訪問看護師が知っておきたい!高齢者の尿失禁の種類と在宅での支援のポイント

尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態であり、排尿障害の一つです。

高齢者における尿失禁の頻度は非常に高く、日本では約400万人の高齢者が尿失禁であるとされています。

尿失禁はQOL(生活の質)疾患の代表的なものであり、直接的な生命の危険はないものの、精神的な苦痛やQOLの低下をもたらします。

そのため、訪問看護師が高齢者の尿失禁に関する病態の種類や治療法、家族介護者に与える負担などを正しく理解しておくことは非常に重要です。

今回は、高齢者における尿失禁をテーマにその概要から症状と訪問看護による在宅での支援のポイントなどについてお伝えします。

目次

尿失禁とは

尿失禁とは、自分の意志とは関係なく尿が漏れることです。

高齢者における尿失禁の頻度は非常に高く、約400万人の高齢者が尿失禁を有していると言われています。

最近の統計はありませんが、過去には在宅の高齢者の約10%や、病院や介護施設に入所している高齢者の50%以上で尿失禁が報告されています。

尿失禁はQOL(生活の質)に大きな影響を与えるものの、直接的に生命予後に影響することはなく、またタイプによって男性と女性で頻度に差があります。

尿失禁の種類

尿失禁には、病態の違いからさまざまな症状があります。特に高齢者に多い尿失禁は、病態によって4つのタイプに分類されます。

尿失禁タイプ 症状 原因
腹圧性尿失禁 咳やくしゃみをした時など、腹圧がかかった時に尿が漏れてしまう 加齢や出産などで、骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こる。 女性に多い。
切迫性尿失禁 急に尿がしたくなり、 我慢できずに漏れてしまう 膀胱炎や過活動膀胱 膀胱結石、膀胱腫瘍などの他に, 脳血管障害、脊髄障害など。男性では前立腺肥大症も原因になる。
溢流性尿失禁 尿が出せずに膀胱内に溜まり、漏れてしまう 前立腺肥大症の他に、直腸がんや子宮がんの手術後の膀胱周囲の神経機能の低下など。男性に多い。
機能性尿失禁 膀胱・尿道機能は正常だが、足腰が弱ってトイレに間に合わない 尿の溜まった感覚がわからないため、トイレで排尿できない 身体機能の低下や認知症など

腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁を合わせて混合性と分類することもあります。また高齢者の場合、複数の要素が関与している可能性に注意する必要があります。

特にカフェインやアルコールなどの嗜好品や服用している薬剤の影響を常に考慮することが大切です。

代表的なものとして、抗コリン作用を持つ薬剤は前立腺肥大症を持つ男性高齢者の症状を悪化させることがよくあります。

これらは市販の総合感冒薬にも含まれていることがありますので、注意が必要です。

尿失禁の問診ツール

尿失禁は、病態に応じて様々な問診ツールが存在します。代表的なものとしては以下のものが挙げられます。

(1)国際前立腺症状スコアとQOLスコア

国際前立腺症状スコア I-PSSは、前立腺肥大症の症状の重症度を評価するために米国で作成された質問表です。このスコアは、女性やパーキンソン病など神経疾患による下部尿路障害の重症度を測るのにも有用とされています。

I-PSSは7つの質問から構成されており、Q1、3、5、6の点数が高い場合は残尿の問題があり、Q2、4、7の点数が高い場合は蓄尿の問題が強いと考えられます。また、QOLスコアでは、現在の症状が続くとどう感じるかを問うことで、患者の生活の質を評価します。

(2)国際尿失禁会議質問票ショートフォーム

国際尿失禁会議質問票ショートフォーム(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form; ICIQ-SF)は、4つの質問から成る簡便な質問票であり、尿失禁の頻度、程度、困難度、尿失禁の発生方法を尋ねます。

(3)過活動膀胱症状質問票

過活動膀胱症状質問票(Overactive Bladder Symptom Score; OABSS)は、頻尿や尿意の切迫感を中心とした過活動膀胱の症状を評価するための質問票です。

参考文献:国立長寿医療センター泌尿器科「一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル

尿失禁の治療法

尿失禁は、タイプに応じて治療が行われます。

パッドやおむつなどの使用はQOLを低下させ、寝たきり状態につながる可能性があるため、慎重に選択する必要があります。

薬物療法においては、高齢者の場合は副作用に注意し、少量から開始することが望ましいです。また、処方例によっては漢方薬を併用することもあります。

(1)腹圧性尿失禁

生活指導

肥満や便秘などの危険因子を改善するための生活指導を行います。重い物を持たないようにしたり、刺激物の摂取を制限したりします。

骨盤底筋体操

骨盤底筋を強化するための体操を行います。バイオフィードバック法などの方法も検討されます。

薬物療法

わが国ではβ2アドレナリン受容体作動薬が保険適応となっており、他の薬剤と比較して高い推奨度があります。

(2)切迫性尿失禁

生活指導

水分や塩分の摂取を控えるようにし、肥満や便秘の改善、カフェインの摂取量の削減などの生活指導を行います。

環境調整

トイレまでのアクセスを改善し、手すりやポータブルトイレなどを設置して環境を整えます。

骨盤底筋体操

骨盤底筋を強化するための運動を行い、筋力を向上させます。

膀胱訓練

膀胱に尿を溜めて排尿時間を延ばすことで、膀胱容量を増やす訓練を行います。

薬物療法

抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬が推奨されています。これらの薬剤には尿閉が副作用としてあるため、投与には慎重さが必要ですが、禁忌ではありません。

(3)溢流性尿失禁

溢流性尿失禁の治療には、尿排出障害の改善が重要です。

前立腺肥大症などの下部尿路閉塞による場合や、薬物療法(α遮断薬、アドレナリン受容体遮断薬、5α還元酵素阻害薬など)、または外科的治療による閉塞の解除が行われます。必要に応じて、尿道カテーテル※による間欠的または持続的な導尿が行われることもあります。

尿道カテーテルは、基本的に溢流性尿失禁の適応とされます。間欠的な方法と留置する方法の2つがあります。

間欠的導尿法は、末梢神経障害により膀胱排尿筋の収縮力が低い場合や脊髄損傷などで残尿がある状態において、標準的な治療法となります。

膀胱留置カテーテル法は、下部尿路の閉塞があり、他に閉塞を解除する治療法がない、全身状態が重篤あるいは終末期などで、おむつ交換や間欠的導尿を行う介護者がいない場合に使用されることがあります。また、陰部の皮膚に特定の問題がある場合に一時的に使用されることもあります。留置する場合は尿路感染症のリスクが上昇します。

※膀胱留置カテーテル法については以下の記事も参考にしてみてください。

在宅での膀胱留置カテーテル管理のポイント:トラブル回避と訪問看護師の役割

(4)機能性尿失禁

生活指導

衣類を着脱しやすくする工夫を行います。また、排尿習慣を把握し、排尿誘導を行います。時間排尿誘導や、本人の排尿習慣に合わせたパターン排尿誘導などがあります。

環境調整

トイレまでのアクセスを改善し、手すりやポータブルトイレなどの設置を行って環境を整えます。

尿失禁の合併症

尿失禁はさまざまな合併症を引き起こします。

尿道周囲が不衛生な状況になることや、膀胱内に尿が貯留することから膀胱や腎臓の尿路感染症を合併するリスクがあります。

特に高齢者では、尿が皮膚を刺激することで皮膚の発疹や褥瘡ができたり、急いでトイレに行こうとして転倒するなどの危険も増します。

尿失禁が家族介護者に与える負担・影響

排尿の世話は,時刻や回数が限定しないため十分な睡眠が取れない、臭い・汚物処理の問題など、家族介護者にとって心身の負担が強いことが特徴です。

高齢者の尿失禁が家族介護者に与える負担・影響は、以下の要素が挙げられます。

(1)要介護者の悪化への危惧

要介護者の尿失禁による負担と影響は、排尿介護への工夫や皮膚ケア、排尿管理などが負担となります。

排尿介護への工夫が負担

・オムツ・パッドから尿漏れの防止策が大変
・夜間排尿に対するオムツの当て方の工夫が大変
・尿漏れによる布団・トイレの汚染防止の対策が負担

皮膚ケアが負担

・臀部・陰部の皮膚の汚染への対処が負担
・オムツかぶれ・褥瘡予防が大変

排尿管理が負担

・排尿介護のため水分管理が大変
・尿意を知らせてくれないため,排尿がつかめず苦労する

(2)排尿介護への拘束感

尿失禁による排尿介護への拘束感は、他者に頼めないことや排尿管理の負担、排尿の世話に対する拘束感や性的抵抗感などが挙げられます。

排尿介護を他者に頼めない負担

・他者に頼めないので負担
・男性に頼めないので負担
・要介護者が遠慮・混乱するため他者に頼めない

排尿管理が負担

・排尿チェックが大変
・膀胱結石・尿路感染などの合併症防止が大変

排尿の世話への拘束感

・24時間,束縛されている感じがある
・排尿介護のために行動が規制される
・家を空けられない

性的抵抗感

・異性の要介護者に性的抵抗感がある

(3)尿汚染の対処への大変さ

尿失禁による尿汚染の対処は、尿漏れの清掃や尿臭の除去などが負担となります。

尿漏れ汚染の対処が負担

・尿汚染による寝具類の後始末が大変
・汚物の処理が大変
・汚染物の洗濯が大変
・尿汚染物の洗濯の選別が大変

尿臭への対処が大変

・排尿介護時の自分への清潔(手洗い・消毒など)対処が大変
・部屋の消臭が大変
・衣類・布団の消臭が大変
・陰部の尿臭が気になり清拭するのが大変
・強い尿臭が気になる

(4)頻繁な排尿介助による辛さ

尿失禁による頻繁な排尿介助は、身体的なオムツ交換やトイレでの介助、頻尿や多尿への対処が負担となります。

身体的にオムツ交換が負担

・身体的にオムツ交換が負担
・排尿介護で睡眠が十分に取れない
・尿漏れにより,何回も寝衣・シーツを交換するのが重労働

トイレ排尿時の介助が負担

・トイレ移動への介助が負担
・下着の上げ下げがきつい

頻尿・多尿への対処が負担

・排尿回数が多く,頻回の介護が負担
・尿意への対応に振り回される

(5)快適環境への経費の不足感

尿失禁のケアに必要な設備や用具に十分な資金がないと感じることがあります。

快適環境への経費の不足感

・オムツ・パッド代の経済的負担
・排尿介護用品に対する介護保険補助の不足感
・脱臭剤 ・ 消臭剤・消毒薬の経費負担

参考文献:日職災医誌「排尿障害をもつ高齢者を自宅介護する家族介護者の排尿介護負担感の実態

尿失禁に関連する社会資源・制度

尿失禁に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)排泄環境の整備

・介護保険法による住宅改修、または障害者総合支援法の地域生活支援事業による住宅改修費の給付制度 (和式トイレから洋式トイレへの取り替え、段差解消、手すりや足元照明の設置 ドアの変更など)

(2) 排泄補助道具の購入支援

・障害者総合支援法による日常生活用具 (特殊便器、 特殊尿器、 紙おむつなど)の給付

・介護保険法による福祉用具貸与 (手すり, 自動排泄処理装置)や特定福祉用具販売 (ポータブルトイレなど)

・市区町村による家族介護用品支給サービス (紙おむつ, 使い捨て手袋)

(3)日常生活動作(入浴、更衣、排泄, 室内の環境整備)の介助

・介護保険法による訪問介護 訪問入浴

・障害者総合支援法による介護給付

・市区町村による寝具類の洗濯乾燥消毒サービス

(4)機能訓練 日常生活動作訓練

・介護保険や医療保険による訪問リハビリテーション, デイケアによる骨盤底筋訓練

・医療機関の機能訓練

訪問看護導入時の視点

訪問看護導入時の視点として、以下の点に留意する必要があります。

排泄に関することは羞恥心が伴いやすく、不用意な発言は療養者の尊厳を傷つけかねません。

信頼関係がまだ構築されていない場合もあるため、訪問看護師は療養者に寄り添う姿勢を示す必要があります。尿失禁により最も困っていることや療養者ご自身が取る対応方法を理解し、その方法を尊重しながら改善点を提案することが重要です。

また、がん末期など進行性疾患をきっかけに訪問看護が導入された場合は、疾患の進行に伴い失禁が生じる可能性が高いことを頭に入れておく必要があります。

療養者の疾患の理解や受け入れ状況に応じて、必要な支援や社会資源を提供できるよう、関係職種と連携し調整しておくことが重要です。

尿失禁の利用者に対して訪問看護師が心得るべきポイント

尿失禁の利用者に対して訪問看護師は、以下の点を心得る必要があります。

(1)尿失禁の影響と負担

尿失禁は身体面だけでなく、精神面や生活面にも影響を及ぼし、人間としての尊厳やQOLの低下をもたらします。介護者にとっても負担となり、在宅療養の継続を困難にする要因となります。

(2)尿失禁の分類とアセスメント

看護師は尿失禁の分類を理解し、尿失禁の背景要因をアセスメントし、適切な援助を提供する必要があります。療養者や介護者の個々のニーズに応じたケアプランを立案します。

(3)おむつの使用に慎重な判断

安易におむつを使用することは、療養者のQOLや日常生活動作の低下を引き起こす可能性があります。おむつの使用については慎重に判断し、適切な対応を検討する必要があります。

(4)尊厳の保護と能力の活用

療養者の尊厳を守り、現在の能力を活かす視点や、介護者の負担を考慮する視点、尿失禁による二次的な障害を予防する視点を持ち、統合的な観点から援助を検討することが重要です。

(5)社会資源の連携と支援の提供

療養者の疾患の進行に応じて、必要な支援や社会資源を提供できるよう、関係職種と連携し調整する必要があります。継続的なコミュニケーションと支援の提供により、療養者と介護者のニーズに応えます。

尿失禁の利用者への支援のポイント

尿失禁の利用者に対する訪問看護の支援のポイントは以下になります。

(1)問題の把握と個別化されたケアの提供

排泄に関連する行為の一連のプロセスを詳細に把握し、尿失禁が起こっている具体的な問題点を特定します。水分摂取から排泄の後始末までのプロセスを見極め、それぞれの段階でどこに問題があるかを把握します。

(2)尿失禁の分類に応じた援助の検討

尿失禁のタイプに応じて、適切な援助を検討します。例えば、腹圧性尿失禁の場合には骨盤底筋体操の指導や生活指導を行い、切迫性尿失禁の場合には膀胱訓練や薬物療法の支援を検討します。

(3)主治医との連携と治療の検討

主治医と密接に連携し、治療による改善の可能性を検討します。訪問看護師は主治医の指示に基づき、適切な治療や処置を支援します。

(4)環境と排尿パターンの把握と予防策の検討

排泄に関連する環境と排尿のパターンを把握し、尿失禁を予防するための援助を検討します。適切なトイレの配置や介助方法の指導など、環境や生活スタイルに合わせたアプローチを考えます。

(5)皮膚障害や尿路感染症の予防

尿失禁に伴う皮膚障害や尿路感染症を予防するための適切なケアや衛生管理を提供します。皮膚の清潔を保ち、適切なケア用品の使用を指導します。

(6)療養者・家族とのコミュニケーションと目標設定

尿失禁による身体面、心理面、社会面への影響や今後のリスクを療養者や家族と話し合い、アセスメント結果や意向を尊重しながら、目標を設定し、援助内容と生活を調整します。

尿失禁の状態に応じた支援のポイント

(1)腹圧性尿失禁がみられる状況

腹圧性尿失禁は、出産や加齢などがきっかけで生じることがあり、特に女性に多く見られます。羞恥心などから受診をためらい、対処することも少なくありません。

予期せぬ尿漏れにより日常生活が制限されることがあり、失禁が起こりやすい状況と症状に焦点を当てることが重要です。

支援のポイント

・腹圧がかかる動作の前に排尿を行うように促す。

・肥満や便秘などのリスク因子を軽減する。

・骨盤底筋のトレーニングも有効です。

(2)切迫性尿失禁がみられる状況

切迫性尿失禁では、強い尿意切迫感や頻尿が特徴であり、身体的疲労や精神的ストレス、不眠などの二次的な障害を引き起こす可能性があります。失禁による影響を最小限に抑えることが重要です。

支援のポイント

・可能な場合は、排尿日誌をつけてもらい、1回の量や付随する症状を把握し、医師と薬物療法を検討します。

・適切な着衣や排泄補助用具を検討します。

・膀胱訓練を行います。

(3)溢流性尿失禁がみられる状況

溢流性尿失禁では、他の尿失禁とは異なり、膀胱内に多量の残尿がある特徴があります。このまま放置すると、腎不全や尿路感染症などの重篤な症状を引き起こすおそれがあるため、尿閉の原因や残尿の有無を把握し、早期の医療介入が必要です。

支援のポイント

・下腹部の膨満感や尿量の減少がないかを確認し、エコーを用いて残尿測定を行います。エコーが使えない場合は導尿を行い、残尿を測定します。

・導尿後に失禁が消失するかどうかを確認します。

(4)機能性尿失禁がみられる状況

機能性尿失禁では、歩行障害により移動が間に合わない、または認知症によりトイレの場所がわからないなど、排泄に関連する行為が遂行できない状況が見られます。この問題は、身体・精神機能だけでなく、環境も含めて広く捉える必要があります。

支援のポイント

・運動機能の低下が原因の場合は、環境整備や適した衣服を検討します。

・認知症の場合、排尿自覚刺激行動療法や排尿パターンに合ったトイレ誘導が有効です。

まとめ

今回は、高齢者における尿失禁をテーマにその概要から症状と訪問看護による在宅での支援のポイントなどについてお伝えしました。

高齢者の尿失禁は、身体的・精神的な影響だけでなく、介護者や家族にも負担を与える重要な問題です。

訪問看護師は、療養者との信頼関係を築きながら、個別に適したケアを提供することが求められます。尊厳を守りながら、療養者のQOL向上と家族の負担軽減に向けて、継続的なサポートが必要です。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。