糖尿病における訪問看護に求められる役割と取り組み

糖尿病は今や国民病ともいえる存在であり、平成28年の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる方(糖尿病有病者)と、糖尿病の可能性を否定できない方(糖尿病予備群)の人数はそれぞれ約1,000万人であり、合わせて約2,000万人と推計されています。

在宅での糖尿病治療は、自己管理の責任が大きく、生活環境の変化やストレスなどが血糖コントロールに影響することがあるため訪問看護ステーションの介入が必要不可欠となります。

今回は、訪問看護において利用者が最も多い在宅での糖尿病をテーマに糖尿病の実態、訪問看護の役割、ケア方法、訪問看護師が得られる学びなどをお伝えします。

目次

糖尿病はどんな病気なのか

糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高くなる病気です。通常、インスリンというホルモンが膵臓から分泌され、ブドウ糖を細胞に取り込んでエネルギー源とします。しかし、糖尿病患者は、インスリンがうまく働かないか、あるいは膵臓から不十分に分泌されるため、血糖値が高くなります。

糖尿病は、種類によって症状や治療法が異なりますが、一般的な症状には、多飲・多尿・多食、体重減少、疲れやだるさ、視力の低下などがあります。

長期間にわたって高血糖が続くと、心血管疾患、腎疾患、失明、神経障害などの合併症を引き起こすことがあります。

糖尿病の種類

糖尿病には以下の主要な種類があります。

第1型糖尿病

免疫系による自己免疫攻撃によって、インスリンを産生する膵臓の細胞が破壊されるため、インスリンの産生が不十分になるタイプの糖尿病です。多くが若年発症で、インスリン注射が必要となります。

第2型糖尿病

体内でインスリンが効きにくくなる、または十分に産生されなくなるため、血糖値が上昇するタイプの糖尿病です。成人発症が多く、運動不足、肥満、高齢などが原因とされます。

妊娠糖尿病

妊娠中に発症する糖尿病で、胎児に悪影響を与える可能性があるため、注意が必要です。

その他の糖尿病

膵臓の病気や遺伝的な病気など、他の原因によって引き起こされる糖尿病があります。

糖尿病の治療方法

糖尿病の治療には以下の方法があります。

(1)生活習慣の改善

適切な食事や運動、禁煙などの生活習慣の改善が、糖尿病の治療や予防に重要です。栄養バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を行い、ストレスを減らすことも大切です。

(2)薬物療法

糖尿病患者には、インスリン注射や薬物治療が行われることがあります。第2型糖尿病の場合、内服薬で血糖値を下げることができます。

(3)血糖自己測定

血糖自己測定器を使用して、自分で血糖値を測定し、日々の血糖管理を行うことが重要です。

(4)医師の定期的な診察

糖尿病患者は、定期的に医師の診察を受けることが必要です。診察を受けることで、糖尿病の状態を確認し、治療方法を調整することができます。

糖尿病は、生涯にわたって継続的な治療が必要な病気です。治療を続けながら、定期的に医師の診察を受け、自己管理を行うことで、合併症の発生を予防し、健康な生活を送ることができます。

糖尿病の合併症とは

糖尿病は、糖尿病の血糖コントロール不良や、高血圧、高脂血症、喫煙などの生活習慣病との併発などが原因となり様々な合併症を発症します。

糖尿病の主な合併症

眼病変:糖尿病網膜症、白内障、緑内障など

腎病変:糖尿病性腎症

神経病変:末梢神経障害、自律神経障害、頭蓋神経障害、脊髄障害

心疾患:狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中など

血管病変:動脈硬化、高血圧、下肢閉塞性動脈疾患など

肝臓病変:脂肪肝、肝硬変、肝がんなど

精神疾患:うつ病、不安障害、認知症など

その他の合併症:足の潰瘍、骨粗鬆症、口腔疾患、性機能障害など

糖尿病に高額な医療費が発生する理由

糖尿病には、様々な治療が必要となり高額な医療費が必要となるケースが多くなります。糖尿病治療には、以下のようなものが考えられます。

薬剤費

糖尿病治療には、インスリン注射や血糖降下薬などの薬剤が必要となります。これらの薬剤は、定期的に投与する必要があるため、高額な医療費が発生することがあります。

検査費用

糖尿病治療には、血液検査や尿検査などの検査が必要となります。これらの検査は、定期的に実施する必要があるため、高額な医療費が発生することがあります。

医療機器費用

糖尿病治療には、血糖測定器やインスリンポンプなどの医療機器が必要となります。これらの医療機器は、高額であるため、医療費が膨らむ原因となることがあります。

併存疾患治療費

糖尿病を患っている人は、併存疾患を持っていることが多く、その治療費用も必要となります。例えば、高血圧症や脂質異常症などが挙げられます。

医療サービス費用

糖尿病治療には、診療費用や医療機関の利用料金が必要となります。これらの医療サービス費用は、治療のために必要な費用であるため、避けることはできません。

これらのように、糖尿病治療には、薬剤費や検査費用、医療機器費用などが含まれており、これらが合わさって高額な医療費が発生することがあります。

政府の糖尿病への取り組み

日本政府は、糖尿病を含む慢性疾患に対する医療費の削減を目的として、以下のような取り組みを行っています。

(1)生活習慣病予防の推進

健康寿命の延伸を目指し、国民の健康増進を図ることで、糖尿病やその合併症を予防することを目的としています。

(2)ジェネリック医薬品の利用促進

同じ効果を持つジェネリック医薬品を利用することで、医療費の削減を図っています。

(3)医療機関の適正利用の推進

糖尿病患者の医療費削減のために、医療機関の適正利用を促進しています。

(4)適正処方・適正使用の

薬剤の適正使用による医療費の削減を目的として、適正な処方・使用に関する指導を行っています。

(5)自己管理支援の強化

糖尿病患者の自己管理支援に力を入れ、医療費を削減することを目指しています。具体的には、診療報酬の改定により、自己管理支援に対する報酬が引き上げられています。

これらの取り組みにより、医療費の削減と糖尿病患者の予防・治療の向上を図っています。

訪問看護ステーション利用者に糖尿病が最も多い理由

訪問看護ステーション利用者の傷病別内訳において、循環器系の疾患が29.2%と第1位であり、循環器疾患の基礎疾患である糖尿病をもつ利用者の多くが訪問看護を必要としています。

改めて訪問看護の利用者に糖尿病患者が最も多い理由を整理していきます。

(1)高齢化に伴う生活習慣の変化

高齢化に伴い、運動不足や食生活の乱れ、肥満などの生活習慣病が増加しています。これらの要因が糖尿病発症のリスクを高めることがあります。

(2)長期療養が必要な患者が多い

訪問看護ステーションは、高齢者や慢性疾患を抱えた方が多く利用することがあります。糖尿病は、生涯にわたって治療が必要な疾患であり、長期的な療養が必要です。そのため、訪問看護ステーション利用者に糖尿病患者が多い傾向にあります。

(3)病状の進行や合併症の発症による在宅療養需要の増加

糖尿病は、病状が進行すると合併症が発症することがあります。合併症が発症すると、訪問看護ステーションでの在宅療養が必要となる場合があります。そのため、訪問看護ステーション利用者に糖尿病患者が多いことがあります。

在宅での糖尿病治療における訪問看護ステーションの役割

在宅での糖尿病治療における訪問看護ステーションの役割は、以下のようになります。

(1)医療機器の管理と操作指導

訪問看護師は、自己血糖測定器やインスリン注射器などの医療機器の管理や操作指導を行い、患者が適切な方法で自己管理を行うことができるようサポートします。

(2)疾患管理のサポート

訪問看護師は、患者の状態を観察し、糖尿病の状態をモニタリングすることで、疾患管理についてアドバイスや指導を行います。また、患者が生活習慣病など他の疾患を有している場合、それらの疾患の管理についてもサポートします。

(3)健康情報の提供

訪問看護師は、糖尿病についての最新情報や健康管理のアドバイスなど、患者が健康的な生活を送るために必要な情報を提供します。

(4)医療機関との連携

訪問看護師は、患者の状態を医療機関と共有し、医療機関との連携を行います。医療機関との連携により、適切な治療方針の確立や、合併症の早期発見・治療につながります。

訪問看護ステーションは、糖尿病患者が在宅で適切な医療を受けられるように、専門的な看護ケアを提供することで、患者のQOL(生活の質)向上に寄与しているのです。

※訪問看護ステーションのインスリン療法の管理についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師が知っておきたい!高齢者糖尿病のインスリン療法の管理のポイント

訪問看護における糖尿病患者へのケア内容

訪問看護師は、訪問先で利用者の健康状態を直接観察することができます。そのため、糖尿病患者に対して以下のようなケア内容を提供することができます。

(1)血糖値の測定と管理

訪問看護師は、訪問時に利用者の血糖値を測定し、適切な管理方法を提供することができます。例えば、利用者の食事内容や運動習慣に応じた血糖値の目標値を設定し、利用者に自己測定の方法を指導することができます。

(2)薬剤の管理

訪問看護師は、利用者が処方された薬剤を正しく服用しているかどうかを確認することができます。また、副作用や相互作用に関する情報を提供し、医師との連携を取ることで、薬剤の最適な使用方法をサポートすることができます。

(3)日常生活のサポート

訪問看護師は、利用者の日常生活において、食事や運動などの自己管理をサポートすることができます。例えば、利用者の食事内容に合わせた栄養アドバイスを提供したり、適切な運動の仕方を指導したりすることができます。

(4)合併症の早期発見と対処

糖尿病は、様々な合併症を引き起こす可能性があります。訪問看護師は、利用者の健康状態を観察し、早期に合併症の兆候を発見し、必要に応じて適切な処置や医療機関の紹介を行うことができます。

以上のようなケア内容を提供することで、訪問看護師は糖尿病患者のセルフケアをサポートし、健康状態の維持や向上に貢献することができます。

糖尿病患者のQOLを向上させるための訪問看護のアプローチ

糖尿病になった理由(糖尿病型)や身体・合併症など、その状態は千差万別であり、一人ひとり治療も異なります。また生活・仕事・家族・プライベートなど、その生活も一人ひとり違います。

糖尿病の在宅療養する方のQOLを向上させるために、訪問看護師は以下のアプローチ方法を心がけることが重要です。

(1)個別性を重視する

糖尿病の症状や生活習慣は人それぞれ異なります。訪問看護師は、利用者の症状や生活環境に合わせた個別的なアプローチを心がけることが大切です。

(2)コミュニケーションの重要性

利用者とのコミュニケーションを重視し、利用者が抱える悩みや不安を共有することが大切です。訪問看護師は利用者との信頼関係を築き、積極的なコミュニケーションをとることが重要です。

(3)自己管理支援の提供

利用者が自分で糖尿病を管理するための支援を提供することが必要です。訪問看護師は、利用者に対して正しい知識やスキルを提供し、自己管理に対する自信を持ってもらうことが大切です。

(4)チーム医療の活用

訪問看護師は、糖尿病の治療において必要となる医療機関や専門家との連携を図り、チーム医療を活用することが重要です。利用者の状態に合わせて、医師や栄養士、理学療法士などの専門家と協力して治療計画を立てることが大切です。

これらのアプローチによって、訪問看護師は利用者の生活の質を向上させ、糖尿病による合併症の予防や治療に貢献することができます。

在宅医療における糖尿病治療への多職種連携

上記(4)にあるように糖尿病の在宅医療においては、多職種連携によるチーム医療の活用が必要不可欠です。

以下に、糖尿病の在宅医療に関わる主な職種とその役割を紹介します。

医師

在宅療養中の糖尿病患者の主治医として、治療方針や薬物療法の管理などを担当します。

訪問看護師

糖尿病患者の訪問看護を担当し、血糖値や糖尿病関連合併症のチェック、薬物療法の指導、食事療法や運動療法のサポートなどを行います。

栄養士

糖尿病患者の食事療法のアドバイスや指導、食事内容のチェックなどを行います。

理学療法士、作業療法士

糖尿病患者の運動療法や日常生活動作のサポートを行います。

薬剤師

糖尿病患者の薬物療法の管理や、薬の飲み合わせや副作用などのチェックを行います。

心理士、ソーシャルワーカー

糖尿病患者の心理的サポートや、家族や介護者へのカウンセリング、社会資源の提供などを行います。

これらの職種が連携して、糖尿病患者の在宅医療を支えます。特に、訪問看護師を中心としたケアマネジメントによって、患者の状態の統括的な把握や、必要なサービスや支援の提供、情報共有などを行うことが重要です。

また、患者や家族とのコミュニケーションを密にし、医療と社会資源を総合的に活用することで、糖尿病患者の生活の質を向上させることができます。

糖尿病をもつ利用者・家族のセルフケアへの支援

在宅療養中の糖尿病治療は、自己管理の責任が大きく、生活環境の変化やストレスなどが血糖コントロールに影響することがあるため、患者自身が治療方針を十分に理解し、意欲的に治療に取り組むことが必要です。

しかし、近年では、院日数の短縮化により、十分にセルフケアの知識や技術を習得せず退院するケースが増加しています。

糖尿病をもつ利用者・家族のセルフケアへの支援・アドバイスも訪問看護の大きな役割の一つです。

訪問看護がおこなう糖尿病のセルフケアへの支援内容には、以下のようなものがあります。

(1)血糖値測定の指導

正しい血糖値測定方法を指導し、測定のタイミングや頻度、記録の方法を説明する。

(2)薬の服用指導

薬の正しい飲み方や副作用、飲み合わせについて説明する。また、薬の管理方法や手帳のつけ方を指導する。

(3)食事指導

糖質制限や食事のバランス、食事のタイミングなどを指導する。また、食事内容に応じた血糖値の変化や体調の変化を把握するための記録方法を説明する。

(4)運動指導

適切な運動方法や頻度、強度などを指導する。また、運動後の血糖値の変化や体調の変化を把握するための記録方法を説明する。

(5)併せて生活習慣に関するアドバイス

禁煙、アルコールの適量、ストレス管理、十分な睡眠の重要性などについてアドバイスを行う。

(6)患者や家族の不安や疑問に対する相談対応

患者や家族が抱える不安や疑問に対して、丁寧に説明し、理解を深めるように支援する。また、必要に応じて医師や栄養士などの他職種への紹介を行う。

(7)緊急時の対応

低血糖や高血糖など緊急時の対応方法を指導し、対応の流れや必要な連絡先を説明する。

(8)在宅での糖尿病治療に必要な道具の説明

血糖計や注射器などの道具の使い方や手入れの方法を説明する。

(9)心理的サポート

訪問看護師は、在宅療養中の糖尿病患者に対して心理的なサポートを提供することも重要な役割の一つです。

訪問看護師は、糖尿病患者の気持ちに共感し、理解を示すことが大切です。

糖尿病は、日々の生活に大きな影響を与える病気であり、患者の心理的な負担も大きいため、患者が抱える不安やストレスに対して理解を示し、共感することが必要です。

以上のように、訪問看護は糖尿病患者や家族のセルフケアに関する様々な面で支援を行っています。

こうした取り組みによる糖尿病患者の自己管理能力を高めることが、今後ますます重要になってきます。

糖尿病患者へのケアを通して得られる訪問看護師の学びとは

多くの方が必要とする在宅での糖尿病患者へのケアを実践することは、看護師にとって大きな学びややりがいにもつながっていきます。

(1)患者と家族との信頼関係の構築

訪問看護師は、患者や家族と直接対話することができるため、信頼関係を築きやすく、患者の状態やニーズを正確に把握することができます。

(2)患者の自立支援

訪問看護師は、患者や家族に対して、糖尿病のセルフケアや健康管理の知識や技術を教えることができます。そのため、患者が自立的に生活することができるようになり、生活の質の向上につながります。

(3)継続的なケアの提供

訪問看護師は、定期的に患者を訪問することで、患者の状態や治療の進捗状況を把握し、必要に応じて適切なアドバイスや治療の見直しを行うことができます。また、定期的な訪問により、患者の健康状態の変化を早期に発見し、早期の対応が可能になります。

(4)チーム医療による連携

訪問看護師は、他の医療従事者と協力して、糖尿病患者のケアに取り組みます。たとえば、医師や薬剤師、栄養士と連携し、総合的な治療計画を策定することができます。

(5)患者と家族の生活の支援

訪問看護師は、患者や家族の生活面における困難や不安を解消するためのサポートを提供することができます。たとえば、介護や福祉サービスの利用方法や、社会保障制度の説明を行うことができます。

以上のように、訪問看護師は、在宅での糖尿病患者のケアにおいて、患者や家族との信頼関係の構築や、患者の自立支援、継続的なケアの提供など、病院では得られない様々な学びややりがいを得ることができます。

まとめ

今回は、訪問看護において利用者が最も多い在宅での糖尿病をテーマに糖尿病の実態、訪問看護の役割、ケア方法、訪問看護師が得られる学びなどをお伝えしました。

特に急速に高齢化が進む日本の状況において、糖尿病におけるセルフケアの取り組み、そして在宅での糖尿病療養に訪問看護の重要性をおわかり頂けたのではないでしょうか。

訪問看護でしかできない医療にチャレンジしたいと考える看護師さんの参考になれば幸いです。

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