訪問看護ステーションの設備基準と運営に必要な物品リストとは

訪問看護ステーションを開設し、運営するには、介護保険法に基づく「設備基準」を満たした事務所を賃貸などで確保し、必要な設備や備品を整える必要があります。

今回は、訪問看護ステーションの開業に必要となる設備基準と運営をおこなうために準備すべき物品リスト(備品・消耗品)等についてご紹介します。

訪問看護ステーションの設備基準とは

訪問看護ステーションは、設備基準として、事業運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室を設ける必要があります。

ただし、同一敷地内に他の事業所が併設されている場合は、必要な広さの専有区画を設けることで対応可能となります。

また、広さ以外にも 事務室、相談コーナー、会議室、研修室、更衣室、シャワーバス、 休憩室、倉庫、洗面所、洗濯および消毒のスペースなど必要な設備がありますので、以下の5つのポイントに注意が必要です。

(1)事務所

訪問看護の事務などを行う専用区画です。特に広さの規定はありませんが、複数の机や書庫など棚、ロッカーなどが置けるスペースは最低限必要です。同一敷地内に他の事業所や施設が存在する場合は、他の事務所と訪問看護の事務所を明確に区別する必要があります。

(2)相談室

事務室には、利用申込の受付や相談等に対応できるスペースを確保することが求められています。相談者のプライバシー保護の観点からは、個室が望ましいですが、パーテーションでの仕切りも可能です。この場合は、高さなどに注意が必要です。また、相談質には、数人が座れるような、テーブルと椅子またはソファの設置も必要となります。

(3)衛生設備・独立洗面台

事務所には、感染症予防のための衛生的な消毒スペースとして洗面台が必要です。洗面台には、ハンドソープなどの石鹸類、アルコール消毒、ペーパータオルなどを備品として設置しましょう。また、衛生管理を行う上で、玄関や共有スペースに手指消毒用アルコールを置くことも必要です。

(4)鍵付きの書庫

訪問看護では利用者の契約書など大切な個人情報を管理するために鍵付きの書庫(ロッカー・キャビネット)を必ず設置する必要があります。ステーションの申請をおこなう際には、事務所内の写真が必要となるため、書庫を撮影する際は鍵がかかる構造であることを明確にすることが重要です。

(5)防火対策

消火器やスプリンクラーの配置も確認しておきましょう。指定を受けるには、まず法令に適合した安全で信頼性のある建物であることが基本条件です。


もちろん、運営を開始した後も「設備基準」を継続的に満たし続ける必要があるため、区画の変更などを行い基準を満たさなくなった場合は、行政からの指導の対象となりますので注意しましょう。

参照元:厚生労働書「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について

訪問看護の事務所選びの3つのポイント

開業にあたり、訪問看護のサービスの提供エリアが決まったら、訪問看護の事務やスタッフの待機場所として、上記の「設備基準」を踏まえて事務所を契約します。

訪問看護の事務所を選ぶ際には、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

(1)事務所として利用できる物件か確認する

訪問看護ステーションをマンション等でおこなう場合、事務所(事業所) 可能という場所でないと営業することができません。加えて、事業所を営業してはいけない場所もあるため、契約前には、行政機関に確認を行います。

また、事業所利用可能な物件の中でも、「住居契約」ではなく「事務所契約」を締結する場合は、原則として家賃に消費税が課税されます。予算を十分に把握し、事前に準備を行うことが必要です。

マンションを事務所として利用する場合は、オーナーとの相談が必要です。事業の目的や周辺住民への配慮などを丁寧に伝え、理解を得るよう努めましょう。

(2)採用と訪問エリアを考慮する

訪問看護ステーションの事務所選びのポイントは、採用のしやすさと訪問エリアに移動しやすいかの2点が重要になります。

採用においては、「通勤しやすい」ことが大きな利点となるため、アクセスが容易な事業所を選ぶことが重要です。

東京都内の場合、電車やバスを利用した通勤が一般的であり、公共交通機関の近くに事業所を設けることが採用の有利な条件となります。都内では訪問に電動自転車を使用することが一般的ですので、事務所周辺に駐輪場を確保できるかどうかも確認が必要です。

逆に地方では車通勤が主流の地域もあるため、駐車場を確保できるかどうかが重要なポイントです。駅から離れた場所でも、駐車場を十分に確保できれば利点となります。もちろん、駅近の物件よりも家賃を抑えることが可能です。

訪問エリアにおいては、事業所から同心円の訪問範囲を確認することも重要です。ショッピングモールや大きな公園がある場合、訪問エリアが制限される可能性があり、また、道が混みやすく時間をロスする可能性も考慮する必要があります。

(3)今後の人員増員を視野に入れる

訪問看護ステーションの運営が開始され、依頼が増加すると、看護職員などのスタッフを増員し、より多くの利用依頼を受けることになります。スタッフの人数が増えてくると、手狭になる可能性があります。

そのため、ある程度、事業成長や事業規模についての見通しを立て、それらを考慮して物件を選ぶことも重要です。

もちろん、最初から広い物件を契約すると、ランニングコストが増加してしまう可能性があるため、最初は10人程度が収容可能な場所を選び、それ以上の人数が必要になった場合は引っ越しや2つ目の店舗を検討するなど、柔軟に選択できるよう心がけましょう。

訪問看護開設において準備すべき物品リスト(備品・消耗品)

介護保険法に基づく「設備基準」には、訪問看護サービスの提供に必要となる備品等を設置しなければならないことが定められています。

準備すべき物品リストは、以下を参考にしてください。

設備備品および車両

品名 備考
看板 1 ビル内に入居する場合
案内板 1 ビル内に入居する場合
電話機 2~3 室内の広さ、利用者数による
カメラ付携帯電話(業務用) 必要数 緊急時の対応等
訪問車 (公用車) 常勤職員数 非常勤職員は借り上げまたはリース
掃除機 1
FAX機 1 使用頻度に応じた設備が必要
事務用机 (ビジネス用テーブル可) 人数分 管理者、職員全員
パソコンデスク 事務用デスクに置けない場合
会議用(兼) 研修用机 20人程度の会議、研修用
椅子 人数分 事務用、 会議、研修、 休憩用
ホワイトボード 2 職員、 相談者用、 会議室用
ロッカー 人数分
金庫または手提げ金庫 1 経理システムにより、 異なる
扉付戸棚 (中が見えないもの) 鍵付 1 書類、 カルテ等
図書用戸棚 2 文献、 テキスト、 看護辞典等
看護用品、 衛生材料用戸棚 (中が見えるもの) 3 事務用品、 衛生材料、 看護用品
コート掛け、 傘立て 来客用 職員用
相談用テーブル 1 相談コーナーに設置
休憩用食卓テーブル 1 広めのテーブル
パソコン 1人1台が望ましい
パソコンソフト 各1 訪問看護記録等、 介護・診療報酬請求等
プリンター 4 パソコンの台数にふさわしい数
コピー機 1 リースまたは購入
シュレッダー 1 機能のよいもの
テレビ 1 職員研修、緊急時の情報手段等
デジタルカメラ 2 創傷等、 主治医へ情報提供
シャワーバス 1 感染防止等
小型全自動高圧蒸気滅菌器 1 感染防止等
洗濯機 1 予防着、 ユニホーム等の洗濯
乾燥機 1 物干し場がない場合は便利
冷凍冷蔵庫 1 冷却用
電子レンジ 1 弁当等の加熱
ポット、 お茶用品一式 2 弁当等の加熱

事務用品、消耗品

 

品名 備考
パンフレット 500部程度 訪問看護のPR用
ステーション印 2 名称 郵便番号、住所
名刺 職員数 公印は、人により異なる
所長印 (氏名) 1
職員氏名印 職員数
帳票類 必要部数
記録用紙 必要部数
ファイル 利用者カルテ用 、書類綴り等
筆記用具 ボールペン、鉛筆、 マジック等
穴あけ器 3
ホッチキス 3
ハサミ 3
ノート類
封筒、切手類 必要枚数 A4、定型等
封筒、切手類 必要量 消耗品の定期的在庫点検をする

訪問看護に必要な物品等

品名 備考
予防着、エプロン、防護服 職員1人2枚以上
入浴・シャワー用エプロン 職員1人2枚以上
住宅地図 1人1部 事務所に1部は必要
筆記用具 ボールペン等
記録用紙 訪問看護記錄等
訪問かばん 1人1個 予備が必要
カルテ用かばん 1人1個 予備が必要
プラスチック ゴム手袋 1人1箱
手拭用紙タオル・ウェットタオル 1人1ケース
マスク (サージカル、N95) 1人1箱
替え用ソックス 1人3足 感染防止のため
速乾性手指消毒薬 1人1本
酒精綿 適当
駆血帯 1人1本
キシロカインゼリー 1人1本
血圧計 1人1台
体温計 1人1本
1人1個
パルスオキシメーター 1人1個
血糖測定器 1人1台
聴診器 1人1本
耳鏡セット 2セット 必要時
ストップウオッチ 1人1個
ペンライト 1人1本
メジャー 1人1個
ハサミ 1人1本
鑷子 1人3本
膿盆 1人1個
舌圧子 1人10本
握力計 2台 必要時
爪切り 1人1個
体圧測定器 1~2台 褥瘡予防
吸引器 (電動式足踏み式) 3~5緊急時 (停電時は足踏み式が便利)
吸引カテーテル 必要数 緊急時の予備等

衛生材料・薬品等

品名 備考
滅菌ガーゼ、綿球類 2セット 予備必要
滅菌手袋 1箱 感染予防
ビニール袋 10枚 汚物入れなどに使用
テガダーム 1箱 突発的な創傷処置用
褥瘡用フィルム剤 1箱 突発的な創傷処置用
テープ類 2箱
消毒薬:ヒビテン、イソジン液、消毒用アルコール 各数本 皮膚、手指の消毒
生理食塩水 数本 創傷の洗浄等

特に訪問看護事業所では感染症予防に必要な設備等に配慮することが求められていますので、留意が必要です。

また、同一敷地内に他の介護事業所等がある場合は、訪問看護事業所と他の介護事業所の運営に支障がなければ、他の介護事業所に備え付けられた設備や備品を使用することができるとされています。

まとめ

今回は、訪問看護ステーションの開業に必要となる設備基準と運営をおこなうために準備すべき物品リスト(備品・消耗品)等についてご紹介しました。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

参考文献:公益財団法人 日本看護財団「訪問看護ステーション開設・運営・評価マニュアル 第4版」