提供につながります。
ウェルビーイングを高めるには、自分にとっての「豊かで幸せを感じる状態」や「精神的に健やかな状態」とは何かを知り、自らが幸せに働く実践者になる必要があります。
そこで、いろいろナースでは、「訪問看護師のウェルビーング」と題して訪問看護師が幸せに働くための様々なニュース・トピックをシリーズでお伝えしていきます。
第1回目は、訪問看護を行う上で避けて通れない紫外線・日焼け対策のポイントについてお伝えします。
訪問看護で避けられない紫外線との向き合い方
訪問看護は、車や自転車で利用者宅に訪問します。建物の中で仕事をおこなう病院とは違い、訪問看護師は、日常的に紫外線を受けやすい状況にいます。
紫外線は、私たちがカルシウムを代謝する際に重要な役割を果たすビタミンDを皮膚で合成するために必要ですが、浴びすぎた場合には日焼け、シミ・そばかす等の原因となってしまいます。
また、シワ、たるみといった肌老化の大部分は、紫外線による光老化が原因とされ、年数をかけて少しずつ進行しています。
もちろん生きている限り紫外線を避けての生活は不可能ですが、健康的で明るい肌を保つためには、正しい知識を持ち、紫外線の浴びすぎに注意しながら上手に紫外線とつきあっていくことが大切です。
仕事が忙しいからと後回しにしてしまい、今までちゃんと紫外線対策をしてこなかったという方も、正しい知識を持ってしっかりケアをしていけば10年、20年後の肌に違いが出てきます。
まずは、知ってるようで知らない紫外線の種類と肌への影響のメカニズム、日焼け止めの種類などについてみていきましょう。
紫外線~その正体とは
太陽の光には、目に見える光(可視光線)と、目に見えない赤外線、紫外線とがあります。その中で最も波長※の短い光が「紫外線」と呼ばれています。
参照元:環境省「紫外線環境保健マニュアル2008」
※波長とは:波長とは、太陽光線の振幅のことを指します。太陽光線の進行は一直線ではなく、小さな波状に振幅しながら進んでいきます。
肌に影響を与える2種類の紫外線とは
紫外線は波長の長さ(単位:nm)とそれに伴う性質によって、UVA、UVB、UVCの3つに分けられます。
UVA:400nm~315nm
UVB:315nm~280nm
UVC:280nm~200nm
このうち地上に届くのは、「UVA」と「UVB」になります。
この地上に届く2種類の紫外線は、波長の長さが違うので、肌に及ぼす影響も異なります。
それぞれの紫外線の特徴や肌に与える影響は以下になります。
(1)シワ・たるみの原因になる「UVA」
2種類の紫外線のうち波長が長い紫外線が「UVA」です。
UVAは、地上に届く紫外線の9割を占め、生活紫外線といわれています。
UVAは透過率が非常に高く、雲や窓ガラスも通り抜けてしまいます。室内の家具やカーテンが日焼けして色あせることでも判るようにUVAは、生活の中で最も影響を受けやすい紫外線です。
紫外線は殆どが皮膚表面で吸収されますが、UVAは約7%が0.5mm下に透過し、真皮という肌の深部まで届きます。
UVAは、後述するUVBよりも危険性は小さいのですが、真皮に達する分、肌の弾力成分(コラーゲンやエラスチン)にダメージを与え、シワやたるみなどの肌老化(光老化※)を引き起こします。
もちろん、人体にはダメージを受けたDNAや蛋白質を修復する能力が備わってはいるのですが、完全なものではなく、気付かぬうちに少しずつ目に見えない肌へのダメージが蓄積されていきます。
※光老化の特徴とは:UVAがもたらす光老化は、加齢による老化と比べ、硬くゴワゴワした肌に深いシワが刻まれるのが特徴です。
ヒマラヤやネパールなどの高地に住む人たちは、紫外線の影響を受けやすく、20代からこの症状があらわれることもあります。
(2)シミ・そばかすの原因になる「UVB」
一方、波長が短い紫外線が「UVB」です。UVBは、オゾン層などの大気層に吸収されやすく、地上に届く紫外線の1割ほどしかありません。
しかし、UVAと比べてエネルギーが強く、短時間浴びただけでも肌表皮にやけどのようなダメージをを起こします。
日光を浴びることで肌が真っ赤になったり、水ぶくれになったりする、いわゆる「日焼け」もUVBの影響です。夏場に集中的に増えるため、レジャー紫外線とも呼ばれています。
UVBは、大部分が表皮で吸収され、短時間で皮膚に炎症(赤み、腫れ、水疱など)を起こさせる作用があります。
UVBは、日焼けによる炎症だけなく、皮膚のメラニンの生成を活性化を促します。UVBを浴びることで色素細胞から過剰に分泌されたメラニン色素が皮膚に沈着しシミやそばかすを引き起こします。
図解:皮膚の構造と紫外線が肌に与える影響
メラニンとは
メラニンとは、人や動物の体内で生成される色素です。
紫外線を浴びると、数日後から皮膚の一番外側にある表皮の基底層にあるメラノサイト細胞は、メラニンを生成し、周りの角化細胞にも分配していきます。
まるで帽子をかぶせたように基底細胞の核の上にメラニンを載せ、基底細胞の核にある大切な遺伝子が紫外線で傷を負わないように守ります。
生成されたメラニンは、肌の新陳代謝(ターンオーバー)によって徐々に肌の表面に押し上げられ、最後には古い角質とともに体の外に排出されます。
しかし、長時間紫外線を浴びたり、短時間でも強い日差しを浴びた場合、そして肌のターンオーバーが乱れるなどが原因で過剰にメラニンが生成されてしまうと、メラニンの排出が追いつかず、肌表面に蓄積されて色素沈着を起こします。
正常な肌とシミのある肌を比較した肌の断面図
また、紫外線を浴びたときだけでなく、肌に摩擦などの刺激が与えられると、皮膚の細胞を守ろうとしてメラノサイトが働き、メラニンを生成します。
そのため、顔や体を洗うときやタオルなどで拭くときにはゴシゴシ擦らず、なるべく優しく触れるようにするのがポイントです。
日焼け止めの種類~ケミカルとノンケミカルとは
次に日焼け止めの種類についてお伝えします。
紫外線を防ぐ成分には主に「紫外線吸収剤(ケミカル)」と「紫外線散乱剤(ノンケミカル)」の2種類があります。
(1)紫外線吸収剤(ケミカル)
紫外線吸収剤は、肌に塗布された後、紫外線を吸収し、エネルギーを熱に変えてから放出することで、肌を保護します。これにより、紫外線が肌に浸透する前に吸収され、細胞への損傷を軽減します。
UVAおよびUVB紫外線を防御する効果が高い反面、 この化学反応が皮膚の表面で起きることで、肌に大きな負担を与え、アレルギー反応や肌荒れの可能性があります。
(2)紫外線散乱剤(ノンケミカル)
紫外線散乱剤は、紫外線を肌から反射または散乱させて外部に逃がすことで、紫外線から肌を守ります。物理的なバリアを形成するため、紫外線が肌に届く前に防御効果があります。
紫外線吸収剤(ケミカル)よりも肌への刺激が少ないため、敏感肌の人にも適しています。
紫外線散乱剤と紫外線吸収剤の違い
日焼け止めを選ぶ基準~SPFとPAとは
日焼け止めを選ぶときに目安になるのが、日焼け止めのパッケージに表示されている「SPF」と「PA」「+」の表示です。
この「SPF」と「PA」は、以下を意味します。
(1)UV−Bによる炎症を遅らせる「SPF」
「SPF」とは、「Sun Protection Factor」の略で、UVBに対する防止効果を示す数値です。
SPFの表示では、日光を浴びて肌が赤くなるまでの時間をどれだけ遅らせることができるのかを知ることができます。
SPF1あたり約20分で、SPF30の場合、約20分×30=約600分(10時間)肌が赤くなるまでの時間を延ばしてくれます。(※あくまで理論上の数値であり、塗布量が少なかったり、汗で流れたりする場合、効果は異なります。)
最高値は50で、「SFP50」と表示、51以上を「SPF50+」と表示、値が大きいほど効果が高くなります。
(2)UVAの防止効果を示す「PA」
「PA」は、「Protection Grade of UVA」の略で、日本化粧品工業会が厳密に定めた「UVAの防止効果」を表す数値です。「+」の多さが「UVA」に対する効果の高さを示します。
「PA」は、以下の4段階に設定されています。
· PA+ … 効果がある
· PA++ … かなり効果がある
· PA+++ … 非常に効果がある
· PA++++ … 極めて高い効果がある
※以前は、「PA+」「PA++」「PA+++」の三種類の表示でしたが、近年、研究によりUV-Aの有害性が明らかになったことから2013年の1月から「PA++++」が加わるようになりました。
看護師だからこそ、化粧品と肌の正しい知識を身につける
ここまで、紫外線による肌ダメージのメカニズム、そして日焼け止めの種類、日焼け止めを選ぶ基準などを説明しました。
では、これらを踏まえて、普段、紫外線を浴びる機会の多い訪問看護師は、どのように紫外線対策をおこなっていけばいいのでしょうか。
訪問看護師が知っておきたい、紫外線対策の基本、日焼け止めと肌との関係などについて恵比寿こもれびクリニックの西嶌暁生先生にお聞きしました。
それでは、西嶌先生お願いします。
西嶌先生のアドバイス
こんにちは、医師の西嶌暁生です。
この記事を読む方の多くは、訪問看護師をはじめとする医療従事者だと思います。
患者さんや一般の方に説明する立場の方々だからこそ、正しい知識を身に付けて頂きたいです。
例えば、化粧水で肌細胞が本当に潤うと思いますか?
仮に、化粧水に含まれる水分が肌の角質バリアを超えて、顆粒層、有棘層、基底膜、真皮に達するなら、私たちはお風呂に入っただけで全身がふやけてしまいます。
逆に、肌の過乾燥や化粧水に含まれる界面活性剤により、肌へのダメージが蓄積されることもあります。
化粧水が悪いとは言いませんが、少なくとも、盲目的に日常的に使用することはお勧めしません。解剖学を勉強した看護師であれば、理解してくださると思います。
メーカーの広告を鵜呑みにせず、自分の頭で考え判断できることこそ、美と健康に取り組む看護師にとって最大の強みでしょう。
移動時間の多い訪問看護師にとって、紫外線対策は必須
車や自転車で移動する時間の多い訪問看護師にとって、紫外線対策は永遠の課題でしょう。紫外線の量は3月ごろから急激に増え、5~9月にかけてピークを迎えますが、それ以外の時期も含め、一年中注意が必要です。
さらに、重労働で汗をかき、せっかく塗った日焼け止めが落ちてしまうこともしばしば。
そして、顔だけではなく、手背や前腕なども紫外線にさらされることが多く、顔以外のシミやクスミを気にしている訪問看護師も多いです。
日焼け止めはあくまで補助的な役割。基本は遮光
紫外線対策の基本は、物理的に紫外線を遮断することです。帽子や長袖の羽織りなどでできるだけ肌を紫外線にさらさないようにします。
吸汗・吸湿にすぐれた素材のものを選ぶと、蒸し暑い夏でも過ごしやすいです。
それでも地面からの照り返しや、衣類を通り抜けてくる紫外線を防ぐために、補助的に日焼け止めを使用します。
日焼け止めは「SPF20~30、PA++」で、「紫外線吸収剤不使用」「ノンケミカル」「石けんで落とせる」と表示されているものを使います。
「汗に強い」と夏に人気のウォータープルーフタイプは、どうしても必要なときだけにしてください。
炎天下を長時間かけて移動する訪問看護といった非日常的なシチュエーションでもない限り、「SPF50」や「PA++++」といった強い日焼け止めを使う必要はありません。
汗で日焼け止めが落ちるのが不安な人は、気がついた時に塗り直すようにしましょう。
日焼け止めは石鹸で落とせるものを選択
日本人は欧米に比べて化粧品を使いすぎている点が、肌荒れを引き起こす大きな原因と言われています。特にクレンジングには界面活性剤や合成ポリマーが含まれています。
クレンジングで化粧を落とす原理は、油汚れの食器を洗剤で洗うのと同じなので、むやみに多用しているとかえって、肌の角質バリア、皮脂膜、善玉菌(表皮ブドウ球菌)を過剰に落としてしまいます。ですから、日焼け止めは石鹸で落とせるものがお勧めです。
インナーケアも忘れずに。高価な飲む日焼け止めは必要ない。
単に日焼け止めなどのアウターケアを行うだけでは不十分です。
看護師の皆さんなら抗酸化物質を摂取ことの必要性を理解してくれるはずです。例えば、「炎症性色素沈着」という病名の患者さんは、「シナール」というビタミンCの内服薬が保険適応になっています。
それだけ聞いても、抗酸化物質が日焼けに伴う色素沈着に効果があることが想像できると思います。
もちろん、ビタミンC以外にも、ビタミンEやトラネキサム酸なども効果があります。これらの栄養素が多く含まれる食材を意識的に食べるのもよいでしょう。
効率的かつ正しい紫外線対策を
顔、手背、前腕などを日差しに晒すことの多い訪問看護師の紫外線対策は、アンチエイジングにとって非常に重要です。医学的知識を大いに活用して、効率的かつ正しい紫外線対策をしましょう。
<訪問看護師のための紫外線対策のポイント>
・紫外線対策の基本は物理的に紫外線を遮断すること
・日焼け止めは「SPF20~30、PA++」で、「紫外線吸収剤不使用」「ノンケミカル」「石けんで落とせる」と表示されているものを選ぶ
・石鹸で落とせる日焼け止めを選ぶ
・抗酸化物質の摂取も忘れずに
西嶌 暁生先生のインタビュー・プロフィールはこちらをごらんください。
まとめ
今回は、訪問看護師のウェルビーングの第一弾として訪問看護師のための紫外線対策のポイントについてお伝えしました。
医療と生活の両方の視点から「その人らしい暮らし」を送れるように支援をおこなう訪問看護においては、看護師一人ひとりが自らのウェルビーイングを高めることは、非常に大切です。
健康的で明るい肌は、清潔感があり、初めてお会いする方からも好印象を持っていただけます。看護師自身にも肌に自信が持てれば、心にゆとりが生まれ、訪問看護をもっと楽しめるのではないでしょうか。
いろいろナースでは、これからも訪問看護師が幸せに働くための様々なニュース・トピックをお伝えしていく予定です。お楽しみに!